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第6話「狂気の女の過去」

8月5日投稿分の,1話目です。

鮫島加耶子の行動の背景が描かれます。

「ゼミ室で,死んでいた……!?


 第一発見者がメールを受け取った,翌朝に……!?」


「ああ,そうだ。


 発見前日の昼間は何の準備もされていなかったという証言や,死亡推定時刻からは……“命を落とした翌朝には発見されたかった”ということは明らかだった。


 それも,第一発見者に疑いがかかることなく,確実に変死であるということを世間に知らしめるのに十分なほどね」


「変死であると,知らしめる……?」


 引っ掛かりを覚える如月の様子にこくんと日暮は頷くと,ぎしっと椅子から腰を起こす。


 彼が向かったのは,大学時代の講義の資料や教科書が所狭しと並んでいる棚だった。


「そう。


 彼女の死は,彼女にとって……殺人事件でも,事故死でも,その他のいかなる死因であってもいけなかった。


 今君が見ている記事たちのように……オカルトによって殺された,狂気の女である必要があったんだ」


「……狂気の,女……それが,さっき日暮さんの言っていた話に繋がるんですか?


 生前の鮫島の行動,興味,研究も,彼女が心霊現象に殺されたという結論に至る理由になる,というようなことを仰っていましたよね」


「そうだよ……サラッと言ったつもりだったが,よく覚えていたね」


 笑みを浮かべると,鮫島は棚から紙束を取り出す。


 ぱさっと渡されたそれに如月が目を向けると,一番上には太字でこのように書かれていた。


『心霊現象の維持メカニズム及び規模拡大と,その起源となる事件の異常性との関連』


「超心理学研究室……3年,鮫島加耶子……卒業論文,ってやつですか?」


「ああ……それも,加耶子が学生をしていた当時のね。


 今見てみれば,稚拙な研究さ……倫理の観点からも,到底受理されるような内容にはならないだろうね。


 結局提出前に死んだわけだから,当時から受理されていなかったと言えばいなかったんだろうけど」


「そうなんですね……当時の教授たちの反応はどうだったんですか?」


「勿論異端児扱いだったさ……ま,中にはその突飛さや奇抜さのことを,前衛的だとか新規性だとか言って評価しようとしてる教授もいたけどね」


 呆れたような声を出し,日暮はため息を吐く。


 その様子を横目で見ながら,如月は彼女の研究内容に目を通し始める。


「問題と,目的……都市伝説について,かなり細かく書いてありますね」


「ああ,そうだよ。


 心霊現象の維持メカニズム……確か,その土地に伝わる伝承だったり,心霊スポットに伝わる話だったりを,事細かに調べていたな。


 その影響かどうかはわからないけど,加耶子は兎に角足の軽い奴だったよ」


「……フィールドワークを多くしていた,ってことですか?」


 ああ,と頷き,資料のコピーを持って再びどかっと日暮は椅子に腰かけた。


「あいつはね……兎に角オカルト,心霊現象,降霊術……そういったものが大好きだった。 会うたびにねだられたよ,そういうオカルト話はないのかって。


 それに,都市伝説の噂……たとえばあの地域に伝わる伝承があるだとか,ネットでこんな話があるだとか,そういうのを聞きつけるたびに,研究調査だなんて言って現地まで飛んで行っていた。


 今となっては俺も同じようなことをしているから,人のこと言えないんだろうけどね」


「それを纏めているのが,この内容……と」


「ああ,特に都市伝説に関する内容はね。


 でも,そこに書かれていないようなこともわんさかやっていたよ……教授に色々言われる中で,研究に必要ない部分を削っていっていたみたいだ」


「研究に必要ない部分?」


「そう。


 例えば,降霊術の実験とか……異世界に行く方法とか,未確認生物の探索とか。


 載ってない内容の中で特にあいつがやりたいって言っていたのは……都市伝説の創造」


「……都市伝説の,創造……!?」


 驚愕の目を向ける如月の反応を見て,日暮はうーんと目線を上に上げる。


「今でも怪談話としてあるんじゃなかったっけ?


 川沿いに立っている,オンボロ屋敷に出てくる地縛霊の話」


「ああ……新歓の時に先輩たちが話してた,5人の学生が向かったっていう?」


「そうそう,多分それのことだよ。


 あれは加耶子とオカルトサークルの先輩が発端となって始まった,一種の都市伝説……そのほかにもいろいろと土地に纏わるオカルト話を雰囲気で造ったりしてたんだけど,結局生き残ったのは屋敷の地縛霊に関する話だけみたいだね」


