14話 本物に近い御巫候補
自ら志願したノーズとヴィジェ。二人の言う通りだが、再びこんな危険に巻き込みたくないのが本音だ。
「……」
「フォル、わたしにも協力させて。ノーズとヴィジェは、わたしが守るから」
「……そんな事させられない。これがどれだけ危険なのか分かってる? 最悪、二人が実験に巻き込まれるだけじゃなく、リミェラねぇも裏切り者として消される」
呪いの聖女の件はどうにかうやむやにできているのだろう。だが、次もそうなれるとは限らない。
エンジェリアも、フォルの意見に賛成だ。
「黄金蝶を持たない御巫候補が狙われれば、抵抗のしようがない。それに、わたしは本家に身を置く黄金蝶」
「そんな理屈通用しないんだよ! 自分は安全だから。ここなら大丈夫だから。あいつらが、そんなもん気にした事なんてないんだ! 」
ギュリエンは、神獣達が本来攻め入ってはいけない場所。ずっと、平和に自分達の役目を果たしながら暮らしていく。そのはずだった。
フォルは、その時、神獣達にそんな事は通じないと知ったのだろう。
――エレとゼロを実験に使ったのも、本来は行ってはいけないものだった。もう、信じられるわけないんだよね……
「……」
囮の御巫を考えなくても良い方法。それは一つだけ思いつく。
エンジェリアが愛姫として表舞台に立つ事。
エンジェリアの本で真実を知った者は多い。これなら現在の愛姫が偽物と知っても、そこまで混乱する事はないだろう。
「……なぁ、あまりやりたくはねぇ方法だが、悪評ばかり流れていれば、誰も本物に近いと言わねぇんじゃねぇか? 」
「みゅにゃ⁉︎ その手があったの。良心がちくちくさんの方法だけど、それなら誰も本物だと思えないの。でも、流す噂については、神獣達の目を逸らすものを考える必要があるの。ゼロは何か思いつく? 」
「……フォル」
ゼーシェリオンが、エンジェリアから顔を逸らす。悪評を流すという案を思いついただけで、それ以外の事は何も考えていなかったのだろう。
「……クルカム、君はどんな噂を流せば良いと思う? 今の君は御巫に関しては無関係だけど、神獣達の目的は、話を聞いていてある程度理解しているだろ? 」
「はい。そうですね……神獣達の目的になり得る御巫候補というのは、実験に耐える存在だと思われます。ノーズ様とヴィジェ様がなぜ選ばれたのかで噂の内容は変わりますが、実験に適さないと分かれば手を出そうとしないでしょう」
「ふにゅ……そうかもしれないの。ノーズねぇとヴィジェにぃが選ばれた理由を知るためには、今までの功績とかを整理していけば分かると思うの」
御巫候補の功績については、記録が残されている。今は本人達もいるという事で、その辺の話は詳しく聞く事ができるだろう。
「……リミェラねぇ、協力してくれるなら、二人の功績について詳しく教えて」
「それは喜んで……神獣が目をつけた功績……前に何度か呼ばれてあれやこれや聞きまくられた事がある。それを中心に教えた方が良いかな? 」
「うん。ありがと。呼ばれていたなら、どんな場所だったとか知っているよね? できればその辺の話も詳しく教えてほしい」
「おっけい。中々見ない景色だったから、覚えている。わたしが入ったのは入り口付近だから、その偽の愛姫というものを見てはいないけど、神獣ではない気配はずっと感じていた。もしかしたらそれが偽の愛姫かもしれない」
偽の愛姫の居場所。エンジェリア達はまだそこを知らない。リミェラの情報で、御巫候補に流す噂だけでなく、偽の愛姫の居場所まで知る事ができる。
この情報だけで、すぐにでも偽の愛姫を止める事はできるだろう。それをするかしないかは別として。
「ふぁぁ。ねむねむさんなの」
