4話 魔物化解除
エンジェリアはゼーシェリオンの帰りをずっと待っている。
一日中待ったが帰ってこない。
二日待っても帰ってこない。
三日待っても帰ってこない。
「おかしいの! ただの買い出しでこんなに時間がかかるのはおかしいの! きっとエレに内緒で遊んでいるの! ずるいの! 」
エンジェリアはゼーシェリオンが帰ってこないためフォルが暇な少しの時間以外は動き回る事ができない。帰りの遅いゼーシェリオンを疑っている。
「それはないと思うよ。ギューにぃ様と連絡取っててあまり気にしてなかったけど、ほんとに遅いね。何かあったんじゃないかな」
「心配だね」とつけ出すているフォルは、報告書から目を離していない。
「連絡? なんの? 」
「リミェラの資料がないか聞いてたんだ。僕が見れる範囲だとなくて」
リミェラが呪いの聖女になった原因でも調べていたのだろう。
エンジェリアはフォルの手を握って黙っている。
「どうかしたの? 」
「……なんでもないの。それより探し行くの。エレ一人でも、ゼロを探しに行くの」
エンジェリアは話を逸らすようにそう言った。
「僕も一緒に行くよ。何かあった時のためにってルーとは位置情報を確認し合えるようにしているんだ。多少のズレはあるかもだけど、その位置情報を頼りに行くよ」
「ふにゅ。わかったの」
エンジェリアが了承するとフォルが転移魔法を使った。
**********
転移先にゼーシェリオン達はいない。目の前には巨大な扉がある。
この扉の先にゼーシェリオン達がいるかもしれないとエンジェリアは扉を開いた。
「……ここって……フォル……いないの」
フォルがそんなミスをするとは思えないが転移魔法を使った際に逸れてしまったのだろう。
エンジェリアは、フォルを探すよりもゼーシェリオン達を探すのを優先して扉の中へ入った。
「……ぷにゅ」
自然の中にわずかに残る住居跡。ここには人は住んでいない。
エンジェリアは重い足を前に進めた。
エンジェリアが歩いていると小さな魔物がエンジェリアに飛びついてきた。
危険な様子はない。ただエンジェリアと遊びたいだけなのだろう。
エンジェリアはしゃがんで小さな魔物三匹の相手をする。
「ぷにゅ。魔物さんとっても可愛いの」
エンジェリアがそう言うと、魔物がぴょんぴょん跳ねた。
「……一たす一は? 」
エンジェリアは試しに聞いてみると、魔物が二匹くっつき、一匹は離れた。まるで答えが二と言っているようだ。
「エレより頭良いかも」
エンジェリアが思わず口にした一言。その一言に一匹の魔物が反応した。まるで肯定しているかのようにぴょんぴょんと跳ねている。
「このエレを勉強できないと思っているにゃん……なんだかゼロみたい……ゼロ……フォル……会いたいの」
エンジェリアがそう呟くと魔物達がエンジェリアを慰めるかのように擦り寄ってくる。
まだ小さくこれほどの知識を持ちながらも喋る事のできない魔物はかなり珍しい。新種として研究されてもおかしくないだろう。
「良かった。怪我なくて」
「……ふにゅ」
フォルの声と同時にエンジェリアはフォルに背後から抱きしめられた。顔を見れはしないが、フォルの声を聞いて、触れられているというだけで安心する。
「ごめん。僕の転移位置だけずれていたんだ」
「……怪我してる」
フォルの手に擦り傷のようなものがいくつもある。エンジェリアは瞳に涙を溜めてフォルの手に触れた。
「……君を早く見つけないとって焦っていたから」
「癒し魔法使うの」
「このくらいはいつもの事だから平気だよ。それよりその魔物って」
エンジェリアに懐いている魔物達。エンジェリアは、特に懐いていてゼーシェリオンに似ている魔物を手に乗せた。
「遊んで欲しいみたいなの。この子とかゼロにとっても良く似てるの。特に生意気なところとか。エレより頭良いかもってエレがついついお口に出しちゃったらぴょんぴょん跳んだんだよ。そうだよって言ってるみたいに。この生意気さはゼロに似てると思わない? 」
「……ゼロ、聞こえてんならこっちに乗って」
フォルがそう言うとエンジェリアが手に乗せていた魔物がフォルの手の上に乗った。
「エレ、この子回収」
「ふにゅ」
エンジェリアはゼーシェリオンらしき魔物を頭の上に乗せた。残る二匹も魔物に変化している誰かという事だろう。
だが、エンジェリアはそれが誰かわかっていない。
「……ルー」
地面にいた魔物の一匹がフォルに手の上に乗った。その魔物がイールグなのだろう。エンジェリアは、イールグらしき魔物をフォルから受け取り頭の上に乗せる。
