駄女神に話があります
よろしくお願いいたしますm(__)m
クリスくんは来年から王立学院で特別授業を受けることになったらしい。
王立学院は六歳になると国民のほとんどが入学する教育施設で、大体の人が十八歳まで所属する。
所属といっても拘束されるわけじゃなくて、同時に騎士になったり冒険者になったりしている人もいる。
それでも毎年実施される卒業試験に合格すれば卒業はできるから、人によって卒業のタイミングはばらばらだし、受ける授業もばらばら。
ただ、特別授業は普通とは違うんだって。
勇者とか聖女とか、魔王討伐のパーティに入る面子が受ける、とっっっくべつな教育なんだと。
両親とクリスくんが、今後のことで王宮の人とか冒険者ギルドの人とか神殿の人たちと色々動き回っている間、俺――とふさふさ――は宿屋でお留守番だった。
確かに俺がついていっても意味ないのかもしれないけどさ。
それに、俺の後回しされた加護を調べるやつは、いつやってくれるんだろう。
と、ぼやいていたら夕方に父が連れていってくれた。
で。
「…う~ん、これは」
「なんなのでしょうか?」
「勇者、すぺあ?」
ん?
「“すぺあ”とはなんでしょう?知らない言葉ですが…」
「過去の文献から調べてみます」
「お兄さんが勇者ですから、その繋がりでしょうか?」
すぺあ………スペア?
どういうこと?
「ルイスもなにか特別なもの持ってるのか?」
父が首を傾げていた。
★ ☆ ★ ☆ ★
今俺は宿屋で貰った銀紙を見つめている。穴の空くほど。
『そんなに見ても結果は変わらぬぞ』
「うるさいな。そんなのわかってるよ」
『なにが不満なんじゃ。お主も勇者みたいなものじゃろうて』
「全っ然ちがうから!俺は勇者のスペア!代用品!つまり、クリスくんに何かあったら俺が勇者になるってだけのこと!」
クリスくんに何かあったら……!
俺が勇者に~とかトーレニアさんに頼んだせいで、クリスくんが特に希望してもいないのに命懸けの危険な勇者になってしまった!
きっとトーレニアさんがまた設定範囲とかを間違えたんだよ~~~!
ほんっと、つっかえねーーー!!!
ベッドにぼすん、と寝っ転がる。
左手にクリスくんの、右手に俺の紙。
内容はほぼ同じで、適正魔法とか神々の加護とか推奨職種とかは全部同じなのに、最後の備考欄的なところが違う。
“勇者”と“勇者”。
「はぁ~~~~~~」
いくら新入女神といえど、こんなにミスを繰り返してたらクビになるぞ。
『よいか、小僧よ。勇者なんぞなるものではないわ』
「へいへい、でしょーね。危ないですもんね。常に死と隣り合わせですもんね」
『む。お主、最近態度が酷いぞ。父母や兄のおるところでは良い子を装っとるくせに、わししかおらぬところではこの態度。わしは元聖獣、そのような態度を取るなぞ百年早いわ』
「あんなぁ…元聖獣だかなんだか知らんけど、俺にとっちゃどーでもいいわけよ」
今までは大体クリスくんが一緒にいたのでタイミングが無かったが、幸い今はクリスくんはいない(母親とギルドに行ってる)ので、一応、内密にするよう前置きしてからふさふさには話してやった。
俺がどういう経緯でここにいるのかってことを。
『なるほど………聖女が異界より召喚される以上、無い話ではないじゃろ』
案外あっさり信じてくれました。
「俺的にはなんで聖女が召喚されてから、勇者が生まれてくるのか不思議だけどな。年齢差でかくね?勇者が全盛期のときに聖女は下り坂じゃん」
『なんだお主、知らんのか?聖女は幼子のときに召喚され、召喚された国の大神殿で育てられるのだ』
「え?」
『聖女とは神に祈りを届け、勇者と神との間を繋ぐ、謂わば仲人。異界から召喚されるときに神々のもとを通るので、聖女は我々と違い神と交信する力を持っておる。だが、ある程度の年齢まで育ってしまえば里心がついてしまい、こちらに来ても馴染めぬ。ならば、まだ物心もつかない幼子をこちらに召喚して、こちらで育てよう、ということよ』
…………なるへそ。
『とは言えど、魔王が復活する時期は不明。各国持ち回りで毎年聖女を召喚する儀式を行い、失敗すればまだ魔王は復活しない、成功すれば魔王復活までもうすぐ、といった判断しか出来ぬのじゃ。そして実際にこれまで聖女の召喚に成功したら、その後間もなく勇者が生まれ、聖獣が顕現し、魔王が復活している』
「ふーん。じゃあ聖女と勇者は同年代なんだ」
しかも、聖女には異世界転移前の記憶はほとんどないってことね。
………誘拐じゃん。
いや、召喚ものはどれも誘拐だけど、ちっちゃい子だと尚更犯罪色強め。
親御さん、心配してきっと何十年も探し続けるんだぞ。
『勇者の仲間は聖獣と大賢者以外は皆同年代よ』
「賢者もいるんだ?てか、俺そもそも勇者パーティについてあんま知らねーな」
自分が勇者だと思ってたから、あとのお楽しみ~って取っておいたのにさ、トーレニアさんめ!
『聖女、聖獣は知っておるな?他には大賢者、大魔術師、大戦士がおる。あとは毎回現れるわけではないが、精霊王がいるときもあるの』
勇者入れて六、七人のパーティってわけね。
「その賢者とか魔術師とか戦士はどうやって選ばれるの?」
『ふむ、わしも詳しくはないが、大賢者は当代の賢者の塔の覇者だったはずじゃ。大魔術師と大戦士は勇者と同様、大魔術師や大戦士として生まれてくる』
くそぅ。
勇者が駄目ならそれ以外で頑張ろうと思ったのに。
「賢者の塔っていうのは?俺でも覇者になれるのか?」
『無理じゃろうな。賢者の塔はここから真南にある大砂漠の中心に建っておる塔だが、古より存在する迷宮の一つ、たどり着くだけでも一定以上の戦力は必要な上、入っても最上階を攻略するまでに十年以上はかかるわい』
駄目か~。
まじでトーレニアさん、やってくれたな。
こりゃ、トーレニアさんに文句の一つでも言いたい!
ふさふさと話ながらいつのまにか寝てしまったらしい俺は、その夜、仕事のできない駄目新神と再会した。
ありがとうございますm(__)m