表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

刑事・川本正は家族を交通事故で失い絶望するが、元部下の告白から事故が殺人だったと知る。黒幕は過去に逮捕した籔島とその仲間。川本は法と復讐の狭間で葛藤しながら、真相解明と正義の行方を追う。

川本正は殺人事件の報告書を整理していた。突然、彼の個人用携帯電話が鳴った。

相手は病院からで、「川本さんですか?」と尋ねた。

「はい、私です!」と川本は答えた。

「こちらは中央病院です。大至急、こちらへお越しいただけますか?」と告げられた。

次の言葉に川本は一瞬、我を忘れてしまった。

「貴方のご家族が交通事故に遭いました。容体は緊急を要します!」信じられない出来事だった。焦りながら、川本は部下の坂内に事情を説明した。

「すまない、今すぐ病院へ行く。あとは頼む」と坂内に告げた。川本はただ祈るばかりだった。「無事でいてくれ、命だけは…」

 川本正は、正義を信じ、家族や街の安全を願い生きる刑事だった。彼は頑固で、不器用な性格で知られていた。所内では、同僚たちから距離を置かれ、上司たちからは理解されないことも多かった。しかし、部下たちには厳しさと情の両面を持ち、深く慕われていた。頭脳は明晰で、行動力も有ったので昇進は早く、四十才で部長になった。

 川本正は小学校教師の妻美和子と高校時代からの仲で、美和子は夫の仕事を支えていた。長女の真理は法学部の一年生で、父親を尊敬し、弁護士を目指していた。次女の恵は高校二年生で、母親似で優しくて明るく、料理と旅行が好きだった。川本は家族を愛し誇りに思っていた。

 川本の生活が変わってしまったのは、彼が四十二歳の時だった、家族が後ろから来たトラックに追突され、妻と二人の娘が突然、亡くなってしまった。

事故を起こした相手は杉浦武司という、二十二歳の運転手だった。杉浦は軽症で殆ど問題はなかった。彼は居眠り運転で川本の妻が運転する軽自動車に追突した。妻と娘二人が一瞬にして命を落した。

相手は「私が死ねばよかったのです、私を殺してください!」泣きながら深く謝罪したが、川本は怒りも悲しみも感じなかった。

ただ家族を失った事実を受け入れられないだけだった。裁判は五年の懲役と罰金で決着したが、川本にとっては何の意味もなかった。

家族の葬儀が終わっても川本は家族との思い出から逃れられなかった。仕事への興味も失い、一人で家にこもるようになった。刑事としても働けなくなり、退職届を出した。多くの人々が彼を引き止めたが、川本は聞く耳を持たなかった。

川本正は、家族を失った交通事故から一年後、小さな島で暮らしていた。島には温かい人々が住んでおり、彼はすぐに仲間になった。日々の生活は穏やかで、島の人情に少しずつ心が癒されていった。ただ、夜になると、側に家族がいない寂しさがこみ上げてきた。

ある日、元部下の坂内から電話がかかってきた。

「もしもし、川本さんでしょうか。お久しぶりですね、坂内です。突然の電話で申し訳ないのですが・・・・」

なぜ今頃電話してきたのだろうか”躊躇しながらも懐かしい声に思わず「坂内か。元気かと」。坂内は「相変わらず体力だけは」と言いながら、少し残念そうな声で話し始めた。「実は、川本さんにお伝えしたいことがあるのです。覚えていますよね、二年前に殺人容疑で逮捕した籔島を」「籔島?ああ、あの公園で女性を殺した奴か。あれからどうなったのだ?

およそ三年前。籔島は同じマンションに引っ越してきた、24歳くらいの女性に惹かれた。彼は女性の行動を半年かけて監視し、ほとんど日常の生活を把握していた。籔島は自分の容姿には自信があったし、今までに声をかけた女性は殆ど籔島に好意をいだいた。ある朝、籔島は女性に声をかけた。

「すみません、この近くにキングマンションはありますか。友達が住んでいると聞いて尋ねに来たのですが、迷ってしまって・・・」 もちろんマンションに住んでいるのは友達ではなく、自分自身だった。

籔島は思っていた。「この女もすぐに俺の虜になる。しばらくは退屈しなくて済む・・・」ところが女性の反応はそっけなかった。「ごめんなさい、私は今急いでいますので・・・」と 籔島を振り切るように速足で通り過ぎた。

あまりに思いがけない反応だったので籔島は何も言えず、ただ女の後ろ姿を見送った。 「ぶす女が!俺をバカにして!」籔島はイライラした。今までこんな態度で接してきた女はいなかったので心の底から、怒りが沸いていた。

籔島は作戦を考えていた。女性の行動はほぼ完全に把握していたからだ。金曜日の夜、彼女が夜遅く公園を通ってマンションに帰ることも分かっていた。

その時が来た。ナイフを持ち、目出し帽をかぶり、女性を公園の茂みに連れ込んだ、そしてナイフでおどした。

しかし、女性の抵抗は予想以上に激しく、籔島の目出し帽がはずれて顔を見られてしまった。「あなたは前に・・・」籔島は焦った。

女性の強い抵抗と目出し帽をはずされたこと、そして顔を覚えられたことに。 気づくと籔島は、ナイフで女性の喉を突き刺していた。

「くそ・・・!」籔島は突然の行動に後悔したが、女性への恨みを晴らしたことには満足していた。 そしてすぐに、茂みから飛び出した、その時サラリーマン風の男と目が合ったがそのまま公園を離れた。

