5話 ゼロの想いと繋いだ未来
天界へ転移したエンジェリアチーム。
エンジェリア達は、商店街で買い物をしている。
「ルーにぃふわふわ飴買って」
エンジェリアは天界名物の不思議な飴、ふわふわ飴を声を弾ませてイールグにねだった。
「一個だけだ」
「お土産なの」
「土産? 」
「うん。宰相さん達に。ピク……エレの補佐をしていた子にも渡したいけど、甘いものはあまりすきじゃないって言ってたから」
何回前かは数えていないエンジェリアは覚えていない。エンジェリアはある回で天界を統べる王だった。だが、天族達の裏切りにより天界から落とされた。
今はこうして堂々と歩く事ができるが、それは全て二人の王とエンジェリアを信じた家臣達のおかげだ。
エンジェリアは、姿を隠す事なく堂々とふわふわ飴を三袋買ってもらっている。
「ふにゅ。ありがとなの。これで宮殿に行くの」
エンジェリアは上機嫌で宮殿へ向かう。ふわふわ飴ハズレを口の中に入れて。
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宮殿は慌ただしい。それもそうだろう。エンジェリアが宮殿へ帰ってきたのであれば天族達はエンジェリアを迎える準備をしなければならない。
「ケクル様、準備ができました」
「姫様、いつも通り中へお入りください」
宮殿で働く天族達の謎の執念により作り出された魔法機械。門のような形のそれは甘味を感知する魔法機械。なぜか収納魔法の中まで感知する現代では考えられない魔法機械。
裏切りの件解決以降、天族達はエンジェリアにより一層過保護になった。そして甘味は魔力吸収量をあげる性質がある事から、エンジェリアの甘味持ち込みを制限している。
甘味を持っていない事を確認するためにエンジェリアは宮殿へ来ると必ずこの門を潜らされている。
「……ふみゅ。その前にお土産預かって」
「土産? 」
「ふにゅ。ヨジェドとミニュアとアディグアへのお土産。エレの分は買ってません。えらい。ほめて」
エンジェリアは天族の青年ケクルに土産のふわふわ飴を渡した。
エンジェリアが魔法機械の門をくぐり甘味をなにも持っていない事を証明すると、ケクルに頭を撫でられた。
「えらいですね」
「えらいの」
「では、応接間へ案内いたします。姫様をあまり歩かせるわけにはいきませんからそちらでお待ちください」
エンジェリアが歩き回ると迷子になる事を知っている天族達はエンジェリアを歩かせず、どこに行くにも案内をつけたがる。
エンジェリアはおとなしく案内されていた。
「……相変わらず不思議なものだ。一人でなにもさせたくないような姫に王を任せるなど」
「そうですね。ですが、我々は姫様以上の王などいないと思っております。我ら天族に必要なのは姫様のような光ですから。それに、姫様だけですよ。天族と魔族の仲を深めようと一人で動かれた王は」
「良くわかんないけどエレはすごいのです。えっへん」
エンジェリアは褒められていると思い胸を張ってそう言った。
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応接室へ案内されたエンジェリア達は、しばらく三人で雑談をしていた。
十分ほど経った後、扉が開き目的の人物が顔を見せた。
「お久しぶりです、姫」
「ふにゅ。お久しぶりなのヨジェド。これお土産。それとルーが持ってるお花で魔物になった人達を元に戻して。詳しくはルーに聞くの」
エンジェリアはそう言って、天族の青年ヨジェドと、その義妹のミュニア、ミュニアの婚約者のアディグアに土産に買っておいたふわふわ飴を渡した。
「喜んでお受けします」
「……ヨジェド、けーきもそうだけどエレはもう気にしてないよ? ピクに至っては会ってすらくれないからまだ二人に方がマシだけど。だからエレの前でそんな申し訳なさそうな顔をしないで。エレは笑顔見たいの」
エンジェリアはそう言って笑顔を見せた。
「ミュニアも笑顔見たいでしょ? こーんな難しい顔とかかったい顔とか申し訳なさそうな顔じゃなくて」
「はい。笑顔見たいですが……前半はちょっと違うんじゃないでしょうか」
「ほら、ミュニアだって言ってるよ。それとエレはちゃんと知ってるから。みんながエレがお勉強いやで宮殿から逃げた時に総出で探した事とか、エレのわがままに付き合ってくれた事とか、いっぱい知ってるから」
エンジェリアが天族の王であった頃、かなりのお転婆だった事を自負している。だからこそだろう。天族達がどれだけエンジェリアを想ってくれているのか知れたのは。
それをエンジェリアは懐かしがりながら告げた。
「エレが具体的な事なにも言わないくて、仲良くしたいとかそんな感じの事ばかりだったのに、いっぱいエレのお願い叶えるために動いてくれたのも知ってる。だから気にしないで」
「ですが、我々は」
「……エレだけのためじゃないんだよ。みんながまだそんなふうにしているっていうのはゼロの覚悟と想いを無碍にする行為だってわからないの? 」
エンジェリアの表情から笑顔が消える。今にも泣きそうな表情で続けた。
