24話 偽と今
エンジェリアは、偽の愛姫から離れた。
「……」
ヴェフォムの言葉が、世界の意思の言葉だと気づいたのだろう。魔法を使わず、おとなしくなっている。
「……エレシェフィール」
「えっ、急になんですか? 」
「私の名前。お話聞いてくれる気になったみたいだけど、話すならまずは名前を知らないと」
エンジェリアは、笑顔でそう言った。
「……何を言っているんですか? あたくしは……」
「まだ世界の意思を信じるの? あなたの事なんて何も考えていなかった。あれで大怪我しようと……あの爆発の威力だと最悪……世界の意思はあなたがどうなっても良かったんだと思う。愛という言葉で惑わせて騙していたんじゃないかな? 」
「……そう、みたいですね。そうだとしても、何なんですか? あなたには関係ないでしょう。あたくしはあなたを……」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに視線を送った。ゼーシェリオン達が部屋を出る。ヴェフォムもゼーシェリオン達について行った。
「うん。だから、いっぱいお話しして、誤解を解こうよ。なんで愛姫に憧れたか教えて? 誰も聞いてないから」
「……名前なんて知りません」
「……偽の愛姫なんてなんか、やな感じだから……ラシェキュールはどう? って、私に決められるのなんていやかな? 」
偽の愛姫がふるふると首を横に振った。
「名前に特別な感情を抱いた事などありませんから。急に決められたので由来くらいは気になりますが」
「昔の神獣の言葉。優しい愛」
「そんなの、あたくしには似合いません……あたくしは……売られて……成金の男に買われて……世界様は、あたくしをそこから連れ出してくれて……愛姫になれば、愛されて、優しくされるって……そう、言われたんです」
ラシェキュールが、涙ながらに話をしてくれた。
エンジェリアは、それを黙って最後まで聞くと、ラシェキュールを優しく抱き寄せた。
「そう、だったんだね。ありがと、話してくれて。大丈夫だよ。愛姫になんてならなくても、もう、そんな場所にはいさせないから」
「あたくしは、騙されていたとはいえあんな事したんですわよ! それなのに」
「おかしい、かな? ……ううん、おかしい、よね。私も、記憶を失って、利用され続けて、そんな中で初めて優しくしてくれた人におかしいって言っていたの。何か裏があるって思って、警戒して、いやな態度ばかり取ってた」
今回の転生で、エンジェリアが初めてエクリシェへ来た日の事。エンジェリアは、懐かしく思いながら話した。
「そういえば、私が理由を聞いたから答えたけど、理由なんて何も考えてなかったみたいなの。理由なく人に優しくして、本当に損な性格」
「あなたも変わりませんよ」
「……違うよ。私は、そんなゼロが好きだから。ゼロの願いを叶えたくて優しくするの」
エンジェリアは、ラシェキュールを離して、にっこりと笑った。
「……どんな、願い、なんですか? 」
「みんなが何にも怯える事なく笑っていられる世界」
「それは、本当に夢のような世界ですね。あたくしも、初めからそんな世界を夢見られていれば……騙される事も、こんなに優しい人を傷つける事も、なかったのに」
「私は気にして……なくはないかも」
ラシェキュールのある発言に対してだけは、エンジェリアは、気にするなと言われても気にしてしまう。それを気にしている自分に気づき、そっと視線を逸らした。
「……本当にごめんなさい。あたくしは……」
「魔法とか云々は全く気にしてないよ。それは、何の知識もないのに使うなとか思ったけど……ねぇ、その美しさと身体ってどうしたらできるの? 」
「……えっと、良く分かりません。何もしてこなかったので……なんかごめんなさい」