翌日、テレビニュースを見ていた籔島は焦っていた。大山公園で女性の死体が発見された報道が大きく流されていたからだ。彼は麻薬所持の疑いで二十五歳の頃一度逮捕されていたのだ。

犯行から三日が過ぎ、籔島は少し落ち着いていた。「もし、サラリーマンが自分を犯人だと証言しても、暗闇で一瞬目が合っただけでは分からないだろう、現場には証拠品やナイフも何も残していない・・・」と思っていた。

一週間が過ぎても籔島のところには、誰も来ることはなかった。籔島は通常通りに、共同経営する不動産と保険代理店の会社に行き日々を過ごしていた。そんなある日、突然刑事が会社に訪ねてきた。

「籔島さんですね、聞きたいことがあります。」籔島は人を殺したということを深く考えることはなかった。 精神的にも少し変わっていた。殺人はニュースで見たが、他人事だと考え、自分には何の関係もないと思っていた。ただ、刑事は見覚えがあり、以前に麻薬所持で逮捕されたときの川本だった。 もちろん、籔島は川本を恨み、憎んでいた。それでも態度では、籔島は落ち着いていた。

「川本さん、お元気ですか。なんのご用件でしょうか?」と言った。川本は言った。「今回の大山公園での殺人事件の重要参考人としてあなたの名前が挙がっています、署までご同行願いますか」川本は丁寧にたずねた。

「事件?何のことですか?」籔島は驚いた様子でいった。「私は知りませんよ。どうして私が関係していると思うのですか?何か証拠でもあるのですか?」

「現時点では参考人ということですが、あなたが事件現場にいた可能性が高いと思われる情報があります。もし、協力して頂けないとしたら、改めて逮捕令状を取り、再度伺わせて頂きますが・・・」。

「そうですか…」と籔島は少し考えたが、渋々ながらも了承した。籔島のバックには、優秀な弁護士や裏社会へつながる人間がついていて、大抵の事は今まで無難にやり過ごして来た。今回も籔島は、何とか出来ると思っていた。

「分かりました。少し準備をさせてください」。 警察署に到着した籔島は、取り調べ室に通された。

川本は籔島に事件当日の行動を詳しく聞いたが、籔島のアリバイはあやふやだった。籔島は「家で酒を飲んでいてあまり覚えていない」と言ったが、それを証明できる人物は誰もいなかったのだ。

籔島は逮捕後、共同の会社経営者、河内康に相談した。

「俺は今、殺人容疑で逮捕されているんだ。証拠は不十分でサラリーマンと浮浪者が俺の顔をみて、モンタージュの写真を作り、それで俺を逮捕したと言う経緯でな」「又、頼まれてくれるか、例の方法を使って証言者と浮浪者を口封じする・・・…」。

河内も籔島も表向きは不動産、金融、運送、レンタル、保険代理などの事業を行っていたが、実は裏で、暴力団や政治家ともつながっていて、優秀な弁護士も控えており、今まで何度も他の闇の取引や麻薬取締などで逮捕されていたが、其の都度上手く切り抜けていた。 河内と籔島は以前、同じ保険会社で働いていたが、不正を行い同時に退職していた。

河内は「分かった、すぐにその証言者と浮浪者の身元を調べよう。それに例の弁護士先生に又、頑張ってもらうよ!ほんのしばらくの辛抱だな。前と同じだ!」と言った。

以前、籔島が麻薬所持で逮捕されたときも、河内は上手く弁護士と相談して軽い罪で済ませていた。

籔島は、付け加えた。

「それにこれは少々厄介なことになるかもしれないが…俺は川本を許せないんだ。 あいつに何か仕返しをしたいのだが・・・。そこで、あいつの家族を交通事故に見せかけて痛めつけてくれないか」。

わかった!川本だな!河内は言った。

「あいつの家族を痛めつけてやる、ちょうどいい男がいるな。今はアルバイトのトラック運転手をしているのだが、あいつの女が麻薬に関係していて、今、ちょうど金に困っているようだ、あいつならなんでもやるぜ」。

「お前が保釈される前にやっておくよ。また楽しみができたな」河内と籔島は笑った。


坂内と川本は電話をつづけていた。

「実は、あの籔島がその後に保釈されました。川本さんにはもう関係のないことなので、

お話は控えようと思っていましたが・・・少し状況が複雑になりまして・・」

「保釈?状況が複雑!どういうことだ?」「保釈の理由は、目撃証言をしていたサラリーマンが突然証言を取り消したからです。

当時は夜遅く、疲れていて、籔島亮の顔や服装を正しく見ていな かったと言っています。」

「そんなことがあるか。あのサラリーマンははっきりと籔島の顔を見たと言っていたじゃないか。何か裏があるのではないか?」。

そうなんです「私もそう思って何度も尋ねましたが、曖昧な返事しかしないのです。また、もう一人の浮浪者は行方不明になっています。」

「行方不明?どういうことだ」「あの浮浪者は、籔島が女性に暴行する場面を見たと証言したが、その後、公園から姿を消した。私たちは彼を探しているのですが、見つかりません」「何、それはおかしい。あの浮浪者は、籔島の犯行を証明する重要な証人だったはずだ。何者かに消された!」

「私もそう疑っています。しかし、証拠がないので、籔島を再逮捕することはできません。又、彼にはとても優秀な弁護士がついています。」


サラリーマン和田慎二は、大山公園の近くの小さな貿易会社に勤めている。性格は真面目でどちらかといえばあまり社交的ではなく一人ゲーム等で遊ぶことを好んでいる。

アパートは大山公園の近くで、いつも公園内を通り帰宅している。殺人事件があった日は、たまたま会社の飲み会が居酒屋であり、酒も強い方ではなかったが参加した。

二次会の誘いもあったが、上手く言い訳をしていつもの様に公園内を歩いてアパート向かっていた。途中、アルコールの影響もあり、 トイレがしたくなり公園のトイレを利用した

