8話 双子御巫との約束
エンジェリアとフォルが待っていると、ゼーシェリオン達が声に気づいたのか来てくれた。
「急にいなくなるから心配したんだ」
「それはエレのセリフなの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに抱きついた。
ゼーシェリオンの胸に頬擦りをする。
「無事でよかったの。楽しい冒険は終わりなの」
「……ああ。早く行ってゆっくり休みたい」
**********
エンジェリア達は、ヒュヒューオがいる場所まで辿り着いた。
「姫君、何年ぶりだったか」
「知らないの。エレを付け狙うのやめて欲しいの」
「それは無理な話。我々の救い主のお言葉に従い、私は姫君を始末する」
無数の矢がエンジェリア達に向かい飛んでくる。
この程度であれば、エンジェリアの防御魔法で防ぐ事ができる。
「フッ、この程度は余裕で防ぐか」
「良くここまでやってくれた。我らが姫と王にこの活躍を伝えようぞ」
「……神獣がわざわざ自ら出向くとはね。これを王が望んでいると本気で思ってんの? 王は、神獣達の平和を願っていたというのに」
顔を隠した神獣が八人。
神獣のかつての姿を知る神獣はこの中にいないのだろう。
「王が望んでいるのは、全種族の頂点に立つ事。平和など望むはずがない」
そんな事を神獣の王は望んでいないが、言っても無駄だろう。
「本家の黄金蝶であろうと、これは立派な反逆罪だ」
顔を隠した神獣が一斉に魔法を放つ。
「……反逆罪か。それはお前達だろ」
魔法が突然消滅する。
「ぷにゃ⁉︎ フォルが怒ったの⁉︎ 怒フォルなの⁉︎ 」
「エレ、結界」
「ぴ、ぴにゃ。分かったの」
エンジェリアは、神域の結界を張る。
「クルカム、防御魔法。エレのだけじゃ役に立たない」
「は、はい」
ゼーシェリオン達が、防御魔法を使う。
「今すぐその娘を引き渡せば、見逃してやる。これが最後の忠告だ」
「自分達が王の意思の代弁者とでも思っているようだけど、少しは自分達が誰と会話しているか自覚するんだな」
フォルが言いたくなかった事。それを神獣達の前で言おうとしている。
だが、エンジェリアにそれを止める事などできない。フォルが自らそれを言うのであれば。
「フォル、言う必要のない事だ。おれ達は、エレを守るためにも、今は言うわけには」
「……言ったとこで信じないだろうけどね。面倒だし、あとの事はオルにぃ様達に任せるか」
フォルがそう言って、転移魔法を使った。
ヒュヒューオ諸共、神獣達を、オルベアの元へ送ったのだろう。
「これであとの事はオルにぃ様が全部やってくれる。エレ、今日はゆっくり休もうか」
「……ずるいの。今日はゆっくりおやすみ。明日からまた見習い試験をがんばるの」
「うん。それじゃあ帰ろうか」
**********
フォルの別荘についたエンジェリア達は、ゆっくりと休もうとしたが、休む事ができなかった。
ヒュヒューオの刺客がいなくなったが、野党がそこらじゅうにいるようで、休まる時間がない。
「これで二十件目。すごいの」
「うん。ほんと良く懲りずにやってくるよ。あと修理費払え」
「ぷにゅ。迷惑料としてエレにベッド買って欲しいくらいなの」
野党のおかげで壁が何度も壊されている。その度にエンジェリアが、修復魔法具で修復している。
「みんなで一緒にお風呂に入ってねむねむなの」
「うん……エレ、明日からなんだけど、君らがやらないといけない事をやってもらいたいんだ」
「みゅ? それなんなの? 」
「ノーズとヴィジェの捜索。これはリミェラも協力してくれる。約束したんだろ? いつか必ずリミェラを会わせるって。それに、あの双子がいてくれると、戦力にもなるからね」
笑顔でそう言うフォルの中には、別の理由があるだろう。
