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星月の蝶(修正版)  作者: 碧猫
1章 呪いの聖女と約束
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2話 呪いの正体


「……ごめんね。余計な話までしちゃって」


 ピュオが申し訳なさそうにしていると、フォルが笑顔を見せた。


「気にしないで。僕は君の事が知れて嬉しいよ。それで、その話を踏まえて、君らの願いを聞かせてほしい」


「……呪いの聖女の探し人を見つけてあげたい! 誰なのかすらわからないのに難しいのはわかっているよ。でも」


「善処はするよ」


 ピュオは呪いの聖女を救いたいのだろう。大切な人と会わせて、恨みを忘れさせる事ができたならとでも考えているのだろう。


「……にしても、琥珀色の瞳に赤髪、か。なんでそうなったのかは知らないけど、これ確定だな。だからあの連中が僕に頼んだのか」


「みゅ? どういう事なの? 」


「呪いの聖女の正体だ。ピュオとノヴェを間違えたのは、御巫候補だからだろう。黄金蝶のお気に入り。多少なりとも保護するためのお守りがついていたはずだ」


 エンジェリアとゼーシェリオンにはついていないが、黄金蝶は自らが選んだ御巫候補を守るためのお守りをつけておくのが通例だ。そのお守りを一部の黄金蝶は感じ取り、御巫候補だと判断している。


 エンジェリアは以前フォルからその話を聞いた事がある。


 御巫候補を持つ黄金蝶で現在行方不明となっている。そこまで考えれば、エンジェリアは答えが出てしまう。


「……フォル、お部屋でお話するの」


「うん。その方が良さそうだね」


「あっ、俺一緒に行けない。買い出しあるから、あとで教えてくれ」


 エンジェリアはゼーシェリオンも連れて行こうとしていたが、諦めてフォルと二人だけでリビングを出た。


      *********


 エンジェリアの部屋よりもフォルの部屋の方が良いだろうという事でエンジェリアはフォルの部屋にいる。


 ソファに座るフォルの膝の上でちょこんとエンジェリアは座らされていた。


「……」


「……御巫候補の方に何があったのかは大体予想がつくけど、それは君らのせいじゃないよ。それと、三人ともこんなのは望んでいないはずだ」


「……うん」


 エンジェリアは俯いている。今にも溢れ出しそうな涙をおさえながら。


「……そういえば、ロジェからおかしな呪いがあるとか報告を受けたって聞いていたな。確か棚の中に置いてある報告書」


 フォルが魔法を使い、棚の中から報告書を取り出している。


「……エレ、あの二人は君にそんな顔させたかったわけじゃないと思うよ。それに、ねぇ様が君らを恨むなんてあり得ない」


「でも……」


「とりあえず、呪いの詳細を調べて正体を暴こうよ。そうすれば助けられる人達がいる。それに、魔法の詳細がわかれば、もしかしたらねぇ様がああなった原因もわかるかも知れない」


