第41話 アンチ
その日のホームルーム。
修学旅行の話が始まった。
修学旅行の行き場所は沖縄だ。
季節は夏から離れるが、それでも海という事で、海にちなんだ旅行日程であることが明かされた。
バナナボートというものや、シュノーケルなどなど様々な遊びが催される。
ビーチバレー大会などというのもやるらしい。
勿論学びのために色々な歴史的な場所にも向かうのだが、それを置いといても海というのは楽しい場所なのだ。
「朱里ちゃんの水着姿が見れるぞー!!」
「水木姿どんなんだろ」
約二名ほど、朱里の水着姿を妄想している人もいるようだ。
流石の俺でも水着姿は無理だ。流石に胸は生やせない。
それこそ、性転換手術でも受けなければだ。
俺には受ける予定などない。だからそんな未来はない。
せめてスクール水着が精いっぱいだ。
そもそも、プールでもほとんどやらなかったように、メイクも落ちるわ、ウィッグも崩れるわ、あまり適していない。
今の所朱里では入るつもりはない。
そして早速班分けの話となった。
班分けはクジという事らしい。
つまり、必ずしも理恵子や修平と一緒になれるとは限らないらしい。
という事は、好きじゃない感じのグループに入ることになるかもしれないという事。
それは正直嫌だ。
嫌だが、そこは我慢しなければならない。
そのグループになってしまったのだから。
とはいえ、未知の感じがして少しワクワクしている気持ちもある。
また新たな悦びを得られるかもしれない。
そしてくじ引きが開始された。
「朱里ちゃんと一緒のグループになれたらいいなあ」
そう、理恵子は呟く。
俺も理恵子と同じグループになりたい。
それは別に修平でもいい。とにかく知り合い誰かと一緒のグループにさえなれればいい。
だが、現実はそう甘くない。
クジの結果、理恵子や周平とは違うグループになることが確定してしまった。
「理恵子……」
「朱里ちゃん」
俺たちはそう言って互いに抱きしめ合った。
「早く行け」
修平にそう言われてしまった。
仕方ない。
理恵子と修平と一緒になれなかったのは辛いところだが、きっと新しいグループでもきっとうまくやれる。
そしてそのグループに行くと、そこには二人の男女がいた。グループは男女5人(男子3女子2)グループだ。勿論の事、俺は男児扱いだ。
まあ、当然だな。俺は、トランスジェンダーではないのだから。
「おお、朱里さんじゃないか」
そこにいた男子は馬淵 聖。バスケ部の一員だ。
熱血担当で、文化祭では料理を作っていた。
「よろしく」
そう言って手を強く結ばれた。
俺はそれに対して「よ、よろしく?」と返す。
思った以上に積極的に来られて少し困っている。
「少しは話したいと思っていたから嬉しいよ」
「ありがとう」
そう言って俺はにっこりと笑顔を返す。
その顔を受けて馬淵君は顔を赤くしている。
俺も男なんだけどな、とふと思う。
だけどそれは関係が無いのだろう。
朱里は可愛いのだから。
そして俺はそこにいたもう一人の姿を目に捕らえる。そこにいたのは、水木さんだ。
俺が彼女の顔を見ると、そっと顔を背けた。
やはり嫌われてるなと思う。
結局文化祭では俺の勝ちという事になっている。実際に俺の方が人気が高いからだ。
そう、嫌われて当然なのだ。
だが、もう一人ため息を吐いた人がいた。
それが、渋沢豊だ。
どうしてため息を吐くんだ?