「残りは……エルグにぃ様かな」
残っている魔物がフォルの手の上に乗った。
「エレ、一旦帰るよ」
「でも」
「最終的には全員助ける。でも、今すぐには無理だって事くらい君もわかっているでしょ? 」
エンジェリアはこくりと頷いてフォルの手を握った。
「……」
**********
フォルの転移魔法でエクリシェへ戻ったエンジェリアはベッドの上で膝を抱えて座っていた。
「……ねむねむ」
「少し寝たら? 三日間ほとんど寝てなかったんでしょ? 僕が側にいるから」
「……みゅ」
フォルはエンジェリアを安心させるよう、額に口付けをした。
「……おやすみなの」
「うん。おやすみ」
エンジェリアがフォルの側に寄って瞼を閉じる。
フォルはエンジェリアの頭を撫でてから、連れてきた魔物を机の上に並べた。
「……呪いじゃないならフィルの方が専門なんだけど。普段使わないから失敗しても知らないよ」
魔物達が同意をするようにぴょんぴょんと跳ねた。
フォルは魔物達を床に置いて、濃い紫色に花の粉を魔物達に振りかけた。
邪魔変魔法が解け、ゼーシェリオン達が元に戻る。
「……ぎゅぅ」
フォルは元に戻ったゼーシェリオンに抱きつかれた。
「成功か。ところで、にぃ様、ルー。なんでゼロがこんなに甘えてくんの? 僕仕事あるから離れさせたいんだけど」
「……フォル、リミェラねぇが、会いたかったって……俺らが、引き離したのに……あの頃のリミェラねぇが……俺らに会いたかったって」
ゼーシェリオンが自分から泣きながら事情を説明した。
フォルはゼーシェリオンの頭を撫でて落ち着かせると、ゼーシェリオンをエンジェリアの隣に座らせた。
「……呪いの聖女とリミェラを別と捉えても良さそうだな……命令を無視していると後が面倒だけどこれなら、命令を遂行したうえでピュオ達の願いも叶えてやれる」
フォルが受けている命令は呪いの聖女の処分。呪いの聖女がリミェラの意識とは別物だとすれば、呪いの聖女の部分だけを取り除けば良い。
エンジェリアとゼーシェリオンが秘密を知る以上、フォルがそれを思いつかないはずがない。
フォルが疑問を抱いていると、エンジェリアの手が触れた。
「エレの寝言なの。寝言なら言えるの。あの世界は魔力がとっても多かったの。エレとゼロはその原因を探したの。でも手遅れだったの。ついでに神獣さんいたの。寝言終了」
「……魔力の異常現象か。いくら本家の血筋といえど裏切った者の話を信じるような連中じゃない。となれば証拠隠滅の方か。とりあえず、リミェラを助けるのもそうだけど、他の場所の解呪の方も進めないと……エレとゼロの話だと本人による解呪ができるかわからないから」
別人に魔力の異常現象。その二つでフォルが立てた推測では、リミェラを術者として見る事ができないものだ。
「それだと人手が足りないだろう」
イールグの指摘にフォルはこくりと頷いた。
「その通りだよ。だから協力してもらう。ルノは仕事でいないけど、ゼムとフィルはいるから呼んで、手分けして花を配る。被害が確認されてない場所は、エクランダとエリクルフィア。ロスト、天界、リューヴロ、ローシェリナ、神殿と精霊界とかもかな。それとアスティディアにあの二人がいるらしい」
ゼーシェリオンを帰ってこなかった三日間、フォルは連絡ついでに報告書で被害状況も確認していた。その中で名前が上がっていなかった場所を挙げている。
「エレはフォルと一緒に」
エンジェリアが起き上がって目を輝かせている。
「……とりあえず、ゼロとエルグにぃ様はロストとローシャリナ。時間があれば淫魔の子のとこにも行ってあげて」
「えっ⁉︎ エレは? 俺もエレは? エレの俺は? 」
ゼーシェリオンが瞳に涙を溜めている。
「エレはルーとゼムと一緒に天界とリューヴロとアスティィディアに行って」
「ふぇ⁉︎ エレはフォルと一緒じゃないの? エレはフォルと一緒じゃないの? フォルのエレだよ? 」
エンジェリアが瞳に涙を溜めている。
「僕とフィルでエクランダとエリクルフィアに行ってくるよ。ついでに精霊界の方も様子見に行こうかな」
神殿は神殿で独自に動いているはずだ。いく必要はない。
「……むにゅぅ……ゼロ、必要があれば全てじゃないけどお話して良いの」
「了解」
「あとは二人を待つだけだね。連絡しておくからそのうち来るでしょ」
フォル達はフィルとゼムレーグが来るのを待ち、全員揃った後それぞれの目的地へ転移魔法で向かった。




