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第9話「逢逆峠 前編」

8月6日投稿分の,2話目です。

オカルトサークルのメンバーが,心霊スポットに向かいます,

「ねぇねぇみんな。


 逢逆峠(おうさかとうげ)……って,知ってる?」


 某A大学,オカルトサークルの活動室。


 1年生たちが集まって話している中そんな話題を振ってきたのは,部員の中でも特に活発で明るい性格をしている更屋敷舞(さらやしきまい)


 誰に対しても気さくに話しかける,サークル内のアイドル的存在の2年生だ。


「お,おーさかとうげ? なんなんですかそれ,初耳です」


 彼女の問いかけに一番に反応したのは赤尾普(あかおひろし)


 更屋敷に密かに思いを寄せている内気な学生だ。


「県内じゃ有名な心霊スポットなんだけどね,逢魔が時の逢に,さかさま,逆転の逆に,峠って書いて,逢逆峠っていうの」


「へぇ……な,なんだか変というか,物騒な名前の峠道ですね。


 逆さまに逢う峠……って意味でしょう?」


「ま,正式名称じゃないがな」


 赤尾の言葉に反応したのは,サークル内で部長を務める3年生の遠山傑(とおやますぐる)


 窓際の長机に一人座り,何の遊びか神社かどこかで見るような白色の形代を紙を鋏で工作している。


「正式名称じゃない?」


「ああ。


 本来の名称は,大きい坂の峠で大坂峠だ,別に何の変哲もないだろう?


 そこであるオカルトな噂が流れ始めてから,逢逆峠なんて呼び方がされるようになったんだよ」


「オカルトな噂……なんなんですか? 聞かせてください」


 話に食いついたのは,サークルの中でも内気ながら1年生の中でも特別オカルトに関心のある如月真実(きさらぎまこと)


 それじゃあ私が説明しましょう,と元気よく言うと,更屋敷は胸を張って語り始めた。


「その噂が出始めたのがいつのころになるかは,もうわからないんだけどね。


 大坂峠には,ある“逆さまの怪異”が現われる……なんて噂が立ち始めたんだ」


「逆さまの,怪異……?」


「そう。


 なんでも,ありとあらゆるものを逆さまにしてしまう……標識も逆,空と地上も逆,曲がり道も逆に見えるようにして,大事故を起こさせちゃうような怪異なんだって!」


「えぇええ!? それ,ちょっと危険すぎません……!?」


 最初に悲鳴を上げたのは,嶋北山彦(しまきたやまひこ)


 サークル内で一番の小心者ながら,流されがちな性格が災いして毎度赤尾に活動室に引っ張り込まれている男だ。


 それに加えて大学に入ってそうそうに運転免許を取って親の車を乗り回していることも,特別怪異の危険性に反応した要因だろう。


「ね,ね,やばいよね~!


 その怪異があるせいで,大坂峠ではガードレールに正面から突っ込んで落下シするような事故が絶えないんだってウワサがあるんだよ」


「ま……あの峠は元々急なカーブになっているせいで,曲がり切れずに落ちちまうってだけなんだがな。


 そんな噂が立つには十分なくらい事故が多発した場所であることに間違いはない」


「ちょーっと部長~,オカルト話にマジレスは厳禁ですよ~?」


 ジト目で文句をいう更屋敷にへいへいと返事をする遠山。


 そんな二人の話をこれ以上長続きさせないようにするためか,赤尾が興味津々な態度で更屋敷に話しかける。


「お,面白そうですね!


 気になります,行ってみたい!」


「うんうん,そーだよね!


 ってことで部長! 行ってみましょ,逢逆峠!!」


「あそこかぁ……結構遠いんだよなぁ,県境だし山道だしで」


「やったー! ありがとうございます部長~!」


「まだなんも言ってねえだろ!!」


 コントのようなやり取りのあと,早速更屋敷は計画を立て始める。


 まず彼女が気にしたのは,新入生の中でもまだ話してない女子陣……儀保愛華(ぎぼあいか)猿山夢子(さるやまゆめこ)の2人だ。


「1年生のみんなは全員参加できるようにしたいよね~。


 女の子たちとか,深夜の心スポOKだったりする?」


「そうですね……私は大丈夫です,愛華ちゃんは?」


「私は実家暮らしだからなぁ……親がいるので難しいです」


「あーん残念,まぁそうだよね~。


 それじゃ,男衆は全員参加で,女の子は夢子ちゃんと私かな?」


「えええっ!? お,俺もいかなきゃなんですか~?」


 案の定悲鳴をあげる嶋北。


 だがそれも,赤尾の一言で黙らせられてしまった。


「当たり前だろ,舞先輩や猿山が行くのに男のお前がびびっていかないとか,ありえんだろ?」


「ぅう,そんなぁ……」


「男見せなって,ドライバーさん」


「わかったよぉ……しょうがないなぁ」


「はーい,決定~! 他誰か行く人いる~?」


 半強制で1年生の同行メンバーが決定すると,更屋敷は上級生の部員たちにも話を振り始める。


 最終的にその人数は10人以上に増え,心霊スポットに行くというにはあまりにも大所帯すぎる有様となってしまった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それ以来……Hさんは,かの国には行っていないそうよ……」


「ひぃぃいいい……!!


