6話 管理者の心得
「それより、場所分かる? 」
「うん。分かるから大丈夫だよ。今すぐにでもいけはするけど、遅いから明日で。今日は結界魔法具を使うから安心して寝て」
エンジェリアは、結界魔法具だけでも十分安心できるが、より一層安心するためにも、フォルに抱きついた。
「フォルの側にいる方が安心なの。だから、こうしてねむねむだめ? 」
「良いよ……そうだ。みんなでくっついて寝ようか」
エンジェリアは、喜んでこくりと頷いた。
「その前にお風呂なの。お風呂の中でエレはゼロとフォルとぷにゅってなるかもしれないけど、一緒に入るの」
「君とゼロだけだから。僕は一度も一緒になって転んだ事ないと思うけど? 」
エンジェリアは、入浴剤を持って、ゼーシェリオンと一緒に浴室へ向かった。
「エレ、着替えとか持って行って」
「それはフォルが持ってきてくれるの。クームも明日のためにもいっぱい休んで」
「は、はい」
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翌日、エンジェリア達は、フォルの情報の元、ヒュヒューオのアジトへ向かった。
「ぷにゃ。またなの。多すぎなの」
エンジェリア達が外に出てから、魔物に襲われる事十回。突然武器が飛んでくる事三回。エンジェリアは、うんざりしていた。
「ここ、隠れ住むにはうってつけの場所だったんだ。だから、あの計画が終わったのち、ここで君らと一緒に暮らそうとしてたんだけど……これは記憶も魔法も使えない状態だときついか」
「きついじゃないの。やなの。安心できないの。エレはもっと安心できる住処が欲しい」
「別荘だけは安全を考えて色々と対策する予定だったから、外に出ない限り安全の状態にしようとしてたんだけど、それでもだめだったかな? 景色だけは良いと思うんだけど」
記憶が消えたとしても、好みは変わらないだろう。エンジェリアは、ここの景色は好きだ。この景色を見るために外へ出てしまうかもしれない。
そう考えると、いくら景色が好きだったとしても、記憶がなくここへ住みたいとは思えない。
「本当にきれいなの。フォルがだいすきな景色」
「うん。そうなんだ。君もこういうの好きだろ? 」
「ふにゅ。だいすき。ゼロもすきって言うの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンの腕に抱きついた。
「歩きにくい」
「暗いから、ぎゅってしておくの」
アジトに近づいている。フォルの情報によると、アジトに行くには、洞窟を通らなければならない。
「危ないから明かりを灯そうか。エレが転びそうだから」
「なんでエレ限定なの⁉︎ エレは転ばないよ? ……多分」
フォルが光魔法を使い、洞窟内が照らされた。エンジェリアは、これで安心して洞窟の中を歩く事ができる。
エンジェリアは、ゼーシェリオンの腕から離れた。
「……一番警戒心があるのはエレか」
「そうだな」
「うん。何も警戒してないように見せて、かなり警戒してる」
「エレの警戒心は昔からだけど、今はいつも以上に警戒してるみたい」
これも試験という事だろう。エンジェリア達の警戒度を、フォル達が評価している。
「ゼロ、クーム、気を抜けないの」
「そうですね。管理者の箱庭にいた時以上に気を抜けません。ああ見えて、セイリション様は優しかったのですね」
「セイにぃは、厳しいところは厳しいが、相手を考えていて、優しさがあるんだ。こんな日常からなんてやらねぇあたりとかな」
「でも、管理者になるっていうのは、常に自分が管理者である事を自覚して行動しないといけないから、仕方ないと思うの。管理者は、突然仕事がくる事もあるし、狙われる事だって多いの」
今までのクルカムは、勉強と手伝いをしていただけだ。セイリションも、そこまで厳しくはしていなかったのだろう。
「セイにぃ様はあくまで勉強の程でやっていたからね。それに、厳しいというわけじゃないよ。ただ、こういう時にどうするのかを見て今後に役立てたいだけで」
「みゅ? 役立てる? どういう事? 何か役立てる事があるの? エレの情報を何に使うの? 」
