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星月の蝶(修正版)  作者: 碧猫
0章 星が選ぶ始まりの未来
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9話 魔原書リプセグ 星の音 想い


【星の音 最終章 最終話 嘘


 世界は役目を終えました。役目を終えた世界は消滅を待つのみです。


 エンジェリア姫とゼーシェリオン様もこれでこの世界とはお別れです。


「やなの。お別れしたら、また離れ離れ。エレはゼロに会えないの。それに」


 エンジェリア姫は未来視でこの先に起きる事を僅かながら知ったのでしょう。瞳に涙を溜めてゼーシェリオン様に縋りつきなす。


「必ずまた会えるんだ。悲しむ必要ねぇだろ」


「……ぷにゃ⁉︎ 」


 ぴゅりりりり

 

 エンジェリア姫の連絡魔法具が突然鳴りました。メッセージが届いたようです。エンジェリア姫はそのメッセージを開きました。


『ごめん』


 たった一言。それだけが書かれたメッセージ。相手はフォル様。


「……ゼロ、まだ時間あるかな? 」


「ああ。今なら間に合う」


「ふみゅ。フォルを見つけ出すの。それで、どんな事があっても一緒だって言ってやるの」


 前回の記憶に隠されたフォル様の計画。エンジェリア姫とゼーシェリオン様はそれに気づいたのでしょう。


 二人は急いでフォル様を探しに向かいました。


      **********


 フォル様を探して思い出の場所を巡りました。ですがフォル様は見つかりません。


 エンジェリア姫はそれでも諦めずゼーシェリオン様に手伝ってもらいある方法で見つけました。


 息を呑むほどの綺麗な星空。光る動植物。


 美しくも儚い幻想的な世界で、フォル様は一人で佇んでいました。


「良くここがわかったね」


「隠れるなら空間くらい創りだすの。フォルならそのくらい簡単なの。だからエレが魔法いっぱい使って、ゼロにどこいるか探してもらったの」


 エンジェリア姫がとった方法は何十もの魔法を同時に使うものです。それは一人では不可能に近い事です。


 エンジェリア姫は震える手を握り、涙を溢します。


「やなの。エレが、フォルと一緒にいたいの。フォルと一緒にあの日の事を背負って生きたいの! 」


「……分かってるんだろ? このまま僕と一緒にい続けるのはできないんだ。三人で一緒は不可能なんだ」


 それが御巫の運命という事でしょう。御巫候補であってもその運命は例外なくやってきます。それを防ぐのは御巫候補でなくなる事。それだけでしょう。


「だから諦めろって? 俺はともかくエレはお前が導いてくれたあの日からずっとそれだけのために生きてきたんだ。それに、世界の声を聞けるのに世界から嫌われるエレはその後ろ立てがねぇとどんな扱いされるか分かってんだろ」


「そうならないように対策はしてある。君らはただ、何も知らずに幸せに暮らせば良いんだ」


 エンジェリア姫とゼーシェリオン様にとっては、それが一番の幸せな未来なのでしょう。エンジェリア姫はそれに気づいています。


 エンジェリア姫は涙を拭き、振り向きもしないフォル様の背中を見ます。


「……分かったの。それがフォルの望みなんでしょ? 」


「うん。そうだよ。それ以外は何も望まない。今までありがと。記憶がある状態でこうして話せるのは最後だと思うから言わせて。愛してる。どれだけ時が経とうとずっと、ずっと」


 そう言って振り返ったフォル様は寂しそうに笑っています。


 この夢の中で起きた事は決して無駄ではありません。奇跡の魔法でフォル様はどれだけの人を救ったのでしょう。


 ピュオ様とノーヴェイズ様の再会のきっかけを与えました。ルーツエング様とリーミュナ様とアゼグ様が外へ出るきっかけを与えました。イールグ様がピュオ様とノーヴェイズ様と再会するきっかけを与えました。


