第三十一話 メイド服試着
ついに文化祭五日前。ついに、メイド服が届いた。
俺たちは今日、サイズ調整のためにこれを切る。
「ついに、メイド服姿の朱里ちゃんが見られるんだね」
そう、理恵子が元気よく言った。
理恵子は本当に俺のメイド服を楽しみにしているからな。期待には応えないと。
「あら、わたくしもまけていませんわよ」
そう、水木さんが言った。
相変わらず俺に対抗意識を燃やしているらしい。
「ええ、私も負けないつもりです」
何しろ、朱里が頂点だ。負けるつもりなどない。
無論、朱里が負けるとも思っていないがな。
朱里が負けるなど、天地がひっくり返ってもないと言える。
周りの空気を肌で感じる。明らかにピリピリとしている。
どうやら、今から起こるのは格付けチェックらしい。
俺が勝つか、彼女が勝つか。
恐らくは決着は文化祭本番でつくだろうが、今はその前哨戦と言った所だろう。
より、似合っている方の価値か、なんだか燃えてきた。
「理恵子、私負けないわよ」
そう、柄にもないことを言ってみた。
「しかし、本当に楽しみだな。事実上の頂上決戦」
「修平君、黙ってくれないかしら」
めちゃくちゃニヤニヤしててなんか嫌だ、
「うるさいなあ。俺は観客として盛り上げるよ」
「いや、別に盛り上げなくても岩よ」
「俺がしたいんだよ」
なんだよこいつ。うざ過ぎる。
「ねえ、理恵子。今から着替えるから、その子を追い出してくれないかしら」
そう、理恵子に頼んだ。
「おい、朱里。俺たち同性だろ」
そう言った瞬間、後ろから二人の人が現れた。
武と、俊哉だ。
二人が修平を強制退場させてくれた。
そう言えばあの二人も朱里のファンだったっけか。
まあでも、これで楽になれる。
そして、いよいよ試着だ。
目の前にあるひらひらとしたメイド服。
うん、一目見てわかる。可愛い。可愛くてたまらない。
これを着た朱里か。
想像するだけで可愛すぎる。
着た後に、賞賛を浴びせられるのも楽しみだし、俺自身で見れるのも楽しみだ。
だが、やはりメイド服着るのが大変だ。
というか、よく考えたらほかの人たちは女子に着付けをしてもらっている。
「理恵子」
俺はたまらず理恵子を呼んだ。
本来なら同性である修平にしてもらうべきなのかもしれないが、あいつは色々と不器用だ。服を着せるなんてことできないだろう。
それに、理恵子は。
「朱里ちゃん任せて!!」
朱里を可愛くする方法を知っているだろう。
俺は理恵子を信頼している。理恵子なら俺を綺麗にしてくれるとも。
とはいえ、ほとんど着せるだけではあるけども。
俺はその間に理恵子の指示に従い、着せやすい形にしてあげるだけだ。
本番ではメイド服が場えるようなメイクをするつもりだが、今はいつもの感じのメイクにしてある。
つまるところ、今日負けたとしても、本番では勝てる自信があるという事だが、
「ほら、完成したよ。……多分ね」
そう、理恵子が言った。
そして、俺の顔を見る。
「可愛い」
理恵子は単にそう呟いた。
それを受け、俺も鏡を見た。
「本当だ、可愛すぎる」
そう、素の口調で言った。
本当にかわいすぎる。世界で一番かわいいのではなかろうか。
自画自賛とでも言われそうだが、本当にそう思ってしまう。
「ねえ、理恵子」
「どうしたの?」
「もう、試着室から出ても良いはずだけど、もう少しここに居ていいかしら」
「どうしたの?」
「もっと二人でこの可愛い朱里ちゃんを独占したいもの」
今はもう少しここで可愛い姿を一目にさらすことなく味わっていたい。
「もう、みんなも楽しみにしてると思うけど」
「少しくらいいいじゃない。少し焦らした方が、その分得よ」
周りから歓声が上がり始めた。恐らく水木さんが披露したのだろう。
だが普通は、後攻の方が印象につきやすくなる。
漫才でも後攻の方が有利とはよく言う話だ。
俺は水木さんに負けつもりは無い。絶対に、その歓声を上回ってやる。
元が男という、ハンデを覆してやる。
……それにしても可愛すぎる。
やっぱり俺の唯一の欠点は、俺が一人しかいないという事だな。
