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クラスの孤高の狼がなついているのは女装した俺  作者: 有原優


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第二十話 女装での学校

「ねえ、女装が好きなら学校でも女装したら?」


 理恵子が唐突にそう言いだした。

 これにはびっくりだ。そんな発想は全くなかったのだから。

 思えば一度も考えたことがなかった。


「でも校則は?」

「大丈夫じゃない? うちってだいぶ緩いでしょ?」


 確かに。

 実は制服でも私服でもいいことになっているし(それでも服選ぶのが面倒な人や、制服が好きな人が多いからほとんどの人が制服であるが)

 髪の毛も染めていい。ひげもはやしてもいい、髪の長さ、何もかもが自由なのである。

 

 つまるところ女装して学校に行くというのもありなんじゃないかという話だ。

 確かにやってみてもいいかもしれない。


「いいなって思ったでしょ。最近はLGBTとかも流行ってるし、いいじゃない」

「俺のはそう言うのじゃない気がするが……」


 何しろ、自分の性が嫌いなわけでは無いのだし。

 朱里として過ごす時間は好きだ。何なら奏として過ごす時よりも楽しいかもしれない。

 だけど、これはそう言う話なのか?

 理恵子に大丈夫だよと言われたが、まだ不安は消えていない。

 欲望のためだけに女装しているんじゃないかという不安が。


「まあ、いいじゃん。私学校でも朱里ちゃんと過ごしたいし」

「それが目的か……」

「あ、でも。その場合、修平君に取られちゃうか」

「俺と修平は付き合ってねえよ。常識的に……と、さっきまでの話だと、ありえるのか」


 女装隙の俺がそれを否定したらおかしなことになる。


「まあ、それはともかく、やってみようよ」


 そして、先生に話すと、普通にOKがもらえた。

 ちょっ緩すぎねえか?

 俺は学校内ではそんなのは禁止と言われるかと思ってた。


 何はともあれ、許可を無事にもらえた。

 これで、明日から学校でも朱里として生活できるのだ。

 明日どうなるかだけが、問題だが、とりあえずは理恵子に感謝だ。







 というわけで翌日奏は早速朱里として登校する。

 勿論あの制服を使うわけには行かないので、念のために持っていた我らが学校の制服を着てだ。


「朱里ちゃん、それも似合ってるじゃん」

「そうかしら……変じゃない?」

「変じゃないよ」

「……本当にいいのかしら」


 何しろ、男の体に女子の制服だ。

 奏にとっては、着るだけと、着て学校に向かうのとは別の話なのだ。


「いいに決まってるじゃん。行こ!」


 そう言って理恵子は戸惑う奏の手を半端強引に引っ張った。


「結構見られてるわね」


 学校付近では生徒が多くなる。その生徒の三分の一が、奏を見ている。


「可愛いとでも思ってるんじゃないの?」

「それは知ってるわ」

「知ってるの?」

「だって、何度もかわいいって言われてきたんだもの」


そもそも修平は奏に対してプロポーズしてたし、服屋さんの店員さんには可愛いと言われている。


「そう言えば、店員さんに伝えないとね」

「何を?」

「引っ越しするって言ったままだから」

「それはしなきゃだめだね。帰りにでもしよ!」

「ええ」


そして学校に入っていく。


 奏たちが教室についた途端。みんながざわめきだした。

 無理もない、クラスに知らない美人が入ってきたのだから。


 (流石に女装しているからな。変だと思ったのかな)



「誰だよ、あの美人は」


 奏の想像とは案外違ったらしい。

 奏は自分の席に座りにくくなった。周りの視線が怖い。

 どうしようか、痛いやつと思われてしまったら。


 (そうだったな。俺は、先生にしか言ってないんだからこいつらは知らなくても当たり前なのか)


 だが、いつまでも座らない訳にもいかない。俺は席に座る。


「は?」「え?」「どういうことだ?」


 皆が一斉にみる。


「俺だ、奏だ」


 奏はそう発言した。


「私は今日から女装して学校に行くことにしたの。だからこれからよろしくね」

「それは俺が説明する。奏は元々武村朱里という人物として出かけてたりしたんだ」


それを聞き、「そう言えば見たことがある」と一人のクラスメイトが言う。


「そうだ。だから今日奏が学校に女装して行ったのも、勇気のある行動として認めてやってほしい。前時代的な話だが、認めてやってほしい」


(修平ありがとう)


