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第3話「帰り道」

8月4日投稿分の,3話目です。

本格的な恐怖体験が描かれます。

「そういえば,先輩……今後のサークル活動って,どんなことをするのか決まっているんですか?」


 太陽はすっかり沈みきり,人工的な明かりが照らす以外は真っ暗闇の帰り道。


 如月と鮫島の2人は,車通りの殆ど無い,片側一車線の歩道を歩いていた。


「んん……今のところ部長くんから聞いているのは,みんなで集まって怪談会……いわゆる百物語の小さい番だね。


 それをしたりとか,降霊術をしたりとか……あとは,心霊スポットめぐりをしたりとか,だね」


「やっぱりそんな内容がほとんどですよね」


「っふふふ,そりゃあオカルトサークルなんだから,オカルトっぽいことをしないとね」


 鮫島は境界ブロックに足をとんっと乗せ,器用にバランスを取りながら歩みを進める。


 その様子をなんの気なしに眺めながら,如月はあえて不機嫌そうに続けた。


「けど……正直,今日やったようなのを降霊術って称してるなら,あんまり続ける気は起きないですね」


「あら……そう? どうして?」


「だって……さっきやったこっくりさん,明らかにやらせだったじゃないですか。


 結城先輩が動かしてたの,丸わかりですよ」


「えぇ~,そうかなぁ? ……まぁそうなんだけど。


 とはいえあれは,あくまでお試し降霊術だからね……確か,特定の手順をあえて外して,本当に霊が取り憑くことがないように工夫をした,って言ってたかなぁ」


「本当に霊が取り憑くことがないように……? そんなことが出来るんですか?」


「ま,どれだけ効果があったかなんてわかんないけどね~」


「なんですかそれ。


 何にせよ,あの先輩たちははなっからあの場で霊を降ろすつもりなんてなかったってことですよね……はぁ……」


 落胆する如月とは対照的に,鮫島は笑いながらしょうがないじゃんと言い,あえてやらせを行った理由を語り始めた。


「君以外の子たちは,オカルトなんて全然興味ないような子たちでさ……そういう学生には,実際にその場で霊現象っぽいことを見せてあげるのが一番なわけ。


 本当に霊現象が起きたって思うと,それだけでころんとオカルトを信じてサークルに入っちゃうって傾向があるんだね。


 とはいえ,新歓で本当に降ろしてしまって何かあってはたいへんだから,降霊術体験なんて言って,やらせをしたっていうわけさ」


「そうなんですね……まぁ,そういうことならいいんですけど。


 じゃあ,新歓が終わったら,しっかりとした手順を踏んで降霊術をするんですか?」


「勿論だよ。


 去年の夏前くらいにやったこっくりさんとか,凄くてね……霊感のある子がちょっとやばいのにあてられちゃって,しっかり祓うまでに1カ月くらいかかってたかなぁ……」


「ぇえ!? そ,そんなことが……!!」


 気持ちが沈んでいた如月はばっと顔を上げ,興味津々といった様子で鮫島を見る。


 その様子を見て,現金だなーと言いつつ,嬉しそうに鮫島は続けた。


「そうだよ~,その時は私,見てるだけだったんだけどね。


 何処にお祓いに行ったんだったかなぁ……学区の外まで行ってたから,よくわかんない。


 更屋敷ちゃんに聞いたら詳しく教えてくれると思うよ」


「わ,わかりました,今度会った時に聞いてみます……!」


「うんうん。


 とはいえ,そうだなぁ……サークル活動としては,やっぱり心霊スポット巡りをすることが一番多いっていうのはあるかな」


「心霊スポット巡り……たとえば,どんな?」


「うーん,例えばそうだなぁ……さっき話してた場所とか,結構毎回行ってたりするんだよね~」


 そう言ったところで,鮫島はぴたっと足を止める。


 交差点付近だったため,そろそろお別れかと思いつつ,もう少し話してみたいという気持ちもあって如月も足を止めた。


「さっき話していた……というのは,5人の学生が肝試しに行って死んだっていう,あの?」


「そう。 君はどうも疑り深いというか,うがった見方をする子みたいだから……創作が混じってるってことには気づいてそうだね」


「えぇ,まぁ……特に最後の一人が死ぬところなんか,いかにも怖がらせるための尾鰭な感じがしますよね」


「そう思うよね~。


 私もだんだんそう思ってきてるもん」


「……え?」


 鮫島の発言に違和感を感じた如月は,ぴくっと眉を顰める。


 なんだ,今の発言は。


 だんだん,そう思ってきてる?


 それはまるで,以前はそう思っていなかったかのような言い方ではないか?


 まるで……実際に体験したのに時が経ちすぎて,体験に確証が無くなってきたかのような言い方ではないか?


「……如月くんさぁ。


 あのお話,どこからが“尾鰭”だと思ってる?」


 ぞわっとする。


 何なんだ,その言い方は。


 知っているのか? この人は。


「……わかるんですか?


