プロローグ side-N
さて。新学期早々起きた妙な事件から、一ヶ月の時間が経過したが、事件についての記憶がだんだん薄れてきて、振り返ってみるといい思い出、などと適当なコメントをつけられるようになってきてはいない。あれは、大変だった。面倒というより大変だった。
正直今のクラスになって最初からあれだったわけで、先行き不安なことこの上ない。もうクラス替えをしてもらいたいね。今度は地味で真面目なやつばかりのクラスに俺を混ぜてもらいたい。事件というのは、ある程度キャストがそろったところに起こるものだ。どんな天才的な大怪盗がいても、天才的な名探偵がいなければそれは大事件にはなりえないわけで、逆もまた然り。つまり、地味で真面目なやつしかいなければ、そこには地味で真面目な日常しか生まれない。至言である。
愚痴っぽくなってきてしまったので、私語はここまでにして、そろそろちゃんとプロローグを始めよう。冒頭で言ったが、新学期に起きた事件から一ヶ月が経過した。現在は五月下旬である。そろそろ梅雨に入るこの季節は夏なのか春なのか微妙な季節である。
この時期に気をつけなくてはならないのは、病気である。季節の変わり目は気温の上下が激しく、体調管理が難しい。気をつけなくてはならない時期である。これは余談だが、五月病とは関係ない。五月病とは周囲の環境の変化とそれに伴う精神的ストレスが原因なので、我々高校二年には関係ない話である。新社会人とか新入生とかがなるわけであって、五月の連休直後にかかる妙な脱力感とは無関係だ。ましてや、病と呼ばれているからといって、風邪やその他の病気と同じ位置づけではない。
また話が逸れてしまったので戻すとしよう。季節の変わり目というのは時代の移ろいに関係なく、やはり体調不良になりやすい時期なようだ。一応言っておくが、俺の話ではない。俺はここ四・五年、風邪はおろか病気の類にかかっていない。きっと俺の体の辞書は病気という言葉を消去したのだろう。しかし、周りの連中は違ったということだ。
そして事件は起こった。いつもと同じ、ある日の平日のことだった。
その日、岩崎が学校を休んだ。