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第2話 応用編 つけおきも有効です。

王城のお仕着せの侍女服に着替えて、妃殿下にご挨拶に向かう。もちろん侍女はほかに3名控えている。24時間体制なので、交代勤務になる。


「初めまして。アグネスメイド派遣協会から参りました、アーダと申します。よろしくお願いいたします。」

「あら、よろしくね。急に一人具合が悪くなってしまってね。誰でもいいというわけにもいかなくて…。助かるわ。」

「こちらをお預かりしてまいりました。」

「まあ、ちょうどなくなりかけていたの。さすがアグネスね。」


そういって妃殿下がうれしそうに笑った。

綺麗なガラス瓶に入った紅茶。


「私はね、生理が不順だったからアグネスが心配してくれて…このお茶を飲むようになってからは調子がいいのよ。もう8年も飲んでいるかしら?」

「そうでございましたか。」

「早速、入れてもらおうかしら?」

「かしこまりました。」


控室でお湯を沸かし、ポットに茶葉を入れる。

独特のにおい…華国の漢方薬のような…。これが効果があるのかしら?


紅茶の茶葉に、漢方薬がまぶしてある、って感じなのでしょうか。紅茶と同じ出し方で構わない、と先輩侍女さんの言葉通り、お湯を注いで蒸らしてからカップにそそぐ。紅茶も香りの高い種類らしく、出してしまうと先ほどよりはにおいがしない。


妃殿下にお茶を出して、そばに控える。

「瓶もかわいらしいでしょう?小物入れにちょうどいいのよ。アーダにも一つ上げるわ。」


確かに、小物入れにちょうどよさそうなサイズ。日が当たれば煌めいてきれいだろう。

「ありがとうございます。」


空いた紅茶の瓶を貰って、初日は終了。侍女部屋はさすがに個室だ。妃殿下付きの侍女ともなるとたいがいは貴族の令嬢が多いだろうから、当然か。

ベッドと文机とソファーが置いてある。


たいして多くない荷物を片づけていると、ドアをノックされた。

「おお。侍女は個室か。そうだよな。」

やってきたアメリーがソファーに身を沈める。

「ふかふかだねえ。」

「アリーナは?」

「もう仕事になった。若い子が来てうれしいらしくてね。すぐに連れていかれた。私は夕食の支度から。アーダは?」

「今日はご挨拶だけでいいらしいの。お茶をお出しして、終了よ。後で夕食を一緒に行く?」

「遅くなるかもよ?アリーナと行ってきていいわ。」

「そう?」

「・・・ねえ?このにおい何?」

「ん?何か匂う?」


クンクンしていたアメリーが、文机の上に飾ったガラス瓶を手に取る。蓋を取ってにおいをかいでいる。

「これ?なに?どうしたの?}

「ああ。かわいい瓶でしょう?ほら、出がけにアグネスさんから頼まれた妃殿下用の紅茶?漢方薬みたいなにおいがするわよね。」

「・・・・・」

「妃殿下が生理不順だったから、アグネスさんが調合してくれているらしくて。効いているらしいわよ。もう8年も飲んでいるらしいの。」

「・・・8年?これを?」

「確かに癖のあるにおいよね?紅茶の茶葉の香りも高くてね、お茶で出してしまうとそんなに気にならないのよ。」

「・・・8年?8年と言ったら…王太子妃になったころから?」

「え?ああ、そうね。なくなった頃に届けてくださるって聞いたわ。」

「・・・・・」

「どうしたの?アメリ―?」

「・・・避妊薬だ。」

「え?」

「娼館の女はみんな飲んでいた。このにおい。間違いない。紅茶の香りにごまかされてるけど。」

「え?待って…。どういうこと?」

「8年前と言ったら妃殿下は16歳ぐらい?生理不順なんて珍しくもない。そういう年頃だから。もっと大人になれば落ち着いてくる。ほっておいても。」

「・・・・・」

「これを…アグネスさんがなあ…。あははっ!妃殿下に子供ができなくて当り前じゃないか!毎日避妊薬を飲まされてるんじゃあな。」

「・・・どういうこと?」

「・・・さっぱりわからない。でも、止めさせるべきだ。」

「・・・・・」



アメリ―とアリーナが私の部屋に集まったのは、夜も深くなったころ。


アメリーがアリーナに事情を話したらしい。

「直接そのお茶は危険です、飲むのをやめましょう、は、危険だよね?」

「意図がわからないからな。」

「でも、このままでいいということはないですよね?その薬に、何かもっと違った効果効能があるとか?」

「・・・どちらにしろ、飲まないに越したことはない。」

「・・・・・」

「何を飲ませればいいのかな?」

「水?お湯とか。薬が抜けきるまでは水をたくさん飲んでほしい。」


しばらく考え込んでいたアリーナが、ぽんっ、と手を打った。


「いいわ。私が何とかする。誰も話の出所がわからないように。」



どうやって?



