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No.015 カルルの従業員

標高2000mの高原で狼の群れに襲われていたアリスが目を覚ました。


最初は、かなりのケガを負っていたので街の診療所へ飛空艇で運ぼうと考えていたカルルだったが、鑑定の魔石で鑑定した結果、見た目よりも重症ではなかったのでお手製ポーションでの治療で済ませた。


ケガはお手製ポーションで治療できたが、それなりに出血していたためか体力が落ちているので少し様子を見ることにした。


そしてもうひとつ厄介な事が分かった。


鑑定の結果、女性が"魔力病"を患っていて、しかも重症であることだ。


魔力病は、攻撃魔法を使う魔術師が患う病気で攻撃魔法を使うと体内を自身の魔法で傷つけてしまい、魔力が体内を循環できなくなる悪巡回を引き起こし、最後には死に至るという恐ろしい病気だ。


魔力病は、軽傷から中等症までなら何とか治す方法があるという話だが、重症となると打つ手はない。


なので魔術師は、日頃から魔力を体内で循環する鍛錬を行い、魔力病にならない様に心がける必要がある。


カルルも母親からそれを言われていたため、毎日の様に魔力の循環の鍛錬を行っている。


目を覚ましたアリスは、食事も取れるようだが、まだ狼に噛まれた傷が痛むようなので、このまま飛空艇内で様子を見ることにした。


翌日は、消費したポーション作りを行い、アリスに飲ませてケガの完治を優先させることにした。


アリスは、15歳で冒険者ギルドに所属するDランク魔術師だという。


「以前から攻撃魔法を使った翌日から体調が悪くなる事があったの。何か病気でもあるのかと心配はしていたんだけど・・・」


少しずつ会話をする様になったアリスにカルルは、正直に話してみた。


「アリスさんを鑑定の魔石で調べてみたら、魔力病だということが分かりました」


「えっ、魔力病・・・」


「魔術師がなる病気ですね。しかも重症になりかけています」


「このまま病を放置すると動けなくなって体中から出血してしまうそうです」


アリスは、ショックのあまり声が出なかった。


「普通は、体内の魔力を循環をさせる鍛錬をすることで予防できるはずですが、アリスさんは魔力の循環の鍛錬はやってませんでしたか?」


アリスは、うつむいたまま何も言わない。


それが全てを物語っていた。


「見たところ荷物も食料もお金も無い様に見えますが、お仲間さんは何処にいったんでしょうか」


カルルがそう言った瞬間、アリスの目から大粒の涙が溢れ出た。


「そうですか。今後についてはもう少し体力が回復したら考えましょう」


大粒の涙を流しながらもアリスは、カルルの手を握りしめる。


「ここに・・・居ていいの?」


「だって何も持っていない病人を放り出す訳にもいかないじゃないですか」


その言葉にさらに大粒の涙を流すアリス。


カルルは、鉢植えにした薬草の葉を何枚か採取してポーション作りを始める。


完成したポーションは、鑑定の魔石を使って鑑定をして問題ないかを確認しているが、そこであることが分かった。


「鑑定の結果がポーションからハイポーションに変わってる」


飛空艇内で鉢植えにした薬草の根本には、魔力を込めた屑魔石が埋められていて、ごく微量の魔力を薬草に供給し続けている。


その影響なのか出来た薬はハイポーションとして鑑定されたのだ。


「やった。ハイポーションが出来た。でも、こんな簡単に出来ていいのかな」


そんなカルルの行動を見ていたアリスは、ある疑問をカルルに投げてみた。


「カルルって薬師では無いって言ってたよね。でも冒険者でもないけど分厚い本をずっと読んでいるみたいだし、いったい何をしてお金を稼いでいるの?」


アリスからすると当然と思える質問だ。


「そのうち分かると思うから言うけど、僕はこの飛空艇を創ってそれを王国軍に売ってお金を稼いでいるんだ」


「えっ、王国軍に飛空艇を売っているの?」


「そう。アリスの病状が良くなったらアリーシュ王国の王太子殿下であるフローラ様のところに行く予定」


「飛空艇を創るって・・・」


「言葉通りだよ。アリスが寝ているのは、飛空艇の1階で梯子の先が飛空艇の2階」


「そこに飛空艇を動かす操術士の席があって、そこで飛空艇を動かすんだ」


カルルの言葉が信じられないアリスだが、この不思議な空間が飛空艇と言われて真に受ける者がいったいどれくらいいるだろうか。


「あの匂いもしない不思議なトイレは?」


「あれは、錬金術ギルドで買った魔道トイレを取り付けたんだ」


「この部屋が暖かくなるのは?」


「あれは、錬金術ギルドで買った魔道ストーブ」


「僕は、アリスが寝ているこの床下に埋め込まれている魔石と、この飛空艇の躯体・外殻・内殻、魔道回路を作ったんだ」


「飛空艇ってひとりで作れるものなの?」


「どうなんだろう。僕はひとりで創ってるけど」


「この飛空艇って空を飛べるのよね」


「飛ばしてみようか」


カルルは、アリスを2階へと案内するとふたつある操術席のひとつに座らせた。


「これから空を飛ぶよ」


すると不思議な感覚と共に目の前の小さな窓から見える景色が変化していく。