「まぁ,それも後半の内容とか蛇足感ありますけどね。


 というか,どうしてそれをやりたがっていたんですか?」


「それは……。


 ……そうだね,気になるのも仕方ない」


 ぱっと話そうとしたところで,日暮は何か思いとどまったように話を中断する。


 なんだ,と思って如月が見ていると,彼は改めて視線を合わせてきた。


「その詳細はね。


 鮫島加耶子の,本当の研究目的に関わってくる内容なんだ」


「本当の……研究目的……?」


「そう。


 加耶子が本当にやりたかったこと……恐らく彼女を指導していた教授も,メディアも,誰も聞かされていないだろう。


 俺を含め,加耶子と親密な関係だった同期や当時のサークルメンバーだけが知っている……彼女の悲願だ」


 ごくり,と如月は息をのむ。


 鮫島加耶子の悲願……恐らく今まで聞いてきた,彼女に纏わるすべての行動理念がそこに詰まっているのだ。


 大学の学区全域を呪う異常な地縛霊……彼女がそれを目指した意味が。


「……なんなんですか,それは……」


 長い沈黙が二人の間に満ちる。


 恐らく実際に経過した時間は,ほんの数秒にも満たない間だったのだろう。


 だが,お互いにとって,その時間は永遠ともとれるくらいに長く,重い沈黙だった。


 それに如月が耐えきれなくなった頃……遂に日暮は真相を告げる。


「加耶子の本当の目的は……都市伝説への昇華。


 自分自身が怪異となり,人々から恐れられ,伝えられる都市伝説となることだったんだ」


「……!!? と,都市伝説への,昇華……!?」


 あまりの衝撃的な真実に,如月はそれを受け止められないまま,おうむ返しにすることしか出来なかった。


 日暮はこくんと頷くと,鮫島がその考えを持つに至った経緯を語り始めた。


「都市伝説や怪異は,加耶子の生来の憧れだった。


 自身と同じ名前を持つ佐伯加耶子,その前身となる山村貞子にはじまり,トイレの花子さん,テケテケのような学校に纏わる怪異,八尺様や姦姦蛇螺といった地方に纏わる都市伝説……加耶子はそれらを,“ヒトが都市伝説へ昇華した存在”として,特別視していた。


 そして,何度も何度も言っていたんだ……私もあぁいうのになりたい,と。


 呪い,都市伝説,怪異……それらはどのような形であれ,死してなお人々の記憶に残り続ける存在であり,伝えられる限り永遠に生き続ける者達。


 それらと同様の存在になることで,寿命すら超越して,人々の心に刻まれ生き続ける存在になりたい……それこそが,鮫島加耶子の悲願だったんだ」


 語り終え,再び口を噤む日暮。


 如月はしばらくの間,話が終わったことすら理解することが出来ないでいた。


「そん,な……怪異に,憧れた……!?


 い,意味が分からない……何を食ったらそんな思考回路になるって言うんだ……」


「さあね……まぁ,その原点は永遠の存在,死してなお人々の記憶に残り続ける存在だ。


 それだけ見れば,憧れる対象として間違っていないことは事実だよ」


「そ,そうなんでしょうか……まぁ,確かに,そう言われてみれば……?」


「やりたいことや憧れにそこまでひたむきで真剣だったことを考えるとね……あいつの興味がもっと違う方向に向いていれば,あいつはまだ生きていたかもしれないし,もっと違う結末になっていたかもしれないって,今でも思うんだ。


 ま,加耶子本人に聞けない以上,本当にそうだったかを知るすべはもうないがね」


「日暮さん……」


 如月は,今の日暮が鮫島のことをどう思っているのだろうかと思考を巡らせる。


 そのなかで,ふっと如月の中にある考えが芽生えてきた


 もしかしたら……と思いながら,如月は日暮に問いかけてみる。


「そういえば……日暮さんが,ライターに興味を持ち始めたのって,いつからなんですか?」


「いつ……いやぁどうだろうなぁ。


 大学で研究をするうちに自然と……って感じかな,就活もメディア系ばかりだったし」


「じゃあ,オカルトに興味を持ったのは?」


「あぁ,それは就職してからかな。


 入社してしばらくはゴシップとか政経欄とか担当していたんだけど,その中で偶然担当したオカルト記事の出来がいいって褒められてね……そこからさ」


「ふぅん……」


 如月の中で,点と点が繋がっていく。


 そこに如月自身の偏見や憶測が追加され,確信へと変わっていく。


 大学時代に鮫島と交際していたという過去。


 オカルト中心のシナリオライターという,ともすれば鮫島が生きていれば就いていそうな仕事をしている現在。


 鮫島の研究計画書を今でも捨てられないでいることや,メディアも知らない当時の状況や人間性を驚くほど詳細に知っていること。


 十中八九,日暮は今でも鮫島のことを愛している。


 未練がましく鮫島のことを想い続けて……彼女と一緒にオカルトライターをしている自分を夢想していたりするのだろう。


 メディア系にばかり興味を持ったのは,恐らく鮫島が調査に行く姿や報告してくる姿ばかりを見ていたせいで,そうした働き方ばかり想像するようになったから。


 オカルトへの興味は先ほど否定していたように見えて,鮫島の影響であることは明らかだ。


 オカルト記事の出来が良かったのは,大学時代に鮫島が行っていた調査を見ていたり,その結果を参考に記事を書くことができたりしたから。


 何もないところから調べ物をして記事を書くより,既存の知識を使って記事を書いた方が書きやすいのは明らかで,それが今のオカルトライター家業に繋がるのだろう。


 通りで詳しいわけだ……と思いながら,如月はふっと笑みを浮かべた。


「教えてくれてありがとうございます,日暮さん。


 日暮さんの想いも含めて,鮫島加耶子のこと……よくわかりましたよ」


次の話は同日18時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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