1話 赤髪の少女
ピュオとノーヴェイズが御巫候補となる前は魔法という概念がない世界の一般的な学生だった。
二人はある占い師の老婆に御巫が望まれる世界に転移させられた。その世界は自然が少ない岩や石ばかりの灰色の世界。
元の世界に帰る方法は見つからず、二人はイールグの支援と教育を受けながら御巫候補として小さな村で暮らしていた。
「御巫様、どうか、魔物の湧く場所を浄化してくださいませ」
二人がこの世界にも慣れてきた頃、村の長にそう頼まれた。これも御巫としての仕事として、二人は快く引き受けた。
*********
村の長に言われた魔物の湧く場所に向かうピュオとノーヴェイズ。
岩がゴツゴツと出ている歩きにくい道。二人が元いた世界では考えられない光景だ。
村の中はまだ道が整備されているが、それでも二人のいた世界から見れば道とは呼べない。
そんな世界で過ごしてきた二人は、村の外の道に慣れていない。
慣れていない分、疲労が溜まり途中で休憩した。
「ノヴェ、少し休憩しようよ。お弁当持ってきてるから」
「ピュオが作ってくれたの? 」
「うん。準備するね」
ピュオが弁当の準備をしているとノーヴェイズがシートを地面に引いていた。
二人が休息をとっていると、小動物が近づいてくる。
ピュオは、小動物を膝に乗せた。
「ここ、小動物が多いね」
「うん。それに魔物がいない。近くに魔物が湧く場所があるなら、この辺にも魔物がいておかしくないと思うのに」
魔物が湧く場所が近くにあるのなら、周辺は魔物が大量にいるはずだ。だが、ピュオとノーヴェイズが今まで歩いていて一度も魔物を見ていない。
二人はその以上をそこまで重要視してはいなかった。それは、魔法も魔物も縁のない世界からきた事が原因なのだろう。
それだけではなく二人とも御巫候補となりこの世界の常識や言語、地理、歴史、魔法学、調合学、魔物学、種族学、様々な分野を学んできたが、時間が短い。ここの住民よりも圧倒的に知識が少ない。この状況が異常という事も理解していない。
「……魔物の湧く場所に行ったら浄化魔法をすれば良いんだよね……本当にそれだけで解決できるのかな」
「わからないけど、魔法は俺達にとっては奇跡みたいなものだから、きっと大丈夫だと思う」
「そう、だよね」
ピュオとノーヴェイズは、一時間ほど休憩した。その後、片付けをしてから再度魔物が湧く場所へ向かった。
*********
「ここから先、かなりきつそう」
「うん。ピュオ、道が悪いから転ばないように気をつけて」
巨大な岩が並んでいる。岩の周囲は水。ここを通るには岩を渡っていくしかない。
ノーヴェイズが先に岩の上に乗る。
「来れる? 」
「うん」
ピュオはノーヴェイズに引っ張ってもらい岩に乗った。
「……ノヴェって学園で人気だったの知ってる? 頭が良くて、頼り甲斐があって、優しくて、意外と運動神経が良いって言っているのも見た事ある」
「なんかそう見られがちなんだよね。研究ばかりしていたけど、別に運動ができないってわけじゃないのに」
本の世界でノーヴェイズは昼夜問わず研究に打ち込んでいた。ピュオの元の世界の友人はノーヴェイズが岩を軽々と超えられるとは思っていなかっただろう。
「研究が楽しいのは良いけど、わたしが来ないと学園に行く準備をしなかったのはやめてほしいよ。毎日毎日遅刻ギリギリで走って行かないといけなかったから。おかげで体力ついたけど」
「ピュオは運動部だったからそうじゃなくても体力あると思うけど」
「……ノヴェ、朝練してから帰ってノヴェを迎えに行って、走って学園に行く。どれだけ疲れると思う? 」
「すいませんでした。ありがとうございます」
ノーヴェイズは研究で培った知識を魔法具に使っている。だがピュオは元いた世界の知識を何も生かせていない。その代わりではないが、元いた世界で培った体力を活かしている。
