16話 エレに必要な事
魔法具を完成させ、起動確認をしたあと、エンジェリアは、ジェルドの王達にゼーシェリオンとフォルにした話をした。
話が終わり、部屋へ戻り、ベッドへ飛び込んだ。
「……ふかぁ」
『驚いていたな。まぁ、当然か。あんな事を堂々とエレから言えば。良く頑張った、お疲れ様』
なんとなく、ヴェフォムの唇が額に触れた気がした。
エンジェリアは、左手で額に触れた。
「……うん。ありがと。でも、大変なのはここからだから。むしろここまでは全然大変じゃないの。お疲れでもないの。ここから、みんなで一緒に神獣達を止める。そのための準備をしないといけない……ヴェフォム、何やれば良いんだろう」
エンジェリアは、ジェルドの王達に各自で必要な準備をするようにと言って部屋に戻ってきた。それは自分も同じ。
だが、エンジェリアは、自分がやるべき準備を理解していない。
『……それは自分が必要だと思った事をやるべきだと思うけど』
「それが分かんないから聞いているの。魔法具を色々と準備しておく? でも、そんな事する必要ない。魔法具を出して起動する時間が命取りになる。調合で薬とかを用意しておくのも同じ。そんなものに頼る時間なんてない」
これから対峙するか相手はそういう相手だ。エンジェリアは、枕を抱きしめる。
「準備なんて何も思いつかない。何か思いつくものがあれば良いんだけど」
『エレの場合は誰かと手合わせするというのも難しいか。魔力の調整とかもやる必要ない。エレに必要なのが何かと言われても、すぐにすぐは思いつかないな』
「そうなの。みんなが何しているか聞いてくる」
エンジェリアは立ち上がり、部屋を出た。
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ゼムレーグの部屋を訪ねると快く入れてくれた。
部屋に入ると、部屋の中が寒い。ゼムレーグの魔法だろう。
「ゼムは魔法の調整? 」
「そんなところ。オレは世界を相手にしないとだから。切り札となるものは発動までに時間がかかったので負けましたなんて言えない。短い時間でどこまでできるか分からないけど、できる限り発動までの時間を短縮させる」
ゼムレーグの魔法には、温度の調節も必要となる。それが原因で発動時間が長くなる。
――自分の欠点を知り、それを補うために時間を使う。ゼムらしい気がする。
「それより、何か要件があったんじゃない? 」
「ううん。準備するように言っておきながら準備って何すれば良いんだろうってなって、何も思いつかないからみんなが何しているか見ようかなって」
「そうなんだ。なら、みんなの様子を見て、相談に乗ってあげるのが良いと思う。オレ達は自分でやるべき事が分かっているけど、王達以外はそうじゃないと思うから」
「……うん。ありがと。そうしてみる」
エンジェリアは、そう言ってゼムレーグの部屋を出た。
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王達の心配はないのだろうが、アディとイヴィが二人で何をしているのか気になり、エンジェリアは、アディとイヴィの部屋を訪ねた。
「遊びにきたの。アディとイヴィだけは二人で一緒にいるって言っていたから気になったの」
「そうでしたか。私とアディは部屋の片付けをしていました。散らかった部屋では何もできません」
何もできないほどではないが、部屋は散らかっている。
イヴィは多少も散らかりでも我慢ならないのだろう。
「……えっと、お邪魔しましたー」
エンジェリアは部屋が多少散らかっていてもなんとも思わない派。余計な事を言ってしまう前に、そう言ってそそくさと部屋を出た。
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リビングへ行くと、リーミュナとピュオが話している。
「お姫様」
「フィル? 急にどうしたの? お姫様なんて言った事ないのに」
フィルに後ろから声をかけられて振り返る。
「……暇なら少し付き合って」