 エンジェリアはこくりと頷いた。


 小さな精霊達を集めて呪いの噂を教えてもらう。


「……突然魔物に姿が変わって、次第に意識がなくなっていく。それで、人を襲いようになる……まるで魔物みたいに……そんな魔法聞いた事ないんだけど」


「……邪魔変魔法」


「あれって、ご主人様の言う事は聞くんじゃなかったの? 」


 フォルの言う魔法自体はエンジェリアも聞いた事がある。だが、それは使用者の命令に従う魔法だ。魔物のような習性を持ってはいない。


「不完全なら、命令を聞かないというのもあり得る。だとしたら、使用者はかなり負担がかかっているはずだ。それに代償も……でも、なんでそんなものをねぇ様が」


「……わかんないけど、急いだ方が良いと思うの。でも、先に欲しいものある。もしかしたら必要になってくるかもしれないから」


「ならフィルのとこに行こうか。僕は色々と忙しくて魔法具を作る暇はないから」


「ふにゅ……ふにゅ⁉︎ 」


 エンジェリアが立ちあがろうとすると、フォルに止められた。フォルに抱っこされたエンジェリアは、頬を赤く染めて戸惑っている。


「……君を抱っこしておかないと爆発する呪いにかけられた」


「ぷにゃ⁉︎ 変な嘘までついて一緒にいたいフォルなの⁉︎ 」


      *********


 エンジェリアはフォルに抱っこされたままフィルの部屋を訪れた。


「フィル、突然来てごめんなさいなの。魔法具を作って欲しいの……お金」


「いらない。素材もこっちで揃える。それで、なんの魔法具? できれば設計図があると助かる」


「うん」


 エンジェリアは、フィルに設計図を渡した。


「……処理能力向上の魔法具……エレにしか需要なさそうだけど、何に使うのか聞いて良い? 」


「過去視。使うかも知れないから」


 エンジェリアは処理能力が著しく低い。それを補う魔法具がなければ過去視で長い時間を遡る事はできない。ゼーシェリオンと共有していればある程度補えるが、その時に共有しているとは限らない。


「……だとしたらこれは向いていないんじゃないかな。ここを少しだけ変えれば」


 フォルが設計図に付け加えている。エンジェリアの過去視と未来視にだけだが、強力な効果のある設計図になった。


「……ふぇ⁉︎ すごいの。天才なの⁉︎ フォルなの⁉︎ 」


 エンジェリアはフォルに抱きついてぴょんぴょんと跳んでいる。


「君に魔法学に魔法具技師学教えたの誰だと思ってんの? 」


「フォルなの。ついでに調合とかも全部教わったの。すごいの。天才なの。エレのフォルなの」


 エンジェリアはフォルからほとんどの教育を受けている。魔法具の設計図に関してもほとんどをフォルに教わり、ある程度知識がついてから独学で学んでいる。


 エンジェリアは背伸びしてフォルの頭を撫でた。


「……フィル、エレの魔法具はいつ完成する? 完成したらすぐにでも動いた方が良いから」


「三日。早ければ二日で完成する。徹夜でやれば確実に二日だけど……エレが寝ろって言うだろうから」


 一般の魔法具技師よりも製作時間が短いエンジェリアですら今回の魔法具の製作は五日はかかるだろう。一睡もせずに作れば。睡眠時間などを入れれば七日くらいはかかる。


 それをたった三日で完成させられ、完成度も高いからこそエンジェリアが憧れている。


「……さすがは天才魔法具技師ミーティルシアなの。エレの憧れの魔法具技師二位なの……一位のヴィティス様はどのくらい早いんだろ……遅いけどとってもすごいのかな……」


 エンジェリアは記憶が戻った今でも魔法具技師ヴィティスの事は何もわかっていない。調合はヴィティスと名乗る人物に少しだけ教わっているが、顔は見た事がない。


 エンジェリアもそうだが、本名とは別に活動名を使う技術者が多く、ヴィティスというのも活動名という可能性は低くない。エンジェリアは、ヴィティスの事を考えていると心拍数が上がっていた。


「……一日、もかからないんじゃない? 前に魔法具の製作で話を聞いた事があるけど、相当早いらしいから。しかも高クオリティ」


「フォル詳しいの……エレもお話聞きたかったのに、定期開催の相談会も談話会も、お話できるような行事全て不参加だから。試験官も一度も引き受けていないって噂もあるの……どうやってお話できたの? 」


 エンジェリアはノーヴェイズとは実際に会う前に、連絡魔法具を使った交流会で話した事がある。魔法具技師協会が定期的にそういったイベントを開催しているが、ヴィティスの参加は一度もない。


 そんな人物と話せたフォルをエンジェリアは羨ましげに見つめている。


「……昔の事だから覚えてないよ。それよりエレ、報告書の確認が終わってないから手伝ってよ。どうせ暇でしょ? 」


「ふにゅ。暇なの。フィル、よろしくなのー」


「……うん」


 エンジェリアはフォルに抱っこしてもらい、フィルの部屋を出た。


 フォルと一緒に報告書を見ながらゼーシェリオンの帰りを待つが、いつまで経っても帰ってはこなかった。

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