「変な言い方しないで。例えば、警戒心の低いクルカムとかは、警戒心を高める訓練をするとか。そういう感じに役立てるだけだよ」
エンジェリアは、警戒心は評価されている。見習いとなったあと、どんな事をさせられるのか。今考えるだけでも、逃げたくなってくる。
「……ちなみに、エレは勉強しろとか言わないから大丈夫だよ。文字を上手に書く練習くらいならさせるかもしれないけど。今のとこ、君にやらせたいのは、休む事かな」
「ぷにゅ。それなら良いの……みゅ? 休む? エレは休んでるよ? 」
「間違えた。休ませる事。君の魔法で、効率的に疲れを取れるから、何かあった時に意識的にそれを使えるようにしてもらいたいんだ」
「がんばるの。みんなに休んでもらうの。効率的に疲れ取れるようにするの」
エンジェリアは、無意識で癒し魔法による休息を与えられる。だが、今まで意識してできたためしがない。
それを意識する事はエンジェリアもできて損はない。
「それにしても遠いの。そろそろ着いて良いと思う」
「うん。そうだね。君はもう少し体力……忍耐力つけて欲しいよ。ギュゼルになりたいなら。半日歩くのとか普通にあるから」
「みゅぅ。我慢して歩くの。今日はゼロに抱っこしてもらうの我慢するの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに抱っこしてもらう予定だったが、管理者、ゆくゆくはギュゼルに入るためにも、自分で歩く事にした。
変わり映えのない岩ばかりの洞窟。早く出たいと思いながらも、みんなと一緒に歩く。
**********
洞窟内を歩く事一時間。ようやく外に出られた。
「やっとお外の空気を吸う事ができるのー」
「そうですね。やはり、外の空気の方が美味しいです」
「ふにゅ。お外の空気は美味しいの。ずっとこの空気で良いの」
エンジェリアは、外の空気を深呼吸して存分に味わう。
「早く行くよ」
「ぷにゅぅ。いくの」
洞窟を出れば、アジトまで時間がかからない。もう少し歩けばアジトに着く。
「もう少し歩けば良いの。ゼロ、一緒に行くの」
「ああ」
「……また魔物さんいる。多いの……敵意なさそうだからほっとく」
魔物の気配を探知したが、敵意のないタイプの魔物のようだ。人を襲わない魔物は放っておいて良い。むしろ、友好関係を築く事を推奨されている。
「……みゅ? 仲良くなっておくべき? 」
「ほっといて良いよ。エレ、そろそろ防御魔法かけておきな。何かあった時すぐにかけられないだろうから」
「ぷにゅ。かけておくの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに防御魔法をかける。
「……ゼロがいてくれるなら、これと同じ強度ではできないかもしれないけど、みんなに防御魔法かけられるの」
ゼーシェリオンが処理を手伝ってくれるため、エンジェリアは、いつも以上に魔法が使える。
エンジェリアは、フォル達にも防御魔法をかけた。
「これで良いの。ぷにゅぴにゃなの」
「ありがと。エレ、これわ渡しておくよ。念のため、君を守る防御魔法具」
エンジェリアは、フォルから防御魔法具のネックレスを受け取った。
「ありがとなの……アジト……要塞の間違いだと思う」
「うん。そうだね」
「要塞攻略……」
「ゼロ楽しそう」
エンジェリア達は、アジトの前に着いた。
そこは、来るもの拒む要塞のような場所。エンジェリアの想像していたアジトとは違った。
「要塞攻略は初めてです。師匠とある商売をしている悪い組織のアジトを潰した事はあるんですが」
「クームそんな事やってたの⁉︎ ……クームもなんだか楽しそう」
「要塞攻略なんて久しぶり。フィルとルーは? 」
「俺もだ」
「おれも久しぶりかも」
楽しそうなのはゼーシェリオンとクルカムだけではない。ゼムレーグとフィルとイールグも楽しそうだ。
「……ぷしゅ……フォルも」
「面倒ごとを楽しむなんて趣味はないよ。面白い事なら好きだけど」
「すきなの……ぷにゅ」
「はぁ……ただでさえ面倒なのに。早く終わらせたいから行くよ」
「そうなの。早く終わらせてらぶしたいから行くの」
エンジェリアは、フォルと一緒にアジトへ乗り込んだ。




