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第2話「オカルトサークル」

8月4日投稿分の第2話です。

オカルトサークルの活動が描かれます。

「ねぇ……地縛霊が呪うことの出来る範囲って,どこまでだと思う?」


 彼――如月真実(きさらぎまこと)――が,そんな疑問を投げかけられたのは,あるオカルトサークルの新人歓迎会の最中だった。


 某県某市にある私立大学。


 部室棟と呼ばれる3階建ての建物の一室では,その日,怪談会が行われていた。


「……ぇえ?


 それで,結局その5人は全員いなくなっちゃった,ってことですか?」


 時期は4月の序盤も序盤,様々なサークルが新人歓迎活動に勤しんでいる真っ最中。


 当然ながら,このオカルトサークルもその一つだ。


 新人として部屋にいるのは,男子3人女子2人の合計5人。


 男子は今声を上げた赤尾普(あかおひろし)と,嶋北山彦(しまきたやまひこ),如月真実の3人。


 女子はそれぞれ,儀保愛華(ぎぼあいか)猿山夢子(さるやまゆめこ)の2人だ。


「そうみたい。


 噂によると,大学の学籍簿を参照しても,同じような時期に行方不明になった5人の学生について書かれているんだって!」


 とびきり作り込んだ怖い顔で新入生を脅しているのは,2年生の更屋敷舞(さらやしきまい)


 直前に,5人の大学生がある廃屋で行方不明になった,という怖い話をした張本人だ。


「ひぃい,こわぁあ……!!


 え,その建物って,今でも実在するんですか……?」


 震え上がる儀保にくっくっと笑いかけるのは,同じく2年生の結城魁斗(ゆうきかいと)


「あるよ,実際みんなで行ったことあるし。


 あんときは凄かったよねー舞ちゃん」


「そうそう,今はいないんだけど,霊感持ちのリコちゃんって子がいてね~,もうわんわん泣いちゃって大変だったんだよ!」


「ひえ,なんすかそれ!


 ガチじゃないっすか~!」


 大げさにも思えるほどにビビり散らす嶋北の態度とは対象的に,如月は呆れたように溜息をつく。


 馬鹿馬鹿しい……如月はそう思っていた。


 先ほどの更屋敷の話は,他人を怖がらせる怪談としてはよくできていたかもしれないが,事実として見た時,明らかな矛盾点があるような内容だったからだ。


 怖い話,というものは,体験談であるか,創作であるかというのは非常に大事な要素。


 体験談も体験談でほとんどは創作だろうと思っている如月ではあるが,“本当に起きたかもしれない”と思わせてくれるような怪談は,それだけで面白いもの。


 逆に,それを思わせてくれないような怪談には,もう彼が興味を惹かれることはなかったのだ。


「くだらんなぁ」


 先輩たちに気付かれないように呟く如月は,集団から離れて傍の机の脚にもたれかかる。


 すると,そんな如月に向かって,話しかける声がひとつ。


「やっほ。


 さっきの話,あんまりおもしろくなかったかな?」


「ん……? あぁまぁ,つまんないって程ではないですけどね。


 えっと……?」


 如月が顔を上げると,そこにいたのは自己紹介の時には見なかった顔。


 恐らく更屋敷が怪談を話している最中にでも入ってきたのだろう。


 蛇を思わせる細い瞳は好奇心が強そうな雰囲気を纏っており,黒い長髪は大雑把にカットされていてあまり手入れはされていないようだ。


 左前の浴衣を思わせる白い服装は少々趣味が悪いように感じるものの,ここがオカルトサークルであることを考えるとそういう悪趣味さもありなのだろう。


「そういえば,自己紹介がまだだったね。


 私は鮫島加耶子(さめじまかやこ)。 うーんと,学年は……3年生だよ。


 このサークルでは一番の年上だから,何でも聞いてね」


「あぁ,はい……よろしくお願いします,鮫島先輩」


 如月の隣に腰掛け,軽い自己紹介を済ませると,鮫島は早速話を始める。


「うん,よろしくね~。


 如月君だよね……確か,高校からオカルトに興味があるんだっけ?」


「ええ,まぁ……そうですね。


 さっきの自己紹介でも話しましたけど,動画とか掲示板とかで,よく聞いたり読み漁ったりしてます」


「そうだったね~,実際に行ってみたりしたことは?」


「いえ,そういうのはないんですよね……実家にいると,そういうことって出来ないじゃないですか」


「あぁ,あるある~!


 私もそうだったんだよね……元々家が厳しくてさ~,怖い話とか,オカルトまとめみたいなの持ってると,勉強に使えない無駄遣いをって小言ばっかりで。


 そんな中で大学来て下宿を始めると,親の眼が無くなるでしょ?


 オカルト活動とか,やりたい放題じゃんって思ってさ!」


「あはは,そうですよね。


 俺もたぶん先輩程じゃあないとは思いますけど,ずっとそういうことしてみたくって」


「やっぱりそうだよね~。


 如月君,このサークルにすっごい合ってると思うよ~!」


 ほくほくと顔をほころばせて身体を揺らす鮫島の話に,如月はすっかり引き込まれてしまっていた。


 そんな彼の様子を見て何かを感じ取ったのか,鮫島はふっと如月に身体を近づける。


「ところでさ。


 私,そういう見込みのあるような子には,聞いてみたいな~って思ってることがあるんだけど…いい?


