22話 無傷の生還者
エンジェリア達は、剣を探しにアスティディアを訪れた。
今は世界管理システムは稼働していないが、ここは今も変わらず守られている。
「ゼロ、何にするの? じゃなくてどこにするの? お店がいっぱいあって選べないの」
「俺もどこにするか決めてない。適当に歩いていて良い感じの武器屋で探すでどうだ? 」
「……君ら本気でその辺の店で買おうとしてたの? 」
「だって、お高いから。それに、エレが使いやすい武器なんて少ないの。お高いなら、使いやすいのが良いの」
エンジェリアも、自分に合った武器を買いたいが、それは難しい。
宝剣は、羽のように軽く、丈夫で魔力を早く吸収する。そのくらいの武器でなければ、エンジェリアには合わない。
アスティディアは、かなり発展している部類の国で、技術もそれなりに発展している。だが、それでも、エンジェリアが望むものを作る事のできる技術者はいないだろう。
「……これ、少し早いけど、見習いのお祝い」
フォルがそう言ってくれたのは、魔法媒体として用いるスティック。
「これって……ありがとなの。武器買う目的無くなったの」
「そうだな。フォル、仕事詳しく」
「それはルーが説明するよ」
「禁止指定魔法を使うという噂の魔物は、アスティディア周辺で目撃されている。その魔物を目撃した者は、無傷で帰ってきている。だが、精神に異常をきたしている。俺も何人かに話を聞きに行ったが、全員まともに話せる状態ではなかった。最も多いのが錯乱状態だ。幻覚か幻聴か分からないが、ずっと一人で何か言っている症例もある」
エンジェリアが持っている知識の中にいくつか当てはまるものはあった。だが、これだけでは、特定する事はできない。
「……その人達と会うのはできませんか? 」
「できるよ。でも、ルーが言っていた通り、話に期待しない方が良い。僕もいくつか候補はあるんだけど、下手に治療すると逆効果になる時があるから。魔法の特定をするまではどうする事もできないんだ」
「その人達に会ってみたい。実際に見れば、魔法の候補を絞れるかもしれないの」
「分かった。アスティディアは、僕らの事に理解がある国だから、そういう被害者を保護して治療するための施設があるんだ。そこにいるから案内する」
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アスティディアは、治安がかなり良く、裏通を歩いても安全だが、薄暗く、エンジェリアは転びやすい。
段差に気をつけているが、本日すでに十回転びかけている。
「まだ新記録は程遠いね」
「一日で五十一回」
「数えなくて良い……みゅ? なんで覚えているの⁉︎ 」
「あっ、ここだよ。裏通りは、危ない店はないけど、こういう、表には出せないような施設が多いんだ」
この施設も、表に出す事はできないだろう。
周りには、情報屋や特殊商売と書かれた店などがある。
「あの武器屋とか、ベテラン冒険者とかしか扱えない武器しか売ってないから、表通りで商売すると、初心者とかが買いにくるからってここでやってるんだ」
「そういう理由で表で売れないお店多そうなの」
「うん。そうだね。それより、入る時気をつけて。段差あるから」
エンジェリアは、段差に気をつけて中へ入った。
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二十人ほどだろう。ここにいるのは。
「違う‼︎ そんな事知らないんだ! 」
「や、やめろ‼︎ ち、近づくな‼︎ 」
「ああ、今日も一緒にいてくれるんだな。いつも愛してる」
話に聞いていた通り、話を聞けそうな状態ではない。
だが、ここへきただけでも意味がある。
精神異常が見られる。症状は人それぞれと聞いていたが、その通りのようだ。
この症状で、魔法の特定をする事ができるだろう。
「ああ、なんて美しいんだ」
「ひ、ひぃぃぃぃ‼︎ 」
何かを恐れている者もいれば、愛おしそうにしている者もいる。
「……これって……クーム、エクーに色々と教えてもらっている上に、セイにぃにまで教えてもらっていたみたいだから、意見聞かせて。きれいな色の霧のようなブレスを吐く魔物さんがかなりレアだけどいるはずなの。その魔物が出現した地域で奇病として扱われていた幻覚症状。これに似ていると思うの」
「えっと、師匠からは、その地域でまともな人が消えたと聞いています。それ以外は何も聞かされていないので、分かりません」
ゼーシェリオンを見るが、ふるふると首を横に振られた。
「……フォル、聞いても良いの? 」
「……まぁ、そこまで分かれば十分か。正解だよ。これに関しては。でも、不思議じゃない? 何がとは言わないけど」
フォルはエンジェリア達に考えさせるために、知らないと嘘をついていたのだろう。エンジェリア達が頼らないように。
だが、その嘘を嘘とだけで終わらせられない。その中にもヒントは隠されている。
――治療は逆効果で、正しいものがないとできないはヒントなの。でも、それは、治す方だけで、不思議はない気がする。
嘘に隠されたヒントに気づく事はできたが、そのヒントは、今は関係ないだろう。
「……フォル様は、初めから原因を知っていたのですよね? でしたら、なぜ禁止指定魔法と言っていたのでしょうか」
「そういえば妙だよな。管理者の情報はしっかりしているから、これだけで禁止指定魔法の疑いなんて言わねぇはずだ」
「そういえばそうなの。ルーにぃが言っていた事をもう一度思い出すの。被害に遭っているのは、このアスティディア周辺」
「被害者は皆無傷で帰還しています」
「無傷だが、精神に異常がある」
イールグの説明を思い出すと、疑問点は出てきた。
アスティディアは、魔物がこないように結界魔法だけでなく、魔物が侵入できない壁で囲まれている。
そんな事をする必要があるという事は、アスティディアの外は魔物が多いという事だろう。
エンジェリア達がアスティディアへくる時は転移魔法で、外に出る事が少ないため、魔物が多いという印象はないが。
「ここは確認作業も大事なの。アスティディアの事を一番知っている人に聞くの」
エンジェリアは、そう言って連絡魔法具を取り出した。
ノーヴェイズに連絡する。
『エレ? どうかした? 魔法具の事とかかな』
「違うの。アスティディアの周りについて知りたいの。アスティディアの周りって、魔物さんいっぱい? 」
『もしかして、あれの調査をしてくれている? 俺だけじゃ手に負えなくて、フォルに頼んでいたんだけど』
「多分そうなの」
『えっと、試験だっけ。頑張ってるんだね。可愛い見習い管理者達、この国の異常を解決してください。魔物については、かなりいるよ。だから、用がない限りは外へ出ない方が良いって注意している』
魔物が多い。だというのに無傷で帰ってきている。
被害者は全員魔物討伐に慣れているようだった。だが、あの状態で襲ってきた魔物を倒し帰るというのは考えにくい。
何かで守られていたと考える方が自然だろう。
「ありがと。エレ達、可愛い生き物にお任せなの。じゃあ、解決したら教えるね」
『うん。よろしくお願いします』
エンジェリアは、通話を切り、連絡魔法具をしまった。
「そういう事らしいの」
「……アスティディアの結界から出る。魔物がいる中、討伐しながら、目的を果たしに向かう。突然件の魔物に襲われる。精神に異常をきたす。そのまま帰ってくる。という感じでしょうか? だとすれば、帰ってこれたのと、無傷だったのが謎ですね」
「そうだな。あの状態で自分の足で帰ってくる。しかも全員。そんな偶然が起こるもんか? それに、帰りも魔物はいたはずなのに、無傷だった。あの状態で魔物討伐なんてできるとは思えねぇ」