「えっ、ええ。本当に空を飛んでる」


「そこの横に小さな扉があるでしょう。そこを開けるとバルコニーに出られるよ。落ちない様に手すりにつかまって」


カルルの言うままに操術士の席の横にある小さな扉を開けると、山脈と青い空が視界を二分していた。


アリスは、言葉が出なかった。


飛空艇の話は聞いたことがり、いつか空を飛んでみたいと思ったことは何度もある。


だがそれがいきなりやって来るとは思ってもみなかったのだ。


カルルは、飛空艇を高原に降ろすとアリスに感想を聞いてみた。


「飛空艇って凄い。これを本当にひとりで作れるの?」


「飛空艇用の魔石を創るのに1日、飛空艇自体を土魔法で創るのに1日かかる」


「たった2日でこれを作るの?」


「そんなに難しい事じゃないよ。アリーア王国の国王様向けに30艇の飛空艇を創って納品済みだよ」


カルルの言葉に思わず口が開いたまま塞がらないアリス。


「飛空艇って高いって聞いたことがあるけど・・・」


「僕が売った飛空艇は、金貨1000枚で30艇を売ったから金貨3万枚になるかな」


「きっ、金貨3万枚って・・・」


「でも、お金は王国にも全額を一度には出せないって言われたから、30年間の分割払いで錬金術ギルドの口座に毎年振り込まれる契約になってる」


「金貨3万枚・・・」


「年に口座に振り込まれるのは、金貨1000枚だから食べていくには困らないね」


アリスの頭は真っ白になった。自身が冒険者として働いても絶対に稼げない金額をたった11歳の少年が既に稼いでいる。


しかもそれが毎年収入として入ってくるという。


「カルルってもしかして貴族様なの?」


「違うよ。僕はただの平民だよ」


アリスの頭の中で何かが弾ける音がした。


もし、この少年とチームを組めたなら。もしこの少年と仕事ができたら・・・。


「ねえ、カルル。カルルが飛空艇を動かしている時は、魔石を作ったりポーションを作ったりはできないのよね」


「そうだね」


「それって凄く無駄に思えるの。私が飛空艇を動かしてカルルが魔石を作れば、飛空艇創りが凄くはかどると思わない?」


「う~ん、確かに・・・」


「カルル。飛空艇ってどうやって動かすの?」


アリスは、目を輝かせながらカルルに迫る。それは、まるでメスの昆虫が交尾をした後にオスを食べてしまう行動によく似ていた。


「操術士の卓の上にあるこの魔力の魔石に魔力を送りながら、どの方向に行きたいのかを念じるだけなんだけど・・・」


カルルがそう説明するとアリスは、操術士の席に座り魔力の魔石の上に右手を置き、静かに魔力を送り込んでみる。


すると飛空艇はゆっくりと浮かび上がり徐々に前進を始めた。


「どう、上手いでしょう。私、馬も乗れるし馬車も操れるのよ!」


得意げに話すアリスの横顔を見ながらカルルは考えていた。


いままでは、飛空艇でひとり旅をするつもりでいた。


だが、何かあった時に助けてくれる人が横にいてくれるのは安心できると考え始めていた。


しばし空を飛んだあと飛空艇は地上へと降り立ちカルルとアリスは、飛空艇の2階で今後について話を詰めることになった。


「私、カルルの身の回りの世話とかご飯も作る。飛空艇を動かすのもやるから私を雇ってもらえないかな」


アリスの提案は、冒険者達がチームを組んで共に戦うといったチームを組む話ではなく、カルルに雇われる従業員となる話であった。


「でも、アリスはそれでいいの?」


「だって私がどんなに頑張っても魔石なんて作れないし、飛空艇も作れないわ」


「だったらカルルに雇われた方が正しいと思うのだけれど・・・」


アリスの言うことは、カルルにとっても間違いではないと思わせた。


「何だかお店を始めたばかりの商人みたいだね」


「私が最初のカルル飛空艇商会の従業員ね」


「だったら従業員に給料を払わないといけないのかな」


「そうだけど、最初は見習いでいいわ。これから飛空艇の事をもっと勉強しないといけないから」


カルルにとって初めての仲間ができた。というか従業員という肩書だがそれも仲間と呼んでもいい関係だと思われた。


飛空艇は、標高2000mの高原を後にして街へと向かった。


それは、アリスからの提案で所属していた冒険者チームから正式に脱退する手続きを冒険者ギルドで行うためである。


カルルの飛空艇であれば、高原から最も近い街までは半日もあれば到着する。


カルルに新たな仲間が加わった。


冒険者ギルド所属の魔術師だが、カルルの飛空艇で操術士として新たな人生を送ることになった。




◆飛空艇の外殻や躯体を作る魔法

・土魔法


◆飛空艇を創るために必要とされる魔法

・強化魔法

・固定魔法


◆魔石を創るスキル

・魔石錬成


◆飛空艇を飛ばすために必要な魔石など

・浮遊の魔石

・飛空の魔石

・魔力の魔石

・魔道回路


◆カルルが創った飛空艇

 飛空艇:33

 1000艇まで残り967


◆創った飛空艇の内訳

 ・飛空艇試作一号艇

 ・飛空艇試作二号艇

 ・飛空艇試作三号艇


 王国向け飛空艇

 ・アリーア王国向け飛空艇 30艇



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