「私も、奏君の女装はただの欲求じゃなくて、まさにその状態が一番いいっていう、その姿がしっくりくるの。だから、認めてほしい、私は奏君の彼女としてそれだけは言いたい」


 その言葉で、奏はクラスに溶け込むことが出来た。

 普段感情をあまり出さない理恵子がそう言ったのだ。

 信憑性があったのだろう。


 そして奏は、授業中も朱里として生活した。

 口調も朱里仕様で。

 なんとなく不思議な気持ちだ。

 まさか、朱里として授業に参加しているとは。


「ねえ、そのメイクってどうやってるの?」


一時間目の休み時間。奏はそう話しかけられた。

どうやってか。

正直奏としては女子向けのメイクではないと思ってる。

ただ、奏が化けるにはどうしたらいいのか、試行錯誤のうちに生み出されたメイクだ。

目の前にいる女子、夢前穂乃果に似合うとは思わない。


「まあ、えっと、」


奏はどのメイク用具を使っているのかを説明し始める。


「なるほど……勉強になる―」

「そうは言ってもあくまでも私がかわいくなるために研究した結果だからあまりうのみにはしないでね、夢前さんに会うかは別の話だから」

「うんっ!!」


その会話を終え、奏が席に座ると、理恵子が「どう? 楽しかった?」と聞いてきた。


完全に調子に乗っている。

まるで、自分が提案したおかげで今の奏があるとでも言っているようだ。


事実なのだから、奏には反論などできないのだが。それに、


「楽しかったわ」


奏はそう言って笑った。事実、こういった話など、したくてもあまり出来ていなかったのだ。



 そして、体育の時間になった。

 着替えの部屋や、体育は男子と一緒だ。


 服を着替えて、体育館に入る。

 


「しかし、面白いよな」


 体育の授業中、クラスメイトの高梨秀太が話しかけてくる。


「まるで女みたいになってる山崎が体育の授業に出ているんだもん」


 聞く人に対しては失礼にあたる発言だろう。

 でも、それは奏も思っている事だ。

 ウィッグまでつけて、完全に女子のようになっている奏がここにいるんだから。


 そして、助行で取り扱うのはサッカーだ。

奏がボールを「修平頼むわ」と言って蹴る。

「おう」修平がそのボールを取り、蹴りながら進む。


 勿論奏はこういう格好をしているが、男だ。したがって運動神経も高い。一見女に見えても侮るなかれっていうやつだ。


「なんか面白いな」


 修平がインターバルの時間にそう、奏に言ってきた。


「今の朱里の姿女にしか見えないからさ、無双してるのがさ」

「ええ、そうね、でも、修平君がいるからよ」

「それ辞めてくれないか、ドキッとする」


 (そういや修平は過去に俺に惚れてたな)


「でもいいじゃない、修平は恋できるんだし」

「おい、冗談でも言うなよ。男ばれしたお前に今更恋するわけねえじゃん」

「でも、ドキッとしてなかったかしら」

「うるせえ、それが嫌なんだよ、もう!」


 そして修平は俺の腹をどついてきた。


「何するのよ」


 俺も修平の脇をくすぐる。


「うわあ、お前」



 その頃、


「なあ、あの二人すごくないか」


 遠くから奏と修平のクラスメイトが見ていた。


「マジで男に見えないんだが」


 背が高い武がそう言うと、「それな」と背が低い小太りの俊哉が肯定する。


「本当に、すげえや、てかあれBLじゃねえの?」

「BLかな……? それよりも、うーん」俊哉は数秒考える。


「TS物かな」

「確かにそっちの方がしっくりくるな。……てか、その姿でくすぐり愛って、目に毒なんだけど」

「ああ、それなあ。俺彼女欲しいわ」

「はは、男でもいいのか?」

「まあ、あの人だったらいいよ。俺ゲイじゃないけど」


 そう言って笑う二人がいた。


 体育が終わり、奏は更衣室に向かった。

 汗をかいているなと感じた。これじゃあ、女装用のメイクが落ちてしまうかもと。

 昼休みにメイクを直さなくてはなと思った。

 

 そんなことを考えながら服を脱ごうとしていると、奏はなんか視線を感じた。


 (俺が今から着替えるからか? 脱いでも出るのは男の裸だけだけどな)


 奏は男だ。おっぱいなど決して出るわけがない。


 しかし、気にしててもきりがない。今はおとなしく脱ぐか。

 しかし、脱いでもなお見てくるクラスメイト達。


 (そんなに見て得あるか?)


