12話 エクランダ帝国
フォルとフィルが最初に訪れたのはエクランダ帝国。
フォルとフィルは用を済ませず、楽しく買い物をしていた。
「どれにする? 」
「これ。それとドクグリクッキー」
「君に聞くと全部珍味になるね。別に良いけど」
フィルは無類の珍味好き。ここへきてから買ったもののほとんどが珍味だ。
フォルはフィルの買い物に付き合いながら、アクセサリー類を見ていた。
「あっ、これエレに似合いそう」
「そうだな」
フォルは、花の髪飾りを見つめている。
「ええ。大丈夫なのかしらねぇ。淵帝様の時はこんな事なかったのに」
「淵帝様の後継者として期待してみれば」
「淵帝様に戻ってきてほしいわ」
王都では新皇帝と先代皇帝の話でもちきりだ。それは良い内容ではないが。
淵帝と呼ばれ畏れ敬われられていたエクルーカム。現在は管理者の新人として働いている。
エクルーカムは管理者になるために皇帝の座を退き、唯一の弟子に帝位を譲った。
「これは心配もするか」
花を渡すついでに部下の気掛かりを少しでも減らす手伝いをできないかとフォルはフィルい頼んで噂を集めていたが、かなり評判が悪い。
「……フィル、これとか良くない? 」
フォルはフィルの意見を聞かずに木の件を二本購入した。
「これで何をする気だ? 」
「あとのお楽しみ。それより挨拶に行こうよ。新皇帝とは会った事ないからさ」
フィルはそう言ってフィルの手を握って宮殿へ向かった。
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フォルとフィルは管理者の気分で宮殿を自由に行き来できる。謁見の間にも。
エクランダ帝国の豊かさが伝わってくるような豪華な玉座に座る新皇帝。外見はフォル達と変わりない。だが、玉座に見合わない威厳のなさのせいか、見た目よりも幼く見えてしまう。
「……なんですか。帰ってください。ぼくにはこんな事向いていないんです。どうして師匠はぼくなんかに継がせたんでしょう」
能力は申し分ない。だが、新皇帝になるにはいささか自信と度胸が無さすぎる。
「噂通りの腑抜けっぷりだな。淵帝の唯一の弟子と聞いていたが、期待外れだな」
「期待はずれですいませんね。そもそもあなたが師匠を管理者に推薦しなければこんな事にはなってなかったんです。師匠を返してください」
「勘違いしているようだけど。彼は自分から管理者になると言ったんだ。僕はただ彼の願いを叶えただけ」
フォルは淡々とそう言った。
「あなたが師匠に期待したからでしょう。期待期待って、みんな同じような事ばかり言って。期待が外れれば、こんなものかと落胆されて。ぼくが何したっていうんですか。勝手に期待したのはそっちでしょう。良いですよね。あなたは期待に応えられるものを持っているんですから」
「なら期待に応えなければ? 君の言う通り、期待なんて周りが勝手にしている事。そんなのにいちいち応えてやる理由なんてない」
「わかったような事言わないでください! 何も知らないでしょう! 期待に応えられない人の事なんて! 」
新皇帝が声を荒げてそう言った。
「そんなのわかるわけない。誰かの期待に応えている暇があるなら、一つでも多く仕事を終わらせる。僕がやらなければ他の人に回されるから。他の誰かが危険な目に遭うかも知れないから。僕らはそうやって生きてきたんだ」
フォルとフィルは多くの期待をされる側の存在だろう。だが、一度もそれを気にした事はない。気にする余裕などない。
エンジェリアを守るためにも。
だからこそ、彼の言葉など理解できない。
「そんなのあなたが特別だからでしょう! ぼくは特別ではないんです! そんなのできるわけないでしょう! 」
「特別? 特別ってなに? 僕らは特別なんかじゃない。ただ、守りたいものがあるから。期待通りなんて意味ないと知っているから」
フォルは新皇帝クルカムの情報をエクルーカムから聞いているもの以上に調べている。彼は神獣の卵。
だからこそ、あの話をする。
「大昔に実際に起きた事だ。ギュリエンという場所で。平和だったその場所で神獣同士の争いが起きた。その時、多くの神獣を守る立場にあった一人の神獣は、その期待された役目通り、多くの神獣達を守った。そして、その神獣は居場所を作ってくれた仲間を失った」