トイレがすみ、右に回り、裏側の茂みに向かって歩いていると、突然、男が飛び出してきた。ぶつかりそうになったが、男は一瞬顔を見ただけでそのまま、去って行った。男の顔は外灯に照らされ、一瞬ではあったがはっきりと見えた。

突然の出来事で驚いたが、男の行動があまりにも不自然だったので、男が飛び出してきた茂みを覗いた。

そこには白い上着の首もとが真っ赤に染まっている女性が倒れていた。女性は身動きせず、息をしているようには見えなかった。

『殺人?』頭がまわらなかった。テレビや映画では見たことはあるが、現実に目の前に起こっている状況を理解するにはあまりにも残酷で、恐怖心で体が震えていた。

『はやく助けなければ警察?救急車?』次々と出る考えと焦る気持ちはかみ合わず、それでも、警察に電話をした。

「私は大山公園のトイレの近くにいます。女性が何者かに刺され倒れています。」

「今、救急車の手配もしました。どうすればいいでしょうか?」警察からは「すぐにパトカーを派遣します。そのままそこを離れないでください。」

警察との会話は数分だったが、その間、何が起こっているのか冷静な判断は出来なかった。携帯を持つ手の震えは止まらなかった。

和田は警察で事情聴取を受けていた。目撃証言者として呼ばれたが、被疑者としての質問もあり、少し驚いた。しかし、殺人現場で目撃した男のことを説明した。

川本は通報者のサラリーマンともう一人の目撃者の浮浪者に事件現場の状況を聞いていた。彼らの証言をもとに、モンタージュ写真を作成した。

モンタージュ写真と照らし合わせたところ、公園近くに住む犯罪歴がある人物、籔島が容疑者として浮かんできた。

籔島は以前、麻薬所持で川本刑事に逮捕された事があり、川本と因縁があった。

事情聴取から十日ほど過ぎたころ、警察からの電話が鳴った。「モンタージュに適合する犯人を参考人として呼んでいます、面取りしてもらえませんか」和田はあまりにも速い展開に驚きながらも「はい、いいです」と答えた。

和田はマジックミラーの向こう側に居た男が、彼が殺人現場で出会った男とすぐにわかった。「この男と思います」和田は躊躇しないで答えた。

川本はまた、浮浪者にも実際の籔島を見せて、確認をとった。

川本はサラリーマンと浮浪者の証言に基づいて籔島を逮捕した。その後、籔島は起訴されて、裁判を受けることになった。

一か月ほど経過し、和田は普段通りの生活に戻っていた。殺人現場を目撃し、犯人逮捕に協力できたことは嬉しくて、また自慢にも思えた。

普段ならあまり多くを話さない彼も、少しお酒が入ると事件や事情聴取のことを話していた。

誰かに見られているような気持ちになったのは、それから半月ほどたった時だった。最初は特に気にはならなかったし、気のせいだと思っていた。

しかし、会社の帰り道だけではなく、仕事で外に出た時や、夜ご飯を食べている時にも感じるようになった。

和田は見られている感覚に耐えられなくなり、警察に相談しに行った。しかし、警察は彼の話をあまり真剣に受け止めなかった。

「犯人は逮捕されています、特に危険はないと思いますよ」警察官はそう言って、和田を帰した。

和田は納得できなかったが、仕方なく家に帰った。家に着いた時、玄関のドアに血の様な赤い字で、「殺す」と、書かれた紙が貼り付けられているのを見て、和田は凍りついた。

犯人は籔島の仲間で、張り紙だけではなく、和田の家族や友人の写真をポストに入れていた、彼らを殺すと書いた手紙と一緒に。

籔島は逮捕起訴されていると言っていたが、彼には仲間がいるのだ・・・、警察は何もできない!このままだと俺の命だけでなく、家族も友人も巻き込んでしまう。和田は何をすべきか判らなかった。

彼は目撃者として証言をした自分を後悔した。和田は自分の命だけでなく、大切な人たちの命も守るために、証言の撤回をすることを決意した。


坂内はつづけた。

川本さん、それだけではないのです、あなたの家族が交通事故で無くなったのは、あの籔島の仲間が仕組んだ事だと言う疑いがあります、この写真を見てください。「何」「これは・・・・・」

坂内は、川本に写真を送った。「この写真は私の友人が、たまたま彼の友人の退院祝いに病院を訪れた際、玄関前で撮った写真です。この写真の男性は、私も知り合いなので送ってくれました。」

「この写真を見て、私は驚きました、あの交通事故を起こした杉浦ともう一人男が、写真の後ろの玄関わきで小さく写っていたからです。」

「私は、もう一人の人間の風体から、何か怪しげな感じを読み取りました、それで私は男を調べる事にしました」「すると驚くべきことが判りました」

「何が判ったのだ」

「このもう一人の男は河内康と言い、籔島の共同経営者で、暴力団ともつながっているんです。」

「この河内康は、籔島の川本さんへの復讐のために、トラック運転手の杉浦に金を渡して、川本さんの家族に交通事故をしかけたのです。」

「杉浦は、河内康の指示通りに、川本さんの家族が乗っていた軽自動車に追突したのです。そして、事故に見せかけたのです」

「そんな…」「まさか・・・」川本はしばらく無言で電話を握りしめ震えが止まらなかった。

「川本さん、信じられないかもしれませんが、これは事実です」。

川本は、坂内の言葉に呆然となった。川本は、家族を殺したのが籔島とその仲間だということを知らなかった。まさかあの時、土下座をして、涙ながらに謝っていた男が故意に追突をして家族を殺したとは・・・。

