4話 今は見ない景色の場所
エンジェリアが泣き止み、フォルとフィル探しを始める。
「まずは情報なの。全部情報なの。情報が全てなの」
「……と、管理者見習いになって学んだらしい愛姫でした。で、どこか大体の場所くらいは分かるんだろ? 」
「ふにゅ。大体の場所なら分かるの。でも、転移魔法はそこに使えないから、早く見積もって三日くらい野宿なの」
エンジェリアは、誰の言葉も聞かずに、そう言って転移魔法を使った。
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人工物ばかりの場所だ。だが、自然もそれなりにある。
高い建物に、空を飛べそうな乗りもの。そんな景色が広がっている。
「……フィルの方だな」
「うん。フィルは人々の文明からできた生命。フォルは自然が生み出す幻想的な生命。ここは、ここそのものがフィルの創り出した空間」
「どういう事ですか? 」
「……ノヴェにぃなら、想像はできるんじゃない? 自分も似たような経験があるはずだから」
エンジェリアは、横目でノーヴェイズを見る。
「……俺がアスティディアをつくったのと同じって事? 」
「うん。それに近いの。でも、そんな可愛い規模じゃない。世界そのものを創るから……一度似たような事をしたノヴェにぃなら分かると思うけど、自分の適性がない限りは、むずかしいの。そして、それを他者が真似する事なんてできないと思って良いの」
「だからフィル様が創り出したと」
エンジェリアは、こくりと頷いた。
「うん。それで、おかしいのはそこなの。どうして、こんな場所を創っているのか。こんな場所、存在しないから、フィルがいなくなったあとに創っている事になるの」
「……自分から自分が囚われる場所を創るわけはねぇ、よな……だが、それをしている。しかも、フィルが」
「そこなの。フォルとフィルは、精神系の魔法は効き目が薄い。かなり強い魔法でも、若干効くかもしれないっていうだけ。でも、若干なら、自分の意思で魔法に打ち勝つ事ができる」
エンジェリア達が知る世界で使われていた電気を溜める銀色の柱に触れる。
「……自分からこんな空間を創っている。その理由が洗脳によるものじゃないとすれば……なんだろう? 」
「なんだろうって……これ」
ゼーシェリオンが目の前にある光の玉に触れる。
光の玉が、弾けて四方に飛び散った。
「これがどうしたの? 」
「……もし、エレの言っていた事が全部本当だとしたら、理由は、この世界に俺達を招くため。そうとしか思えねぇもんがいくつもある」
周囲を見回すと、ゼーシェリオンの言っている事が理解できる。
エンジェリアが怖くないように、灯りの光魔法の玉。触れると四方に飛び散り、灯りを分散する。
明るすぎず、暗すぎず、エンジェリアでも調整できるようにしてあるようにしか見えない。
建物から見える景色も考えてあるのだろう。ところどころに花を咲かせている。
外に素材となるものを採取できる場所がある建物。恐らく、この素材を採取する隣の建物は、魔法具製作のために用意した建物だ。
外で植物を大量に育てる事ができる場所もある。その隣にある他の建物よりも丈夫そうな建物は、調合をするための建物だろう。
どちらもエンジェリアが好きな事をできる建物だ。
「……向こうには雪が降っているの」
離れてはいるが、雪が降っている場所がある。
ここは雪が降っていないが、日差しが強くなく、涼しく過ごしやすい気候となっている。
「……ふにゅ。それっぽいの。ここはエレとゼロのための場所みたい。でも、それならどうしてか尚更分からないの。急にいなくなって、探したらこんな場所でエレとゼロをお招き。そんな事するならずっと側にいろってお話になると思うの」
エンジェリアとゼーシェリオンは、その方が喜ぶ。そのくらいの事をフィルが気づかないという事がおかしな話と、首を傾げている。
