断頭台に立ったのは
断頭台に立った、男。そして美意識に悪態をつく女のいぶかし気な目線の先に立っている、男。それはいったい、誰? あ、そんな話。
まず断頭台に立ったのは大怪盗アルセーヌルパンだ。ええ、異論はない。
それからクラシックジャズの金字塔にあるようなマジックモーメントに日の入、最近暑いから重たいのは脱いで軽やかな歌を聞く習慣がついた。雑なスキンケアでだって実を結ぶ生まれ持ったものが違う。東京都渋谷区へ進出、遠方にかつてのヲタクノリの感、整形庭園の全然変幻自在にうごめく薔薇の大木とイタチたちの避暑地。いつだって陽気なラテンボンゴ奏者の家族写真には大勢とセピア色で哀愁漂う季節に、昔好きだった女優の話を肴に昼間から飲む酒の美味さを確かめ合う男たち。カーラジオのサザンオールスターズ。手の甲から肩にかけて走った肌の茶色い染みが日の暑さで溶けるみたいに、ベッドから起きてすぐにシャツへ腕を通す父親の背中からは顔がわからなかった。その日は一段と弱々しく思えた子供の頃、永久の永久プリンセス。そんなキラカードがあった。僕は幼い頃、髪の薄いなよっちい英語の教授がバスに乗って行く姿がやけにカッコよく見えていた。あれが現実におけるマジックモーメントなんだ。大人になるに連れて魔法は実感されなくなっていく。クラシックジャズだけがそんな大人のための回帰装置だった。あらゆる不全が廃れ、WHOに報告が上がる毎日が煌めいて、目の前で跳ね上がるデジタルの数値に執着していた過去をここに白状していく。オレは一般社団法人の公認会計士兼トイレ掃除、廃品回収と、とにかく何でもやっていたんだ。やればいいという様ないい加減な仕事ぶりが持ち味で、それなりの給料でならぜひ働かせたいとオレはいたるところから引っ張りダコだったというわけだ。その時期にはそれなりの給料を月や日や週にいくつも貰って最終的にその100倍は稼いだ。オレは金持ち、オレの勝ち。大好きなホワイトラムを飲みながら、そういう話だ。マンホールの下の水路から繋がる秘密ホモクラブ。行ったことはないけど海外小説で読んだことがある。第三次世界大戦もマンハッタン計画もバイオハザードも、小説で読んだくらいがちょうどいい。男の人と女の人が一緒の部屋にいると、よく制汗剤の匂いを描写する小説家がいた。それが特徴というにはあまりにもニッチな注目点なのだけれど、僕はその人が戻って来るのをいまだに待っているんだ。話は長くなるからしばらく言葉を忘れ、そのあいだ強引に話題を変えようと思う。そう、女の目線の先に立っている男は誰? たしかそんな話だった。そろそろ明かしてしまっても構わないだろう。その男の名は桑畑三十郎。