川本は、怒りと悲しみに震えた。川本は、何も考えられなかった。「坂内、俺は・・・・何をしていたのだろう・・・俺は・・・、あいつらを絶対に許さない」。

川本は、島を出ることを決めた。彼は、籔島を追い詰めることを決意した。彼は、坂内に協力を頼んだ。坂内は、川本の気持ちを理解し、籔島の居場所や動向を調べることに同意した。

但しそれはあくまでも、警察官としての任務で、籔島や河内を逮捕するための、川本への協力であった。

川本は、坂内からの情報をもとに、約一か月間、河内と籔島の行動を追跡した。河内と籔島は、不動産や保険代理店を経営していたが、坂内から聞いていた通り、彼らは、裏では政治家や暴力団と手を組みあらゆる種類の犯罪に手を染めていた。川本は彼らの犯罪の証拠をつかむ事を決意した。

河内も籔島も週末は自分のマンションへ戻り、自宅で過ごしていた。事務所には従業員も週末にはいなかった。

川本は、週末の夜、彼らの事務所に忍び込んだ。川本は、籔島の机の引き出しを開けた。そこには、様々な書類や写真が入っていた、それらを一つ一つ確認した。

川本は、河内と籔島が関わっていた犯罪のいくつかの証拠を見つけた。彼らは、暴力団のボスや政治家と癒着して、保険金詐欺や脱税、賄賂などの悪事を働いていた。川本は、それらの証拠を写真に撮った。

彼は、坂内に電話をかけた。「坂内か。私は、籔島の犯罪の証拠を手に入れた。これを見てくれ。」

川本は、坂内に写真を送った。坂内は、写真を見て驚いた。「すごいですね、川本さん。これは、どうして手に入れたのですか?」

「合法的ですか?」「この証拠は籔島逮捕に使用できますか?私は、これを上司に報告できますか?」

「いや、待ってくれ。私は、籔島に復讐したい。私は籔島に苦しみを与え、籔島に殺された家族の気持ちを味わわせたい。」

「川本さん、それは危険です。籔島は、暴力団や政治家とつながっています。彼は、あなたに危害を加えるかもしれません。あとは、警察に任せてください。」

「坂内、私は警察に任せられない。私は自分の手で籔島を倒したい。私は家族のために戦いたい。」

坂内は、川本の言葉に戸惑った。彼は、川本の復讐心を理解できた、しかし、警察官である坂内は川本の行動を見逃すことはできなかった。

坂内は川本を説得しようとした。「川本さん、私は、あなたの気持ちを分かります。私も、籔島に憎しみと恨みを感じます。しかし、あなたは、法の外に出てはいけません。

あなたは、かつて優秀な刑事でした。あなたは、正義のために戦ってきました。」

「あなたは、家族のためにも、自分を見失ってはなりません。」 「坂内、私は、自分を見失っていない。私は、家族のために戦っている。

私は、籔島に正義を与える。私は、籔島に恐怖を与える。私は、籔島に死を与える。」

「川本さん、そんなことすれば、あなたは、籔島と同じになります。あなたは、殺人者になってしまいます。

法に裁かれます。あなたは、家族の思いを裏切ります。」

「坂内、私は、殺人者になるのではない。私は、復讐者になるのだ。私は、法に裁かれるのではない。私は、自分に裁かれるのだ。

家族の思いを裏切るのではない。私は、家族の思いを守るのだ。」

「すまない坂内」川本は電話を切った。


籔島の電話が鳴った。籔島は、電話に出た。「もしもし、籔島亮だが」

電話の向こうから、冷たい声が聞こえた。「お前は、私の声を覚えているか。私は、川本正だ。」

籔島は、突然の川本の電話の声に驚いたが静かに答えた。「川本さん…ああ、思い出しました、懐かしいな!」

「あなたにはさんざんな目に合わされました、忘れるわけがないでしょう!」「無実の私を捕まえて留置所に入れましたね!」

「それでもまあ、あなた方の無謀な捜査を裁判官は否定しました。おかげで俺は今、保釈されて楽しく暮らしているよ!」

「ところで、ご家族が交通事故でお亡くなりになり、あなたも刑事を辞められたようで大変でしたね!」

「まあ、川本さんも、刑事をやめて、家族の思い出と一緒に気楽に暮らしているようでなによりですね!ハハハハハ。」

川本は、怒りで受話器を握る手が震えた。それでも冷静に話した。

「お前は、私の質問に答えろよ。お前は、私の家族を交通事故に見せかけて殺したな!殺したことを認めるか。」

籔島は一瞬驚いた、まさか川本がそんな情報を手に入れるとは考えていなかった。但し、いつものように冷静を装った。

「川本さん、何をとぼけたことを言っているのですか?私があなたの家族を殺した?」「私は保釈の身ですよ、何か証拠でもあるのですか?」

「俺は、お前の事務所の机の中の書類や写真を写して、それを記録している。これをみてみろ!」川本は証拠の写真を送った。

「お前は、河内と結託して、俺の家族を殺したのだ。これが証拠だ!」

籔島はいった。「なるほど、流石に元刑事さんはやることが早いですね。それで、おれをどうしようというのですか?」

「これは合法で手に入れましたか」裁判では使用されませんよ。これだけでは十分な証拠にはなりませんよ、また、すぐに釈放されますよ。」

「俺たちには優秀な弁護士が付いる、これがこの国の仕組みですよ。俺たちはプロですから、何とでもできますが、どうぞまた俺を捕まえてください。ハハハハハ。」

川本は電話を切った。やはりこの国の法律で籔島を裁くことは出来ない、このままだと籔島は何れ又釈放され、同じ犯罪を繰り返す、それもいともたやすく、俺と同じ被害に遭う人間が増えるだけだ。

それでも、川本は悩んだ、私は刑事としてこれまで悪人を許すことは出来なかった、只、あくまでも法に基づいて悪人を裁く事、それが刑事になった理由でもある、今、俺に出来ることは・・・・。

殺人者になる事を、復讐をすることを家族は望んでいるのだろうか?


