1話 魔物討伐
魔物討伐のため、多くの貴族達が集まっている。
エンジェリア達は、神官と聖女の格好をし、ハンカチ配りをしている。
「ティア達は別の場所だから会えないの。ゼロ、ハンカチ多い」
「エレ人気だよな。聖女以上の守りの魔法を使えるからな」
魔物討伐に参加する貴族達に間ではエンジェリアは有名だ。
エンジェリアからハンカチをもらうと、どんな危険な目に遭おうが生きて帰れると。
神殿が安全に配慮しながらも魔物討伐を開催していると言えど、実際の魔物と相対するのだ。運が悪ければ、帰ってこない事もある。
そうならないためにも、エンジェリアからハンカチをもらう貴族達が多い。
「なんですのあれは」
「たかが神殿使え不勢が、私の侯爵様と触れ合うなんて、烏滸がましいですわ」
魔物討伐には、参加者以外にも貴族が来ている。参加者達の勇姿を見るためなど、理由は様々だ。
見学者の女性貴族達が、エンジェリアからハンカチを受け取る姿を見て、陰口を叩いている。
これも、良くある事だ。
「聖女様ってとっても忙しいの」
「エレが特殊なだけだとも思うんだが」
「ぷにゅ? そうなの? そういえば、この次の試験はなんなんだろう。フォルの事だから、これが試験ですって教えてくれない可能性がとっても高いの」
「そうだな。言うとは思えない。いくら入れてくれるのは確定だと言っても、今できる最高の結果を出したいからな」
今回の刺繍の件も、フォルは直接これが試験だとは言っていない。エンジェリア達が、これが試験だと察していただけで。
ハンカチを試験と察する事ができたのは、フォルが試験の話をした事からだ。
次回からは、そんな宣言はないだろう。何も分からず、試験だったとあとで知る可能性もある。
「油断禁物なの」
「ああ」
「……あのさ、全部聞こえてるから。隣にいるから聞こえない方がおかしいからね? 何も伝えずになんてやる事はないよ。直接試験とは言わないだろうけど」
「エレは察するのが苦手なの」
ゼーシェリオンがエンジェリアの代わりに察して、エンジェリアに伝えてくれるため、エンジェリアだけ知らずにという事はない。だが、こう言えば直接試験と言ってくれるのではと希望を込めて言ってみた。
「そうだね。でも、ゼロがいるから。それと、どれが試験と直接言わないのは、試験終了と言うまで常に試験が行われていると思うように。特別何かをして能力を測るのはある。でも、普段の行動も見ておく必要がある」
「むにゃ? 」
「君らはいつも通りしていれば良いよ。ああ、それと、今回の魔物討伐は君らも参加してもらう」
魔物討伐への参加。魔物相手にどれだけ通用するか見るためだろう。
「ぷにゅ。がんばるの」
「……エレ、君の考えてる事は、だいたいあっているけど、一番大事な事を見落としちゃだめだよ? ゼロも」
「ふぇ? 」
「ハンカチ配り終えたから、参加者に混ざり行かないと」
一番大事な事。それが一体なんなのか。エンジェリアは、フォルに聞こうとしたが、聞く前にフォルが参加者達の方へ向かった。
「……大事な事」
「なんだろうな? 」
「ふにゅ。分かんないの。でも、とりあえず、エレ達も急ぐの」
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参加者達に混ざったエンジェリア達は、注意事項を聞き、魔物討伐に参加した。
「魔物さんを探すのからなの……ゼロ? いない」
「ゼロならフィルと一緒にいるよ。君は僕が一緒にいてあげる」
「どうして? 何かあるの? エレがフィルやルーにぃじゃだめな理由」
ゼーシェリオンがフィルと一緒というのは、試験者と試験管のような関係だろう。だが、フォルが、なぜこのペアにしたのかは不明だ。
「相性の問題かな。クルカムは武器を持たせてみたら、からっきしだったらしい。ゼロは暗器を中心に、多くの武器を使える。魔法も。君は、制御さえできればかなりの戦力になるんだろうけど、それは今すぐには望めない。君が得意なのは、言わなくても分かるかな? 」
