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クラスの孤高の狼がなついているのは女装した俺  作者: 有原優


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第42話 理恵子の家

 その後、俺は理恵子の家に向かった。

 女装は解いていない。朱里として理恵子の家に行くことになる。

 家に呼んだのは、愚痴を言いたいからと言うのと、朱里ちゃんに癒されたいからだそうだ。

 きっと俺は今日、膝枕をすることになるだろう。


 向かい、家に入ると、先に帰ってきていた理恵子が、「いらっしゃい!!」と、笑顔で迎えてくれた。

 俺はそれに対し、「お邪魔します」と言って中に入る。

 もう、理恵子の家に入ったのは何回目だろうか。もはや片手では数えきれないだろう。

 


「朱里ちゃんだ」


 武美ちゃんがそう言って俺に抱き着いてくる。


「今日も一緒にアニメ見よ」


 この子はもう俺が男であることは知っているはずだが、お構いなしだ。

 まあ、別に俺としてもそういう事なら性別の垣根無しで対応できる。


「うん、そうね」


 俺はにっこりとほほ笑む。


「ちょっと私が先だから」


 それに待ったをかける理恵子。


「私が先に約束してたの。先約だよ」


 そう言って俺の手を握る理恵子。


「じゃあ、行こ!」


 そう言って俺の手を握り締めたまま、自身の部屋に向かっていく。

 俺は聞き洩らさなかった、武美ちゃんが「ずるい」と言ったことを。


 早速部屋に行くと。


「疲れたー」


 理恵子が泣きわめいてくる。

 そんな理恵子を俺は優しく撫でる。


「理恵子はよく頑張ったよ」


 理恵子はもう俺の膝の上に寝転がっている。

 今の俺は朱里、スカートだ。

 しわが出来てしまう。けど、まあいい。俺の膝の上で寝転がる理恵子は可愛いのだから。



「ねえ、朱里ちゃん」


 理恵子が口を開く。


「どうしたの?」

「朱里ちゃんたちのグループは今どうなってるの?」

「グループね。……まとまらなさそうだったわ」

「どういうふうに」

「朱里関係に苦手意識のある人が多かったわ」


 実際に俺たちの班は正直朱里が邪魔していた。

 何しろ、朱里は朱里に関しては、正直苦手な人がいてもおかしくないのだ。


 そして俺は理恵子に対して、今日会ったことを話した。


「じゃあ、そっちも大変だったんだね」

「ええ、そうね。この口調でやったらいいのかなって思ってきたんだ」


 後半は奏口調で言った。


「なるほど」


 理恵子がそう頷いて見せて。


「それは許さない」


 そう言って見せた。


「なんでだよ」

「だってそれは逃げじゃん。朱里ちゃんを待ちわびている人たちもいるんでしょ。だったら奏君じゃなくて、朱里ちゃんで行かなきゃ」

「……まあ、途中で奏にもなるけど」


 寝室とかな。

 中身が男でも、流石に寝室でも朱里でいる訳にはいかない。


 流石にそれは問題がありすぎるのだから。


「私は奏君も好きだけどさ、朱里ちゃんが苦手ない人がいるからっていう理由だけで、朱里ちゃんをやめてほしくないの。だからお願い」

「朱里ちゃんファンとしてか?」

「うん」


 理恵子は頷いて見せた。


「分かったわ」


 そう言って俺はにっこりと笑顔を浮かべた。


 そして、今度は理恵子が泣き言をいう番だ。

 理恵子曰く大変らしい。

 というのも、グループメンバーとなった人たちがみんなコミュ力の高い人たちで会話について行けないみたいだった。


「私やっぱり朱里ちゃんか奏君がいないとだめだよ……」

「そもそも理恵子って人を避けてたもんね」


 理恵子のグループは男子が多めとなっている。


「うん。朱里ちゃんのおかげで何とかなってるけどさ……今も好意もたれたらどうしようかなんて思ってるもん」

「その時は俺が守るよ。男だし」

「ありがとう」


 そう言って理恵子は背中を俺に預ける。

 俺は咄嗟にその体を支えた。


「急にやめてよ」

「いいじゃん。甘えさせてよ」


 まるで猫だ、と俺は思った。


 そしていつの間にか、理恵子は眠りについてしまった。

 俺はそんな彼女をまた優しく撫でる。


 そして、理恵子の体をお姫様抱っこして、近くのソファに寝転がした。

 きっと疲れていたのだろう。


 俺は、階段を下りる。

 理恵子が眠ってしまった今、手持ち無沙汰だ。


「あ」


 そう言って俺の元へと元気よく駆けていくのは、武美ちゃんだ。


「お姉ちゃんは?」

「眠ったよ」


 俺がそう言うと、「じゃあ、独り占めできるね」と、可愛らしい笑顔をこちらに向けてきた。

 俺は、「そうね」と言って、武美ちゃんの隣に座る。


 すると、手慣れた動きで、アニメを流した。


「これ、男装してスパイする話! 面白いよ」


 そう言った。

 なるほど、と、俺は彼女の趣味嗜好からこのアニメの内容を、理解した。

 というか、

 俺は女装が好きだけど、別にトランスジェンダーなわけではない。

 しかし、楽しめないという訳でもない。

 武美ちゃんと一緒に、武美ちゃんの推し話を聞きながら、アニメを思う存分に楽しんだ。


 最後に、後でもう一つ見てもらいたいなあ、と言われた。

 