籔島と河内は電話で、話していた。

籔島「川本の野郎が、俺に電話をして来やがった、俺達の事務所に忍び込んで、事務所の机にいれてあった書類や写真を写して送ってきやがった」

「あの家族の事件以来、刑事をやめて大人しくしていたと聞いていたが、俺達が家族を交通事故で殺したのを、今頃どうして気づいたのか、面倒くさいやつだ」。

河内「なに、事務所に忍び込んだ?」「普通の奴らは俺達を怖がってそんな事はしないと、事務所も余り警戒せずにこれまで来たが、これからは事務所も、もう少し厳重に警備だな」「何れにしろ、そんな盗聴写真は裁判では使われないし、俺たちには優秀な弁護士がついている、いだとなれば、政治家や暴力団を使って何とでも始末出来るだろ、心配は要らねーよ!」

「それと、杉浦だが、俺は川本の家族を痛めろと言ったが、殺せとまでは言わなかった、あれはちょっとやりすぎたな!まあ、籔島、お前が喜んでいるなら俺も満足だが」

籔島「勿論俺は十分に満足をしている、まあ、暫くは注意を怠らないほうがいいな!」。

川本は新たな決意をした。やはり彼らを野放しには出来ない。

彼らを抹殺しなければ・・・・。殺すためには拳銃を手に入れなければならない。

彼は、闇の世界へ足を踏み入れる事をきめた。籔島、河内に復讐をするために他に方法は無かった。

川本は、ある男を訪ねた。その男は刑事を退職して今は飲食店をしている。裏の世界にも通じており、それなりに名前も通っていた。川本と会った男は、川本の態度から何かを感じたが、彼は何も聞かず、暴力団組織への紹介をした。その組織の名前は、田中総業だった。

川本は、その組織の名前を聞いて驚いた。それは、かつて自分が追っていた暴力団の一つだった。その組織は、不動産業界にも深く関与しており、闇の取引や脅迫、暗殺などを行っていた。川本は、その組織の幹部と会うことにした。

川本は、刑事という過去の経歴はふせて、刑事時代に培った、技術を用い、他人になりすまし、田中総業に近づいた。

その幹部は、川本の顔を見て、何かを感じたようだったが、何も言わなかった。

只、彼は、川本が本当に闇の不動産会社社長だと信じていたわけではなかったが、彼の話に興味を持っていた。


「お前は、闇の不動産を取りあつかう会社社長だと聞いたが、本当か? どんな仕事をしているのだ?」

川本は、冷静に答えた。「本当です。私は、不動産の売買や賃貸を仲介していますが、それだけではありません。」

「私は、不動産の所有者や入居者にサービスを提供しています。例えば、不動産の価値を上げるために、改装やリフォームをしたり、不動産の管理や清掃をしたり、不動産のトラブルやクレームを解決したりします。」

「もちろん、それらのサービスは、通常の方法ではなく、闇の方法で行います。私は、不動産の所有者や入居者に対して、強引に契約を結ばせたり、高額な料金を請求したり、若し、不満があれば暴力や脅迫を使ったりします。」

「私は、不動産を取りあつかうことで、大きな利益を得ています。」 その幹部は、川本の話に興味を示した。

「なるほど、お前はなかなかやるな。お前の仕事は、俺たちの仕事と似ているな。俺たちは、不動産業界にも手を出している、俺たちは、不動産の所有者や入居者に対して、闇のサービスを提供している。」

「俺たちも、不動産を取り扱うことで、大きな利益を得ている。お前は、俺たちと協力できるか? お前は、俺たちの仲間になれるか?」

川本は、その幹部に答えた。「はい、協力できます。仲間になれます。私は、あなた方の組織に入りたいと思っています。」

その幹部は、川本の返答に満足した。

「わかった、では、お前は、今日から俺たちの組織の一員だ。お前の名前は、何と言うのだ?」 川本は、その幹部に偽名を告げた。

「私の名前は、山本です。」 その幹部は言った、「山本か。よろしくな。俺の名前は、田中だ。俺は、この組織の幹部だ。」

「田中さん、よろしくお願いします。私はあなたの仲間になります。」 川本は、心の中で思った。

「田中、お前は知らないだろうが、私は川本だ。私がお前たちの組織に入ったのは、お前たちに協力するためではなく、 お前たちの組織の仲間になったふりをしながら、拳銃を手に入れ家族を殺した男に復讐をするためだ」