戦力とエンジェリアとゼーシェリオンの約束も助ける理由の中に確かに存在しているのだろう。だが、それ以上に、ノーズとヴィジェを助けてあげたい。リミェラを大事な人と一緒にいさせてあげたい。そんな純粋な想いがあるのだろう。
フォルは、それを口にだしてはいないが、エンジェリアは、その想いに気づいている。
それはエンジェリアだけではないだろう。フォルと長い付き合いのあるゼーシェリオン達も気づいているはずだ。
「ノーズとヴィジェの居場所……あの時、どうやって行ったか分からないから、占い術でも使ってみるの。でも、今日は休みたい」
「うん……ありがと」
「エレ達も約束があるから当然なの。それに、悲しいままでいさせるなんてやなのは、エレ達も同じだから。絶対に見つけて一緒にいるんだ。また、エレ達のお世話をしてもらうの」
エンジェリアの記憶の中で最も多いノーズとヴィジェの姿は、エンジェリア達の世話をして楽しんでいる姿。
――それに、ちゃんと謝らないと。謝って、一緒にいたいよって言わないと。
「……エレ、俺も一緒だからな? 」
「当然なの……そういえば、エレが視た未来が外れてみんな無事だったからお祝い」
「ああなるのが分かってるんなら、あれで回避できるからね。そのくらいは考えていたよ」
フォルが怒りに任せてやるのであれば、転移魔法など使わない。考えあっての行動という事くらいは理解できる。
エンジェリアは、フォルに抱きついて、自分を落ち着かせる。
「今日はいっぱい大変だったから、これで落ち着けるの」
「それは存分にやって落ち着くさって言いたいんだけど、僕今から仕事。君らの事見ているだけはできないから」
「ぷにゃ⁉︎ そ、そんな」
エンジェリアは、驚きのポーズを取る。見習い試験も管理者の統率としての仕事。それをやっている時はそれ以外の仕事は存在しないと思っていた。
エンジェリアは、瞳に涙を溜めて、フォルを見つめる。
仕事しないでというわけではなく、それなら連れてってという意思表示だ。
「……エレ、連れて行きたいとは思うよ。でも、今回の仕事は安全じゃないから。禁呪の取り締まりだからね」
「エレもお役にたつの」
「立てるとしても連れていけない。フィル、この子の面倒見といて」
「やなの! 」
エンジェリアは、必死でフォルと一緒にいられる権利をもぎ取ろうとしているが、フォルは連れて行ってくれそうにない。
「フォル……ぴぇ……ぴぇ」
「そんな泣き真似したって、連れて行かないから」
エンジェリアは、悲しげな表情で訴えかけているが、期待しているほどの効果はない。
「……それなら勝手についてくの。オルにぃあたりに聞いて」
「……お土産にケーキ買ってあげるから」
「それは……それでもやなの! ついてくの」
「……エレ、僕が帰ってくる間にノーズとヴィジェの居場所をゼロと協力して見つけられたらご褒美あげるよ。君は、そっちをやるためにもここにいて」
エンジェリアは、ゼーシェリオンの方へ向かい、小声で話し合う。
「ゼロ、フォルについていくのとこっちどっちが良いと思う? 」
「……ご褒美より。ご褒美好き。褒められたい」
「ふにゅ。エレも褒められたいの。ぷにゅ。フォルの心配があるけど、エレは、フォルに褒められたいの」
エンジェリアは、フォルの方へ向かい抱きついた。
「ご褒美にするの。でも、心配だからこれだけする」
エンジェリアは、そう言って、フォルの頬に口付けをした。
「お守り。エレのらぶなの。怪我しちゃだめなの」
「うん。明日の朝までには帰るから、少しだけ待っててね。僕の可愛いお姫様」
「ぷにゅ。おりこうに、ゼロと一緒にノーズねぇとヴィジェにぃの居場所を探して……じゃないの。見つけて待っているの。フォルが帰ってきた時には、二人の居場所が分かっている状態にするのが目標なの」
エンジェリアは、そう言って、フォルから離れた。




