2話 紋章
魔物の半数以上は浄化魔法で浄化された。だが、全て浄化する事はできなかった。
浄化魔法に耐性を持っている魔物が何匹かいたようだ。
「強い感情が影響しているのか、変異体みたいだね。エレ、どうする? 」
「大丈夫なの。もう少しだけエレにお任せ」
「了解。守りは任せて。君ほどではないけど、防御魔法は使う事ができるから」
エンジェリアは、収納魔法から宝剣を取り出した。
「りゅりゅ、同化して」
「はいでちゅ」
「……すぐに終わらすね。あの子達のためにも、長く苦しませない」
エンジェリアは、宝剣を握りしめる。
浄化魔法で浄化されなかった魔物が、エンジェリアを狙い、突進する。
「……ごめんなさい。あなた達を助ける事はできないの。だから、せめて、安らぎを与えてあげる」
舞を舞うような動きで剣を振るう。
エンジェリアの左目に、星と蝶と花の紋章が浮かび上がる。
エンジェリアは、剣だけでは、魔物を仕留める事などできない。だが、剣以外も使えば別だ。
剣で与えた傷跡から、花が咲く。地面が凍る。
「どうか、良い夢を」
エンジェリアは、再度浄化魔法を使った。
花が浄化魔法を効くような魔法を撒いている。エンジェリアの浄化魔法は、今度こそ周囲の魔物を浄化した。
「さすがだね。僕のお姫様は」
「そんな事ないよ。私は、あの子達の想いを受け止める事も、終わらせる事もできない。私は、想いを捨てさせる事しかできない」
「ほんとに優しいね。僕らの愛姫様。でも、良いんじゃない? 何もできなくても。連鎖を止める事だけはできるんだから。それだけでも、意味はあると思うよ? 」
エンジェリアは、魔物が生まれた想いを聞いていた。魔物は、恨みを持っている。悲しみを持っている。
それは、忘れる事のできないような感情。理不尽に大切なものが奪われた人々の感情。
エンジェリアには、その感情を受け入れる事などできない。その感情を理解する事などできない。寄り添う事などできない。終わらせる事すらできない。
その無力感に苛まれている。
「でも、連鎖を断ち切っても、この悲しみを消すなんてできない。どうして、こんなに悲しまないといけないんだろう。どうして、こんなに……」
「……」
「愛があれば、争いなんて起こらないって言っていたのに……分かんないよ。こんな、こんな世界で、愛があっても、何も変わらなくて」
愛姫の役割と世界の現状。エンジェリアの瞳に涙をが溜まる。
「……愛があったとしても、その愛が争いを生む事もあるからね。愛姫のように、全てを包み込むような愛なんて、珍しいものばかりじゃない」
「……うん。なら、どうして、愛姫なんて必要なんだろう。愛が争いを生むなら、愛姫なんて必要ないんじゃないかな」
「あると思うよ。それに、愛姫の今の役割は、僕らといる事。僕らの愛姫であり続ける事だ。そんな事で、愛姫を諦めないで」
エンジェリアの身体を、フォルがそっと抱きしめる。
「……愛姫、月の子は、君を受け入れ、君が笑える世界を作ろうと本気で言ってる。僕は、そんなの夢物語だとは思うけど、あの子は、どれだけ笑われても、諦めないんだ。それが今、同じ志を持つ御巫が増えた。君が諦めなければ、希望になり続けてれば、不可能な事じゃないって思えるくらいに」
「……」
「愛姫、この世界を見捨てるのはまだ早いよ。魔物に憂いるのも分からなくはないけど、それで、綺麗なとこを見ないのは違うんじゃない? 君の憂を晴らす可能性を見ないのは、あの子に失礼じゃない? 」
エンジェリアが諦めるという事は、世界の存続を諦める事。
世界を見捨てるの事はしたくない。その想いはあるが、それ以上に、魔物が生まれる悲しみを生み続けるこの世界に対して疑問を生んでしまう。
だが、それで
「ゼロの夢をエレが潰すのは違うの! 」
ゼーシェリオンがずっと諦めずにいる夢。それは、多くの者が聞けば笑うだろう。そんな事できるわけないと。
エンジェリアの左目の紋章が消える。