 川本は、田中の組織に入ってから、不動産の仕事を任された、暫くは戸惑っていた川本だが、彼の仲間には、うまく誤魔化して徐々に仕事には慣れいった。

彼は、不動産の取引やサービスを通じて、闇の世界の人間と接触した。

何か月か経過したある日彼は田中に声をかけた。

「田中さん、私は、ある人物を探しています。」

「彼の名前は、籔島です。彼は、かつてこの組織と関係していると聞きました。」 田中は、川本の話に答えた。

「籔島か。お前は、彼と何か因縁があるのか? そうだとしたら、お前は運が悪いな。」

「彼は、この組織の仲間だったが、数年前にこの組織の関係の別の組織の仲間になったようだ。彼は、今は、河内という男の下で働いている。」

「河内は、この組織の仲間だがライバルだ。彼は、不動産業がメインだが、組織の下で、麻薬や武器などの違法なビジネスも手広くやっている。だが彼は、非常に危険な男だ。」

「お前は彼等とどんな関係があるのだ、何か上手い商売でもあるのか?」

「特別に上手い商売があるわけではないですが・・・・・・・」川本は少し躊躇した、

そして答えた。「籔島はこの組織の関係ではなくなったのですね、判りました。」

「これ迄だな」。

「どういう意味だ」田中は言った。

「田中、俺はもうここにいる必要はなくなったよ!」「なんだと!」田中は叫んだ。「俺が、この組織に入ったのは、拳銃を手に入れる事と、籔島の情報を得る為だ」「拳銃は既に手に入れている」。

田中は激怒した。

「山本、お前は、俺をだましたのか!」

「田中、俺は山本ではない、川本、元刑事だ!」「何!」田中は吠えた、

「元刑事だと!お前を殺す!」。

「そうですか」川本は言った。

既に川本の手には拳銃が握られて、田中を狙っていた。

「田中、ここで俺に撃たれるか、それとも俺を開放するかどちらかだ!」

田中は川本の冷静な態度と、その鋭い視線に恐れを感じた。

「まて、わかった」田中は言った。

「籔島も河内も俺たちのライバルだ。お前が彼らを消してくれるなら、それに越したことはない!さっさと出て行け!」

川本は組織のビルから静かに去って行った。


 拳銃を手にした川本は、とりあえず、籔島を誘い出す方法を考えていた。かつて川本が、情報を収集するために使っていた水野に連絡を取った。

水野は元週刊紙の記者だったが、記事を書くために裏の組織と手を組んでいた。

ある時、有名企業の社長のスキャンダルをあばいた。その際に恐喝未遂で逮捕されたが、川本などの助言もあり仮釈放となり、刑罰も軽くなった。その時から川本の情報屋として働いていた。

「もしもし、水野か、川本だ」。

 「川本さんですか、驚きました。」

「お元気ですか?」

「どうされたのですか、突然」「警察を止められたとお聞きしていましたが?」

「もう私のような人間とは関係がないのではないですか?」

「そうだな、本当は余り関係したくなかったが、そうも行かなくなったよ。」

「ところで、水野、お前は今何をしている、昔の様に記者をやりながら情報を集めているのか?」

「私も今は、少しばかり日本に疲れ、タイのバンコクと日本との二重生活です」。

「そうか、俺もあれから色々な事があったよ」

「ところでお前に頼みたいことがあるんだ、昔は色々と世話になったが、又少し、調べてもらいたいことが起きたんだ」

「川本さん、あなたには随分助けて頂きました。私の様な人間でも、それを忘れる事はありません」「なんでも言ってください」。

「分かった有難う」。

「俺は今、ある男たちを調べている、但し、公では無く個人的にだ!」「それも闇の世界で彼らに復讐をしたいんだ」。

「何か深いわけが有りそうですね、川本さんがそんな行動を取られるとは・・・・。」

「水野、お前は俺が大山公園殺人容疑で逮捕した籔島は知っていると思うが、河内と言う男を知っているか?」川本の声には、怒りと絶望が混ざり合っていた。

「河内ですか?情報はありますが、彼らは危険です。」「彼らは表の顔は普通の不動産業ですが、裏では暴力団組織の手先です。麻薬販売や金融、保険金詐欺など、汚い商売をしています。」水野は答えた。

「彼らは暴力団ではありませんが、ある意味暴力団よりも厄介です。」水野は静かに付け加えた。

「ああ、俺も調べた。彼らの事務所や大体の正体はわかっている。」川本の声は静かだった「ただ、彼らの自宅と、滞在している時間の詳細なデータが欲しいんだ。」

「最近は大阪の難波にあるマンションに潜んでいるという噂があります。」水野の情報はいつも確かだった。

「そうか。ありがとう、水野。お前の情報はいつも役に立つ。」川本は深く頷いた。

「ところで、川本さんはどうして彼らを追っているのですか?」水野は躊躇いながら尋ねた。「もう刑事は辞められたはずですが…」

「水野、お前は俺の家族が交通事故でなくなったのを覚えているな。」川本の声は低く、重かった。

「勿論覚えています。皆さんのことを思うと、断腸の思いでした。」。

水野の声は沈んでいた。

「そうか、ありがとう。」川本は一瞬、感謝の意を示した。ただ、あれは交通事故ではなかったんだ。」

「ええ!どういうことですか?」水野は驚愕した。

「交通事故に見せかけた殺人だったんだ。」川本の言葉は静かだが、その中には激しい怒りが渦巻いていた。

「まさか…、裁判でも交通事故との決着でしたね?」

水野は信じられないという声をあげた。

「そうだ。俺は、余りのショックでその時の事故の状況を深く詮索できなかった。」川本は自責の念にかられていた。「事故を起こした杉浦の態度も、俺には嘘をついているとは思えなかった…俺がバカで甘かったんだ。」