「え,いいですけど……何ですか?」


 ふふっと不敵な笑みを浮かべる鮫島は,如月の頭の奥に響くような声で,そっと問いかける。


「ねぇ……地縛霊が呪うことの出来る範囲って,どこまでだと思う?」


「……え?」


 聞いたことの無い質問だった。


 地縛霊が呪うことの出来る範囲?


 確かに聞かれればわからないし,知ることが出来れば面白そうな内容だが……一体どうやって確かめることが出来るのだろうか。


 如月が答えあぐねいていると,突然遠方から別の先輩の声が聞こえてくる。


「ぉおい,新入生~! そんなところでぼーっとしてないで,こっちに来なよ。


 今からみんなでお試し降霊術,やってみっからさ~!」


「お試し降霊術……?」


 視線を向けると,上級生が見守る中で,新入生のうち数人が1つのテーブルに集まって円形に座っている。


「それじゃあ私の話はあとでまたしよう。 行っておいでよ」


 鮫島にもそう言われたので歩み寄ってみると,その中心には1枚の紙が置かれていた。


「これ……こっくりさん,ってやつですか?」


「お,よく知ってるね~。 やったことあるの?」


「いえ……ただ,有名な降霊術ですし,知ってる人はおおいのでは?」


 笑顔で問いかける説明役の結城に向かって如月は眉を顰める。


 置かれた紙の上部には赤く塗られた鳥居と,両側にはい,いいえの文字……そしてその下には,五十音表と0~9までの数字が書かれている。


 漢字で描くと,狐狗狸さん。


 10円玉を使って周辺に漂う動物霊を呼び出す降霊術だ。


 質問をすることで10円玉が動き,五十音表の該当する位置に移動し続け,鳥居に戻るまでに止まった文字を繋げることで,その質問の答えを示してくれるのだという。


「それがそうでもないんだな~,実際ここにいる新入生君たちはみんな知らなかったんだしさ。


 とりあえず説明した後俺とみんなでやってみることになったから,座って座って」


 胡散臭い顔をする如月に気付いているのかいないのか,結城は少々強引に彼を座らせる。


 一通りの説明を終えた後,結城は十円玉を鳥居に置き,そこに指を押し当てた。


「ほらみんな,ちょっと小さいと思うけど……10円玉に指を置いてみて」


「な,なんだか緊張しちゃいますね……」


「なんかドキドキしてきたっす……!!」


 置かれた指は4つ……如月と結城のものに加え,嶋北と猿山の2人だ。


 ぱちっと電気が消え,雰囲気作りなのかろうそくに火が灯される。


「「「「こっくりさん,こっくりさん,どうかおいでください。


 おいでになりましたら,はいへおすすみください」」」」


 お決まりの呪文を唱え,しばらくの間静寂が部屋を支配する。


「きゃっ!!?」


 猿山の悲鳴が上がったのは,それから間もなくのことだった。


 動いている。


 10円玉がずずずっと紙の上を移動し,その先には“はい”の文字が。


「えっ!? なになになに!?


 ど,どうなってるんですか先輩!!?」


「おちついて二人とも! 10円玉から決して指を離してはいけないよ!!


 離したりしたらどんな呪いが降りかかるかわからないからね!」


 結城の声にはっとして押し黙り,がちがちに緊張したままコインを眺める2人。


 コインは“はい”に移動した後,ゆっくりゆっくり鳥居の元まで戻ってきた。


「よし,降霊は成功だ……二人とも,ここからは何でも聞いていいよ」


 気合の入った声で結城が言うも,当の本人たちは焦って言葉が出せなくなっているようだった。


 その様子にはぁっとため息を吐くと,如月は乗り気でないながらもその演技に乗ってみることにした。


「こっくりさん,こっくりさん。


 この中で一番霊に取り憑かれやすいのは誰ですか?」


 お,いいこと聞くじゃないか……なんて表情でこちらに目を向ける結城の視線など,見なくてもわかる。


 しばらくして標的を定めたのか,ゆっくりと10円玉は動き出した。


 その後,もう何度かの質問と回答を繰り返すと,活動終了時間を知らせるアラームが響く。


 それによって悲鳴が上がって猿山の指が一瞬離れたようにも見えたが,慌てて戻したので恐らくセーフなんだろう。


「こっくりさん,こっくりさん,どうぞお戻りください。


 ……ありがとうございました」


 終了の儀式を終え,ろうそくの灯が消えると同時にぱちっと電気がつく。


 周囲の空気は一瞬にして脱力し,解散ムードへと切り替わっていった。


「っふふふ,どうだった?


 こっくりさん……話には聞いていたんだろうけど,その様子じゃやるのは初めてだったんでしょ?」


 荷物を取りに行く如月のもとに,ひょこひょこと歩み寄ってくる鮫島。


 彼女の眼には,初めての体験をおおいに楽しむ如月の内心などお見通しのようだった。


「ええ,まぁそうですね……


 正直結城先輩が動かしてたのが丸わかりで興ざめでしたけど,まあそれなりに楽しかったですよ」


「素直じゃないな~も~。


 それじゃ,これで解散だけど……私達,2人でもうちょっと話さない?


 君の下宿先に着くまででいいからさ。 ね?」


「いいんですか? まぁ……少しだけなら。


 先輩方~,それじゃあ俺達は,これで失礼します」


「ん,おーう了解。


 またなー新入生君!」


 簡単な挨拶を交わした後,如月は鮫島と共に部室棟をあとにするのだった。


次の話は同日18時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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