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クラスの孤高の狼がなついているのは女装した俺  作者: 有原優


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第二十七話 女装プール

 


「最後に少しいい?」


 泳ぎに泳いで、いよいよプールを出るか否やの時に理恵子が言った。

 もう時刻は午後五時だ。


「ん?」

「奏君、女装して」

「いや、俺は……」


 まさかこのために持ってきてと言ったのか。

 いやでも、俺は泳げない。ウィッグの問題、メイクの問題などなど問題点が山ほどだ。


「泳がないでいいから。最後に朱里ちゃんと一緒にプールを楽しみたいの。少しだけでいいからお願い」

「お、おう」


 確かに泳がなければ、胸の問題を除き、メイク崩れや、髪の毛の問題は亡くなる。


「分かった」


 俺は更衣室に行く。

 ウィッグをつけ、さらに一応持ってきたスクール水着(女子用)に身を包む。

 胸が一切ないが、これは、貧乳だと言い切ればなんとかなりそうだ。



 鏡の前でメイクをする。

 正直誰かに見られたら終わるかもしれない。

 変態だと思われるかもしれない。

 だけど、これもスリリングだ。


 そして、着替え終わり、理恵子のもとに行く。

 だが、それには更衣室を再び横切らないといけない。

 それには留意しなければならない。今の俺が朱里だという事を。

 一度みられたら、中々の面倒くさいことになること間違いなしだ。

 女装してプールに入る変な人だと思われかねないのだ。



 俺は小走りで移動する。よし、成功した。


「お待たせ、理恵子」


 俺は朱里モードで理恵子のもとに行く。


「夢にまで見たスク水朱里ちゃんだー!!」


 そう言って理恵子は俺に抱き着く。


「少しならプールにも入れるわよ」


 あまり濡れるわけには行かない。だからこそ、ウィッグも巻き上げている。

 本来なら垂らしてるけど。


「これ、ナンパされるんじゃ」

「されるとしたら理恵子じゃない?」


 何しろ、今理恵子はビキニを着ている。

 胸が露わになっている理恵子の方が可能性はある。


「でも、私よりも朱里ちゃんの方が断然かわいいから」

「はいはい」


 これを言い出したらキリがない。

 ここは引き下がろう。



 そして俺たちはボールを投げ合う。


「こうしてるだけでも、楽しいわね」

「うん。朱里ちゃんとこんなことが出来るって時点で楽しい」


 理恵子がこの方法を思いついてくれてよかった。

 おかげでこんなことが出来るしな。


「ねえ、朱里ちゃん。プールの中でしようよ。ビーチバレー」


 プールにつかりながらボールを投げ合うっていう事か。

 確かにそれはいいや。


 正確には海じゃないからビーチバレーじゃない気がするけど、そこで上げ足を取るほど俺は野暮じゃない。




「私に水をかけないならいいわよ」

「うん」


 水がかかると、メイクも落ちてしまうし。

 正直このプールはメイクしてもOKではあるが、化粧しながらプールに入るのはマナー的にはあまりよくない。

 メイクがプールに溶けないようにしなければ。


 そして俺はボールを投げる。理恵子に対してえいっと。


 そうしてボールのラリーが続く。

 ボールが遠くに行った時には少しヒヤッとする。

 泳げないから歩いてしかボールの着水地点まで移動できない。

 そこは、理恵子が少し羨ましくなる。理恵子はざばーんと豪快に泳ぎながらボールを取りに行ってるのだから。

 とはいえ、化粧を落としたら朱里の可愛さが失われてしまうのだ。


 それは俺が望む朱里ではない。




「はあ、楽しかったわ」


 三〇分後、俺たちはプールサイドのベンチで一休みだ。


「ね、女装道具持ってきて良かったでしょ」

「ええ、まさかこうして入れるとはね」

「じゃあ、最後にプール一周だけしようよ。歩いて」

「それもいいわね」



