第十四話 仕組まれたデート
次の日、俺は朱莉として修平の家に行った。
「こんにちは、修平くん」
そう、修平に言う。
「もう、正体わかってるんだよ」
「そうか……ならこんな改まった言い方は不要だな」
「いや、朱理さん口調で頼む」
そう、真顔で言う修平。はあ、全く。
「それで、今日はゲームをするでいいのかしら?」
「ああ、それで頼む」
おい、修平ニヤニヤすんな。
「じゃあいくわね」
そう言って車を動かす。俺と修平だと俺の方が上手い。
車をうまく動かして、修平から距離を取ろうとする。
「っくそ、だが、アイテムさえ取れれば」
そう言って道幅に転がっているアイテムボックスを取って望みを託そうとする。だが、そこから出たのは、シンプルな加速アイテム。そう。逆転には、一歩届かないだろう。
「これなら私が逃げ切れそうね」
そう言って、カーブをドリフトして回る。これでさらに距離が縮まることはないだろう。
俺の勝ちだ。
「やった、朱里さんに勝ったぞ」
修平は無邪気に喜ぶ。
そう、俺が勝てるはずだったのだ。だがゴール前で、無差別攻撃である雷撃と、一位を狙う空撃が同時にきて、俺の車に一気に飛んできた。
それさえなければ負けるはずはない。
「もう一戦いいかしら。このままでは終われないわ」
さすがに負けっぱなしではいられない。
っしかし、恥ずかしいものだな。朱里の正体を知っている人の前で、朱里を演ずるって。
何かいけないことでもしているみたいなものだ。
レースについてはは次はきちんと勝ち切った。
さすがにもう修平には負けない。
「なあ、修平。これ恥ずかしいんだが」
そう、奏の口調で、修平に言う。
「なんで朱里の口調でお前と話さなきゃならないんだよ」
「いいじゃねえか、謝罪の気持ちだと思ってさ。俺を騙した謝罪」
「……なんでだよ」
「なんでよ、だろ? なんでかしら、でもいいぞ」
「……はいはい、分かったわ」
とりあえず修平がこの状況を楽しんでいることが分かった。ならば、
「ちょっといいかしら?」
「どうしたんだ?」
「こちょこちょしてあげようかしら」
笑わせてやる。
「おい、それは朱里さんじゃねえ」
「問答無用よ」
そしてこちょこちょをした。全力で鬱憤を晴らすように。
そんな時、スマホから通知音が鳴った。
送り主は理恵子だ。
「何かしら」
スマホをいじる。すると、メールで、今から遊ばない?と来ていた。
俺にも修平にも朱里にもだ。
「ちょっと待てよ」
修平は悪戯っぽい笑みを浮かばせ、スマホを触る。そして一件のメールが送られた。その内容は、
(悪い、今朱里さんとデートしてるから奏を連れて行ってくれ)
というものだ。
「はあ!?」
思わず叫んでしまった。いきなり何を書いているんだ。
「いいだろ。奏と高橋さんはあまり関係がないんだ。この際デート楽しんで来いよ」
「……デート?」
「デートだろ。男女で行ってるんだし」
「いやでも、理恵子が承諾するとは限らないし」
(わかった。じゃあ、山崎君、今からショッピングセンターに来てくれない?)
(もし良かったらだけど)
承諾してるし!
そこは断っとけ。
「というわけだ。行ってくれるだろ」
「いやでもここで俺が断ったら……」
その瞬間俺の手元の携帯がとられる。
(わかった、今から行くよ)
修平の手によって奪われた俺のスマホからそうメールがくる。
「お前!!」
「いいだろ別にさ」
どうやら俺は理恵子とデートしなきゃならなくなったみたいだ。
そして、修平の家で、女装を解いて、家から出る。
着替えてる最中、修平にじろじろと見られて少しイラついた。
これもセクハラで訴えられないかな。
「お待たせ、高橋さん」
三〇分後、俺は理恵子のもとについた。理恵子は朱里が初めて会った日にお勧めしていたコーデにしたようだ。
うん、かわいい。
「じゃあ行こっか」
そう笑顔で笑う理恵子。奏に向ける笑顔も少し不思議な感じがする。
そしてさっそく高橋さんは、服屋さんに行った。
まさか、朱里を欲してた理由ってこれ?
「俺、ファッションにはそこまで興味ないから、助けになれないかもしれないけど」
実際今着ている服を見ればそれはわかる。今の俺はださくはないものの、別におしゃれでもない格好だ。
とはいえ、男子のファッションに疎いだけで、女子のファッションはよく知っているけれど。
「それは大丈夫。男にもてるファッションも試して……見たいと思っただけだから」
なるほどな。俺に選べる服があればいいが、あまりに的確過ぎると、修平のときみたいに、バレる可能性もある。何とかしてごまかさないと。
「わかった。微力ながら手伝うよ」
だが、そのあと、理恵子が出してきた服はまあまあ似合ってはいたが、何か違う気がした。
理恵子にはもっと似合う服があるといいたいのをぐっと抑えて、男子目線で服の似合ってる部分を言った。
理恵子を着せ替え人形にしたい気持ちを抑えて。
まあ、今は男子だからあまりセクハラに近いことは言えないが……
そして、一通り理恵子が服を選び買った後、
「山崎君はどこか行きたいところはないの? あまり山崎君とは……出かけたことがないから、分からないの」
そうもじもじとして言う理恵子。行きたいところか……
カラオケも気分ではないし、ゲーセンも違う。
「ここはどうだ?」
俺が指さしたのは、映画館だ。
「気分で言えば映画なんだよ」
それに見たい映画もある。
理恵子はそれを着て考え込む。映画館に行っている自分を想像しているのだろう。
「これなら見てもいいよ」
理恵子が指さした映画は、少女漫画がもととなった恋愛映画だ。
殻に閉じこもってばかりの主人公を俺様系男子が、広い世界に連れ出す。
だが、俺の気分ではない。少女漫画もいいけど、今は違うのだ。
「合わないな……」
「そう……なの?」
「ああ」
理恵子は再び、自身の髪の毛をさすりながら考え始める。だが、その様子から、全然答えを見つけられていなさそうだった。
かくいう俺も、朱里としてならまだしも、奏として理恵子とどこに行けばいいのかわからない。
本当に修平のやつ、難題を押し付けやがって。
そして、二人で考え込んだのち、俺たちは理恵子の家にいる。
やっぱりさ、理恵子って色々と距離感バグってるところがあると思ってたんだけどさ、それは男に対してもかよ。
つい一月前には奏のことを嫌ってたとは思えないくらいだ。
「えっと、ゲーム機は持ってきたけど」
「修平君から聞いてるの、山崎君ってゲームがうまいって」
修平いつの間にそんなこと話してたんだ?