「ここは世界と断絶されているっていうのも気になるの。それも、エレとゼロのためにしか思えないけど……どうしてそんな事ができるのかっていうのが不思議なの」
「聞こえねぇのか? 」
「うん。何も聞こえない。世界の声がないなんて、どこにいても聞こえてくるものなのに……世界の声が何も聞こえないのって、なんだか、気が楽な気がするの」
世界の声を聞こうとしても、何も聞こえない。
耳を澄ましても、風に揺れる植物達の音しか聞こえない。
「……とりあえず行ってみるのが良いの。それで考える方が分かると思うから」
「そうだな。行ってみるか。ノヴェにぃ、何かあった時のためにも防御魔法具はずっと起動させといて」
「分かった」
エンジェリア達は、フィルがいる場所へ向かう。
見渡す限り、現在ではほとんど見ないような建造物だらけの景色でエンジェリア達にとっては懐かしい景色の中を
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三日後、エンジェリア達は、フィルがいる場所へ辿り着いた。
他のジェルドの王達を捉えていたような壁はない。
外装は豪華な白い城。
中は、何もない廊下が続いている。豪華な感じはしない木の板。
だが、ただの木の板ではなく足に負担がかからないように、柔らすぎず硬すぎず。
「これはとっても良いの。でも、こんなに良いとここで寝ちゃいそう。廊下として使ってもベッドとして使っても良い。両方を兼ね備えている。つまり、とっても嬉しい商品……って感じがする」
「理解不能だな。それより、ここずっとまっすぐで良いのか? 」
廊下は別れ道がいくつもあるが、エンジェリアは迷わず真っ直ぐ進んでいる。
「……この壁、人が通るとわずかに光ってる」
「ノヴェにぃ、壁に夢中なの。でも、そういう事なの。この壁は光で教えてくれているみたいだから、まっすぐで良いんだよ」
「……エレ様の性格を知って真っ直ぐしか進まなくて良いようにしているようですね。本当に、エレ様の事を良く考えている場所。エレ様とゼロ様はここにいたいと思わないんですか? 」
エンジェリアとゼーシェリオンは、互いに顔を見合わせた。
「ふにゅ。そうだと思うの。エレも、ここにいたいとは思わないよ」
「ああ。ここは俺らがいるべき場所じゃねぇ。俺らは、何があろうと、世界から逃げる事は許されないんだ」
「……それもあるけど、それよりも、みんなで一緒にわいわいしている場所の方が良いから」
エンジェリアは、ゼーシェリオンに笑顔を見せた。
ゼーシェリオンがエンジェリアに笑顔を返す。
「そうだな。俺も、その方が良い。それ以外はいやだ」
「ふにゅ。だから、エレ達はここにいないの。早く行こ。エレ、フィルにちゃんとお話聞かないとだから」
「それも愛姫の役割としてか? 」
「そんなわけないの。愛姫じゃなくて、エレがちゃんと知りたいからってだけなの」
エンジェリアは、ゼーシェリオンの手を握った。
灰色の壁に視線を移す。
「……今度は逃がさないから」
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エンジェリア達は、廊下の終わりまで辿り着いた。
老化の終わりには、白銀の扉がある。扉には、茜色の蕾が描かれている。
「……生命魔法のお花。永遠に蕾の、檻の花」
「そういえば、そんな花あったな」
「うん」
エンジェリアは、左手を扉に触れた。
扉が光り、光から魔物が現れる。
「ふきゃ⁉︎ 」
尻餅をついたが、床のおかげで痛みはない。
蛇のような魔物。エンジェリアは、立ち上がり、ゼーシェリオン達の後ろへ避難した。
「エレは応援がんばるの」
「お前も少しは協力しろ」
ゼーシェリオンの氷魔法で創られた氷柱が魔物をすり抜け壁に刺さる。
いくつも試しているが、どれだけ試しても結果は変わっていない。
「……エレ達だけで来なくて正解だったの。これ、エレ達はどんな事しても無駄たと思う。エレ達の攻撃を全てすり抜けるように設計されている」