「おかえり。僕のお姫様。もう一歩で、世界が終わるとこだったよ」
「冗談に聞こえないの。冗談じゃないって分かってるの。愛姫の……ううん。エレの悲しみは、世界を滅ぼすって分かってる。でも、紋章の影響で、感情が渦巻いて……」
「……気にしないで良いよ。他の感情なんて。君は、これだけを大事にしていれば良いんだ。愛姫と僕らの愛情と、君の大事な婚約者からの愛情だけを」
フォルの唇がエンジェリアの唇と重なる。
フォルの魔力を感じる。
「安心したかな? 」
「うん。ありがと。そろそろ帰らないと。みんな帰ってる」
「そうだね。帰ろうか。お姫様」
***********
魔物討伐を終え、エンジェリア達が魔の森の外へ戻ると、ゼーシェリオンに抱きつかれた。
「紋章、発動してたけど何かあったのか? 」
「何もないよ。ちょっと、魔物討伐に挑戦していただけなの。浄化魔法効かなかったから、紋章発動させたの」
エンジェリアが、紋章を発動させたあとの事は、ゼーシェリオンには言えない。言えば、余計に心配させるだろう。
「……ゼロ、エレ、ずっとゼロの夢を応援するの。何があっても、エレが諦めるのは、やりたくない」
「……」
「……ぷにゅ。ゼロが可愛いの。すりすりをよぉきゅぅするの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに頬擦りをする。
「良かったな。あの二人がこうしていられて」
「うん。やっぱ、紋章を使わせるのはリスクが高すぎる。いざという時のために、使えるようになって欲しいけど」
「こっちも、安定してない。いつ暴走してもおかしくない状態だった」
フォルとフィルの会話が聞こえる。今回の試験のついでか、これが本題かはエンジェリア達には分からないが、紋章を使う事まで計画していたようだ。
エンジェリアは、ゼーシェリオンに八つ当たりのように、頭なでなでを要求する。
「可愛い八つ当たりだな」
「しゃぁなの。エレはひじょぉにしゃぁなの。だから、八つ当たりじゃなくて、しゃぁを忘れるためにも、ゼロがエレになでを与えるべきなの」
「俺もしゃぁなんだが? それより、疲れたから今日一緒に寝たい。抱き枕にして寝たい」
毎晩のようにエンジェリアを抱き枕にして寝ているのを知っている。わざわざ許可取る意味はないだろう。
「あっ、そう言えば、しばらくエクリシェで寝る事できないよ? 試験中は僕がエレとゼロのために買った別荘で過ごしてもらう。クルカムも」
「そこって安全なのか? 」
「さぁ? 僕と一緒にって日頃から言っていたのは君らなんだ。僕と一緒に働きたいなら、安全くらい自分達でどうにかしな。ほんとに危険なら助けてあげるから、何度失敗しても良いよ」
それは安全ではないと言っているようなものだ。
試験中は常に気を抜けないのだろう。
「……エレに考えがあるの」
「なんですか? 」
「おっきぃお部屋で、みんなで一緒にねむねむ。基本的にそこで過ごすの」
「一人より、三人一緒の方が何かあった時も対処できるだろうからな。みんなで協力して乗り切るか」
管理者として協力は大事だという事は、すでに学んだ。ならば、とことん協力していくまで。
エンジェリア達は、三人で協力し、自分達の安全を勝ち取る作戦をとった。
「そう簡単に行くかな? ちなみに別荘があるとこなんだけど、魔物がいっぱいでて、悪い人達もいっぱいいるんだ。少し外歩けば、何かには絡まれるくらい。僕もあそこは、あまり使ってないくらい」
「なんで買ったんだよ」
「……知らなかったんだ。まさか、あれだけ安くて綺麗で良さそうな場所にそんな秘密があったなんて。しかも、買ったら、家具全部安くしてくれるとか言うから、つい」
明らかに怪しいのがエンジェリアですら分かる。フォルが、若干照れながら言っている。
「ぷにゅ。フォルだから仕方ないの」
「フォルには甘いな」
「そんな事より、エレは疲れたから早くそこ行ってねむねむさんするの」
「うん。じゃあ、転移魔法使うよ」




