第40話 雑誌
その数日後、ついに、撮影が始まった。
結果色々とあり、雑誌に載るらしい。
そして一月後、ついに雑誌の販売日となった。
俺は親父にそれを教えてもらい、近くのコンビニで購入する。
言われているから知っているが、表紙とか目立つ場所にあるわけではない。
実際のところ、今回は急遽付け足した形なので、細かいコーナーにいるらしい。
俺はすぐにそれを手にしレジに持っていく。この時ばかりは表紙とかじゃなくてよかったなと思った。何しろ、俺がまさに雑誌に載ってる人物なのだと、ばれずに済むのだから。
レジで購入した後、それを学校に持って行く。
「買えた?」
そう、訊いてくるのは理恵子だ。
「ええ、もちろんよ」
俺はそう言って雑誌を見せた。すると、「やった!」と理恵子が笑った。
その後二人で歩いて学校に向かう。
雑誌は流石に目立つ場所には持っていけないので、カバンに入れておく。
俺と理恵子としてはカバンの中ではなく、手に持って歩きたかったのだが。
「表紙だったら良かったのにね」
理恵子がぼそっと呟く。その顔は寂しそうだった。
「流石にそんなわけには行かないでしょ」
流石にそれは無茶が過ぎる。
だって、俺が表紙とかだったら、漫画の主人公だとしてもおかしすぎる。こういうのはじわじわと知名度を上げていくのがいいのだ。
そもそも親父がマネージャー的な役職に就いたおかげで俺自身は何もしていない。
だからもしこれで拍子になれたとしても、俺自身には何の感慨も湧かなかっただろう。
そう、これでいいのだ。
「じゃあ、今から読む?」
「いえ、学校に着いてからにしましょう」
堂々と持って歩けないから、カバンにしまってるのに。そもそも今読みある気をしたら、歩きスマホならぬ、歩き雑誌だ。
そもそもうちの学校の校則は緩い。
雑誌の持ち込み禁止なんてことはないはずだ。
だから読みたければ学校で読める。
「分かった」
理恵子はそう言って唇を尖らせた。
早く読みたいのだろう。
「だったら早く学校にって落ち着いた場所で読みましょう」
「うん」
そして学校に着いた。まだ時刻は8時ニ十分。ぼちぼち人が集まりだしたころだ。
急いで学校に向かったおかげで読む時間が十分にある。
理恵子はじっと俺の隣に座る。
そして、俺の顔を見る。
俺の顔に何かついているのだろうか。
「なに?」
「早く読んで」
今読もうとしているところだよ、と言いたくなってきてしまう。
わくわくしてる感じの雰囲気がする。
だが、俺は一概にはわくわくしているとは言えない。
理由は単純だ。
怖いのだ。
俺は自身の女装に自信を持っている。が、それでも周りから見たらどうなるかは分からない。
それに、雑誌で見るのは現実で見るのとは違う。
例えばこの表紙にいる女性モデル。何回がそう言う雑誌で見たことがある人だ。
やはり美人だなと思う。それに対して男子である俺が勝ちうるのか、その答えなんてわからない。
「大丈夫だよ」
その言葉に俺は顔を上げる。
「朱里ちゃんなんて美人になっているに決まってるよ」
その言葉に俺は数秒だけ待って、「そうね」と返した。
不安なんてないじゃないか。だって俺は、朱里は可愛いんだから。
そして俺は勇気を振り絞り、その雑誌を開いた。
理恵子がそこに顔をのぞかせてくる。
確か真ん中らへんのページに乗ってるという話だった。
俺は一枚一枚ページを開いていき、そして、ついに俺の姿を目に捕らえた。
俺はその瞬間、見とれてしまった。
そこにあるのはブランド物の服に身を包み、カバンを持っている俺。
こうして本になって俺の姿をまじまじと見るのは恥ずかしい。しかし、その一方で美しいと思う。
こんなことを思えば、それは自梶さんにアンるかもしれないが、この中で一番美しいと思う。
「流石朱里ちゃんだね」
「ええ、美しいわ」
俺たち二人は授業が始まるまでじっとその姿を眺めているのだった。
俺はその後の授業の時間、常に上機嫌だった。
「なあ、奏」
一回目の休み時間に、修平がやってきた。そう言えば最近修平の事を放置しがちだな。
「それどうしたんだ?」
「ええ、これ乗ったの?」
「乗った? は?」
修平はまさに言葉の如く目を丸くしていた。
それも当たり前か。教えてなかったから。
良く関あげれば文化祭の日から俺と修平の距離が少し離れていた気がする。
その理由は単純に俺と理恵子の距離が縮まってしまっていたからだが。
「見て」
俺は机の上にバンと置く。それを見て修平は「ほー」と頷いた。
「流石は俺が惚れた男よ」
「だろ」
俺が男ボイスでそう言って笑うと、修平もまた笑った。
そして休み時間。俺はSNSを開く。本日発売の雑誌に俺が乗っていることを投稿していたのだ。
その後見ていなかった。
それを見ると、かなりのいいね数があった。
4800いいね。かなり伸びている。
中には見つけましたとの声もあった。
それを見てほっとした。
まだ名前が売れているわけではないが、それでも批判意見がないという事が安心させてくれる。
俺はそれを見て閉じた。
なんだか満足した。
俺の朱里が肯定された気がして。
俺自身、女装は朱里としての自分を見るのが楽しいからという理由も大きかったが、それを今も感じる。
雑誌のページをカメラに撮ってスマホの待ち受け画面に設定をする。
その姿はやっぱり、美しく、目の保養になるなと感じる。




