6話 エレの洞窟こぉりゃく
天界に存在する原初の樹イェリウィヴェ。その樹が存在するのは湖に浮かぶ小さな島。
エンジェリア達は、魔法で橋を創りイェリウィヴェの元へ辿り着いた。
「久しぶりなのー」
『ええ、久しゅうございます。エンジェリア姫、それにゼムレーグ様も』
美しく落ち着いた声が樹から聞こえてくる。
「みゅ。イェリウィヴェにお願いあるの。魔法から守る結界で天界を覆って欲しいの」
邪魔変魔法の影響が天界に来ないとは限らない。エンジェリアはその対策としてイェリウィヴェの結界を選んだ。
『結界を張りました』
「ありがとなの。それと、エレの宝剣って知ってる? どっかいっちゃったの」
宝剣はエンジェリアが天族の王と認められるための武器であるだけではない。エンジェリアがかつて使っていた特殊魔法具武器だ。
『それでしたら保管してあります。根の洞窟の奥に。欲しいのでしたらご自分で取りに行ってください』
原初の樹の根は特殊な空間になっている。その空間へのゲートをイェリヴィヴェが開いてくれた。
『貴方方も行くのですよ。三人で攻略して参りなさい』
「ぷにゅぅ。ゲートきらいだけどがんばるの」
エンジェリアはそう言って、根の洞窟へのゲートへと足を踏み入れた。
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エンジェリアは洞窟の中へ転移したが、ゼムレーグとイールグは見当たらない。
天井から差し込む光で照らされた洞窟の中、エンジェリアは周囲を見渡した。
洞窟の中だからかじめじめとしてはいるが、緑で溢れている。
「きれい……ぷにゅ。がんばるの」
エンジェリアは、一人でそう意気込んだ。
『エレ、どこにいる? 』
耳につけておくタイプの小型通信魔法具からゼムレーグの声が聞こえてきた。
「きれいな洞窟なの」
『俺もだ。だが、場所は三人とも違うようだな』
「ふにゅ。エレ一番に辿り着けるようにがんばるの」
エンジェリアがそう言ったのを最後に、通信は途絶えた。この洞窟が特殊な魔法で妨害しているのだろう。
「ふにゅ……エレはとりあえず進むの」
ゼムレーグとイールグとの通信が途絶えた事は対して気に求めずにエンジェリアは洞窟の最奥を目指して歩き始めた。
「ぷーにゅにゅん。ぴゅにゅにゅんなの……ぷにゅがにゅんでぴゅにゅなの? 違いますなの。むにゅがふにゅでぴゅにゃがむにゃなんでしゅ……ふにゅ? 」
エンジェリアは一人で遊びながら歩いていると違和感を抱いた。
歩き始めてから、迷子にならないようにと等間隔で印をつけている。その印を何度も見ているのだ。
エンジェリアは十周したところで同じ場所をぐるぐると回っていた事に気がついた。
「……ふにゅ。こういう時はどうするのでしょう。ゼロならきっと魔法の影響がないのか調べるの。フォルなら……魔法なんて知らないもーんってする気がする」
エンジェリアは最も身近な相手ならどうするのかと考えながら解決策を考えた。
解呪魔法を使ってみるが、何の効果もない。原初の樹を相手にそんな単純な方法は通用しないのだろう。
「……壁をさわさわするの」
洞窟内の仕掛けといえば壁。そう思っているエンジェリアは、何もない壁を触りまくった。
「ぷにゃ⁉︎ こ、こんな古典的なものが⁉︎ 」
エンジェリアの推測は正しかった。壁を触れば何かが起こるという点だけでは。
エンジェリアは偶然何かのボタンを押した。そして巨大な岩がどこからかごろごろと転がってきた。
「ふにゃぁー」
エンジェリアは咄嗟に氷魔法を使った。巨大な氷柱を作り巨大な岩にぶつける。
巨大な岩が砕け、破片が周囲に飛び散った。その破片の一部がエンジェリアの方へ飛んでくる。
「ぷにゃ⁉︎ 」
飛んできた破片はエンジェリアには届かなかった。エンジェリアを氷の盾が守っていた。