「そうでしたか…。それで、警察には今後どのように…」水野は戸惑いを隠せなかった。

「この情報は以前の部下の坂内からだ。いまは決定的な証拠はないが、籔島が仕掛けたことだ。」川本は確信に満ちた声で言った。

「それ以来、俺は籔島と、河内を追い続けている。いずれは杉浦も一緒に…。」

「ただ、俺は坂内や警察とは一緒に行動はしない。俺は単独で彼らを始末する。」川本の決意は固かった。

「水野、お前は、今の俺のことを知らない。俺はもう法の味方ではない。俺は復讐者だ。河内と籔島は俺の家族を殺したんだ。」

「俺の妻と娘だ。彼らは俺の捜査を恨み、殺したんだ。俺はそれを許せない。」川本の声は震えていた。

「俺は彼らを殺す。それが俺の生きる目的だ。俺は法に縛られない。俺は自分の正義を貫く。」川本の言葉は復讐の炎で燃えていた。「俺は一人でやる。これが俺の最後の願いだ。」

水野は電話を切った後、言葉を失い、しばらく呆然としていた。川本の憎しみや悔しさが、痛いほど胸をついていた。そして川本の復讐心への気持ちも・・・。しかし、河内や籔島のことを考えると、とても不安な気持ちで川本のことが心配でもあった。

川本さんが、単独で彼らに接すること、それは無謀だ。彼らは強力な組織の一味だ。

しかも、川本さんはもう警察を辞めている。

彼には法的な権限もない。彼は自分の命を危険にさらしている。水野は川本を止めるべきだと思った。でも、川本は聞く耳を持たないだろう。

彼は家族を失った悲しみと怒りに駆られている。彼は自分の正義を貫こうとしている。

水野は悩んだ、私は川本さんに何もできないのだろうか。そして、ある決断をした。

「やはり、警察の力を借りるべきだ」

「そうだ、彼の以前の部下、坂内さんに連絡をとってみよう、坂内さんも何かを掴んでいるはずだ。」

彼は以前から坂内とも顔見知りだった。

 水野は坂内の電話番号を探した。坂内は川本の元部下で、刑事だった。彼は川本のことを尊敬していたし、この件も坂内からの情報だと川本さんも話していた。

水野は坂内に電話をかけた。

「もしもし、坂内さんですか?私は水野と申します。川本さんの情報屋です、覚えていますか?」

「水野さん?ああ、久しぶりです、お元気ですか?どうしたんですか?」

「実は、川本さんから久しぶりに連絡あったのですが、とても危険なことをしようとしているんです。」

「どういう事でしょうか?」

「川本さんは籔島と河内に復讐をしようとしています」

「そうですか・・・水野さんへ連絡をいれましたか」

「私達も川本さんを探しているところです」

「え?それはどういう事でしょうか?」

「多分、水野さんもすでに川本さんから聞いていられると思いますが、彼は、私達刑事とは別に、単独で彼らに挑もうとしています。」

「そうです」「籔島や河内等は川本さんの家族を殺したんですね。」

「彼らは川本さんの捜査を恨んで、殺したんですね。川本さんはそれを許せないんです。」

川本さんは彼らを殺すと言っています」

「私も川本さんからその話を聞き、警察に任せる様に説得をしましたが、川本さんには受け容れてもらえませんでした。」

「それ以来、川本さんからは連絡が途絶え、心配して探していたんです。」

「又、河内と籔島に復讐するなんて、それは無理ですよ。彼らは強力な組織の一員です。川本さんは一人では敵わないですよ。」

「彼は自分の命を危険にさらしているんですよ」「只、私は川本さんに彼らの情報を渡しました、居場所も特定しています。川本さんは自分の命は捨てるつもりです。」

「だから、あなたに助けを求めたんです。彼を救ってください」

「水野さん、私も川本さんのことを心配しています。私は川本さんの部下でもありました。只、私は刑事です。私は法の範囲内で行動しなければなりません。」

「私は川本さんの復讐を手伝うことはできません。それは違法です。それは正義ではありません。」

「私は川本さんを止めることは決めていますが、それは彼を逮捕することです。」

「残念ですが、・・・・・」

「坂内さん、それは理解できます、でも何かいい方法は無いでしょうか?川本さんはただ、家族を失った悲しみと怒りに駆られているんです。」

「水野さん、私は川本さんの友人として、彼を見捨てるつもりはありません。私は川本さんのことを思っているんです。」

「彼が河内と籔島を殺せば、彼らの命を奪うだけでなく、川本さん自身の魂も汚すことになります。」

「彼は自分の正義を貫くと言っていますが、それは本当の正義ではありません。それはただの暴力です。それは彼の家族が望むことではありません。」

「彼の家族は川本さんに幸せになってほしいと思っているはずです。彼の家族は川本さんに生きてほしいと思っているはずです。」

「私も川本さんに生きてほしいと思っています。川本さんに幸せになってほしいと思っています。」

「坂内さん、私はあなたの言うことはわかります。私も川本さんに生きてほしいと思っています。

「本当の正義を見つけてほしいと思っています。でも、それはどうやって実現できるんですか?」

「彼は他の何も見えていません。彼は他の何も聞こえていません。彼は他の何も感じていません。彼は河内と籔島に復讐することしか考えていません。」

「わかりました」「只、今は論じている場合ではないと思います、とにかく彼の居場所を特定することが先決です」。

「かれの居場所は特定できますか」

「多分、私の情報をもとに行動をしていると思うので、籔島と河内のマンションを見張っていればどうでしょうか?」

「すぐに手配をします、彼らのマンションは何処ですか?」水野「大阪難波に有るキングマンションです。」坂内「それではすぐに手配します、しかし、あくまでも表立った行動は取れないので、私と部下一名だけになります」