「……」
「仲間に守られて無事だった姫の話だと、その神獣と一緒にいるためにと仲間は戦った。仲間はその神獣が必ずここへ帰ってくると信じていた……期待された立場なんてそんなもんだ。ほんとに大切なものを見落とすだけなんだ」
フォルの消えない罪の話。前に進むと決めた今でも、後悔は変わらない。
「……」
フォルのぎゅっと握られた拳に、フィルの手が触れる。何も言わないが、一緒に背負うという事だろう。
「……その、彼はどうして今前を向けているんですか? その期待を捨てたからですか? 」
「ううん。仲間に謝るため。どれだけかかっても、見つけるんだって決めたから。君にもないの? 誰かの期待された立場なんて捨ててでも守りたいもの。貫きたいもの。絶対に逃げてはいけないもの」
フォルは、エンジェリアに言われて気付かされた事。それを今度は迷っている彼へ教える。
「……ありますよ。ぼくは、師匠の弟子として立派な姿を見せたい。それに、忘れてはいけない、大切なものがあったはず」
「そっか。なら、期待なんて気にせずに君の望み皇帝を目指してみなよ。僕がサポートするから」
フォルはそう言って、クルカムに手を差し伸べた。
クルカムとフォルの手が触れると、あるはずのない記憶の一部が流れ込んだ。
「……っ⁉︎ これ」
「……そうだ。ぼくは……」
「……クーム、とりあえず君は知識を活かす方法と魔法なしでも自分の事くらい守れるようになる事が先決かな」
突然の出来事というのには慣れているフォルは、すぐに冷静を取り戻し、クルカムの不得意な部分を指摘する。
「君の師匠なんて魔法が得意なんて言っていても、ほとんど魔法に頼らない戦い方だってできるんだ。それに戦術を学ぶのも良いかな。どんな道を選ぼうと必要な事だから」
「……あの、ぼくは皇帝にならなくて良いんでしょうか? 」
「うん。むりになる必要はないよ。君の師匠もそう言っていた」
エクルーカムから、もし会う事があれば伝えてくれと言われていた事。フォルは、それを伝えて
「君は何になりたいのかな? 」
と聞いた。
「……管理者……いえ、ギュゼルになりたいです」
「そっか。なら、僕も協力するよ。さすがにギュゼルの方になれるかの保証はできないけど」
現状、フォルはこれ以上誰かをギュゼルに入れる気はない。だが、それは求めている程度の能力を持つ相手がいないから。もしもクルカムが今後それだけの能力を見せれば、ギュゼルへの加入を考えなくはない。
そして、そうなるための努力は惜しまないつもりだ。
「……そう、ですよね」
「とりあえず管理者見習いとして働いてもらいつつ僕らが経験してきた訓練を行うとして……まずは、あれだね。クーム、僕が必ず君の記憶がなくても問題ないようにしてあげる」
フォルはいつも以上の笑顔でそう言った。
「え、えっと、よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、まずは魔の森へいこっか」
フォルは明るく、いつも以上に楽しげな表情を見せてそう言うと問答無用で転移魔法を使った。
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魔の森ギチンブ。他の魔の森と比べて魔物が多いのが特徴だ。
「ほんとはちゃんと面倒見たいんだけど、僕らは」
「わかっています。そんな中でわざわざぼくのために時間をくださり感謝しています」
「気にしないで。この後予定終わるまでほっとくから。一応加護はつけておいたから大丈夫だとは思うけど。僕らが帰ってくるまで頑張ってここで暮らしてね? この木の剣をあげるから魔法は使わずに。一本折れてももう一本あるから安心して」
フォルは終始笑顔で説明した。説明を聞いているクルカムが青ざめている。
「ちなみに加護十回未満ならご褒美あげるよ。必ず来るから、頑張って」
「フォル様、お気をつけて。ぼくはここで信じて待っています」
クルカムはフォルの事情をある程度理解している。少し不安そうな表情をフォルに向けている。
「うん。待ってて」
フォルはいつものような穏やかな笑顔を見せてそう言って転移魔法を使った。




