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クラスの孤高の狼がなついているのは女装した俺  作者: 有原優


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第三十四話 親父との遭遇2

 俺たちは回るために教室を出た。


 だが、問題もある。

 今の俺は奏だ。

 親父には会いたくはない。

 朱里として会うのも嫌だが、奏として会うのはもっと嫌だ。


 俺は正直あの人は苦手だ。

 父親としては正解なのかもしれない。

 ただ、人としては間違っていると思っている。


「理恵子、あっちから行こう」


 俺はそう言った。

 その背後。「えー、朱里ちゃんいないの」と声が聞こえた。

 少し罪悪感を感じた。


 そして早速歩いていく。

 さっきはボードゲームカフェに行った。今回はどうするか。


「理恵子、何か案はあるか?」

「うん。えっと……」


 そう言って理恵子は地図を見る。


「逆に奏君は行きたいところないの?」

「俺か……」


 ざんねんながら、そこまで行きたい場所はない。

 が、少し気になると言えば。


「これかな」


 そこに書いてあるのは、学校に関する展示だ。


「え、まさかの真面目系?」

「え?」


 まさかそんなことを言われるとは思っていなかった。


「いいけど。奏君と一緒に行けるのなら」

「おう」



 そして俺たちはその教室に向かう。

 その教室には五人くらいの生徒がいた。

 あまり盛り上がってないみたいだった。

 ん、


 そこに嫌な影を見つけた。親父だ。

 ここにもいたのか。


「理恵子。悪いけど別の場所にしてもいいか?」

「え?」

「親父がいる」


 会いたくない。絶対に会いたくない。


 だが、既に時遅しだったみたいで、親父は建物の中から出てきた。


「奏か」


 話しかけられた。

 しまった。

 もう少し先に、親父の気配に気づいて教室から出て行ってたらよかった。


「久しぶりだな」

「ああ」

「そこにいるのは彼女か?」

「ああ」


 そして、空気が重苦しいものになった。

 理恵子もどうしていいかわからず、その場で固まっている。


「しかし、大きくなったな」


 は、何を言っているのやら。

 俺は親父の言葉をそう一蹴してやりたかった。

 俺は親父の事は苦手だ。

 女装抜きで。


「わしも、息子がこんなに大きくなって嬉しいよ」


 一人称がわしに戻っている。


「そういや、君のクラスの床の、朱里さん。可愛かったな」

「朱里さんか。まあ、確かにな」

「ちょっと奏君。私がいるのに」

「理恵子が一番かわいいよ」


 俺も理恵子もこういうキャラではない。だが、朱里の事を執拗に言われるわけには行かない。

 そもそも、クラス表は親父も持っている。

 だが、そこに当然ながら朱里の名前は入っていない。

 実際に朱里という人物はいないのだから当然の事だ。


 無論、そこから俺が朱里だという事にストレートに気づくとは思えないが、リスクは十分にある。

 くそ、なんで文化祭なんて来たんだ。


「そう言えば奏はどのシフトなんだ?」

「え?」

「ほら、あるじゃろ。食器洗いとか食事準備とか」

「あーあれか。俺はあまり参加しないです」


 俺は朱里と共存はできない。

 だからこそ、シフトに入るわけには行かないのだ。

 親父に俺と朱里が共存できないことに気づかれるかもしれないのだから。


「一緒に、メイドカフェに行かないか?」


 親父からの予想外の提案だ。

 親父には理恵子は見えてないのだろうか。

 彼女と一緒ならメイドカフェなんて行かないだろうものを。


 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 親父は俺と朱里を合わせるつもりだ。


 しかし、急にどうしたんだ。親父は俺とそこまで仲もよくなかったはずだ。

 それに、俺の前で威厳をなくすような真似は好まなかったはずだ。

 一体何癌だかわからねえ。

 俺にはこいつは押し空かれねえ。


「なんでだよ」


 俺は一瞬の思考ののち、そう答えた。

 正直親父の事は抜きにしても、こいつと一緒に自教室に行くのは絶対に嫌だ。

 そもそも自分の父親と一緒にとか普通の高校生なら絶対に地獄だ。

 親子関係がよほどよくないと出来ないことだ。


「お前とはずっと会えていなかった。わしも一人の親じゃ。だから、ちょっと息子と親睦を深めたくてな」


 はっ、絶対嫌だ。そう言いたい。

 だが、俺の立場上弱い。

 何しろ、お金を出してもらっている立場だ。

 もし怒らせて一切援助を断ち切る遠出も言われたら、もう服屋メイク用品などは絶対に変えなくなる。


 そう、俺はこいつの機嫌を損ねるわけには行かないのだ。


 と、普通ならこうしていく選択を渋々とることになる。

 しかし俺には問題がある。


 そう、俺と朱里は共存できないという難題が。

 前の時は姉ちゃんに演じてもらっていた。

 だが、今日は絶対にその択は取れない。


 親父は当然ながら姉ちゃんの親父でもある。そのため、バレるリスクが高い。

 それに、姉ちゃんはそもそもこの学校の生徒などではない。

 そもそもの前提からして不可能なのだ。


 こうなったら正直言って八方ふさがりだ。


「俺は、親父とは一緒に行きたくはない」


 こういうしかない。


「何? せっかくの文化祭だぞ」


 ほらこうなる。


「せっかくの文化祭なのに、朱里さんの接客を受けられないなんて悪手中の悪手みたいな選択肢を本当に受けるつもりなのか。お前はわしの言う事を聞かんか。わしだって久しぶりに息子と触れ合うチャンスなんじゃ。だからお願いじゃ」


 もう、ただの駄々っ子じゃん。

 俺はこういう場合どうしたらいいんだ。


「もしかして奏君は朱里さんに会わせたくないの?」


 理恵子がそう言った。

 理恵子は一体どういうつもりでこの言葉を言ったのだろうか。

 無論理恵子が俺を貶めるつもりでこの言葉を言っているとは思えない。

 という事は、この状況を打破できる言葉を俺は持っているという事か。

 考えろ俺。

 父さんには女装の事はばれたくはない。絶対に。


「ごめんそうなんだ。俺は、ともかく、理恵子はあの場にいて事の顛末を聞いているんだ。朱里さんが何pされかけたって。彼女は傷ついているらしい。だから、もうシフトに入れないかもしれない。そのことを伝えたくて」


 俺は顔を敢えて暗くしてそう告げた。

 理恵子の意図は分からないが、恐らく、言うべきことは言えたのではないだろうか。


「そうなのか」


「親父がそれを聞いて悲しむかと思って」

「分かった。じゃあ、シフトに戻れそうなときに言って欲しい」

「分かった」


 ふう、これで難局は乗り越えたが。


「しかし、そこにいるのは、理恵子と言ったか」

「はい」


 理恵子はただ、頷いた。


「そうか。息子についに彼女が。わしは嬉しいわ」

「奏君はとっても優しいし、それに時々可愛い」


 朱里の事だろう。


「それに、奏君にはほかの人にないいいところがあります。奏君は物知りです。だから、私が困った時に助けてくれます。それに」


 そこまで言って、理恵子は口を抑える。大方、朱里の事でも言いそうになったのだろう。


「どうしたのじゃ」

「奏君は、私が、苦しんでいる時に相談に乗ってくれました。だから、奏君が大好きです」


 そう言って俺に抱き着いてくる。

 相談に乗って覚えはあまりないが、恐らくあの出会い中の話だろう。


「わしはお前たちが幸せならそれでいい。理恵子さん。奏をよろしく頼むよ」

「はい!」


 そう理恵子は笑顔で答えた。


 そして、理恵子と親父が連絡先を交換した。

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