その一 side-I
しばらくして目が覚める。朝より頭も布団も重くない。多少は回復したのだろうか。時計を確認すると、時刻は午後一時。皆はちょうど昼休みだ。今日の授業はどんな内容だったのだろうか。私は授業を真面目に聞かないと不安でしょうがない。明日学校に行ったら、誰かにノートを見せてもらおう。そして夜予習復習をしよう。そうでもしないと、彼に追いつくことはできない。
そこでふと思い出してしまった。今日はどんなことを話しているのだろうか。去年も同じクラスだったが、彼が誰かに話しかけている風景はあまり見たことがない。話しかけるのはいつも私から。もしかしたら、今日は静かでいいな、とか考えているかもしれない。私はため息をつく。彼は一人でいるのが好きなのだ。それは知っている。学年が上がってクラスが変わったときは本当に孤立していた。彼は何でもないような顔をしていたが、私としては気になった。
でも今違う。ある事件によって彼はクラスメートと仲良くなった。彼はそう表現しないと思うけど、もう立派に友人と呼べるだろう。きっと今ごろ机を囲んで昼食を共にしているかもしれない。私がいなくとも彼は孤立していないだろう。私がいなくても、彼は居場所を確保しているだろう。ワタシガイナクテモ……。
私は急に不安になった。私の居場所は?そう聞かれれば即座にこう答える。彼の隣だと。しかし、今私は彼の隣にいない。彼の隣には別の人がいる。このままでは私の居場所がなくなってしまう。私は無意識的に立ち上がっていた。彼の元に行こう。行きたい。
それからが大変だった。体のほうは思った以上に回復していたため、普通に歩くことができたが、洗面台に行って鏡を見て愕然とした。そこにはとてつもなく不細工な私が映っていた。病気なのだからしょうがないと言えばそうなのだが、こんな顔では彼の元に行けない。お化粧をして、服装もきちんとしたものに着替えたら、何とか見れるようになったが、正直これが限界だった。でもしょうがない。
外に出てみると雨が降っていた。さすがにまずいかもしれないと考えたが、この程度で諦めないのが私だ。風邪薬もしっかり持っている。しっかり暖かくしている。病は気からだ!私は寮から飛び出した。全ては私の居場所を取り戻すために。
再び体調が悪くなってきたのは、寮を出て比較的すぐのことだった。さすがに雨の中歩くのはつらかった。限界だと感じたが、引き返すことは考えなかった。私はタクシーを呼びとめ、それに乗り込んで彼の家に向かった。
家に着いたときには完全に風邪がぶり返していて、頭がふらふらしていた。オートロックをどうにかかわして、中に入る。目指すは彼の部屋。おそらく彼はまだ帰ってきていないだろうから、部屋の前で待たせてもらおう。
私は部屋の前に来るなり、ドアにもたれかかって座ってしまった。そこで意識は途切れる。