エンジェリアが得意なのは支援魔法。
魔物討伐は魔の森シュッゲの入り口で行われる。
「クームは、武器が苦手。魔法が得意。多分長距離が得意なの。ルーにぃは両方大丈夫で……クームが地形を利用するの得意で」
「意外と分析できてるね。ルーはどんな武器でも扱える。自分の身体の一部のように。クルカムは、武器を扱う事に意識が行きすぎている。それで他が見えなくなるんだ。他にもこのペアにした理由はあるけど、今回はこれだけ」
今回の試験に大きく関わる事は教えてくれるのだろう。エンジェリアが自分で考えたあとに。
これは、表向きは試験だが、エンジェリア達に学ばせる目的もあるのだろう。恐らく、他の理由も、それが多いはずだ。
「ゼロとフィルは……ゼロは、とっても賢くて、かっこよくて、強くて、魔法がきれいなの」
「……エレ、過剰評価しすぎ。というか、ゼロに甘すぎ」
「フィルは、魔法具得意なの。それに、魔法も得意なの。エレを守ってくれるの」
「身内には甘いタイプみたいになってるよ。ゼロは、思考が現実よりすぎるとこがあるから。エレに毒されて前よりはなくなったけど。でも、まだ知識に頼る癖がある。フィルは、自分の知識なんて役に立たない事を知っているから。それに、常に最悪な状況を考える」
エンジェリアにも言える事だろう。なんとかなるだろうで行動するエンジェリア達には、最悪な状況について考えておくのも必要ではある。だが
「ゼロは考えているよ? 」
「ノーズとヴィジェの話。あれはほんとに最悪な状況だと思う? 仮に君が巻き込まれたとしても、僕らは君なら助けられる。どこにいるかだって知る方法がある。ほんとに最悪なのは、君らが神獣達に捕まる事だ」
「……」
「あの時、ほんとに最悪を考えているのなら、君らはすぐにでも逃げるべきだった。言葉なんて聞かずに。もしくは、自分達も巻き込まれに行く。そうすれば、神獣達が手を出せなくなっていた」
神獣達に捕まり、利用されるのが最悪の状況へ繋がる。エンジェリア達は、そんな事を考えていなかった。
「……」
「……最後は、君のペアが僕の理由。余ったからじゃないよ」
「エレは、防御魔法だけなの。フォルは、なんでもできるの」
「……君が万が一暴走した時に止められるのが僕だから。逆も、だけど」
エンジェリアは、特定の感情による暴走だけでなく、何もなくとも制御ができず暴走させる可能性がある。
エンジェリアとフォルは、互いにある方法で暴走を止める事ができる。その方法は簡単に使う事ができるわけではないが、それ以外に確実に止める方法はない。
エンジェリアは、フォルの手を握る。
「……大丈夫だよ。暴走する危険性は、今のとこかなり低いから。特定の魔法を使わない限りはだけど」
「ぷにゅ……がんばるの。魔物さんいっぱいいる気がする。でも、エレはがんばるの。負けないの」
「はいはい。負けないね。君なら魔物くらいは余裕だと思うけど。それより、こんなに良い場所なら、散歩とかできたかったね」
魔の森に良い場所などという感想を抱くのはフォルのように慣れている人物くらいだろう。
魔の森に行く事のない人々は、どれだけ景色が良かろうと、こんな感想を抱いている余裕はないだろう。
エンジェリアも、慣れているという部類に入るだろう。フォルが一緒にいるからというのもあるだろうが。
禍々しい色の植物の中に、綺麗な色の植物が咲いている。
禍々しくも美しいとエンジェリアも感じている。
「ふにゃ。魔物さんなの。とってもいっぱいで、つよつよさんっぽいの」
「そうだね。たとえ魔物が消えようと、人の中にあるその感情は消えない。でも、その感情の連鎖を避ける事ができる。僕らには、それしかできない」
「ぷにゅ。それに全力になる事がエレ達なの。連鎖を断ち切る浄化の魔法。それが、エレの望んだ事なの」
「うん。あれは出さないで。目立つから。でも、出さない程度にはやって良いよ」
フォルのその言葉は、エンジェリアが魔法を使う合図。エンジェリアは、広範囲に浄化魔法を使った。