 それに対し、俺はまた今度ねと返す。



「理恵子」


 俺は、見終わった後、理恵子のもとに行った。

 理恵子はまだ熟睡状態だ。

 しかし、もう1時間くらい寝ている。


 確か、昼寝をし過ぎたら、夜に眠れなくなると聴いたことがある。

 そうなれば、理恵子にとって良くないだろう。


 俺は理恵子の肩をトントンと叩く。

 この可愛らしい寝顔。起こすのはしのびない。


「ん、なぁに?」


 そう言って理恵子は目をギュッとつぶり、そして明けた。


「あ、朱里ちゃん」

「もう、6時よ」


 そう言うと、「え?」と、一手馬っと起き上がる。

 そして、スマホを取り、時間を確認する。


「本当だ……」


 そう言って、俺の顔を見る。


「私一時間も寝てたの?」

「ええ」

「なるほど……はあ、せっかく家で朱里ちゃんに甘えるチャンスだったのに」


 そう無念そうに言う理恵子は見るからに悔しそうだ。


「私もそろそろ帰らないとって思って」

「ええ、今日も泊ってよ」

「え、泊ってよ?」

「うん」


 頷く。


「はあ、仕方ないわ」


 俺はそう言う。

 理恵子の気は落ち着かないだろうし、そもそも今の彼女自体。甘えん坊モードになっている。

 別に俺は、いやじゃないし、そもそも何回も泊ってるから、今更だ、という話だ。


「やった!」

「じゃあ、寝るか」


 俺が言うと、理恵子は「うんっ!」と元気よく告げた。


「って、寝ないよ。ご飯食べるから」


 元気のよい。乗りツッコみだ。

 もう既にご飯を一緒に食べるというのは、親に言ったらしい。そして例の如くOKが貰えたのだ。


「じゃあ、いただきます」



 私はそう言って手を合わす。

 そして、ご飯を食べていく。


「今日もおいしいです」


 俺は理恵子のお母さんに対してそう言って、笑った。


「そう、嬉しいわ」


 にっこりと笑みを浮かべる。


 そして、俺はどんどんとご飯を食べていく。

 中々美味しい。


「美味しいでしょ」


 そう、武美ちゃんが言う。


「ええ」


 俺は頷く。


 そのまま俺たちは楽しく食事をとり、食後は、


「一緒にアニメまた見よう」


 と、武美ちゃんが言う。

 それは先ほど言っていたものだ。

 あれだけじゃ、物足りなかったのか。


「でも、」


 俺は一瞬迷う。


 だけど、直ぐに別にいいやという気持ちになった。

 今回、武美ちゃんが布教したいだけ。ならば、俺はそれにこたえるべきだ。

 今日二つ目なのは気になるが、別に嫌な訳じゃない。


 俺は「分かったわ」と言ってテレビに向かう。


 テレビの中では、ミルクレアがやっている。さっきのアニメは男装だったが、今度は女装だ。


 そのアニメの内容は、スパイが女性に変装して、学校に侵入する。

 そう、とある女性を守るために。

 だけど、その中でトラブルに襲われ、その対処に襲われるといった感zにのストーリーらしい。

 見た感じ、恋愛要素もありそうな感じだ。


「どうだった?」


 目を輝かせて俺に詰めかけて来る。

 その光景は一種の脅迫だ。


「面白かったわよ」

「だよね、だよねえ」


 長子がいいとは、まさにこのことを言うのだろう。

 でも、笑顔で楽しい。


「本当に主人公が可愛いの。だって、ドキドキしてる様子がさ、不思議なほどに愛しくてさ。なんか、こう。かわいい系男子ってこういうのを言うのかなって。だけど、可愛いだけじゃなく、戦いの時にはしっかりとカッコよくて、っ本当に素敵なの」


