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神の力を知るのは私だけ


***


 神託の光に包まれてから、何かが変わったのはわかっていた。


 心の奥底で、確かな感覚が芽吹いている。

 言葉にならない“力”――

 けれど、それは私だけに与えられた、秘密の力。


(誰にも言わない。これは、私だけのものだから)


 神に選ばれた少女。だけど、それは“役割”にすぎない。

 選ばれるだけなら、まだよかった。問題は――


 私は、“神の力”を本当に手に入れてしまったのだ。


***


 一つ目の力――言霊の律(ことだまのりつ)


 試しに、城の侍女に腕を組んで命令してみた。


「……床に寝転んで、ニワトリの鳴き声を真似してください」


「コケコッコー!」


 即座に、彼女は優雅に寝転がりながら全力で鳴いた。


(やばい……ほんとに効いてる……)


 この力は、命令された者が“絶対に逆らえない”。

 どれだけ身分が上でも、地位が高くても関係ない。

 だからこそ私は、使いどころを選ばなければならない。

 乱用すれば、誰よりも恐れられる“支配者”になる。


(でも……もしあのレオポルド王子相手なら使う……かも)


***


 二つ目の力――審神の眼(さにわのめ)


 この目で下した“選択”は、神意と見なされる。

 つまり、私が「この人は有罪です」と言えば、それが女神観点からの識別となり“正解”になってしまう。

 どれほど不合理でも、どれほど感情的でも、私の判断が“真理”になるという恐ろしい力。


(……この力があれば、きっと私はもう誰にも踏みにじられない)


***


 三つ目の力――虚妄の香(きょもうのかおり)


 鼻をつまんで匂いを嗅ぐ。

 ただそれだけで、“相手の嘘”がわかる。

 騙そうとしても無駄だし、ごまかしても意味がない。

 王宮のような嘘が飛び交う世界では、これ以上に便利な力はないかもしれない。


「アヴェリン様、お召し物、とてもお似合いですよ」


 言った侍女の言葉を聞き、私は鼻をつまみながら小さく匂いを吸う。


(嘘ね)


 ……まあ、鏡を見れば分かるけど。今日は寝不足でボロボロだった。


***


 そして四つ目の力――聖女の吻(せいじょのくちづけ)


 唇を寄せるだけで、相手の傷を癒やす。

 ほんの軽い接吻でも、重傷者を起こす奇跡の力。

 試しに、飼っていた小鳥の傷をキスで癒したとき、羽ばたいて飛び立った姿を私は一生忘れないだろう。


(ただしこの力は……人前では絶対使えない。いろいろな意味で)


 回復の力があるとは思えないほど、“見た目”がロマンチックすぎるのだ。


***


 この力を知っているのは、私だけ。

 だからこそ、誰も私を本当には恐れていない。

 神に選ばれた存在でありながら、まだ王宮の人間たちは“私の力”を軽く見ている。


(いいよ、それで)


 知られないほうが、ずっと都合がいい。

 いざという時まで、私は“無能な女神”を演じていればいいのだ。


***


「アヴェリン様、会議の場にて王子殿下がご発言を」


「……誰の?」


「レオポルド殿下です」


 ああ、また、私に対する嫌味か皮肉だろう。

 だけどもう、あの頃の私じゃない。

 黙って、耐えて、笑うだけの存在じゃない。


(――私は女神だ。女神の名のもとに、選ぶ権利を得た)


 次の会議。王子たちとの“最初の対話”が始まる。


 誰を王に選ぶのか。

 その選択を誤れば、四人が死に、国が傾く。


 だけど、私の心はひとつだけだった。


(復讐でも恋でもない。私は、“真実”を見極める)


 まだ誰も知らない。神の力が、私の中にあることを――。


***



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