そう思っていたが…意外と早く結果が出た。


その噂によると…紅茶やコーヒーは体が冷えるので、お湯を飲むと体が温まって、うちのおばさんは長いこと子供ができなかったけど、健康になって子供ができたんだって!という…噂話があっという間に広がった。たいしてお金も手間もかからないことで健康になるならこんないいことないよね。


噂話は妃殿下付きの侍女にも広がった。だめでもともとでやってみましょうと、侍女たちがせっせと妃殿下にお湯を飲ませる。


「なんでもね、お湯がいいのですって。太っている人はやせれるし、子供ができなかった人に、子供ができたらしいのよ。もう、ばあやとか本気になっちゃって。うふふっ。」


そういいながら、妃殿下が湯冷ましを召しあがる。紅茶もアグネスさんのお茶も、戸棚の奥深くにしまわれた。これは後でアメリーがどこからか手に入れてきたお茶にすり替えて置いた。


「私はね、二人と違って壮絶な人生ではないの。まあ、普通。専攻科も出てないし。ただ洗濯が好き。どんな汚れもどんとこい、って感じ。でもね、ほら、先輩が火種をやってるでしょ?」

「火種?」

「あら、知らなかった?お屋敷にお勤めしている間、広めたい噂を、世間話に紛れて広めるの。広まるだけ広まったら完了。王城にももう入っていて、妃殿下に子供ができないから側室を取るらしいって。もう、どうにもならないほど広がってるでしょう?これがね、出入りの商人とかから商工会に拡散。社交界に拡散。ああ、あとね、ドーリス侯爵がモーリッツ公爵家に娘を嫁に出したがって工作してる、ってのもあったわね。

私はね、純粋に仕事が好きなんだけど、この役を振られそうなのよ。そうなったらやめようと思っているのね。アグネスメイド派遣協会にいた、っていえば、仕事には事欠かないし。固定の職場でもいいんだし。」


なんてことなく言い放って、アリーナが焼き菓子を頬張る。


「ただ、私がこれを言ったってことはもちろん、アグネスさんには黙っていてね。何考えてるのかわからないし。にらまれていいことなさそうだし。あの人、モーリッツ公爵の妹さんでしょ?先王のいとこ?そんなんで、今の国王の教育係もしていたらしくてね…暗殺者に襲われた現王を助けたこともあるんですって。絶対的な信頼があるからね。」

「・・・え?」

「え?知らなかった?有名な、噂ヨ。」

「・・・・・」

「そんなんだから、妃殿下も信用しちゃったんじゃない?疑いもせずに避妊薬入りのお茶を飲み続けるなんてね。」

「・・・・・」


洗濯メイドは噂の宝庫、とは聞いてはいたが…。すごいわね、アリーナ。

思わずアメリーと目を合わせる。


「なにか、深ーーーい考えがあるのかしらね?そんなことして、何のメリットがあるのかしら?アーダの誘拐事件もそうよ。段取り良すぎるわよね。大体、何のメリットもない。王妃の誘拐とか、リーンハルト様本人を誘拐するならまだしも、ね?」

「・・・そうね…。」

「まるで…王室関係者が苦悩するのを楽しんでいるだけみたいじゃない?目的はアーダじゃなくて、婚約者を諦めきれずに探して苦悩するリーンハルト様?しかも、見つかっても下手すりゃ正式な結婚もできそうにない。・・・あ、ごめん。」


「・・・・・」


「で、どうする?」

「どうするも何も…何もしないわよ。侍女は使える主人を守ることも仕事だから。」

「ま、そうね。アメリーは?」

「あたし?あたしはなんだかスッキリしないわ。あんたが言うように、いいように使われていたんだと思うと頭にくるしね。」

「そうね。ちょっと様子を見ましょうか?アグネスさんが思っていたような展開にならないとなると、あの人直々に動くかもね。」



アリーナは難なく焼き菓子をすべて平らげ、小さくげっぷをすると、アメリーと部屋に帰っていった。










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