 しかし、本当に楽しそうに話しているな、と、俺は思った。


 そう言えば、だが。理恵子とはこういう話をしないのだろうか。

 少し気になる。


 そして会話もそこそこにお風呂にも入り、理恵子と二人でベッドにもぐる。


「はあ、今日も朱里ちゃんと眠れる」

「今の俺は奏だけどな」


 女装を既に説いている。


「今日は来てくれてありがとうね。おかげで頑張れそう!!」

「どういたしまして」


 俺は小さく頭を下げる。

 とは言っても布団の中なので、理恵子にはほとんど見えなかっただろうが。


「どういえば、今日も武美ちゃんに付き合わせちゃったね」

「ああ、そうだな」


 今日は色々と付き合わさてた。実の所あれからもアニメを見たのだ。今日一日で五つはアニメを見ただろう。

 だけど、勿論強制的には見させられてはない。俺が自分の意思で見たのだ。


「俺は楽しかったよ」

「そう、それならよかった」


 そう言って鈴美は笑う。



「本当にあの子、朱里ちゃんが好きだからね」

「ああ、みたいだな」


 彼女の俺への執着は異常だ。まるで、実の姉、あに?のように。


「ねえ、奏君は武美ちゃんのこと好き?」

「は?」


 俺は目を見開く。すると慌てて、「違う違う」と理恵子は手を振る。


「人として」

「ああ、そう言う事か」


 とは言っても、実際そう言われても困る。

 だけど、一つだけ言えることはある。


「嫌いではない」

「素直じゃないんだから」


 素直じゃないとはどういう意味だ。


「やっぱり朱里ちゃんも好きだし、奏君も好き」

「そうかよ」


 そう言われても、どう反応したらいいのかは分からない。


「ふふ」


 でも、理恵子は満足したそうだ。


「やっぱり不思議だよね。奏君ってさ、性欲ってあまりないよね」

「え?」


 突然のその言葉に俺は目を見開く。


「突然言ってごめんね」

「ああ、それはいいんだけど」

「やっぱりさ、奏君モードの時も、人の事エロいだなんて思ってるところ見たことないから」

「確かにな」


 一応、と言ってしまえば失礼だろうが、理恵子も女子だ。

 今は女子に密着されている受胎。

 それに、武美ちゃんに接着された時もあった。

 そのどの時も、エロい、とか男の本能が出てこなかったのだ。


「知らなかったのか?」


 俺は訊く。


「気づかなかったわけじゃないよ。気づかないようにしてただけ」


 そうだったのか。


「だから、前も言ったかもしれないけど分かってるんだよ。奏君はまだ私の事を友達としか思ってないんでしょ」


 そうだ。

 ハグだとかキスだとか。そんな行為はしていいとは思っている。だけど、それはしたいわけではない。


「ごめんね、深夜テンションで話しちゃって」

「それはいいんだ。事実だから」


 何一つ間違ったことは言われてない。


「でも、俺は理恵子と一緒に暮らしたいと思ってるよ」

「え?」戸惑いを見せる。


「それだけは思ってるよ」


 俺の一番の理解者は理恵子だ。

 それに、ずっと一緒に住んだら、楽しいだろうなとも思っている。


 実際家で一人で過ごすよりも、理恵子の家にお邪魔したときの方が楽しい。

 疲れることもあるけれど、それでも楽しいのだ。


「こういうのなんて言うんだっけ、味噌汁を毎日のみたいだったか」

「確かに言うね。私は味噌汁作ったことないけど」

「今度作ってみたらどうだ?」

「その時は奏君……朱里ちゃんが作ってよ」