 な,なんて恐ろしい……私も行けなくなっちゃいそうですぅ……!!」


 それから一週間ほどが経過した,梅雨明けの深夜。


 嶋北の運転する車は,舗装された山道をゆっくり進んでいた。


 車内にいるのは嶋北以外に,如月真実,猿山夢子,遠山傑,そして同じオカルトサークルのメンバーで,遠山と恋人関係にある志島蘭(しじまらん)


 志島は更屋敷との話にこそ参加しなかったものの,その後の上級生を募ったところで遠山と共に手を上げた女性だった。


 ミステリアスで静かな雰囲気を纏った彼女は,国際教養学部に所属し一年間の留学経験もあるという折り紙付きのエリートで,留学の時に集めた海外に関するオカルト話が大得意である。


 今もちょうど海外に関する恐怖体験を語り終え,猿山を震え上がらせていたところだ。


「ふふふ,ま,その国には私も行ったことあるけど,いいところよ。


 そういう話が残るところにさえ行かなければ,ね……?」


「ま,この国にもオカルト話はいっぱいありますけど,だからって日常生活の中がオカルトでいっぱいってわけでもないですからね。


 ところで嶋北,あとどのくらいで着きそう?」


「直線距離ではもうほとんど着いてるようなもんだとおもう。


 山登りがもうちょっとかかりそうって感じかなぁ」


「あら,もう着くの?


 そんなに早かったかしら」


 嶋北の返事に少し驚いたような顔をする志島。


 その言いぐさからは,過去に訪れた時はそうではなかった,というニュアンスが感じられた。


「ええ,そのはずですけど……先輩たちは,前に来たことがあるんでしたっけ。


 景色とかが違ってたりするんですか?」


「いや,大丈夫,あってるぜ。


 前は高崎さんのおっそい運転だったから時間かかっただけだ」


「高崎さん……?」


「俺らの2コ上の先輩で,もう就職してる。


 先輩の中でもだいぶ舐められてるタイプでさ,他の先輩も免許持ってるはずなのに高崎さん以外の運転で心スポ行った覚えがねぇなってくらいの足係だった先輩だよ」


「……そうなんスね……」


 如月は顔も下の名前も知らない高崎先輩に同情しつつ,周りの景色を見る。


 鬱蒼と茂った山の森林は数メートル先も見えないほどの暗闇に染まっている。


 更屋敷からは,峠は大学の学区が一望できる絶景であると聞いてはいるものの,場所自体は学区から遠く離れた県境。


 信頼できる明かりと言えば,乗っている車が発している車内灯やヘッドライトくらいだった。


 ぽーん。


 目的地,周辺です。


 音声案内を終了します。


 無機質なナビの機械音が案内の終了を告げる。


 そのまましばらく進んでいくと,上り坂が終了し,広めに舗装された平坦な道に出た。


「お……着いたっすかね?」


「ん-まぁ,正確にはここじゃないが……この辺であることには間違いないな。


 下手に進んで死ぬのも嫌だし,降りるぞ」


「ひぃ……部長,判断のしかたが怖いですよぉ……」


 道の端っこに車を停めると,全員車から降りていく。


 如月が助手席側のドアを開けると,そのすぐ外側にはガードレールどころか柵すら設置されていない剝き出しの崖になっており,脚を踏み外してしまえばまばらに木々が生い茂る坂道を転がり落ちてしまいそうだった。


「うわ,あっぶねぇな……崖の端っこぎりぎりじゃん,こんなところに停めんなよ」


「ごめんって,他に停めるとこなかったんだよ」


「ほら,文句言ってないでいくぞ如月。


 ちょっと歩けば絶景スポットに着くぜ」


 文句を言う如月の耳に,遠山が聞こえてくる。


 そちらを向くと,既に遠山,志島,猿山,嶋北の4人が揃っていた。


「はーい部長。 ……今んとこ,人数に変わりはないみたいっすね」


 更屋敷が募った時に集まった人数は10人を超えていたものの,それだけの大所帯でスポットに訪れたところで雰囲気が台無しになるということや,それだけの人数を乗せられる車が無いということから,今回は複数のチームに分けて,日付を変えて順番にスポットに訪れるという計画になった。


 如月たちのチームは,その第一陣というわけだ。


「そうみたいね。 スポットによっては,特定の人数で行くと帰る時には減っている,とか……女性を連れていくと取り込まれるとか,いろんな話があるわよね」


「あぁ,それ聞いたことあります。


 特に山って,守り神が女性だから嫉妬して,みたいな理由で女性を同行すると危ないって話になりがちですよねぇ……男の神様でそういう話って聞かないですけど」


「こらこら,危ないこと言わないの。


 まぁでも,少なくともこの峠でそういうことは聞かないから安心して?」


「今のところは逆さまの怪異しか聞かないよなぁ。


 ちょいちょい峠極めてて死んだ命知らずの霊が出る,なんて噂も聞くことはあるけど,怪異に比べてパンチも弱いから続かないんだろう……っと,見えてきたぜ」


 話ながらしばらく歩いていくと,遠山が指をさして1年生の3人に声をかける。


 3人がその方向を見ると,ガードレールに護られながら,木々が途切れて遠くが見渡せるようになっている地点が確認できた。


「アレが本来の……昼間の大坂峠の眼玉さ。


 あそこから,学区全体が一望できるってんで,昼間にはちょいちょい人が来ることもあるんだぜ」


次の話は同日22時に投稿される予定です。

今回のお話が気に入っていただけましたら,ぜひ次のお話もお読みいただきたく思います。

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