第39話 オーディション
「なあ奏」
文化祭が終わった後、父さんからメールが来た。
一体なんだ。
『お前はモデルをやる気はないか?』
何を言っているんだ。
それが俺の思った感想だ。
『お前の、朱里さんの美貌は凄まじい物だ。私もそれを利用したい。だからだ』
『俺をモデルにしたいと』
『そうだ』
親父の会社は多種多様な商品を操る。そこには美容、そしてファッションの部門もあったはずだ。そこで俺を雇いたいという事なのか。
「断ったらどうする?」
「いや、奏お前は断れない。なぜならお前の一人ぐらいできるかどうかはわしにかかっているのだから」
くそ、悪いことをたくらんでくる。
しかし、それを言われると逆らえない。
「分かったよ」
俺はそう言って、親父の言う契約にのっとった。
それに俺はモデルとかもいいかもなと思っていたのだ。
悪いことはないだろう。
会社には女装してきて欲しいと言われた。
それも当然の話か。
俺自身はモデルをできるほど高身長でもないし、イケメンでもない。
むろんそれは奏としてであり、朱里だと女子にしてはそれなりの高身長になるのだ。
俺が会社前に着くと、親父が「待っておったぞ」という。
これでも内心にやにやしているんだろうなと思うと少しいやだ。
俺は自分の父親に何度女装姿を見せなければならないのだろう。
モデルをするなら、親父の会社じゃない方がよかったぜ。
親父は会社でも力を持ってるらしい。
一般的なモデルの選び方安堵はよく知らないが、今回は親父のコネで出る事となっている。
しかし、無名の俺がモデルとして出るにはこれしかないだろう。
早速中に入ると、色々な人が俺をじっと見て来る。
今の俺のファッションは普通の清楚なお嬢様風の感じとなっている。
まあ、可愛いと思うからこそ見てるのだろうな。
そう思う。
まだメイドカフェでの興奮も覚め切ってはいない。
俺は今自信が付きすぎている。
それが俺の足元をすくわないか心配なほどに。
「緊張するか?」
父さんが訊く。
「ええ、少しだけ」
少しだけだ。
自信はあるが、それは確定的な物ではない。
親父という身内の推薦、そして俺自身まだ学校とかでしかほぼ活動していない。
しかし俺にはSNSもある。
文化祭の後メイド服の朱里をネットに乗せたら3万いいねが来た。
コメント欄には「はあはあ、俺に奉仕してえ」「膝枕されたい」とかいうきもいコメントも来ていた。
俺が男じゃなかったら完全なるセクハラだ。
さて、問題は今日責任者の人にどう見られるかだ。
まずは私服で出るらしい。
俺独自のファッションセンスを問われるのかもしれない。
だからこそ、私服でと書いてあったのだろう。
だからこそ制服ではなく、家にあった今の朱里に一番ぴったりのファッションにした。
とりあえずは格好がよさそうなメイクと服だ。
「今日はよろしくお願いします」
俺は着いて早速頭を下げ、イスに座る。
隣には親父だ。
これから面接が始まるのだろう。しかし俺は全くもって準備をしていない。
親父に自然体のままでいい、わしが受からせるからなんて言われたからだが。
「今日は部長の紹介だからアポを取ったが」
そして、面接官は俺をじろじろと見る。
これも審査の内か、と思いじっと背筋を伸ばす。
「素晴らしいね、男性である私の目から見ても素晴らしい、ねえ水田君」
「はい、可愛いと思います」
隣にいたスーツ姿の女性社員が首肯した。
「私の予想だと、貴方が持っている顔はそれだけじゃないでしょう」
俺が持っている顔。メイクの種類の事だろう。
「いくつか写真を送ってもらいましたが、このメイド服姿や、このドレス姿など、それぞれでメイクが異なっています。あくまでも、服にあるメイクを好んでいることが目に取れて分かります」
とりあえず褒められていることは分かった。
しかし、いつの間に俺の写真なんて送っていたんだ。
しかもこれは姉ちゃんが撮った写真も含まれている。という事は姉ちゃんと交渉したという事だ。
全く、親父の行動力はすさまじい。
「ありがとうございます」
「では、少しいいですか?」
「なんでしょうか」
「今までの恋愛経験はありますか?」
恋愛経験か、あるにはあるが。
俺の場合はある二含めてもいいのか?
理恵子――女性相手なのだから。
そもそも親父とこの感じだと、男子と言っていないだろう。
恐らくは俺の事を女子と詐称して言っているだろう。
それは所謂詐欺に当たるのではないかと思うが、こういうケースがおそらく今までないからな。
「一応あります」
俺は答える。一応とつけているのは一種の保険だ。
「なら、色々と見せてもらいましょうか」
そう言うと、水田さんは後ろへと下がる――その瞬間、色々なものを取り出してきた。
色々な服だ。
ああ、早速俺のモデル力を発揮する機会が来たか。
「じゃあ、これに着替えてください」
「メイクとかはどうするんですか?」
「それはこちらでいろいろとやります。メイク担当がいますから」
「なら、是非お願いします」
そして俺は早速更衣室に向かった。
そこにあった服は所謂ワンピースのような服だ。ひらひらでかわいい。
まずは可愛い系という訳か。今は美人系、真逆のタイプでも試してみようという事なのだろう・
服自体のセンスは良い。しかし、問題は着るまでは似合うかどうかは分からないという事だ。
そう、これを着た俺がまさに可愛くなるかは運によるものだ。
着た。鏡を見る。
中々似合っていると、我ながら思う。
これならば少なくとも期待外れの烙印を押されることはないだろう。(そもそも今度は別のスタイルで試されるだけだろうが)
そして俺は再び面接官の元へ行く。
「どうですか?」
俺は訊く。すると、「ほうほう」と、男の方の面接官がうなった。これは好印象だろう。
「どちらが素敵かと言われれば前者だが、それでもこれも素晴らしい。こちらはあざと可愛い感じがするな」
俺はそれを聞いてほっとした。
「私もいいと思います。アイドルにいてもおかしくないと思います」
「ありがとうございます」
俺はまた頭を下げる。そこからしばらくは着せ替えショーのような感じになった。
これは親父の権力関係なしに、もう俺の実力で勝ち取っているなと思った。
くそっ最近やけに自己評価が高い。
まあでもいいじゃないか。俺は自身を持っているのだから。
そうして結局いろいろと来て、その日は解散となった。
というのもまた後日、来ることになったのだ。その日に本格的な撮影になるみたいだった。
そしてその翌日、学校に理恵子と一緒に学校へと登校する。
その際に昨日の出来事について、話した。
「ええ? どういう事?」
理恵子は開口一番驚いて見せた。
そりゃ驚くだろう。
そう言えば俺は理恵子に何も伝えることなくモデルのオーディション?面接?会場に行っていた。
怒られるかもしれない。
「俺は、モデルになるかもしれない」
そもそも確定だ。もう契約書的な物も書いたのだし。
「それ凄いじゃん」
理恵子が笑顔で言った。そして俺の手を取る。
「見せてね」
そう言って理恵子はまたはにかんだ。
その三日後、早速撮影が行われた。
初めての出来事が続いて、心労がたまった。しかし楽しいことには変わりがなかった。
俺の魅力を朱里の魅力を全国に伝えられるのだから。
そして、一月がたった。