坂内は上司に今までの経緯と川本と水野から得た情報を説明し、内々での捜査許可を得て、すぐに部下の谷川を連れマンションへむかった。


「あそこに停めてある車から、双眼鏡でマンションを見ているんだ。水野から聞いた部屋の窓にはカーテンが閉まっている。河内と籔島が中にいるかどうかは分からないな。」

谷川が言った。「もし彼らが中にいるとしたら、川本さんはどうやって近づくつもりなんだろう?」

「川本さんは警察の経験があるから、何か策を練っているかもしれない。」

「了解しました。」

「二人は沈黙する。マンションの窓には変化がない。時計を見ると、午後三時を回っている。」

「そろそろ動き出す頃かな。」

「誰が?」

「川本さんだ。彼は今日中に何かをしようとしている。籔島に電話を入れたようで、奴らも警戒している。彼は河内と籔島と杉浦に復讐することが、彼の最後の使命だと思っているんだ。」

「それは悲しいですね。」

「だから、私たちは彼を止めなければならないんだ。彼を救わなければならない。」

「しばらくして、黒いヘルメットをかぶった男がバイクに乗ってやって来て、マンションの隣の通路にバイクを止めた。」

「あれは川本さんじゃないか?」

「そうだ。あれが川本さんだ。彼はバイクで来た。河内と籔島の部屋に向かっている。」

「坂内さん、どうするんですか?追いかけますか?」

「そうだ。今がチャンスだ。彼を止めなければならない。行くぞ。」

「車のドアが閉まる音が響き、二人の足音が急ぎ足でマンションのエントランスを駆け抜ける。エレベーターのボタンが何度も押され、扉が閉まると同時に、川本の後を追う二人の息遣いが重くなる。」

「エレベーターの扉が静かに開き、川本は籔島の部屋の前に立ち、ドアノブに手をかける。彼の目は遠くを見つめ、心は過去の記憶に満ちていた。」

「俺の命はもう、ここにはない。家族を奪われたこの胸の痛みを、彼らに伝えるんだ。ただ、杉浦への復讐が叶わないのが心残りだ。だが、坂内が真実を明らかにしてくれるだろう。」

それでも、心のどこかで川本は悩んでいた、本当にこれでいいのか・・・・・。

「鍵を回そうとしたその瞬間、背後から声が届く。」

声:「川本さん、それ以上はいけません。」

「川本は驚き振り向く。そこには坂内と若い男が立っていた。」

「坂内…どうしてお前がここに…」

「私は水野さんから情報を得て、あなたをここで待っていました。これ以上は私たちに任せてください。あなたの心の痛みは、私たちも感じています。」

「私も水野さんも、籔島や河内、杉浦を許すことはできません。私たちも彼らに、あなたやあなたの家族が味わった苦しみを償わせたいと思っています。」

「しかし、それは法の範囲内です。ここで彼らを殺しても、貴方やあなたの家族の心にさらなる傷を負わせるだけです。」

「川本さん、あなたは私に正義の意味を教えてくれました。私はあなたを尊敬しています。貴方の家族のためにも、川本さん!」

川本は、坂内の言葉に心を動かされ、目を閉じる。彼の頭の中で、家族との温かい思い出が駆け巡る。私が今行おうとしていることは、本当に家族のためなのか?正義のためなのか・・・・・・?」

「川本は深く息を吸い込み、目を開ける。彼の目には新たな決意が宿っていた。」

「分かった…。」「川本は坂内の肩を掴み、力強く握る。」

「川本さん、私たちに任せてください。あなたはもう十分苦しんだ。これ以上自分を責めないで。」

「ありがとう、坂内。お前の言う通りだ、ここで終わりにする。」


二日後、

検察官によって裁判所に請求された逮捕状請求書を基に、籔島と河内が逮捕された。

その後、裁判は継続したが、河内と籔島は保釈金を払い、逃亡の恐れが無いとの理由で、

三か月後には保釈されていた。

河内「三か月はちょっと長すぎたな!」

籔島「俺は平気でしたよ!どうせまた、証拠不十分で釈放されるのは分かっていたから、

少し務所内で楽しませてもらいましたよ!」

河内「あきれたやつだよ、おまえは!ハハハハハ」。


河内と籔島はいつものように、酒を飲み深夜マンションへ帰るところだった。マンションの前の道を横切ろうとした時、後ろから猛スピードで来た車にはねられた、二人はそのまま三メートルほど飛ばされた。

周りには人影は少なく、二人の体は道路に打ち付けられたまま、動くことはなかった。

投獄中の杉浦は、大麻使用で再逮捕された彼女の告白により、杉浦は川本家族殺人容疑に切り替えられ、無期懲役が確定された。


水野はタイのバンコクにいた。彼は既に長期滞在ビザを取り、ゆくゆくはタイに骨を埋めるつもりでいた。

彼はバンコクへ来る前、使用していた車を闇の廃棄工場へ売り渡し、既に鉄屑としていた。その後、川本家族の眠る墓に参り、胸の中で何かをささやいた・・・。

「風が墓地を通り抜ける。水野は静かに墓石に手を置き、低く呟いた。」

「川本さん、あなたの家族は今、安らかに眠っています。あなたが正義を守るために戦ったこと、あなたの家族も知っているはずです。」

「わたしは・・・・・・・」

「水野は強い日差しのなか、空を見上げた、長い沈黙の後、ゆっくりと立ち去った。バンコクの喧騒が遠くに聞こえる中、彼は新たな人生を歩み始めていた。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