 それは楽しそうだ。

 そして立ち上がろうとしたところ――


「ねえ、お姉さんたち」


 突如話しかけられた。


「何かしら?」

「俺らと一緒に遊ぼうぜ」


 ナンパ男二人か。

 俺達二人とプール合コンでもいようと思ってるのか。

 そしてワンチャンお持ち帰りしようと。

 救えないな。


「私たちは二人で遊んでいるので結構です」

「そんなこと言わずにさ、二人よりも四人の方が楽しいぜ」


 こいつら、金髪のヤンキーと、筋肉ムキムキの体育系。

 隣の理恵子を見る。おびえている様子だ。

 とりあえず、理恵子を嫌な気分にはさせたくはない。


「この子がおびえてるので、私たちはあなた達とは一緒には行きません」

「なら君だけでもどうだい?」


 理恵子を諦め、あれ単体か。


「いえ、私はこの子と一緒に泳ぎたいので」

「そうか、なら仕方ねえや。行こうぜ」


 そう言って二人は去って行った。

 はあ、分かってくれる人で良かった。

 俺は今まで何度もナンパされたことがある。

 それにいわば、修平と朱里の初対面の時もナンパみたいなものだったし。


 だが、そのたびに俺は断って来た。いざという時には男の肉体があるから、大丈夫だ。


 それにその時の俺は性別を偽るという事をしたくなかったからだ。


 女だと思われたらまあ、そのままでいいが、自身から女だと、性別を偽るのをしたくはなかった。

 思えばあの時を思い出す。俺が中学、一人暮らしになったときに、初めて女装して外出した時のことを。

 あの時、ナンパされてめちゃくちゃ困ってたな。


「理恵子、大丈夫?」

「……怖かった」

「そ」


 俺は理恵子の背中を優しくなでる。

 直肌だから、少し撫でにくい。軽い雑念が出てしまう。

 何しろ相手は本物の女子なのだ。


「やっぱり、私男が苦手だ」

「うん」

「どうせ、私の水着のせいだよね。これだったら気合入れないで、スク水でも着てくればよかった」

「……理恵子……」

「ううん、でももう大丈夫。治まった。……まだ少しだけ気持ち悪いけど」

「もう少しゆっくりして行ったら?」

「大丈夫!!」


 若干強がっていそうだ。

 理恵子は自身の胸を隠すように手を当てている。確かにさっきの男たちは目つきがやらしかったな。

 だが、理恵子が大丈夫と言っている以上、俺からは何も言えない。


「分かったわ」


 そう言って、俺は理恵子の手を引っ張りプールへといざなった。


 そうして最後にプールを一周した後、


「出ましょうか」


 と、俺は言った。


「うん!」


 そして更衣室前で、俺と理恵子は分かれた。

 だが、それが行けなかった。


「なあ」


 先程のヤンキーだ。完全に存在を忘れていた。


「女子更衣室はあっちだぞ」


 しまった。こいつらは俺を女子だと思っている。だが、俺が女子更衣室に入るわけには行かない。

 入ってしまったらただの変態だ。


「私は男です」

「は? 嘘つけって。お前まさか変態か?」


 変態じゃねえ。


「俺は男だ」

「低音を出すのが上手いな」


 くそ、信用してくれねえ。

 なんでこういう時に限って信用してくれないんだよ。


「ごめんなさい……」


 そう言って俺はウィッグを取る。


「おま――男だったんか?」

「さっきからそう言ってるだろ」


 そっちが信用してくれなかっただけだ。


「嘘だろ。俺は男に対してナンパを……」


 膝から崩れ落ちる彼をよそ目に俺は更衣室に向かった。


「ふう」


 とりあえず勘違いされる前に急いでメイクを落とさなければ。

 後は今着てるスク水。これも女子用だし、早く脱がなくてはいけない。


「なあ」


 ヤンキーだ。しつこい。


「いい年して女装でプールとか肝が据わってるな」

「どうも」

「俺、お前のことが気に入った。メッセージアプリ交換しようぜ」

「は?」


 どういうことだよ。

 俺は女じゃなくて男だというのに。


「俺さあ、そういう男好きなんだよね。だから友達になりてえんだ」