 そして、奏はスカートを着た。


 そして、更衣室から出る。


「あ、あれ? 男子更衣室から女子が出てきた?」


 そこにいたのは理恵子だった。


「何を言ってるの?」


 そう奏がじろっと見ると、


「朱里ちゃん、冗談、冗談だから」


 そう必死に弁明する理恵子を見て奏はふふと、笑った。


「そう言えばさ、朱里ちゃん? 奏君? 学校でも朱里ちゃんモードだけど、これで過ごすと決めたの?」

「いえ、迷ってるわ。だって、リスクもあるもの」


 そして体育であった出来事を理恵子に話す。


「BL展開ね」

「理恵子までそう言うの?」

「だって、武美ちゃんが好きなんだもの」


 武美のやつ、百合だけじゃなく、BLも好きなのかよ。


「まあそれは置いといてね、奏君はどっちが楽なの?」

「私はこっちのほうが気楽だわ、奏だと……本当の自分じゃ無いは言いすぎだけど、なんて言ったらいいのかしら……しゃべりやすいの」


 結局気楽と喋りやすいは同じ意味だと思うけど、それ以外の言葉が出てこなかった。


「そう、だったらそれでいいじゃん。私は奏も朱里も好きなんだから」

「そう、ありがと」


 後ろに気配を感じた。

 後ろを向くと、複数名の男子がにやにやしていた。

 まさか今度は百合とでも言わねえだろうな。


「理恵子行きましょ」

「うん。私の朱里ちゃんは渡さないんだから。行こ!」


 理恵子は俺の腕を強引に引っ張っていった。


 その光景を見て、


「百合だなあ」

「そうだなあ」


 武と俊哉はそう言ってニヤニヤした。


「しかしだなあ、あれ、BLも百合も行けるってずるくねえか?」

「男の娘も、TS物もな」

「あれ、創作物にしたら面白そうだな」

「だな、てかこれ自体俺らすげえ体験してるぜ」

「本当にな」



そう言って二人は笑う。






 そしてメイクを軽く直した後、奏たちは昼ご飯だ。

 俺と修平と理恵子でご飯を食べる。

 はた目から見たら男一人女二人のハーレム? に見えるだろうが実際は男二人女一人の逆ハーレム? だ。


「はい、朱里ちゃん、あーん」


 理恵子が弁当の料理を奏の口にいれようとする。


「分かった、受け取るわ」


 そして奏はパクっと差し出されたそれを口にくわえた。


「これ私の手づくりなの。どう? 美味しい?」

「ええ、美味しいわ」

「やった!!」


 ガッツポーズする理恵子。それに対し修平が「俺を会話からのけないでくれ」と、零した。


「まあ確かに修平には悪いことをしたわね。謝るわ」

「っくそ、なんとなくやりにくい」


 修平にとって、今まで学校では奏としか話してなかったからややこしいんだろうなと、奏は思った。


「てか、俺は元々お前に告白しようとしてたくらい惚れてたという事を忘れないでくれ」

「男に対して惚れてたってこと?」

「それを含めてもだよ」


「じゃあ、実質女が二人という事になるね」

「そうだね」

「じゃあ、あーん」


 今度は俺が修平にあーんをする。


「やめろ、恥ずかしい」

「えー、良いじゃないの」


 その修平の顔が最高だ。



 やはり周りから視線を感じる。

 まあ、男子同士でこれはやりすぎたか。



「てえてえな」


 勿論見てたのはあの二人だった。

 理恵子が一つじろっとにらむと、慌てて、二人はスマホをいじりだした。




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