なんかの漫画とかだったら、俺が複数に分裂する。
つまり、奏と朱里が分裂するとかあるが、ここは現実だからそう言うことは無いもんな。
ああ、この朱里に給仕されたい。
「ねえ、そろそろ出たら?」
理恵子がそう言った。確かにそうだな。
俺も、いざと、更衣室から出た。
その瞬間、完成が上がった。そして向こうにいる水木さんを見る。確かにかわいい。
だが、なんとなく負ける気がしなかった。
水木さんは可愛いだけだ。だが、可愛いだけでは朱里には勝てない。
俺は、咄嗟に頭を軽く下げた。
「準備が整いました。どうでしょうか」
俺がそう言うと、周りから、「すげえいいじゃん」「いいぞ朱里」「朱里さん、可愛いよ」などと声が聞こえる。
何とも言えないが、これは、俺の方が、歓声を浴びているような感じがする。
水木さんの方をちらっと見る。
少し悔しそうだ。これは買ったな。
「これで、ここからどうしたらいいのかしら」
「そうだなあ」
修平が考え込む。
「俺に接客してみないか?」
「ええ、それって、修平君が私に接客されたいだけじゃないのかしら」
「まだそれを引きづってんじゃねえよ。じゃあ、高橋さんでもいいよ」
「私はぜひ受けたいよ!! てか、そんなこと言ったら多分クラスの大半が接客されたいと思うけど……」
まあ、確かに。
俺も、水木さんさんより朱里の接客を受けたい。
そして周りから、「俺も!」「私も!」と、七人くらいの人が手を挙げた。
「じゃあ、争いになってもいけないから、早速理恵子の接客を担当するわね」
そう、俺が言うと、少しため息の様な物が聞こえる。
「時間があったらみんなのもやるわよ」
そう、俺が言うと、周りから大歓声が起こる。
「とはいえ、私、接客なんてしたこと無いのよね」
実際、バイト経験なんて皆無だ。
「朱里ちゃん。今日連数したらいいんだよ」
「そうね」
「俺も教えるぜ」
「ありがとう、修平君」
そして、理恵子に席に座ってもらう。本来、ここにほかにもメイドはいる。が、ほとんど俺の独壇場になっている。
水木さんの方にも幾人か入るが、大半が俺のところを見ている。
水木さんが、嫉妬? 妬み? の目で、こちらを見ているが、気にしないことにしよう。
少なくとも前哨戦は俺の大勝だろう。
そして俺は
待機する。
早速俺は理恵子のもとに行く。
「ご注文はお決まりでしょうか」
そう、俺はできるだけの、甘い声で言った。
よし、出だしは好調か。
そもそもこんなのは、笑顔でいればいいのだ。
笑顔な人が気に入られるのだ。
「えっと、じゃあこの愛情たっぷりオムライスをお願いします」
「時間が多少かかりますがよろしいでしょうか」
大丈夫です」
「了解です」
そして俺は戻った。
この今カフェには、元来のメイドカフェみたいな、もえもえきゅんみたいなそんな言葉は言わなくてもいい。
まあ、もし仮に朱里が言ったら倒れる人が出るかもしれないし(言い過ぎ)
そもそも、学生を性的対象として見る人がいるかもしれないから、過度なサービスはいけないという学校の方針だ。
そのあとも俺は沢山の生徒たちに接客練習をした。
「ねえ、」
そして今日の行事が一通り終了というところで、水木さんから詰められる。
それもわざわざ更衣室に乗り込んできて。
「なんで、男のあなたが、こんな、なんで私に勝ってるの>」
そんな文句をつけてきた。
その答えなんて決まっている。
「私の方が可愛いからしかないじゃないですか。私があなたに勝つ理由なんて」
そこには性別の差なんて無い。
ただ、実力で黙らせただけの話だ。
「でも、このクラスではあなたの方が人望が厚かっただけの事。次の、本番では絶対に買って見せます」
そう、言った水木さん。
しかし、俺的に言えばそんなの俺が勝つに決まっているという感想しか出てこない。俺が、朱里が負ける未来なんて見えてこないのだ。
「その時には私がかんぷなきままに勝ってあげます」
そう、俺は彼女に告げた。
彼女に負ける未来は見えない。
それに、元々あちらから仕掛けてきたものだ。
俺はそれを本番でも上から押しつぶすのみだ。