 そう言われてもどうしたらいいんだよ。

 俺は、正直こいつらとは友達にはなりたくない。

 なんとなく怖いし、行為を持てない。


「すみません。俺は無理です」


 俺はそう言って、ロッカールームで着替えようとする。


 パシャリ。


 音がした。

 振り返ると、不良が俺の写真を撮っていた。


「これ、SNSにあげていいの?」


 まさかここで脅しに来るとは深く。

 しかし、俺の弱みを握られた。

 そもそもこれが公開されたら朱里にたどり着かれる可能性が高い。

 そうなれば、不味いことになる。


 奏はいくらでも貶されてもいいが、朱里はまずい。


 俺が朱里のイメージを壊してはまずいのだ。


「なあ、いい加減にしろよ。俺はそれだけは許せない。……朱里は、女装した俺は、可愛いままでいなきゃダメなんだよ。消してくれよ……!」

「やだよ」

「ならこちらにも手がある」


 俺は咄嗟に、警備員に話しかけに行った。

 そして、諸々の事情を説明した。


「つまり、更衣室で写真を撮られたという事か」


 そしてその場は話し合いの結果、写真の削除を求めることが出来た。

 しかし、まさっこんな大変な事になるとは。

 流石に女装時にプールは危険だったという事か。


 はあ、迂闊だったわ。


「はあ」


 とりあえず温泉に入らねば。

 温泉は流石にウィッグなんて外す。

 何しろ、ウィッグしながら温泉はもはや不可能に近いからだ。

 何より、もう絡まれたくない。


 あんなのはもう嫌だ。




 温泉は気持ちがいい。

 なんだか、疲れた心が癒される。

 そもそも事件以前も、プールで泳ぎまくって疲れているのだ。


 特に水風呂だ。

 水風呂は気持ちがいい。

 何分でも入っていられる。


 そうして、三〇分もののお風呂を楽しんで、服を着てロビーに戻る。

 すると、理恵子はまだ戻ってきていないようだった。

 という訳で、俺はとりあえずその場で売っていた牛乳を買う。


 しかし俺はただでさえ揉めて時間食ったというのに、理恵子って意外とこういう時長風呂なんだな。


 すると五分後、理恵子が上がって来た。


「奏君お待たせ」

「おう」

「奏君待った?」

「いや、そこまでは」


 対しては待っていない。


「じゃ、良かった。調子に乗って入りすぎじゃったから」

「……お風呂は楽しかったか?」

「うん!!」


 なら良かった。


「この後はどうする?」


 もう7時だ。


「ご飯食べに行こうよ!!」

「ご飯か……考えてたりするのか?」

「うん! 勿論」


 そして俺は理恵子が予約してた店に行く。

 どうやら一五〇〇円から二〇〇〇円くらいのお店らしく、俺たちのお財布事情にはぴったりだ。


 最近はお金がない。

 朱里を着ガザるのも大変なのだ。

 親からの仕送りだけでは持たない。


「じゃあ食べよう」


 そう言って理恵子はハンバーグを頼む。俺は、マカロニパスタだ。


「ね、今日は大変だったよね」

「ああ、ナンパの事か」


 あれは大変だった。


 それも、理恵子の知らないことで。


「プールでさ、ナンパされるのってやっぱり嫌なものだよね」

「ああ、男である俺から見ても嫌だった」

「なんかその発言おかしいよね」

「まあ、認める。まあでももうこんなことはごめんだな」

「私も」


 そして二人で笑う。


「それで、プール楽しかったね、ナンパ以外」

「そうだな。俺も楽しかったな。ナンパ以外」

「五日朱里ちゃんにも泳いでほしいな。今日の朱里ちゃん、泳げないみたいだったから」

「あれは仕方がないだろ。ウィッグが濡れたり、メイクが落ちたりしたら大変だから。……ビーチバレー下事だけでも十分な譲歩だよ」

「ふふ、そうだね」


 そして俺たちは、帰った。この長い二人での二日間はこれで終わりを迎える。

 次なるイベントは文化祭準備か。楽しみだ。

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