第二十三話 映画館デート
そして、土曜日、理恵子と(学校に朱里として登校するお詫び?として)約束してた通り、デートに行くことになった。
行先は映画館だ。
理恵子が見たいと言っていた映画を見るのだ。
正直俺はそこまで見たいわけでは無い。
ただ、理恵子が気になる映画、見て損はないだろう。
映画館に入る。
「今日はよろしくね、奏君」
そう理恵子がはにかむ。
「ああ、よろしく」
俺もそう返した。
「ポップコーンでも買うか?」
「……そうね、私ペアセットがいい!!」
そう叫ぶ理恵子。確かに俺らは今カップルだ。だったらペアセットを頼むべきなのだろう。
「分かった。じゃあ、買おう」
「何味がいい?」
「そうね、キャラメルがいい」
「気が合うな。俺もキャラメルが好きだ」
そうして、ポップコーンとコーラを手にした俺たちは席に座る。
すると、理恵子が手を伸ばしてくる。
「手、つなごう?」
「そうだな」
そして俺たちは手をつないだ。とはいえ、すぐさま、
「これ、食べれなくない?」という理恵子の言葉で手を離すことになった。
そう、ポップコーンは俺と理恵子の間にあるせいで食べにくいのだ。
結局協議の結果、俺と理恵子はポップコーン食べ終わった後に手を繋ごうという事になった。
映画が始まる。
その中で、映画の主人公がとある手紙を拾う。
その手紙を取り、読むと主人公への愛を囁くラブレターだった。
すぐさまその手紙の主を探すも、その手紙の主の名前はそこには書いてなかった。
どうやら、手紙の主は手紙を書いたが、主人公に見せるのが恥ずかしかったから、捨てたのだろう。
それがたまたまゴミ箱に入りきらなかっただけだ。
早速その手紙の主を探し始めるところから物語は始まっていく。
ふう、恋愛してるなあという気持ち半分、早く付き合えよと思う気持ち半分だった。
何しろ、その手紙の主は俺達視聴者には最初から分かっていたのだから。
そして、後半のシーン、手紙の主が分かったシーン。
そこで理恵子がここぞとばかりに手をつないできた、
一番の見せ場のシーンだと思ったのだろう。
そして男が言う。
今までの気持ちを振り絞るように。
「俺は、ずっと言えなかった。告白の言葉を書いては消してを繰り返していた。だけど、俺はもうやめたい。好きだ、恵美香。俺と付き合ってくれ」
その言葉に対して主人公恵美香は、「私はずっとその言葉を待ってたんだよ、千尋君」
そして二人は手をつなぐ。
横を見ると、理恵子はもう片方の手で口を押えていた。
照れてるんだろうか。
これを見ると、俺がようやく付き合ったかと思っているのが馬鹿みたいだった。
その後は二人のイチャイチャシーンの後、千尋の親が亡くなったりして悲しむシーンなどがあった。
「ふう」
俺は映画が終わった後、そう息を吐いた。
正直冗長という感想しか出てこなかった。
やはり、俺には恋愛映画は向いてないなとも。
理恵子には正直申し訳ないが……。
とはいえ、完全にこの時間が無駄だったとも言えない。
理恵子と一緒に見たという事に意味があるのだ。
「ねえ、奏君。面白かったよね!!」
そんなを俺に対して理恵子はえらくハイテンションだ。
個のテンションの前には、正直いまいちだったとは言えない。
「ああ、俺も面白かったと思う」
そう言った。
本心ではないのだが。
そして俺たちはその後、ファミレスに向かう。歓送会をするためという意味もある。
「今日の映画ね」席に座ると早速理恵子が話し出す。「お互いが両想いだと分かったシーンが最高だった」そう言い放つ。
確かに理恵子、そのシーンで手を繋いできてたしな。
「それで、奏君、本当はどう思ってるの?」
「え?」
まさかそう言われるとは思っていなかった。
「実際、私とテンション全然違うかったもん」
「……」
確かにそうだ。ずっと冷めた目で見てきた。
だって、俺には他人を好きになるとかそう言う気持ちがよくわからないのだから。
「俺は、正直分からなかった。ドキドキするシーンとかな」
「それは、どういう意味で?」
