第二十九話 文化祭準備
いよいよ文化祭準備が進んできた。
主に有志の生徒たちが放課後に準備するのだ。
勿論サボる生徒もいる。
でも、無理強いするわけには行かない。あくまで義務ではないのだから。
とはいえ、今回みんな真剣にやっている気がする。
サボる生徒も言うほどは多くない。半数以上の生徒が参加しているのだから。
……その理由は明白だった。
俺が朱里なのだから。
そう、つまり、朱里目的だ。
今日の仕事は飾り付けだ。色々部屋を彩る飾りを作ったり、描いたりする。
俺は指示通りにやればいいと思っていたが、
「朱里さん、次何をすればいいですか?」
「朱里さん」
「朱里さん」
みんな俺に仕事を求めてくる。俺は文化委員ではないというのに、いつの間にかこういった構図が出来、文化委員の方々も俺にすべてをなげうった。
しかも、こいつら俺が奏であることを忘れちゃってるのかな。男に対してこれやってるんだが。
「ええと」
それに、俺にもそこまで振り分けとかできないんだが。そう言うのちゃんとするのが、文化祭委員のはずなんだがな。
「じゃあ、えっと、じゃあ鈴木君は、飾りつけを作って、画用紙を切ってくるっと回してわっかを作って、セロテープで止めてその輪の中に新たな画用紙を入れてを繰り返してくれたらいいから」
「分かりました、朱里さん!!」
これで全部はけたかな。
向こうで飾り付け(絵)を描いている理恵子のそばに座る。
「私別にTSしたわけでは無いのよね」
そう、俺はぼそぅと呟く。
「そりゃそうでしょ。朱里ちゃんも武美のようなこと言ってどうしたの?」
「いや、もう肝心に女扱いされてるよねっていう話よ」
「朱里ちゃんは元々それが良かったんじゃないの?」
「……そうだけど、なんとなく違うのよね」
「まあ、気持ちはわかるな」
そう、修平が来た。
「お前人気過ぎなんだよ。なんで男の奏がそんな人気を集めるのか一切分かんねえ」
「修平君だって、私に惚れてたじゃない」
「それは本当に忘れてくれ」
そう言って修平が手を合わせてくる。
「こんなに面白いの、忘れるわけないじゃない」
「奏、お前なあ」
「今の私は朱里よ」
朱里に奏という行為は万死に値する。
「むむ、そう言われると困るな」
「それに、修平君だって、今の私のことを可愛いと思ってるんでしょ?」
「そう言われると、否定したくなるな」
「ふふ、面白いわね、修平君」
否定したくなるってことは、心の奥底で思ってるってことだし。
「なんだか、その笑顔でそう言われるとなんだか嫌だ」
「何が嫌なのよ」
「普通に考えてそうだろ。だってお前可愛いし」
「ふふ、事実を教えてくれてありがとう」
「そろそろ調子に乗るのはやめろ」
そう言った修平に頭をチョップされた。
「いたーい、暴力反対」
「お前は男だろ」
「男でもダメ」
「なんだか、朱里、最初よりも結構明るくなったよな」
「まあね、私も不思議なのよね、最初よりも奏要素が入ってる気が……」
「そりゃ、お前は奏であって、朱里でもある存在だからな、そう思うのも仕方ない」
「……そうよね」
「すみません、これ次何すればいいですか?」
「んっと、それはね」
そうして俺は再び、質問攻めにあうのだった。
★★★★
その頃、隣のBクラスでは。
「おいおい、隣ン教室にめちゃめちゃ可愛い美少女がいたんやけど」
そう、興奮気に話しているのは、クラスのイケメン山本幸也だ。
偶々奏たちのクラスを通りがかったときにひときわ異彩を放つ美少女を発見した。
「ああ、最近現れた美少女だろ? 確か苗字は分からないけど、朱里と言ってたはず」
「名前も知ってるのか、ナイスすぎるわ」
「そりゃ、あれだけ有名ならな」
「でもな、不思議なうわさがあるんだよ。中身が男という噂が」
「そんなわけないだろ、なんて変な噂なんだ。……よし決めた。あの子を狙う」
「狙うって?」
「勿論彼女にする。俺はそう決めた」
「おー!! 行っちゃうのかあ?」