 リゼシーナ様とルアン様が再び国を取り戻すためのきっかけの一つを与えました。


 それだけの人を救いながら、フォル様は救われる事はなかったのでしょう。時を戻す事はできないのですから。


「ねぇ、まだ時間あるでしょ。なら、エレのお歌聞いて」


 エンジェリア姫の歌は想いを奏でる歌。言葉以上の。エンジェリア姫はその歌に可能性を乗せました。


「愛の星で響いた音はやがてどこかへ消えて

 いつかどこかでまたひびく


 沈んだ、かけらを溢さないでたった一つの愛と枷


 流れゆく星の音と、かけらもつきに光をあたえる龍の蝶に永遠の誓いと暗い大地で祈る静寂の灯火を宿して

 奇跡の瞬間と海の愛を


 消滅の星で消える音はやがてどこかでひびく

 いつかの深愛のメロディーで


 全ての、世界と愛の姫それが変わらぬ星の運命さだめ


 崩れゆく永遠の音と、壊れた星に歌をあたえる最後の王と愛しの時間と枯れた大地で願う静寂の時の音を歌って

 終焉の瞬間と星の光を


 一粒の水滴と一筋の光が

 見せる輝きに呑まれる小さな暗闇


 生まれてくる願いという欲を奏でて


 流れゆく星の音と、かけらもつきに光をあたえる龍の蝶に永遠の誓いと暗い大地で祈る静寂の灯火を宿して

 奇跡の瞬間と海の愛を与えるの」


「……」


「エレ、今回はフォルの思い通りになんてさせないの。だから、待っていてね。エレは……エレ達は絶対に何も失わないから」


 エンジェリア姫が見せる覚悟の灯った凛とした瞳を見せます。フォル様の計画を知り、それが一番良い未来と知りながらも、フォル様のために抗うのでしょう。それがエンジェリア姫ですから。


「……」


 フォル様は何も言わず俯いています。


「ふぇ⁉︎ もう時間だ」


 世界が崩れていきます。そろそろ別れの時間のようです。


 エンジェリア姫はフォル様に接吻をしました。重なる唇を通して魔力を流し込んでいます。


「絶対諦めないから。エレの魔力たっぷりなの。逃げる事なんてできないから」


 エンジェリア姫の特殊な魔力には強力な縁繋ぎがあります。エンジェリア姫が望まなければその能力が付与される事はありませんが、今回はそれを望まれたようです。

 

 これで一度きりの可能性の準備は完了でしょう。


「フォルが俺らを想っているのと同じで俺らもフォルを想っているんだ。だから俺らは絶対にフォルの計画を止める」


「そうなの。そのためにエレ達はこの奇跡を利用させてもらうの。奇跡をおこすの」


 成功すれば本当に奇跡でしょう。エンジェリア姫は愛を理解できず、愛魔法を使えない姫君ですから。


 ですが使えるのは一度。使いどころを間違えればその奇跡は意味をなくすでしょう。


 そんな賭けにまで出てこの奇跡の夢でエンジェリア姫はフォル様を救おうとしたのです。その想いはきっと今の姫にも受け継がれる事でしょう。


 ですが、先ほども言った通り一度きりです。使いどころには十分注意してください。


 世界の崩壊が加速しています。一分も持たないでしょう。


「……もう諦めさせてよ」


 世界の崩壊の直前、フォル様は何かを言っていました。ですが、それだけしか聞き取る事はできませんでした。


 世界は消滅し、エンジェリア姫達は夢から覚めます。


 その時、全てを忘れているでしょう。ですがきっと、想いだけは残ると信じております。


 フォル様の最後の言葉の意味。それは、フォル様の本心です。きっと、その意味を理解しなければフォル様を救い、あの計画を阻止する事はできないのでしょう。


 最後に、エンジェリア姫へエレクジーレス様からの伝言をお伝えします。


『たとえ離れていても、ずっと見守っている。その成長を見ている。我が愛子』


 エレクジーレス様は今もずっとエンジェリア姫を我が子のように想っています。遠い世界で今もずっとエンジェリア姫を見守っております。それは、私も変わりません。


 エリクルフィアの地で今もずっと、エンジェリア姫の行く末を見守っております。そして、何かあればいつでもきてください。必ず助けになりますから。


 魔原書リプセグ追記 星月へ捧げる夢の物語

 星の音 完】

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