11話 発表会
試験が終わり、魔法具技師協会主催の大規模発表会の日となった。
「なんでこんなドレスを着てきれいにしておかないとなの。毎回思うけど、普通で良いと思うの」
「そういうものだって割り切りなよ。可愛いから」
「……みゅ。ゼロ、ずっと側いてね。一人だと不安だから。側から離れないでね」
「ああ。ずっと側にいる」
控室の中で、エンジェリアは、ゼーシェリオンを隣に置いて暇を持て余している。
「……ひま」
「僕としては、この時間が好きなんだけどね。この開始前の時間で報告書の確認とかできるから。今まで、試験の準備とかで時間を作れなかったから」
「ゼロ、エレで遊ぶ事を許すの。存分に可愛がって良いよ。髪が乱れない程度でだけど」
「……お前ら、この時間で発表の練習をしろよ。そのための時間だぞ? 」
開始前の控室にいる時間は、魔法具の最終確認等。暇を持て余す時間ではない。
だが、エンジェリア達は
「台本あるから良いの」
「何度も確認してるから問題ない」
「報告書読まないと」
と、発表前の準備をする気がない。それに、ゼーシェリオンが呆れた表情を浮かべているが、エンジェリアは、ソファに座って、足を上下にばたばたと振って遊ぶ。
「早く始まんないかな」
「ノヴェにぃを見習え。ちゃんとこの時間を利用して魔法具の……これ、植物図鑑じゃ」
「エレが渡したの。調合免許が欲しいらしいから。そのためのお勉強に」
ノーヴェイズが、魔法具を勉強ではなく、植物図鑑で調合の勉強をしている。この控室では、誰一人として魔法具の事をやっていない。
他から見れば異常な光景だろう。
「エレ、試験会場で面白いもの拾ったからあげるよ」
「ぷにゅ? なにこれ? 」
真っ白い石。これのどこが面白いのか理解できない。
「魔法石。あるはずのない」
「ぷにゅ。これ使えるのかな? 今度別の魔法具で試してみるの」
「使えたら教えて。いくつか落ちていたから、調べてみる。一応、魔法具技師協会の方へ伝えたら、調べて欲しいって言われたんだ」
エンジェリアは、真っ白い魔法石をじっと見つめる。一見、真っ白い以外はおかしなところはない。
「発表会に使わない魔法具で試してみる」
エンジェリアは、収納魔法から適当に魔法具を取り出した。
魔法具の中にある魔法石を取り替える。
「……これ……少し変えれば……できたの。使えるけど、少しだけ変えないとなの」
真っ白い魔法石に変えたが、問題なく使える。
「フォル、これあげる。調べるのに役立てて? 」
「ありがと」
エンジェリアが真っ白い魔法石を使っていると、発表会が始まった。
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「この光魔法具の新しい点は、低コストで長持ちするための制作法です」
エンジェリアとフィルの共同魔法具の発表。エンジェリアは、ゼーシェリオンと手を繋いで挑む。
魔法具の紹介でどれだけ注目を集めるか。今まで以上にそれを意識しなければならず、緊張で、内容を忘れそうになりながらも続ける。
「簡単に手に入る素材で、低予算で作られておりますが、強度も十分あります」
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エンジェリアとフィルの共同魔法具の発表が終わった。注目はかなり集められていただろう。
「緊張したの」
「お疲れ様。次はノヴェの発表だから、映像を見よう」
控室へ戻り、映像視聴魔法具で、会場の様子を見る。
「ノヴェにぃがんばれなの」
ノーヴェイズが用意した魔法具は、水撒き魔法具。
「音があまり聞こえないけど、がんばっているのは見えるの。それに、いっぱい注目集めてる」
「ああ。エレとは違う方面の注目が多いな」
今回エンジェリアとフィルの共同魔法具として発表したのは、庶民全般向けの魔法具。ノーヴェイズが発表しているのは、農民向けの魔法具。
「あの商人さんって、農業魔法具全般を扱ってるおっきぃ場所の人なの。ノヴェにぃがんばれー」
聞こえる事はないが、エンジェリアは、必死にノーヴェイズの応援をする。
「あっ、ノヴェにぃの発表終わった。これは、手応えありだな」