「行っちゃうね。だって俺は狙った女は一人も落とせなかったことは無いと有名な幸也さまだからな」
その発言で周りから拍手が巻き起こる。
「あら、そう見えて実は飽きた女は振るクズだけどねえ」
「お前は黙ってろ、愛」
「はーい」
そうして、彼は朱里を落とそうと奮起医者締める。
彼が男であることも知らずに。
★★★★★
「しかし、朱里さん今日も可愛いなあ」
そう、俊哉が呟く。
「まるで天使みたいだ」
「今日もそればっかりだな」
そう言って武が笑うと、俊哉はむっとした顔で、「いいだろ、可愛いんだから」という。
「でも、男だぜ」
「それは言わないお約束な」
「はいはい」
武は仕方がなさそうに肩をすくめた。
「しかし、なんであんなにかわいくなれるんだろうか」
「元々の顔もそこそこよかったしな」
「それは言えてる。確かに元々可愛らしい顔立ちだったし。……って、朱里ちゃんは女だから」
「まだ言い張るか」
「しかし、高橋さんと、修平がうらやましい。あんな美少女と話せるなんて」
「それはそう。なんであんな可愛人とお近づきに慣れるんだもんな」
「武。俺達でお近づきになってみようぜ」
「もっおか?」
「おう」
★★★★★
俺達で暫く作業していた後、色々なものが足りなくなっているとのことで、買い出しに行くことになった。とはいっても、買い出し終わった後はすぐに帰ることになる。
なぜなら、もうそろそろ最終下校時間が迫っているのだから。
下校するついでに俺たちが買うことになったという事だ。
修平が付いてきてもよかったのだが、今回は色々考え理恵子と俺という事になった。
二人で十分だということと、理恵子が俺を占領したがったのだ。
「やっと、朱里ちゃんと二人きりだね」
そう理恵子ははにかむような笑顔で言った。
「理恵子、そんなに私と一緒になりたかったの?」
「そりゃそうでしょ。だってずっと私の物じゃなかったからさ」
「理恵子って案外束縛壁あるんだね」
「束縛っていうか、今日はずっと修平君もいたしね。デートくらいしたいよ」
「この前してなかった?」
「奏君と朱里ちゃんは違うの」
朱里ともデートしてた気がするんだが。手か、半分くらい朱里とだった気がするんだが。
まあ、それは突っ込まないでおこう。
「そりゃそうね。じゃあ、手をつなぎましょ」
「わーい!!!」
そう言って理恵子は無邪気に俺に手を差し出してくる。その手を俺は取る。
「ねえ、朱里ちゃん。私ちょっと追加で欲しいものがあるんだけど、見てきてもいい?」
買い終わり間際に理恵子がそう言った。俺は少しだけ疑問に思いながらも、分かったわと頷いた。
そして、理恵子が向かう先は、近くの服屋だった。
「また服屋?」
「うん。最近まだ行ってないと思って」
「そう」
確かに最近服を選ぶことなんて無かったっけ。
「じゃあ、その代わり理恵子にも頼みたいことがあるんだけど」
「何?」
「私の服も選んでくれないかしら」
「うん、分かった。……なんで!?」
ナイス乗りツッコミ。
「だって、私だけ選ぶのは不公平じゃない?」
「不公平って、朱里ちゃんが選んだ方がいいじゃん」
「私だって、そろそろ理恵子が選んだやつだって着たいわ。だって、基本的に私セレクションなんだもん」
最後に服屋のお姉さんに服を選んでもらったのは、確か高校に入る前だぅた。その頃には、俺のファッションセンスも身に付いてきており、しっかりと、服を選べるようになったという事で、俺が選ぶことが増えてきた。
だからこそ、他人チョイスも卒業することとなった。
だが、久しぶりに他人に選んでもらうのもいいはずだ。
勿論それは店員さんでもいい話だ。
だが、今回は理恵子に選んでもらいたい。彼女のセンスがいかほどな物か確かめたい。
「変な感じになってもいいの?」
「もし本当にへんてこな感じになったとしたら、私がちゃんと止めるから大丈夫」
それに理恵子は変な服を選ばないだろう。
朱里ラブの理恵子なのだから。
「じゃあ、分かった」
こうして俺たちの相互での服の選び合いが始まる。