「……ここまできても魔物はいないね」
「うん。ピュオ、疲れてない? 大丈夫? 」
「うん。大丈夫だよ。これでもこの世界の人達と比べても体力ある方みたいだから。ルーには劣るけど」
休憩した時よりもさらに魔物の湧く場所に近づいているがまだ魔物がいない。
「……魔物、まだいない。本当に魔物の湧く場所がこの先にあるのかな」
「行ってみないとわからないよ。魔物と対峙して体力を消耗しなくて良かったって今は思うしかないかも」
「……そうだね……そういえば、学園卒業した後、結婚するって言っていたけど、結局できなかったね」
ピュオは少し残念そうな表情を見せた。
恋愛感情があったわけではないが、幼馴染でずっと一緒にいるのが当たり前だった。当たり前で、学園卒業後は自然と結婚するように話をしていた。だが、学園卒業前にこの世界に転移した。
この世界では二人は年齢的に結婚できるが、今のところそういう話はしていなかった。
「ここで結婚する? 前の世界で一番高いドレスを贈ろうと思っていたけど叶わなかった。でも、この世界ってドレスが豊富だから、前の世界よりも似合うドレスで結婚式できるかも」
「……なら、そうしようかな。ノヴェもちゃんと考えてよ。わたしのドレスだけじゃなくて。かっこいいノヴェ見たいから……あっ、もう岩最後だ」
話しているうちに二人は岩を全て超えていた。岩を越えたら魔物が湧く場所はすぐだ。
*********
村の長に言われた魔物が湧く場所に着いたが、魔物はいない。噴水のように岩から湧き出る水。その水が落ちる場所に夕陽のような赤髪の少女が水に濡れずに立っていた。
後ろ姿だけでもその少女の美しさが溢れている。
「あの、こんなところにいたら危ないですよ。何か困っているんでしたら、わたし達が相談に乗りますよ? 」
ピュオが声をかけると、赤髪の少女が振り返った。
整った顔立ち、琥珀色の瞳。息を呑むほど美しいその少女にピュオは見惚れていた。
「……ず?……じぇ? 」
澄んだ美しい声。なんて言っていたかは聞き取れなかった。
「あの」
「……ち、がう! ……ずと……じぇを返せ! 」
突然、赤髪の少女から真っ黒い霧が溢れ出す。
「お前達が奪ったんだろう! あの子達を返せ! 」
赤髪の少女が怒りを見せている。だが、ピュオとノーヴェイズには心当たりがない。そもそも、二人は彼女に会った事すらない。
赤髪の少女はピュオとノーヴェイズを他の誰かと勘違いしているのだろう。
「あの、何の事ですか? 誰か探しているんですか? 」
「黙れ! お前達が奪ったのは知っている! ワタシの宝物を返せ! 」
赤髪の少女の探している相手というのは、相当大事な相手なのだろう。ピュオの言葉に聞く耳を持たない。
「あの二人を奪ったお前達も、あの二人を騙した人の子も、みんな恨んでやる! 呪ってやる! 呪いに蝕まれろ! 」
真っ黒い霧がピュオの中に入った。だが、ピュオにはなんの異常もない。
赤髪の少女はその言葉を残して姿を消した。
「……なんだったんだろう。とりあえず、浄化魔法だけでも」
ピュオは念の為浄化魔法をかけてから村へ戻った。
*********
異変が起きたのは、ピュオとノーヴェイズが村に帰って数日が経った後だ。
村人が突然異形な姿へと変わった。男性だけ。
それからというもの、異形な姿へと変わった村人が村人を襲い、異形な姿の村人が増えていく。
いつからか星の御巫は、呪いを打ち消す力を持つ。その力は星の御巫を犯す事で手に入る。そんな噂が広まっていった。
その噂が原因で星の御巫候補であるピュオは被害にあっていない村人に追われる事になった。
その後、村は全滅。ピュオは深い眠りにつき、残されたのはノーヴェイズだけ。
残されたノーヴェイズはピュオを守るための国を築いた。その国の名はアスティディア。世界管理システムがある大国。現在も、滅んだこの村の記録が残されている。




