追放された勇者と聖女
勇者と聖女追放系
遠くで花火と歓声。それを背中で聞きながらカインは僅かな荷物を持って国を出ていこうとする。
「あれっ? マツリカさん。マツリカさんも追い出された?」
途中で同じように僅かな荷物を持っている知り合いの女性を見付けたので声を掛けると、
「んっ? カインさんも? 主役なのに?」
癖のある赤い髪を一つに束ねたマツリカ。そばかすが特徴的な顔をカインとカインの背中越しから見える花火の上がっている方向に視線を向ける。
「主役って言うのならマツリカさんもでしょ。なんで聖女がこそこそ隠れるように国を出ようとしているんですかね~?」
「うっ!!」
図星を突かれたとばかりに反応する。
「で、でも……それを言うのなら……カインさんも……」
「ま、まあな……」
ポリポリと顔を掻きながら苦笑いを浮かべる。
二人して後ろの花火が上がった辺り……王城を見上げて。
「追い出されたんですね」
「追い出されたんだな」
本来ならあの場で誰よりも名誉と賞賛を受けているはずの存在だったが、手柄を奪われたのだと互いに同じ境遇だと察して呆れるしかなかった。
「俺はともかく。聖女のマツリカさんを追い出して手柄を横取りするなんてさ。先が無いよな」
「何を言っているのですかっ!! 魔王を倒したのは勇者であるカインさんでしょう!!」
「いや、勇者の証である神衣は使い方のマニュアルがあったし、誰でも使えるから俺が勇者じゃなくても……いや、それよりも聖女でしょ!!」
「それこそ、私もいらないですよ。神衣の能力を開花させるのだって、マニュアルがあるのでマニュアル通りやればいいだけですし……」
自分が聖女である必要はないと言ってくるが、マツリカのおかげで戦闘が楽だったことも多かったのだ。誰でもではない。
それを力説しようと思ったけど、
「とりあえず、逃げようか……」
「そうですね。自分のしたことを棚上げして、捕らえに来るような方でしたからね……」
皆王城で行われている祝勝会で盛り上がっているのだ。ばれないように出て行くには今しかないと祝勝会に浮かれて仕事をしていない関所の番人の目の前で堂々と通り抜けて国の外に出る。
とりあえず野宿になるのは覚悟していたので一人ではなく仲間もいるのはどこか気が抜ける。それに魔王討伐の旅にずっと一緒にいた間柄だ。互いに軽装でも何をすればいいのか暗黙の了解で通じ合っているので予想よりも早く野宿の準備を終えて、食事を始める。
「こっちは殿下だったけど、やっぱ、公爵令嬢サマ?」
魔王討伐に一緒に付いてきていた足手まとい――もとい、王子殿下と公爵令嬢を思い出して確認をする。
勇者と聖女になったカインとマツリカと共に旅に出たが、野宿すると虫が出る。こんなごつごつしたところで寝られないと文句を告げて準備の手伝いもせずに料理もしないでこんな野蛮なモノを食べさせるのかと不満たらたらで食べていたと思ったら、宿がある日は最高級のベッドじゃないと駄目だとか、食事がまずい。こんな庶民と一緒のモノが食べられるかとぶつぶつ言い続けて、身体を洗えとか服を用意しろと何もしないで勝手に二人分のベッドの片方に自分の服を放置して、ぐっすり眠っている。
それなのにベッドが堅くて眠れなかったと文句を言ってくる。
王子殿下がそうであったが公爵令嬢はそれプラス髪を整えろ。化粧をしなさいと侍女の様にこき使っていた。
それで文句ばかり言ってくる二人に振り回されていき、互いに直接会話をしていなかったが、それでもアイコンタクトとかさり気ない仕草で相手を気遣い合っていた。
まあ、直接話をする余裕はなかったが、神衣の修繕は聖女であったマツリカがしてくれたので接点もあった。
だからこそ、互いに何となく事情を察している。
「まあ、そうですね。魔王を倒した途端【わたくしが聖女よ!!】と言い出して、着の身着のまま追い出されましたね」
「声真似そっくりだね~」
途中で声が公爵令嬢そっくりになってびっくりした。
「そっちもですか」
「そっ、神衣をいきなり取ったかと思ったら【この俺が魔王を討伐した勇者だぁぁぁぁぁ!!】と叫んで煩かったよ~。こっちはその後も何かに利用されそうな気がしたからそんなことを思いつく前に逃げとかないとなと思って逃げてきたけど」
「ああ。ありえますね。こういう時の身分差ってきついですね」
抵抗したくても権力には逆らえないから権力を行使される前に逃げた方が安全だ。
マツリカも権力を使われたら厄介だと想像できたのだろう。想像しただけでげんなりしたように声が漏れている。
「で、これからどうするの?」
「そうですね……。レガリア共和国にでも行こうと思っています」
「えっ? マジ!? 俺もだけど」
カインもレガリア共和国に行こうと思っていたので偶然ってすごいなと思ってつい声を上げてしまう。
「ですよね!! あそこは、技術大国で」
興奮したように叫ぶマツリカはもともとロストテクノジーに興味を持った、ロストテクノロジーの研究者であったのだ。
「じゃあ、一緒に行きましょうか」
マツリカに誘われて、
「いいの♪ じゃあ、一緒に行こっか?」
マツリカと一緒なら心強い。それに……。
「よかった……」
嬉しそうに顔を赤らめているマツリカに、もしかしてと期待してしまう。
「それにしても、どれくらい保ちますかね……」
「だよね~。まあ、問題が起きる前に逃げればいいし」
かつての国の方向を見てつい呟く。
花火と共に【神衣】が空を飛んでいるのがかすかに見える。うん。見世物には最適だろう。
「整備。大丈夫でしょうか………」
不安げに呟くマツリカ。
「………早めに目的地に行った方がいいよね」
捕まらないように逃げないとと呟くとマツリカも神妙な顔で頷いた。
「そう言えば、王子殿下は神衣の使い方を知っていたのですね。マニュアルを投げ捨てていたのに」
「それを言うのなら、公爵令嬢サマも」
あそこまでしていたのに手柄を横取り……。
絶対後でよくないことが起きると安易に想像できたので。
無事にレガリア共和国に到着して半年ぐらい経過して、
「ナガレ王国。王子が暴走して壊滅の危機だとよっ!!」
「何か王子が勇者の証を使って国の首都を破壊したとか」
「王子も亡くなって。聖女が責任を取らされたとか……」
などと噂を聞いた。
「ああ。やっぱり」
「思ったより遅かったというべきか……被害が出てしまったのが……」
やるせないがたぶん何も出来なかっただろう。
「神衣の一番目立つ場所に赤いボタンがあってな……自爆ボタンとマニュアルに書いてあったんだよね……」
「目立ちたがりだから押したくなりますよね……」
ちなみに普段は押せないように聖女が手を加えていたのだが、それを怠ったのだろう。
「でも、神衣を使って他国に侵略しようとしていたので……わたしも量産化できないかと公爵が話をしているの聞いていましたから」
「ああ。俺も。でも、それだと自分が目立てないと王子が言っていたから未然に防げたんだよね」
事件の犠牲者のご冥福を祈りつつ、もっとひどい災厄にならなかったのを内心安堵したのだった。
そんな時点で自分たちは勇者でも聖女でもないなと自嘲気味に笑って……。
神衣。ロボット。
聖女。整備士。