「守りたい。みんなが笑う世界を作りたい。ただそれだけのために、たった一人で下界に攻めてきた天族達の前に立ったの。自分の首一つで戦争になるのを止めて友好条約まで結ばせたの。そんな彼の想いに応える事が償いなんじゃないの! そんなふうにいつまでも罪悪感に蝕まれるためにゼロは……エレの片割れが犠牲になったんじゃない! 」
エンジェリアの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
静まり返る空気の中でエンジェリアは涙を流しながら言葉を紡いだ。
「あの夜、ゼロはエレに何も言わなかった。いつも通りエレに笑顔を見せてくれた。寝かせてくれた。寝るまで一緒にいてくれた。でも、部屋を出て、扉の前で一人で泣いていた。ごめんって謝ってた。それでも守りたいもののために国を去ったの。自分がいなくてもエレがあそこにいられるようにして」
その時共有は切られていたが、エンジェリアは起きていてゼーシェリオンの泣いている声を聞いていた。それでも、なにもできなかった自分に当時は後悔してばかりだった。
今の天族と同じように。
その時の後悔を握った拳にしまう。
「そこまでして守ってくれたんだよ? また、手を取り合える未来を残してくれたんだよ? 」
ゼーシェリオン一人であれば、あの選択をする事はなかった。天族のために、魔族のために、エンジェリアのために選んだ選択だという事をエンジェリアは理解している。
だからこそ、エンジェリアは彼が一番願った事を天族達に願った。
「エレのわがままだよ。ゼロの想いを無駄にしないでっていうのも。全部、エレのわがまま。でも、それでもゼロのために……エレの光のために笑って欲しいの! エレ達にそんな顔しないで欲しいの! 」
「申し訳……いえ……ありがとうございます。姫、魔物化を治す役目、ぜひ我々にもやらせてください。彼がきっかけを与え、姫が救ってくださった天界の未来のために。彼の優しい願いのために」
そう言ったヨジェドは笑顔を浮かべている。
「うん。ありがと」
エンジェリアは涙を拭いて応えた。
「姫、おれも手伝います。姫のためもありますが、殿下の役に立ちたいんです。おれがここにいられるのは殿下のおかげですから」
「わたしも! アディグアについて行くくらいしかできないだろうけど、魔族の王様の願いのためにも協力したい」
「うん。よろしくなの。それとエレは原初の樹に会いに行ってくるの。一応報告だけ」
エンジェリアはそう言って立ち上がった。
「ゼム、ルーにぃ、いこ」
「……その前に説明だろう」
「そうだったの」
エンジェリア達は花の説明を終えてから応接間を出て、宮殿の外へ向かった。エンジェリア達が宮殿を出る時、ヨジェド達は笑顔で見送っていた。
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原初の樹がある場所は特殊な結界の中にあるため、道を開かなければ行く事はできない。中には荒天候で守られている場所もあるが、天界はそうではない。
「ふにゅ。それにしても、ミュニアは良い人と出会えて良かったの。それに……想いはきっと広がる……ゼロの言ってた事はほんとだったみたい」
エンジェリアはを原初の樹のある結界の中へ入りながらそう呟いた。
「……ありがとう。オレの弟のためだけにここまでしてくれて」
「良いの。エレのゼロなんだから。エレはゼロにお世話されてる存在なんだから。原初の樹に行くのだって、エレは迷子になってゼロに連れてってもらうの……ふぇ⁉︎ ふりじゃないの! 本当に迷子なの! 」
エンジェリアはあわあわと手をばたつかせている。
「嘘だろう」
「ふぇ⁉︎ なんでばれたの⁉︎ ゼロとフォルの気を引きたくて……ってそんな事は良いの! それより、原初の樹へ行ったら宝剣の事聞くから覚えておけなの! 」
「宝剣? 大丈夫なの? 」
ゼムレーグが心配そうな表情をしている。
「大丈夫なの。使い方次第だから。使い方次第でエレもこんなに可愛くなるの」
「危険なほど可愛くなるの間違いじゃなくて? 」
「ふぇ⁉︎ ゼムが冗談を……まさか、エレはゼムまでもすきにさせちゃったの? なら洗脳してやるの。とことんすきにさせてやるの」
エンジェリアはそう言ってゼムレーグの手を握った。
「エレをすきなゼムはエレに洗脳されちゃって、魔法いっぱい使っちゃうの。でも洗脳されてるんだから仕方ないの……ゼロも、強くて優しいゼムがだいすきだから」
ゼムレーグは魔法を使いたがらない。その理由もエンジェリアは知っていて洗脳という言葉を使い、ゼムが自分を守るために魔法を使わせようとする。
「大丈夫だよ。オレはエレを守るためなら魔法を使う。ゼロを守るためなら魔法を使う。いつまでも迷ってないで、ゼロの強さに応えたいから」
「……ふみゅ。ゼムの魔法はとっても繊細で綺麗で強いから、エレも頼りにしてるの」
ゼムレーグは、魔法が使えなくなったゼーシェリオンが再び魔法を使えるようになっても迷い続けていたが、エンジェリアの話た過去のゼーシェリオンを知って前を向く事ができたのだろう。
エンジェリアが笑顔を作ろうとすると、ゼムレーグに頬に口付けをされた。
「ゼロのようにはいかないけど魔力少しだけもらっといたよ。それと、氷の加護もつけておいたから」
そう言ったゼムレーグは、わずかに頬を赤ながら笑顔を見せていた。