「それもいいな。明日にでも作ってみるか」

「うん!!」


 そしてそのまま、楽しく会話をして就寝した。


 その日、俺は理恵子を抱きしめながら寝た。

 理恵子に抱き着かれることはあっても、俺から抱き着いたことはほとんどないのではないだろうか。

 だけど、そんないつもと違う夜も、俺は楽しかった。


 翌朝。俺は六時に起きた。

 まだ、理恵子の親は起床していない。

 そんな中、勝手に料理を作っていいのかという気持ちになったが、いざとなれば食品代は後で支払えばいいだろう。

 まずは約束通り、味噌汁だ。

 勝手に冷蔵庫を調べ、食材を集め、作る。

 正直味噌汁は、そこまで難しくない。

 そもそも俺もずっと一人暮らしをしてきていた身だ。作り方くらい覚えている。

 ささっと食材を切って、味噌汁の元を作るだけだ。

 せっかく作るんなら、味噌汁だけというのも味気ない。作れるもの、朝という事なら、あれがあるじゃないか。

 俺はすぐに支度をして、卵を焼いて、スクランブルエッグにする。ただ、もちろんそれだけではない。

 目玉焼きや卵焼きなどなどいくつもの料理を作っておいた。

 材料費は後で、理恵子に手渡そう。


 そして出来あがった料理を見て、俺は満足げに汗を拭いた。

 料理という物は、体が熱くなるものだ。

 さて、朝しなきゃならないことはそれだけではない。

 俺はメイクをして、朱里になった。


 そして、皆が起きて来るのを出迎えた。


「おはよう」


 武美ちゃんが元気よく言う。それに対し俺も優しく手を振った。すると、武美ちゃんは屈託のない笑顔を見せてくれた。


「あ、ね、これ料理?」

「うん。早起きして作ったの」


 俺がそう言うと、武美ちゃんは冷蔵庫を開く。そこには俺の作った料理がたくさん置かれている。

 それを見て、「おいしそー」とうなり、腹の音を出した。


 そしてあっという間に次は理恵子が下りてきた。


「おはよう、朱里ちゃん」


 理恵子は眠たそうに瞼をこすっている。


「眠たいの?」

「うん、ちょっとね」


 と、次の瞬間、理恵子は冷蔵庫の中を見る。


「あ、料理が入ってるじゃん」

「私が作ったの」


 俺がそう言うと、すごい!と理恵子は手を叩く。


 その後、理恵子のお母さんも来たことによって、書k隋が開始された。

 ちなみにお金を払います、と言ったがそれは断られた。

 無論、逆にお駄賃を上げたいくらいと言われた。


 それはもちろん、いらないので断ったのだが。


「美味しい」


 早速理恵子がそう唸る。

 美味―とでも言いたそうな満足げな顔だ。


「味付けがちょうどいい。なんかさ、濃くも無くて、薄くも無くてさ」

「私はもっと濃いのが好きー」


 そう言って醤油をだくだくと、さらに入れてびっちゃりと卵焼きにつける武美ちゃん。


「それにしてもすごいよね。これだけの料理を作っちゃうってさ」

「大したことないよ」


 そこまでの手間は加えていない。全部合わせても四十分もかかっていない。


「朱里ちゃんってやっぱり主婦の才能あるよね」

「それ、どういう才能?」


 そもそも俺は男だから、主夫だし。


「ありがとうね」と、理恵子の母。


「おかげで楽だわ。明日の料理の準備しなくていいし」


 そう言って笑う。

 なんだか居心地がいい。

 俺は何となく楽しいと思える。

 そんな朝だった。

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