 どこからが作り話なのか……どこまでが,事実なのか」


 にやりと不気味な笑みを浮かべる鮫島。


「うん。 知ってるよ」


 口を開いた彼女のつぎの言葉は……張り詰めた空気を,一気に破壊した。


「だって……この話を作った人,知ってるもん」


「……は?」


「あっはははははは,騙された~。


 全部尾鰭だよ。 まるまるそっくり作り話。


 もう卒業しちゃった先輩が,学区の端っこにあるそれっぽーい空き家を見つけて,それっぽーいお話を考えた……ただそれだけのことなんだよ」


「……え,えぇえぇええええ!!?」


 驚愕と同時に,一気に如月は脱力感を覚える。


 先ほどまでの緊張感は何だったのか……あのときの恐怖を返してほしい。


 そんな彼を面白おかしく眺めながら,してやったりといった顔で鮫島はクスクスと笑っていた。


「いや~,こうやって意味深な顔してネタバレするときが一番面白いんだよね。


 如月くん,思ってた以上に反応も良くていいよぉ」


「っぐ,そ,そんなこと……からかわないでください先輩!!


 あぁもう,恥ずかしい……!!」


「ごめんごめん,ちゃんと怖い話もあるから,機嫌直して?」


「全く……本当ですか……?」


 如月の下宿先のある道の方に移動し,なんとか機嫌を取ろうとしてくる鮫島の必死な様子を見ると,やがて如月の怒りも呆れに変わっていく。


「ほんとほんと。


 あの話が作り話っていうだけで,屋敷に強めの地縛霊がいることは確かだしね」


「確かって,どうやって証明したんですか」


「……知りたい?」


「えっ……?」


 ふっと笑みを浮かべる鮫島。


 それと同時に,少しだけ周囲の雰囲気が変わったのを感じた。


「知りたい?


 なんで,お屋敷に地縛霊がいるってわかるのか」


 ざあっと強い風が吹く。


 電灯に照らされる鮫島の姿は……不気味なほどにはっきりと浮かび上がっていた。


「……おんなじだからだよ,私も」


「……どういう,ことですか……」


 如月はそう口にしたつもりだった。


 だが,自身の耳でその音を聞き取ることは出来なかった。


「私も同じ,地縛霊。


 土地や建物に半永久的に居座って,呪いを振りまく地縛霊なの」


 周囲の音が薄れていく。


 鮫島の声だけが,はっきりとした言葉として認識され,頭の中に響いてくる。


 思えば部室棟にいた時から,少しずつおかしなところがあったのだ。


 自己紹介の時にはいなかったのに,その時にしか言っていなかった,如月だけにオカルト趣味があると知っていたこと。


 話しかけてきた時以外,その姿を見ることがなかったこと。


 そして,何より……上級生達が如月を呼ぶときの言葉。


『そんなところでぼーっとしてないで,こっちに来なよ』


『またなー新入生君!』


 どちらも,如月と一緒に鮫島がいたはずなのに……まるで如月が1人で何もせずにいて,1人で帰っていったかのような言い方。


 鮫島が……彼らには見えない,霊現象であるかのような言い方だったのだ。


 でも,そんなはずはない。


 本当にそうだとしたら……おかしいじゃないか。


 如月の抱いたこの疑問は,果たして言葉に出ていたのだろうか。


 それとも,目の前の女が直接思考を聞き取ったのだろうか。


「何が?」


 彼女の発したこの言葉も,耳の奥にぐわんぐわんと響いてくる。


 もし彼女が本当に地縛霊なんだとしたら……彼女は一体,どこに憑いているというのだ。


 地縛霊だなんていうのだったら,必ずどこかに縛られていなければならないはずだ。


 たとえばどこかの建物や,道路の交差点のような場所……部室棟なら部室棟,この交差点ならこの交差点。


 どちらだろうと,その場所から出ることは出来ないはずだ。


 だというのにこの女は,平然と俺と一緒に歩きながら部屋を出て,当然のようにここまで歩いてきているのだ。


 何故だ,どうして……結論が出ない如月の思考を後押しするように,鮫島は問いかける。


「……じゃあさ,如月君。


 さっき聞きそびれた質問……もっかい聞いてみよっか」


「……は?」


 不気味なほどの静寂。


 鮫島の言葉は,地の底から,如月の耳の奥に響いてくるようだった。


「地縛霊が呪うことの出来る範囲って,どこまでだと思う?」


 呪うことの出来る,範囲。


 しばらく思考が停止した後,少しずつ疑問が氷解していく。


 地縛霊が,呪った場所に縛られて動くことが出来ない……それは確かなのだ。


 それが,目の前の鮫島加耶子という女は……部室棟から,この交差点に至るまでの範囲を含めた,“ある場所”をすべて呪っているということなのだ。


『学区の外まで行ってたから,よくわかんない』


 何気ないと思っていた筈の彼女の言葉。


 もしこれが真実とするのなら。


 “ 学 区  の 中 な ら , 全 て わ か る ”


 のだとしたら……


 がんがんと,如月の頭の中に警鐘が響く。


 まずい。


 まずいまずいまずいまずい。


 目の前の女の笑みが,どんどん歪になっていく。


 逃げなければならない。


 動かなければならない。


 動け,動け,動け,


 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け


「ぁぁああぁぁあああーーーーーー!!」


 如月の絶叫は,果たしてどこから発することが出来ていたのかもわからない。


 がんっと全力で太ももを殴って強引に体を動かした彼は,そのままの勢いでその場から飛びのく。


 ドッッガアァァアアァァァアアアアアン!!!!


 ガードレールを飛び越えた運送用のトラックが,直近まで如月のいた地点に突っ込んできたのは……彼が地べたに身体を打ち付けるよりも前の出来事だった。


次の話は同日21時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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