彼は、あまりたいして積極的なイメージは無いが。
「なんで君となんだ」
なんだか今聞きづてならないことを言われた気がする。
「どうしたの?」
俺は出来る精いっぱいの笑みで彼に話しかける。
「分かっているだろ」
そして一気に吐き捨てる。
「男のくせに女装するなんて、恥ずかしいとは思わないのか」
そう言えば忘れていた。
俺が女装することに対して批判意見を聞くことはあまりなかった。
しかし、こういう反応をされても不思議ではない。
何しろ、一般論。こんな喋り方の男。好みの人もいれば苦手な人もいる。
それは当たり前の事なのだ。
しかも俺の場合は、性乖離症とかでもない。
ただ、趣味でしているだけなのだ。
嫌いな人がいて当然だ。
「無理もないわ。苦手な人がいるかもしれないって、元から思ってたことだもの」
「っそんなこと言うのかよ」
「ええ、当然よ。全員仲の良い方がいいでしょ」
そう言って俺は笑った。
「うるせえ」
そして、黙った。
「黙ってみていたら聞きづてならないな」
馬淵君が会話に加わってきた。
「それは朱里さんの勝手だろ」
「YESマンうざいんだよ」
「……グループ変えてもらう?」
メンバーに苦手な人がいる。それも十分にグループを変えるにたる十分な理由になるだろう。
「いや、いい」
そう言って、黙ってしまった。
とりあえずグループは変えなくていいのだろうか。
俺的には、気まずいから別グループになって欲しいんだが。
まあいいや。
そしてその後最後の一人。
葉山由香子。
彼女は物静かな人で。
「こんにちは」とだけ言った。
それだけだ。緊張しているのだろう。
そして席について、先生の話を聞いた。
三泊四日で、それぞれ宿はグループのメンバーが部屋メンバーだ。
そして、二日目に海に行くのは確定らしい。
今回の修学旅行。文化的な場所にもいき、歴史的場所、そして、自然的に広大な場所にもいく。
その渡されたスケジュールを見ると、わくわくしてくる。
そして、一番大事なのは、最後だ。
三日目は自由行動とする。
つまり、三日目にどこに行くかは班に任せるらしい。
当然単独行動にならない限りは、自由に行動していいらしいが、それでも班で決めた行き場Ý祖、そこから著しく離れることを禁止とする。
ふう、この班で、上手く決まるのだろうか。
先は長いな。
そして、20分の自由時間が与えられた。
はあ、理恵子や修平のところに行きたい、そう思いつつ、俺は訊く。
「どこに行きたい?」
そう、出来るだけの優しい声で。
水木さんと、渋沢君は沈黙を維持している。
気まずい。気まずすぎる。
俺が原因だからメンバーから抜けられるか聞きたいところだ。
だが、俺はこれでも悪くないと思っている。
俺は理恵子ではないが、朱里の事を世界一番の美女だと捉えている。
それなのに、このメンバーすらまとめられなくて、何が朱里なんだ。
「私としては、今は間あげがまとまってないから、とりあえず行きたいところをみんなで調べる時間にしたらいいと思うのだけど、どうかしら?」
俺が訊くと、「それがいいわね」そう言って水木さんはスマホを触り始めた。
積極的で助かる。
彼女は俺の事を全面的に嫌っているとかじゃなさそうで、助かる。
「俺もいいと思う」
「わ、わたしもです」
結果として渋沢くん以外の承諾が得られた。
そこから俺たちはスマホで調べ始める。
まず、目に映ったのは水族館だ。
水族館、俺も良くは知らないが、沖縄の生態系はおそらくこちらとは違うだろう。
そうなれば、きっと、新たな魚とかが見られるだろう。現に、深海魚コーナーなどもあるらしい。
更に当然と言えば当然だが、イルカショー名地もある。
そして、歴史的な場所もふと調べた。
沖縄は元々、明治政府によって日本に併合される前は琉球王国という独立国だった。歴史の授業でそう、学んだのだ。
日本領になる際に清国ともめたりしたらしいが、そこは今は関係が無い。
とりあえず、琉球王国の時、王族の居住地だったらしい首里城。そこもまた行ってもいいなと思った。
結局その時間は調べるだけに終わった。
続きはまた話し合う事になる。
結局渋沢君とはそこまでは仲良くなれなかったなと思う。
が、せっかく班メンバーで一緒になったのだから、話しかけて見たいなと思う。
そして、
「つっかれた」
理恵子はしなしなだった。
しなしな、比喩表現だが、実際にかなり疲れている様子だ。
「私、そもそもの根が暗いから、どうやって話しかけたらいいのか分からないしさ」
理恵子は俺と出会う前、そもそもクラスでは孤高の狼なんて言うあだ名を陰でつけられるほど、人間不信だった。
その理由は、出会い中だったわけだが、それが晴れたとしても難しい部分もあったのだろう。
「文化祭で少しマシになったと思ったのに、結局私駄目だ」
そう言って彼女は息を吐く。
俺はそんな彼女に対し、「大丈夫よ」と、優しく告げる。
「理恵子は今日よく頑張ったわよ。私がいないのに、一人で良く戦ったよ:
そう言って俺は彼女の頭を優しく撫でる。
「そうだよね、そうよね」
そう言って理恵子は勢いよく俺に抱き着いてきた。
「じゃあ、今日は朱里ちゃん成分補給させて。家に泊まって」
「え、えっと」
別に泊まるのは構わない。
「じゃあ、荷物取りに行かせてくれたら泊まりに行くわ」
「ありがとー」
そう言って再び理恵子は抱き着きに来る。
「はいはい」
そう言って俺は理恵子を優しく抱き返した。




