18話 ギュゼル
思い出話に花を咲かせていると、突然テンデューゼに向かって短剣が飛んできた。
テンデューゼが避けて、短剣は木に刺さった。
エンジェリアは、木に刺さった短剣を見る。そこには、神獣の紋章が描かれている。しかも、珍しい黄金蝶の紋章。
「相変わらず熱烈な歓迎な事で」
「今すぐにでもギュゼルの仕事を回しても大丈夫なのか、確かめてあげないとだからな。もう少し確かめてからの方が良いとは思うが、やりすぎると気づかれるからこのくらいにしておく」
エンジェリアは、声の方へ走っていき、飛びついた。
「フォル、フォル、だいすき。だいすきすぎるの。らぶなの。とってもらぶなの。エレをらぶするの」
「エレ、気を遣わなくて良いよ。ちゃんと向き合うんだって決めたんだ」
声の主は、フォルの真似をしたフィル。フィルと一緒にフォルが来ている事に気づき飛びつきに行った。
エンジェリアは、フォルの胸に顔を擦り寄せる。
「にしても、真似が上達してんな。フィル」
「仕事でフォルの真似をする事があったから。またある時のためにもさらに磨きをかけた」
「それを披露するためだけってわけじゃないな」
フィルがフォルの真似をしていたのは、フォルのためだろう。
「……ごめん、あの時」
「……」
フォルが俯いている。エンジェリアは、ゼーシェリオンの元へ戻り、共有で会話をする。
――ゼロ、前のをできる? ギュリエンで別れたんだから、ギュリエンで再会させるの。それに……エレなら、少しでもお話しやすくできるの。フィルの努力を無駄にしないの。
――ああ。分かった。協力する。
「……エレ様、これを使ってください。師匠からもらったもので、僕にはまだ使いこなせないんです」
「ありがと」
エンジェリアは、クルカムから魔法杖を借りた。持ちやすく、美しい魔法杖に、エクルーカムの愛を感じる。
「今回は、エレのじゃないけど、もう思いついてるの。ゼロ、お願い」
「ああ」
エンジェリアは、魔法杖を左手に持ち、右手を胸に当てた。
「消えない後悔。消せない過去。ずっとそれに囚われていた。
「迷って良いの」僕とおんなじ、世界に囚われた子。その言葉が、救いになった。
いつだって
許してなんて言わない。でも、会いたいんだ。だからずっと探し続けるよ。償い続けるよ。
ちゃんと思い出すよ。もう、忘れたいなんて思わない。僕は、自分の犯した罪と向き合って生きるから。
奪われた時間。消せない傷。ずっとそれで良いと思っていた。
「一緒に償う」聖なる星を守る、聖なる月の子。その言葉が、未来を見せた。
ありがと
許されなくて良いんだ。そう、思えるんだよ。だけど時々泣いても良い?弱くても良い?
ほんとは強くないんだ。でも、そうしないといけなかったから。僕は、誰にも弱さを見せてはいけないんだ。
枯れていく。世界が、何もかも。どうして僕は……
差し伸べられた、氷の華と純粋な音
僕の、愛おしい光の華音
やっと会えたね。ずっと、待っていたんだよ?