「ふみゅ。帰ってくるのを待つの」
エンジェリア達は、ノーヴェイズが控室へ戻ってくるのを待つ。
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「お疲れ様」
「うん。エレ達も。やっぱりすごいよ。エレ達の注目には敵わなかった」
「そんな事ないの。需要があるかどうかも関わってくるから……そう言えば、フォルいない」
エンジェリアは、ノーヴェイズが控室に帰ってきてもいないフォルを探す。
「ふぇ⁉︎ こ、こんな事が……どうして参加者は終わったら控室なのー! 」
「エレ、見えない」
「ぷにゅぅ」
エンジェリアは、ソファに座った。
映像視聴魔法具にフォルが映っている。エンジェリア達に内緒で参加していたようだ。
「ふぇにゃ⁉︎ こんな魔法具が」
「これ出して大丈夫なのか? 」
「フォルならぎりぎりを攻めてそう」
ノーヴェイズの時と同じく、発表の声は聞こえない。だが、魔法具を見れば、何かは分かった。
「結界魔法と癒し魔法……回復魔法かなと音魔法と幻覚魔法と浄化魔法を詰め込みなの。ベッドにつける用っぽいから、エレが欲しいの」
最高の睡眠を与えてくれる魔法具。
かつてないほど、注目を集めている。
「負けたの。フォルの発表目の前で見たかったのに」
「技術的に作れるのか? 」
「かなり簡単に作れるの。そういうふうに考えられてる。でも、なんでこんなぎりぎりを攻める魔法具を」
「……もうバラして良いか。エレにプレゼントするために作ったって本人が言ってた。エレがいなかったらこんなもの作ってないとも」
エンジェリアのため。だからこその、睡眠用の魔法具なのだろう。
「フォルだいすき。発表終わったらぎゅぅするの」
「発表終わったら、売り込みな? 」
「むにゃ⁉︎ 思い出させないでよ。エレは、それが苦手なんだから」
発表は、挨拶のようなもの。この後が本番と言って良いだろう。
だが、その本番はエンジェリアが苦手とするもの。
「人見知り発動して何も喋らないはやめろよ」
「き、気をつけるの」
「おれもついているから大丈夫。エレは、挨拶とかだけすれば良いから」
フィルもついているというのは、かなり安心できる言葉だ。エンジェリアが、説明せずとも、フィルが全部やってくれる。フィルに頼れば良いと思えるのだから。
「フィルって、交渉得意だったか? 」
「フォルほどではないけど」
「ゼロがやれば良いでしょ。初めからそのつもりでついてきてるんじゃないの? 」
発表を終えたフォルが、控室へ戻ってきた。
「エレが頼むからついてきてるんだが? つぅか、なんでフィルがやらせない方が良いんだよ」
「フィルは、交渉はできても、適正な値段とか全然分かってないから。君ならそれを理解できているでしょ? 僕が散々教えていたから」
「ああ。今回の発表に向けて、エレが寝てる時に、どのくらいの値段とか全部教えてくれたからな。あれ試験にも役立てられたから、そのためだと思ってた」
魔法具技師免許の試験には、素材の適正価格の問題も何問か出されている。そこに役立ったのだろう。
「違うに決まってんじゃん。君が、エレとフィルの代わりに交渉してもらうためだよ。僕は一緒にいれないから。あっ、それと、あの魔法具、帰ったらベッドにつけて一緒に寝よ」
「ふにゅ。一緒にねむねむなの。楽しみ。早くねむねむしたい。でも、まだやる事が残ってるの。離れるのやだー」
エンジェリアは、駄々をこねる子供のように、フォルの腕にしがみつき離さない。
「やだー。離れたくないー。エレを側に置いて? エレがいなくてもあっちはどうにでもなるから。ゼロとフィルがいればどうにでもなるから、エレをこっちに置いて? 離さないで? 」
「……エレ、ちょっと良いかな? 」
フォルがエンジェリアの額に触れた。
「やっぱり……熱出てる。ここに置いておくのも……ゼロ、ちゃんと面倒見といて。無理させないように。多分、最近忙しくて疲れてるだけだと思うから」
「ああ。面倒見とく。エレ、ずっと抱っこしといてやる」
「みゅ。それならフォルの会えないのも我慢するの。ゼロもだいすき」