「フォル様、エレ様が眠そうなのでそろそろ帰った方が良いかと。もうこれ以上調べる事もないでしょう」
「ふぇ? でも、フィル達いないの。フォル、共有でどこにいるか分かる? 」
エンジェリア達が何かないか探している時だったらろう。その頃から、フィル達がいなくなっていた。
「フィル達は君らがいけない場所を探してもらっていたんだ。もうそろそろ切り上げてくるんじゃないかな」
「いけない場所? そんな場所あるの? 他に扉とかない気がするんだけど」
エンジェリアは、きょろきょろと周りを見回すが隠し扉らしきものは見つからない。普通に扉や階段があるのかと見ていても見つからない。
エンジェリアが行けなかった場所など、見たところなさそうだ。
「ふにゅ。何もないの」
「管理者の箱庭とおんなじ仕掛けだよ。知ってないと行く事はできないから、エレ達はいけないと思って頼んでおいたんだ」
見た目は壁だが、扉となっている。管理者の拠点で良くある扉がここにもあるようだが、魔力の流れを視ても見つからない。
エンジェリアは、ゼーシェリオンなら見つかるかと、ゼーシェリオンを見たが、ふるふると首を横に降って答えられた。
「ふにゅ。分かんないの」
「普通に視ていても見つからないって」
「ぷにゅ。ねむねむさんだけど、みんな来るの待ってるの」
**********
十分くらい経っただろう。フィル達が帰ってきた。
「どうだった? 」
「昔使っていた寝床だった。実験で帰れない時に使っていたんだと思う。日記があったけど、それには何も書かれてなかった」
「ありがと。ところでさ、何で嘘ついてるの? 」
「……あとで話す。エレとゼロも聞いておいた方が良いと思うから、あとで一緒に聞いて」
ここで話さない事。フィルの言いにくそうな表情。恐らく、フュリーナ達の事だろう。
エンジェリアとゼーシェリオンは、こくりと頷いた。
「ねむねむさんだから帰るの。フィル、一眠りしたあとで良い? お話聞くから」
「フォルが待ってくれるなら」
「待つよ。もうずっと待ってるんだ。今更数時間待つのなんてなんとも思わない」
フォルが笑顔でそう答えた。だが、それが本心ではないだろう。
それも本心ではあるが、その裏には別の感情もあるのだろう。知りたくない。そんな感情があるのだろう。
――必ずしも良いお話じゃないから、知りたくないと思うのは当然だと思うの。もし、悪いお話だったらって思えば聞きたくない。
――そうだな。けど、知らねぇと進めねぇんだ。それを理解しているんだろうな。それでも、知りたくねぇから、先延ばしにされてほっとしてんだろ。
エンジェリアとゼーシェリオンは、共有で会話する。
「転移魔法使うよ。ここでも使えるから」
フォルが転移魔法を使った。
**********
別荘に帰ると、エンジェリアは、自分とフォルの分の布団を用意した。
「フォル、エレと一緒にねむねむさんなの。ねむねむさんするの」
「眠くないんだけど。それに、リミェラねぇに話を聞かないといけないから」
「ねーむーねーむーさーんーなーの。フォル最近忙しいの。だから今日はエレが一緒にねむねむさんなの。お疲れ取るの」
エンジェリアは、無意識に癒し魔法で疲れを取る事ができる。放出しているだけの状態で、自分には効果がないが、エンジェリアは、ゼーシェリオンやフォルがいるため必要ない。
「……分かったよ。君の好きなようにしてあげる。クルカム、ゼロ、君らの試験管にご褒美を預けてあるから受け取っといて」
「ねむねむさんなの。ゼロ、ねむねむさんだからねむなの。今日はいっぱいがんばったから。ゼロはエレと一緒のお布団でねむねむさんできるの」
共有でゼーシェリオンも眠そうだというのを感じとっていた。エンジェリアは、ゼーシェリオンに布団の半分を渡して眠った。