原初の樹へ向かう途中、ゼムレーグからもらった加護の効果だ。
「ゼム、ありがとなの」
巨大な岩がなくなると、新しい道ができていた。エンジェリアはその道こそ正解の道だと信じて、その道を進んだ。
「……ふにゅふにゅ。それはエレにはむずかしいのです。フォルなら避けるとか剣で全部叩き斬るとかいう荒技できるんだろうけど、エレにはむずかしいのです」
道を進んでいると、見るからに矢が飛んできそうな仕掛けがあり、エンジェリアは立ち止まった。
ここを通り抜ける以外に道はなさそうだ。
「ふにゅ」
エンジェリアは、防御魔法と結界魔法を自分に重ねがけして矢の飛び交う道を通り抜ける。
防御魔法だけでは持たなかっただろう。だが、結界魔法までかけていた事によって、一度も矢に当たる事なく通り抜けられた。
「……エレが対象じゃなければ防御魔法だけでも大丈夫なのに……りゅりゅ」
エンジェリアが呼ぶと、碧色の小龍が姿を見せた。
「りゅりゅ、暇なの。頭の上に乗っかっていて良いからエレのお話相手になって」
「はいでちゅ。ひめちゃまのお願いなら聞くでちゅ」
「ありがとなの」
エンジェリアは、りゅりゅを頭の上に乗せて、雑談を楽しみながら先へ進んだ。
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行き止まりまで辿り着いたエンジェリアに待っていたのは、木の根。
木の根が美しい白髪の女性の姿へと変わった。
「ふにゅ。さっきぶりなの」
「そうですね」
その女性は、人柄のイェリウィヴェ。なぜ姿を見せたのかはエンジェリアは理解していた。
「それで、エレは何を見せれば良いの? 」
「話が早くて助かります。貴方様の能力に関しては存じておられます。試すのは耐久力。五分間その根を守ってください」
小さく脆そうな根がエンジェリアの目の前に現れる。
「少しでもこちらの特殊な根が当たればすぐに枯れてしまいます」
「ふにゅ。エレのお得意分野なの」
エンジェリアはそう言って根に防御魔法をかけた。
五分間、耐える事なくずっと小さな根にイェリウィヴェが用意した根が飛んでくる。エンジェリアの防御魔法で全て防がれている。
「ヒビすら入る事なく全て防ぎますか。さすがですね。宝剣はあの穴の中にあります。魔法を使っても良いので、あの穴の中に行き、ご自分で取ってきてください」
「高いの怖いの」
「ここも十分高いですよ? 」
天界は空に浮かぶ島のような形だ。その高さは下に雲が見えるほど。
「ぷにゅぅ。がんばるの」
エンジェリアは龍族の羽根をだして穴の中へ入った。
「ぴにゃぁぁぁぁ! 」
思った以上に穴が深く、エンジェリアは泣きながら悲鳴をあげている。
竜族の羽根を維持する事ができずに消えてそのまま落下する。
「ぴにゃぁぁぁぁ! 」
「エレ、大丈夫だから信じて! 」
下からゼムレーグの声が聞こえた。エンジェリアはその声だけで安心して悲鳴がぴたりと止まった。
必ず受け止めてくれる。そう信じて、エンジェリアは深い深い穴の中を落下した。
「もう大丈夫」
落下している感覚が消えると、ゼムレーグの顔が近くにあった。
「ふにゅ。ありがとなの……ルーにぃもいるの。エレが最後だったみたい……なんか不服……いてくれたから安心していられたけど不服なの」
エンジェリアは周囲を見回して、イールグもきている事を知った。二人がいる事の安心感を出しながらも、頬を膨らませていた。
「オレ達も今来たばかりだよ。それに、きっとエレだけ道が長かったんだよ。だから、エレがすごい遅かったってわけじゃないよ」
「ふにゅ。それなら良いの。って思えないの。みんなを待つのはエレのお役目なのに。みんなが待ってちゃだめなの」
それがエンジェリアの記憶に残る役割。誰かに決められたわけでもなく、ただそれが日常でそういうものだと決めたエンジェリアの役割。




