12話 再会の約束
一時間経ったが、魔法陣の解析はほとんど進んでいない。効果自体は、前に話していたのであっていたが、解き方は何も分からない。
「……申し訳ありません。ぼくでは解けそうにありません」
「クームは魔法陣を描いてくれたの。それで良いの。あとはエレにお任せ」
「お前でも難しいんだろ? 」
エンジェリアでも、解けそうにない。それは、これだけ解析しても変わらない。
だが、そんな事で諦められない。
「……一時間解析し続けたけど、これ、一つ一つを解くのがエレにはできないんじゃないかな」
「そうかもしれないね。でも……」
「……むにゅむにゅ。フォルがエレにらぶを送っている予感……ぷにゅ」
フォルの期待に応えるためなら、どれだけ時間がかかったとしても解いてみせる。そんな意気込みで、エンジェリアは、魔法陣の解析を続ける。
「……ぷにゅ? あれ? エレはひきょぉな事を思いついちゃったの。これって、エレががんばってやらなくても良いの。フォルの剣の応用をすれば。あの禁止指定魔法無効化の応用……それならこの魔法陣も解けるの」
エンジェリアは、フォルが持っている剣に付与されている魔法を応用する方法を思いついた。これを応用して魔法陣の効果を無効化する。
だが、それには問題がある。そんな魔法を使えるのは誰もいない。ゼーシェリオンもクルカムも使えないだろう。もちろんエンジェリアも。
「……ふにゅぅ。なら、わずかに反応を遅らせるの。爆発反応を一秒くらい遅らせられるから。その一秒で防御魔法を使って、魔法陣を破壊するの」
「ふふ、あははははは。ほんと、良くそんなあり得ない事を思いつくよ。そんな事すれば、二人を無事に救出なんてできるわけないのに。魔法陣に触れた瞬間爆発なんだから」
「でも、否定しないのは、フォルならできるからじゃないの? 魔法を無効化するのは、その前に爆発するからできない。ちょっと考えれば分かったの」
エンジェリアではこんな事はできない。防御魔法を使う時間も、破壊する時間も、全てが爆発に間に合わない。だが、ジェルドの王達は、それが可能なのを知っている。
一人では難しくとも、三人も集まれば余裕でできるだろう。
「できるよ。簡単だ。僕らなら。紐解くのは難しい。それが分かったからって危険を承知で強引に破壊するなんて、ほんとに君は、僕らの事を信じきっているんだね」
「そうじゃなきゃ言わないの。信じているからこそ、エレはこんな方法を考える。だから、お願いね? 」
「任せて。ゼム、フィル。いつも通りだ」
ゼムレーグとフィルが頷く。これだけで伝わったのだろう。
エンジェリアが、外にいる自分達に防御魔法を使った事が開始の合図だ。
ゼムレーグが時空魔法でわずかにだが、爆発の時間を長くする。その間にフィルが破壊魔法で魔法陣を破壊した。
それとほぼ同時にフォルが防御の花でノーズとヴィジェを包み込む。防御魔法よりもこの方が効果が高い。
外でもかなりの威力だ。中の方がもっと威力が高い。今のエンジェリアの防御魔法では防げたかどうか、怪しいところだろう。
「君の期待に応えられたかな? お姫様」
「うん。ありがと」
ノーズとヴィジェを包み込む花が消える。二人とも無傷だ。
「……リミェラ? 」
「そうか……ありがとう。エレ、ゼロ」
「ノーズ、ヴィジェ」
リミェラが、ノーズとヴィジェの元に駆け寄る。二人を抱きしめる。
「ごめん。ごめんね。わたしがついていてあげられなかったから」
「ううん。良いんだよ」
「わたし達の方こそごめんね。辛い思いをさせて」
三人の再会風景をずっと見ていたいが、エンジェリア達には他にやらなければならない事がある。
「……フォル、ここが神獣の儀式殿なら、何かあるかもしれないの」
「うん。三人で探せる? 」
「にゅ。探せるの。がんばって探す。フォルが褒める。だいすきって言われる……エレは幸せなの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンとクルカムの腕を引っ張り、神獣達の情報が残ってないか探しに向かった。