許してくれてありがと。また、一緒にいて?ずっと、ずっと、言いたかったんだ。ごめんって。
今度は間違えないよ。もう、後悔なんてしたくないから。僕は、自分の役割を受け入れて生きるから」
歌と共に、メロディーズワールドを発動させる。景色が変わり、かつてのギュリエンの地となる。
エンジェリア達がいた、都から離れた双子宮。エンジェリアがゼーシェリオンと協力して育てた花畑。
「これは……そうだったんですね」
「……ごめん。あの時、守れなくて。一緒にいる事ができなくて。許してくれなくて良いよ。あのせいで、こんな事にまでなっているんだから。恨んでくれて良い。でも、これからもずっと笑っていてほしい。その場所がどこでも良いから」
フォルの瞳から涙は流れている。
「……だめですか? その場所を、フォル様と一緒の場所にしては」
「そうですね。その場所は、昔のようにギュゼルでなければ意味がありません。そうでなければ、これまで神獣達から逃れていた理由が消えます」
「……謝罪なんていらない」
「そうですわ。フォル様がいなければつまらないですわ」
「そういうこった。俺達は全員あれをフォルのせいなんざ思っととらん。エレ、フォルが話やすくしてくれて感謝だ」
エンジェリアは、こくりと頷いた。
「……うん。ありがと。ルー、せっかくだから、試験をしようよ。ここからどう出るか。エレ達に任せてみない? 」
フォルが涙を拭き笑顔を見せた。
エンジェリアは、ゼーシェリオンと互いを見つめ合う。
「きっとエレに任せるの」
「きっとゼロに任せるんだ」
「ふにゅ。クームこれありがと」
エンジェリアは、クルカムに魔法杖を返した。
「ついでに、これの使い方分かったよ。クームが使えない理由も」
「そうなんですか? さすがはエレ姉様です……あっ……今はというか、昔もエレ様は同い年なのに」
「……使い方。これ、鍵がかけられているから開けないとなの。いつかクームがこれを使いこなせるようになった時のために……これは自分で知るべきなの。媒介としてなら簡単に使えるの」
エンジェリアは、媒介として使っていただけで鍵を開けたわけではない。鍵はクルカム以外には開ける事のできない仕掛けだ。
「鍵……そういえば……こうでしょうか……できました」
【どんな道を選ぼうと応援する。成長を心から祝おう】
「……はい。師匠」
クルカムが、瞳に涙を溜めて魔法杖を抱きしめた。
「……クーム、エクーに報告するためにもここから出ないと」
エンジェリアは、クルカムの腕を引っ張る。
「はい。ですが、エレ様は何もしないでください。また迷子になりかけます」
「クームが意地悪なの。なら、クームが出口探すの。エレはついていくだけだから」
「俺も俺もー」
エンジェリア達は仲良くで口を探す。まずは出口に関して情報集め。情報集めは管理者として基本だ。今回は、フォル達にヒントをもらう。
「フォル、ヒントちょぉだい」
「管理者として協力は大事。ほとんど仕事で関わらなくとも、定期的に交流会を開き交流する。君らはそれを見せてくれているから、それ相応のヒントをあげる。出口は結界の割れ目。どこかは言わないけど」
自分達で探そうとしても、ここは広すぎる。他にもヒントがほしい。
「……フィル、ヒント」
「結界は円。おれからはこれだけ。ヒント条件は、互いの得意不得意を理解している事。少しずつ理解しつつあるからこのくらいのヒント」
ヒントは条件があるようだ。条件さえクリアしていれば、イールグからも聞けそうだ。
「……イールグ様、ヒントを頂戴してもよろしいですか? 」
「結界は壁状。外に出ようとすると見えない壁にぶつかる。条件は、知る事。互いに知らない事を教え合う。自分一人では知らない事は多い。それを補う事。管理者は互いを知り協力する事が大事だ。ペアを良く知る事で、相談なしに行動する」
「そうだね。今の管理者達も、ああ見えてそれだけはできるんだ。何かあった時、言葉を使う事ができないかもしれない。そんな時間がないかもしれない。そういう時、相方を信じて、相方ならどうするか。なら自分はこうすれば良い。それを瞬時に見極める事。判断する事」
エンジェリア達はまだそこまでできていない。フォルが何も考えず、同時に見習い試験などするはずがない。管理者の仕事をこの三人でやらせるつもりなんだろう。
もしくは、現在の試験管と試験者のペア。
それは状況によって変えるのだろう。
「……ちょっとやってみるの。ゼロ、クーム。今からどうするって会話禁止なの」
「あっ、ちなみにこれはそういう訓練をしておくだけで、実際に使う場面は少ないだろうから、こんなとこでやらなくても」
「実験なの」
「そうですね。やってみましょう」
「ああ」
エンジェリア達は、結界から出るのに関係のある会話を禁止縛りで、出口を探す事にした。