「俺には分からねえんだよ。人を好きになる気持ちとかはな。それは、そう恋愛的な意味でだ」
「私とはあくまでも友達の延長戦だもんね」
理恵子が一瞬悲しそうに見えた。慌ててフォローしなければ。
「理恵子はかなり可愛いと思っている。朱里の価値観的に言えば、かなり究極に近いだろうと思う。実際、メイクほとんどなしでもその可愛さなんだから」
「……奏君、変な慰めはいらないよ。奏君の女装ばれした時からそれは知ってるから。……それに、だからこそ、今日一緒に出掛けたんだし。……私は奏君を好きにさせるという自信がある。だからこそ付き合ったんだよ」
「……そうか。ならいいんだ。……俺は理恵子が好きだよ。今はまだ友達としてな」
「分かってる。……手かごめんね、しんみりとさせて。さ、ドリンクバー頼みに行こ」
「そうだな」
そして俺たちはドリンクバーに向かう。
そこではかなりの数のドリンクがある、
例えばミルクティーや、カフェラテなどだ。
俺はその中から烏龍茶を選び俺は入れる。
「ミルクティーじゃないんだね」
「ああ、俺はこれくらいの方がいい」
カフェインは胃もたれさせてしまうからな。
まあ、烏龍茶にもカフェインは入ってるけど、それは微々たるものだし、胃もたれを起こすほどではないだろう。
「ふーん」
そして席に戻る。
「それで、文化祭なんだけどさ」
「おう」
「人気者になること間違いなしだけどさ、そんな奏君と一緒に私は回るわけじゃん」
「おう」
「その時って、奏君って朱里ちゃんじゃん」
「ん」
何を言おうとしているんだ?
「私、釣り合ってないことにならない? だって、朱里ちゃんって可愛いしさ」
「理恵子も可愛いけどな」
「そう言う話じゃなくて、メイド服だし。……私だって、可愛い朱里ちゃんと一緒に歩くのは楽しみだけどさ、でも不安なの」
不安。……もしかしたら。
「俺がナンパされるかもしれないからか」
「それもある……けど……だって、私……」
そう手をいじいじさせる理恵子。
言葉はまとまっていなさそうだが、気持ちはわかる。
何しろ理恵子は俺が可愛すぎて、一緒にいる理恵子が惨めになるというのが嫌なのではないか。
俺がナンパされたりしたら、残された理恵子が悲しいことになるのではないか。
あまり性的な対象になりたくないからという理由で、メイド服を着なかったこと自体は理恵子の選択だが、それを後悔してしまうかもしれないという事だ。
無論そんなことはさせたくない。だが、俺も朱里の可愛さのレベルを落とすようなことはしたくはない。
「てか、今そんなことを気にしても意味ないだろ。今はデートを楽しもうぜ。そして嫌なところじゃなくていいところを探そうぜ。いざとなれば俺とじゃなく、修平と回ったらいい話だし」
「いや、朱里ちゃんと回りたい。それも二人で。……でも、確かにそうだね。考えすぎて文化祭が楽しくなるところだった」
そう言って理恵子は手元のミルクティーを獄ッとのどに流し込む。
「そうだね。楽しむ事だけを考えよう!!」
「それがいいよ」
そして、その後食事となるハンバーグが来て食事を楽しんでいたところ、
「ねえ、今度プール行かない?」
そう言われた。
9月にプール。
行けるのだろうか。
時期的には微妙な気もするけど。
「行けるのか?」
「調べたら二十一まで行けるみたい」
となれば文化祭の前、そして、今日から一週間後だな。
「それだったら行けそうだな」
「そう、楽しみ。だって、朱里ちゃん、プールすっごく嫌うんだもん」
「そりゃ、悪かったな。スク水ならまだしも、性別男の俺がビキニなんて着たら変態みたいだろ」
「でも、多様性じゃない?」
「無理があるわ」
「着てみたくはないの?」
「気持ちはあるが、それを着てる俺を想像してみろ。絶対に気持ちが悪い」
ぺちゃぱいとかいうレベルではなく、胸がないのだ。
そして、体つきは流石に女というよりは男だ。
俺でも確実にやばい奴扱いをする。
「だから行くとしたら奏としてだな。そもそもウィッグとかの問題があるし」
「分かった。プールデート楽しみ!」
「おう」