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「張り切ってますね」
「それはそうなの。エレは、フォルにだいすきって言ってもらうから」
エンジェリアは、注意深く、何かないか探す。
怪しいのは、祭壇のような場所と棚だろう。棚の中には、本や書類のようなものがいくつか入っている。
「棚を探すの。そういえばクームってどのくらい古代語読める? 」
「古代語は全て習得しています」
「ふにゃ⁉︎ 全種族の? 」
「はい」
「すごすぎるの。じゃあ、これ読んでみて? エレは、全部は読めないから」
エンジェリアは、適当に棚の中の書類をクルカムに渡した。
「これは、魔法の実験の記録みたいですね。ここでは、人を使って魔法の実験も行われていたようです。その魔法は儀式に使うためのようで、成功しなければ、儀式が成功しないからと行われていたと書かれています」
「……ありがと」
現在の神獣が他種族を道具のようにしか思っていないというのは想像していたが、そんな実験までしていたとは思っていなかった。
だが、その痕跡はノーズとヴィジェがいた魔法陣の中にあった。
「他にも何かあるかもしれないの。ゼロ、ゼロも読めるんだから読んで」
「ああ。ん? お前前にこの文字は読めるつってただろ」
「……バレたの。仕方ないからエレも参戦するの」
エンジェリア達は、三人で手分けして本屋書類を読む。
「……フォル、ちょっと聞きたい事あるの」
「何? 」
「ジェルドの怒りの日って神獣の間で流行ってるの? 前にも見たけど、そもそもどうして前回の世界に起きた事を知っているのかっていうのは偽の愛姫だろうけど、ここまで書いてあるのは不思議なの」
エンジェリアが読んでいる本には、ジェルドの怒りの日に関する記述が書かれている。
ジェルドの怒りは、前回の世界で起きた出来事をそう呼んでいる。
前回の世界の件は、偽の愛姫が神獣達に教えた可能性が高い。だが、それを研究しているのは、別の話だ。
なぜ、前回の世界で起きた出来事を危険を顧みず研究し、記録を残したのか。それについては、謎のままだ。
「どうしてなんだろうね。エレ、これを研究している理由を考えるより、これを研究してどうしたいか。その目的を考えた方が楽だと思うよ? 」
「……研究して何か得られるのかな。研究して何かを得るなんて、破壊以外ないの。ジェルドの怒りはそういうものだから……みゃ」
世界管理システムの中にあった情報。それがジェルドの怒りを研究する理由に繋がっているのだろう。
エンジェリアは、連絡魔法具を取り出し、世界管理システムの情報を入手する。
「フォル、これなの。前に世界管理システムにあった情報。これのために、アスティディアは犠牲になるかもしれなかったの」
エンジェリアは、フォルに連絡魔法具を見せる。そこに載っている情報を見れば、フォルならばエンジェリアが気付けない事に気づいてくれるかもしれない。
「……怒りの日の利用……頂点に立つ」
「ふにゅ。エレは、これのために研究していたんだと思うの」
「それもあるだろうけど……王を探すため? ジェルドの怒りの記述に王の事も載っている。偽の愛姫が言ったんだろう。王がこの日を止める事ができるって」
「でも、それだと」
神獣達の目的は、ジェルドの怒りをエクシェフィーの御巫夫婦が止めたという実績を作る事。そのために偽装しようとしている。世界管理システムには、その情報があった。
「そうだよ。でも、考えてみなよ。ほんとにたかが御巫如きがそれを防げると思ってるの? 調べればそのくらい簡単に知る事ができる」
「みゅ? それならどうして」
「外に出る事なんてできない。それがジェルドの怒りだ。室内にいても危険は変わりないけど。そんな中なら、誰が止めたとしても誰も知らない。見ていない。エクシェフィーの御巫が救ったと言って疑わない人がいると思う? 」
多くの人々が、エクシェフィーの御巫夫婦は救世主のような存在であると思っている。
それが嘘だとしても誰も疑わないだろう。