「うん。魔法具でも作るの? 」
「違う。きたら分かる」
エンジェリアは、疑問に思いつつフィルについていった。
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フィルについていくと、主に魔法の練習に使っている広場に着いた。
そこには、ゼーシェリオンとフォル、イールグも一緒にいる。
「ゼムも誘いたかったけど、一人でやりたいって言っていたから」
「……その前になんの集まりなの? 」
「世界の意思を相手にするとなると簡単にはいかないから。勝てないとかじゃないけど、対策はしておいた方が良いと思って」
エンジェリアは、きょとんと首を傾げる。
「私は必要なくない? 」
「えっと、僕がフィルに頼んで探してもらっていたんだ。エレが一緒にいて欲しかったから」
「暇だから別に良いけど、一緒にいたって何もできないよ」
エンジェリアは、フォル達の相手をするには力量不足だ。少なくとも、普段のエンジェリアでは。
「それで良いよ。君は僕らの手伝いはしなくて良い。一緒にいたかっただけというわけでもないけど、君は君でやっておいた方が良い事あるはずだよ」
「……思いつかない。何かあるなら教えて欲しいの」
「……偽の愛姫対策。君だけが使える切り札」
エンジェリアの切り札はゼーシェリオンと一緒に使う魔法。だが、エンジェリアだけの切り札と言われて思いつくものがないわけではない。
「……愛魔法? 」
「正解。君が愛魔法を使えるようになれば戦況が最悪になった時の形勢逆転の可能性もある。君が愛魔法を使えない原因の一つはにぃ様の存在で解決できる。あとは君自身の問題だ」
エンジェリアが愛魔法を限定的にしか使えない理由はいくつかある。その中でも大きなものは二つ。
エンジェリアの中にあるエクシェフィーの血が呪いの方に愛魔法を拒絶する。
もう一つは、エンジェリア自身の問題だ。エンジェリアが愛情というものに対して理解と自覚ができない。好きと愛の違いすら分からないエンジェリアには、愛魔法を使うための条件を満たす事ができない。
「……」
「まずは愛のを知るためにいっぱい本を用意したんだ。だからこの本で愛を知って欲しい」
「……そのくらいきっと知ってるの。フォルらぶ。だいすき。これがきっと愛なの。ゼロもらぶ。フィルもらぶ。王達みんならぶ」
エンジェリアは、胸を張ってそう言った。
フォルが呆れた表情をしている。フォルだけではない、一緒に聞いていたゼーシェリオン達まで呆れた表情をしている。
「良くそれで知ってるとか言ったな。フォル、もっと恋愛についての本大量に部屋に送っとけ」
「了解。あとで僕おすすめの本を送っておくよ」
エンジェリアは、フィルの背に隠れる。
フォルをちらっと見ると、にこにこしている。
「まぁ、本で学ぶのも必要かとは思うけど、やっぱこっちが一番必要なんじゃないかな」
フォルが左手を差し出した。エンジェリアは、フィルの背に隠れたまま、左手を伸ばしフォルの差し出した手にちょこんと触れた。
「みゃ⁉︎ 」
フィルがエンジェリアから離れた。
フォルに手を引かれ、フォルの胸に頭がぶつかった。
「君が自分で愛を知る事」
「……がんばる」
「頑張らなくて良いよ。君はいつも通りいれば良い。僕がちゃんと自覚させてあげるから。そうなんだろうとかじゃなく、はっきりとこれは愛なんだって分かるようにしてあげる」
笑顔のフォルの頬が少しだけ赤くなっているように見える。
「……うん」
「俺も俺も。エレに兄妹愛の重要性を教えてやるんだー。ゼロらぶ。ゼロは完璧なおにぃちゃんなのって言ってもらうんだー」
「最近特に兄妹としてしか見られていないからって開き直りがすごいね」
ゼーシェリオンに抱きつかれて頬擦りされる。
「……これは弟だと思うのが正解な気がしてくる……とりあえず、家族愛とか兄妹愛……家族愛と同じかも。恋愛とかの感情を知る事ができるようにするの。短期間で全部できるようになるかは分かんないけど」
エンジェリアは、ゼーシェリオンの頭を撫でながらそう言った。




