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クラスの孤高の狼がなついているのは女装した俺  作者: 有原優


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第三十六話 代役

 そして今度は朱里として、歩いていく。

 周りの景色は奏と朱里ではまた違う。

 奏の時はほとんど全く注目の的にならなかったのに、朱里になると、注目を集めてしまう。


 だけど、これでいい。親父に見つからなければ。


「さあ、今日二回目の朱里だけど、どこに行く?」

「そうね。今度は朱里ちゃんが輝くところに行きたい」

「それって一体どこなのかしら」

「大丈夫。私決めてるから」


 そして、理恵子は俺を連れて走っていく。いったいどこに連れて来ようとしているのだろうか。


「ここ?」


 理恵子が連れてきた場所は、まさに俺にふさわしい場所だ。


 そこは文芸部だの展示だ。

 そこでは、小説が置いてあり、フリースペースになっていた。


「つまり、小説を読む私を見たいの?」

「うん。絶対絵になるでしょ」

「それ、私じゃなくてもいいような……」


 でも、仕方がない。

 それに俺自体、そう言うのを楽しみたいのだ。

 早速棚から、ミステリー小説を読んでいく。

 そして、俺は精神を研ぎ澄まし、読んでいく。


 理恵子が写真を撮りやすいように、雰囲気を作りながら。


 そして理恵子が写真を撮り終わり、俺に写真を見せてきた。


「素晴らしいわね」


 俺はそう呟いた。


「でしょ、朱里ちゃんの美しさが際立ってるじゃん」

「そうね」

「じゃあ、次行こ」


 そして次は美術部の展示だ。絵の近くに俺は経ち、絵画を鑑賞する。

 流石にこれは写真にとるわけには行かないから、理恵子の自己満足写真という事になる。

 だけど、理恵子はそれでもいいようで、笑顔でこちらを見ている。


「理恵子ちょっといい?」


 俺はそう言って理恵子を絵の隣に立たせる。


「理恵子も映えてるわね」


「そう?」


 そう言った理恵子はなんだかうれしそうだ。


 そしてしばらく歩いていく。

 親父には運よく合っていない。

 今日の修羅場は乗り越えたのか?


「あの、少しいいですか?」


 そんな時、一人の女生徒に話しかけられた。いったい何なのだろうか。


「劇に出てくれませんか?」

「はい?」


 俺は思わずすっとんきょうな返事をしてしまった。

 親父に会わなくて安心したと思ったら、また修羅場だ。

 いったいどういう事なのだろうか。


「実は私達演劇部なのですけど、実は今回メンバーが足りなくなって。だから、スカウトに来ました」

「えっと」


 飲み込めない。

 理恵子の方を見ると、理恵子もまた呑み込めて無い様だ。


 どうやら詳しく話を訊くと、劇のメンバーが足りないらしい。というのも、メンバーの一人が風邪で欠場したのだ。

 五人しか部員のいない演劇部では、急遽代役を立てるわけにもいかず、スカウトに走っていたそうだ。


「それで、私にその白羽の矢が立ったという事ですか?」

「ええ」

「でも、私男ですよ」

「え、そうなんですか?」

「ああ。実はそうなんだ」


 そう、男口調で言うと、彼女は「はえー」ととぼけた声を出した。


「でもそれでもいいです。来てください」


 実力主義という事なのか。

 思ったよりも男であることには驚かなかった。すでにうわさで知ってたのかもしれないな。


 劇は一時間程度で、俺が演じるのは。お姫様役らしい。

 男の俺が? と思うが、まあ朱里ほどお姫様に近しいものはないだろう。

 少しメイクを可愛らしいものにして、劇に出ることを了承した。


「朱里ちゃん大丈夫そう?」


 理恵子が言う。


 大丈夫だ、などとは言えない。

 正直心配だ。セリフ量も多い。


 なぜ、急遽スカウトされた俺にこんな重要な役をやらせようとしたのか、と思ったが、皆それぞれ結構劇のセリフの配分は多い。

 とはいえ、姫なんて本来主役級だと思うが。


 劇の内容は、結構テンプレっぽい話だ。


 王位継承権争いの面倒ごとに無用な、監獄にとらわれたお姫様が、他国の王子様に連れ出され、王位継承権争いに再び乗り出すと言ったものだ。

 ネット小説を書いてる部長が台本を担当したらしい。

 劇の内容は面白そうだ。後は、セリフをこの二時間で詰め込まなくてはならない。


 普通にこれ給料もらっていいくらいじゃないかと、一人愚痴を漏らす。

 が、そんなこと聞かれるわけには行かない。


 俺は、そこそこ演技は出来ると思う。

 俺一人で二人分演じてるみたいな部位分もあるし。

 まあ、朱里に関しては、別に俺は演じてて嫌だとは思わない。

 というか、普通に素だし。


 このお姫様も、その元々演じてた人の感じは知らない。が、朱里風の感じでなら、演じられそうだ。


 そもそも俺は代役だ。そこまでうまくなくても、責められはしないだろう。

 さて、この間にも俺はセリフを頭に入れる。

 俺の目標は、劇を壊さないこと。ただ、それだけだ。


「朱里ちゃん頑張ってるね」

「理恵子……別のところに行っていいのよ」


 だってこれは俺が決めたことだから。

 理恵子の自由を束縛することなんてできない。


「大丈夫。私は朱里ちゃんを見てるのが幸せだから」


 その無邪気な笑みを見ると、本心であることがうかがえる、


「そうだったわね」


 俺はそう一言いい、さらに劇のセリフを詰め込む。


 その時、隣に人が座ったのを見た。


「どう、大丈夫?」


 最初に声をかけてきた人とは違う。

 男だ。

 王子用の衣装を着ている。この人が今日俺が相手をする人だろう。


「困ったことはない?」

「ええ、大丈夫です」

「しかし、代役としてまさかこんなかわいい女子が来るとは」


 まさか、俺が男であることが伝わってないか?

 無駄な期待をさせるのも良くない。

 ここは一言言わないと。


「私は男です」

「は?」


 彼の動揺を表すかのように、固まっている。


 しまった、言わないで、劇の後に行った方がよかったか?


「男の娘ってやつ?」

「よくわかりませんけど、そう言う感じです」


 俺的には少し違うとは思うが、話を複雑化させたくない。


「詳しいことは分かれないけど、すまんなうちの部長が」

「いえ、私も初めての体験が出来るから、嬉しいです」


 気を遣わせたくない。


「分かった」


 そして劇が始まった。

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