「だからやろ」
「お、おう」
そして、ソファーの隣同士で座る。
そんな時に、ピコーンと、通知音が鳴った。
一応アリバイつくりに撮った、朱里の写真IN修平ハウスだ。
「在宅デートか」
それを見て呟く。
「みたいだね。やっぱり仲いいんだね」
そういった理恵子の顔が少しだけ曇った気がした。
「嫉妬か?」
「……」
やっぱり嫉妬だな。
気持ちは大いにわかる。俺も一回姉ちゃんが彼氏ができたときには少し嫉妬したからな。
「大丈夫だろ。お前らの事はよくわからんけど、武村さんはそんなさ、彼氏ができたくらいで高橋さんと遊ばなくなるような人なのか? 大丈夫だよ、きっと明日誘ったら一緒に遊んでくれるさ」
そう慰める。実際武村さんは俺なのだからな。
「うん」
「まあ、俺たちは俺たちで遊ぼうぜ」
「うん!」
そして、それから明らかに理恵子の態度が変わった。
その様子から察するに、俺にもなつき始めてないか?
心なしか、距離が近くなってるし。
はあ、マジでどうすんだよこれ。
困ったなあ。
「ねえねえ、カートレース飽きたから次はこれをしようよ」
そして理恵子が見せてきたのは、スポーツフェスティバルというゲームだった。確かこのゲームの中にはいろいろなゲームが入っていたはず。
「なるほど」
それを見て俺は軽くうなずく。
確かにこのゲームはいろいろなゲームが入っている。それぞれ楽しめそうだ。
早速、そのゲームをゲーム機に入れ、ゲームを開始する。
「えっと、どれがいいかなー」
真剣に理恵子がゲームを選ぶ。
その結果、バトミントンゲームをした。
度のゲームの内容はシンプル、球を打ちまくるというものだ。
だが、カートレースゲームに続いて勝ちまくった。バトミントンだけではなく、サッカーでもサフィンでもボーリングでも勝ちまくった。
ゲームなら俺の方が得意なのだし。
だが、理恵子は顔を俯いて悔しそうな顔をする。
「高橋さんはさ、ゲーム初心者なんだろ? 仕方ないじゃん」
「そうだけど……」
やはり複雑そうな顔をする理恵子。納得がいってないんだろうな。
「それに、お前にはゲーム以外に得意なことがあるんだろ。なら大丈夫だろ」
「うん、ありがとう」
そう、感謝される。
そんなとき、肩に重量を感じた。
隣を見ると、理恵子が寝ている。
は? さっきまで起きてたのに突然どうしたんだよ。
いやはやどうしたものか。普通に起こしてもいいのだが、今の俺は朱里ではない。
下手な起こし方をすると、セクハラになり得ない。
もしその状況で「襲おうとしてたでしょ」とか言われても誤解を解くことなんてできないのだし。
取り敢えず……
「おい!」
少し肩をトントンとする。起きない。
「はあ……」
もしかして普段慣れてない奏との相手に緊張でもしてたのか?
仕方ない。
とりあえず寝かせてやるか。
そう思ってそっとソファーから降りて、理恵子をソファーに寝かす。
さて、俺は何をしようか。外に出るわけにも行けないし、はあ、ゲームをしながらボーとするか。
「あれ」
俺がカートレースをしているときに、理恵子が起き上がった。
「あ、おはよう」
「うん、おはよう。……って、私寝てたの?」
「ああ、熟睡してた」
「そっか」
ぐっと手を伸ばして起き上がろうとする理恵子。
それをただじっと見る。
「寝てたんだから、起き上がるのゆっくりでいいぞ」
「うん、そうだね」
「ねえ、山崎君。寝ている私を襲おうなんて考えなかったの?」
急にぶっ飛んだことを言うな。この娘は。
「何を馬鹿なことを言っているんだ。家に招かれること自体信用されていると同義だ。そんな中その信用を裏切ったらただのくずだろ。それに犯罪だしな」
「山崎君らしいね。……ねえ、奏君って呼んでもいい? そっちも下の名前で呼んでいいから」
「えっと、じゃあ理恵子ちゃん? 理恵子さん?」
「理恵子でいいよ。その二つの呼び方変だし」
そう言って笑う理恵子。
「なんかごめんね。こんな時間までいてもらっちゃって」
理恵子は時計を見る。時刻は五時半となっている。
「いやいいよ。ゲーム楽しめたし」
「そっか、じゃあまた今度?」
「ああ、そうだな。まだ今度だな」
そして、俺は家から出た。