「……うん。って、そうじゃなくて、騙された方も悪いのかもしれないけど、それを知って変われば良いと思うの。一度失敗したとしても、ちゃんと変わろうとすれば、見てくれる人はいるから。それに、一番悪いのは騙した人だと思うの……えっと、とりあえず、その力は返してもらって、しばらくエクリシェで一緒にお勉強してみない? 」
エンジェリアは、そう言ったあとに俯いた。
「よろしいのですか? 」
「うん」
「……あたくし、エレシェフィール様の……エレシェフィール様と勉強したいです! 」
ラシェキュールが、勢い良くそう言った。その頬がほんのりあからんでいるように見えた。
「ふきゃ⁉︎ 」
突然、ラシェキュールから眩い光が溢れ出す。その光がエンジェリアの中に入った。
「……なんで? 良く分かんないけど、とりあえず、一緒にエクリシェへ帰りたいけど……もう一晩ここで観光しちゃだめ? 」
「一緒に、ですか? 行きます! 行かせてください! 」
「うん。立てる? 」
エンジェリアは、立ち上がり、ラシェキュールに左手を差し出した。
「一緒に行こ」
「どこにでも一緒に行きます! 」
ラシェキュールがエンジェリアの手を取り立ち上がった。
エンジェリアは、ラシェキュールと手を繋いで、ゼーシェリオン達が待つ部屋の外へ出た。
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「お待たせ」
「お待たせじゃねぇだろ。お前、何してんだよ。俺らが魔法使わなかったら」
「使うと思っていたから」
エンジェリアは、ラシェキュールを助けるのには間に合わないと思い、強化魔法をするために防御魔法を解いた。もし、ゼーシェリオン達が魔法でエンジェリアを守ってくれなければ、爆発に巻き込まれていただろう。
ゼーシェリオンが怒っているのをエンジェリアは、頭を撫でて落ち着かせる。
「……」
「……お仕置きはあとにするよ。とりあえず今日は、みんなで観光でも楽しもう。エレ、君は僕とずっと手を繋いで行くよ」
「うん」
エンジェリアは、喜んでフォルと手を繋いだ。
「観光行きたいの知ってたの? 」
「君が物欲しそうにいろんなの見ていたから、見足りないのかなって」
「……フォルらぶなの」
「エレシェフィール様、あたくし、神獣達に顔を見せてはいません。しかも、道に迷いやすいです。目を離すとすぐにいなくなります」
ラシェキュールが、エンジェリアの左手を、両手で握ってそう言った。
「なので、この手を離さないでください。絶対ですよ」
「で、でも……フォルが……両手塞がるのは……でも……」
どちらの頼みも叶えたいが、両手を塞ぎたくはない。エンジェリアは、ゼーシェリオンに視線を送り助けを求めた。
「……そんな嘘を並べてまでエレと一緒にいたいんだな。エレ好きになりすぎだろ。何やったんだ? 」
「お話。仲良しになったの」
「……仲良しで済ませられねぇだろ……エレ、今日は俺と一緒なんだ。他だめ。エレ独占権俺だけ」
ゼーシェリオンがエンジェリアの両手を解放し、抱き上げてきた。
エンジェリアは、普段ならフォルと一緒の方が良いとゼーシェリオンから離れようとするが、今はおとなしくしていた。
「……(くんくん)……すやぁ」
「こんなところで寝んな。観光するんだろ? 」
「分かってるの。でも、ねむねむさん。ゼロ、着いたら起こしてくれる? それまでねむねむってしているから」
エンジェリアは、今にも閉じそうな瞼を少しだけ開けてそう言った。
「……分かった。起こしてやる」
「だいすき。ゼロがいてくれるから、こうやってゆっくりねむねむさんができるの。ゼロだいすき。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ、エレシェフィール」
「うん」
エンジェリアは、瞼を閉じた。
「……負担かけさせねぇためにもこれが一番なんだ。俺に嫉妬すんなとは言わねぇが、少しは隠そうとしろよ」
「してないよ。今度、危険はないけどしばらく帰れない仕事でも押し付けようと思っていただけで。最短十日」




