18話 闇の訪問者
颯たちはガルドに敗北し、しばらくの間その場に座り込んでいた。心身ともに疲れ果て、彼らはどうやってガルドを倒すか考え込んでいた。
「どうすれば勝てるんだ…?」颯は悔しさに打ちひしがれ、拳を地面に叩きつけた。
その時、突然部屋の中に冷たい風が吹き込んできた。空気が一瞬で変わり、何かが近づいている気配を感じた。
「何だ…?」リュウクが辺りを警戒して見回す。カンナも魔力を感じ取って呟いた。「この気配…尋常じゃない…」
そして、部屋の陰から一人の男が現れた。彼は黒いフードを深く被り、全身を軽やかな動きで歩いていた。その姿は風のように速く、ほとんど音を立てていなかった。
「誰だ…?」颯が身構えるが、男は一切反応せず、まるで空気のように颯たちの前をすり抜けていく。
その男は、颯たちに目もくれず、ただガルドの前に立ち止まった。
「貴様は…何者だ?」ガルドはその男を一瞥し、斧を構えた。その眼には疑念と警戒が混じっていた。
「お前のような存在は、この世界に必要ない」男の声は低く冷たい。まるで感情を一切持っていないかのようなその声に、颯たちは寒気を覚えた。
「ほう、俺を相手にするというのか…面白い!」ガルドは斧を振り上げ、男に向かって襲いかかろうとした。
しかし、その瞬間、颯たちは目を疑った。
男が動いたのはほんの一瞬だった。ガルドが斧を振り下ろす前に、男の姿はすでに消えていた。そして次の瞬間、ガルドの体は空中で動きを止め、静かに倒れ込んだ。
「…な、何が…?」リュウクが驚愕の表情を浮かべる。
ガルドの体には、無数の切り傷が一瞬で刻まれていた。巨大な盗賊のボスは、まるで何もできないまま、その場で崩れ落ちた。
「殺した…だと…?」颯もその光景に言葉を失った。
「お前…いったい何者なんだ?」颯は男に声をかけたが、男は振り返らずに静かに言葉を放った。
「俺はアサシン、ノワール。お前たちのような未熟者が、この世界を救えるとは思えんが…少しは見どころがあるようだな」
ノワールの声は冷淡でありながらも、どこか興味を引かれたような響きがあった。
「アサシン…ノワール…」リュウクがその名に反応した。「お前は…噂に聞いたことがある。どんな強敵でも一瞬で葬る、影の暗殺者…」
「そうだ。俺は無駄な戦いを好まない。だが、この盗賊どもが世界の平和を乱しているのを見過ごすわけにはいかない」
ノワールは颯たちに背を向け、静かに去ろうとした。
「待ってくれ…!」颯は立ち上がり、ノワールに向かって叫んだ。「俺たちはお前のような力を持っていない。でも、俺たちはこの試練を乗り越えなきゃならないんだ!どうすれば強くなれるんだ?」
ノワールは立ち止まり、ほんの一瞬だけ振り返った。その瞳は冷たく鋭いが、どこか颯たちを見つめる中に興味を抱いているようだった。
「力を得たいなら、まずは己を知れ。そして、敵の弱点を見極める目を養え。俺の技はお前たちには真似できないが、戦い方は学べるだろう」
その言葉を残し、ノワールは影のように姿を消した。彼が去った後、颯たちはその場に立ち尽くしながら、彼の言葉を深く考えた。
「己を知り、敵の弱点を見極める…か。俺たちにはまだまだ足りないものがあるんだな」颯は自分の未熟さを痛感しながら、決意を新たにした。
「でも、諦めるわけにはいかない。次こそ、必ず…強くなる!」
ノワールに出会ったことで、颯たちは自分たちの限界を見つめ直し、さらなる成長を誓ったのだった。
ノワールが去った後、颯たちはアジトを後にして、新たな戦略を練りながら次の試練に向かうことを決意する。それは彼らにとって、さらなる挑戦と成長への道が始まる予兆でもあった。