解呪の儀式
よろしくお願いいたしますm(__)m
魔王の復活が~、と一時期両親含む冒険者の面々が慌てていたけど、なぜか次第に沈静化した。理由は不明だ。父曰く『ギルド本部が総出で調査した結果、緊急性はないと判明したらしい』とのこと。
へぇ、そうなんだ~。
まあね、確かに今緊急事態になっても困るんだけどさ。俺まだがきんちょだし。
でもさぁ、うちのふさふさが『魔王は復活しとるぞ』とか言ってるのよ。
転生する前にもうちょいトーレニアさんに詳しいこと聞いとけばよかったなぁ。
それはさておき、日々は流れ。
本日はなんと!
いよいよ待ちに待った“解呪の儀式”の日なのだ!!!
こちらの世界では年齢を重ねるにあたっていまいち誕生日は重視されない。年が明けたら全員一斉に一つ歳をとる(年末に生まれた子はかわいそうだよね、次の日には1歳……かっこわらい)。
なので、俺もクリスくんも誕生日前ではあるけど5歳になったわけで。
母親が、そろそろ解呪に行こうか、と。
やっほーーーい!!!
ようやく魔法が!!!
使える!!!
ようになる!!!
にちがいない!!!
★ ☆ ★ ☆ ★
「それでは、まずはお兄ちゃんの方からいきましょうか」
町の中心部にある神殿に来ております。
そこで神官の方々が“解呪の儀式”を執り行ってくださるのだ。
「ほら、クリス」
母が緊張して固くなっているクリスくんの背中を押す。
別に俺たちが難しいことをするわけじゃなく、神官の指示に従って魔方陣に入ったり出たり、読めと言われた文言を音読したり、手を出したり、水晶に血を垂らしたりするだけらしいのに、クリスくんは朝から――いや昨日からなぜか緊張しっぱなしなのだ。
俺が先にやってもいいんだけど、というかやりたいくらいなんだけど、ここのところいやにお兄ちゃんぶるクリスくんはね、先にやって俺を安心させたいみたいなんだよね。
そういうお年頃ってやつ?
「クリスくん、がんばってね」
クリスくんの手をぎゅっと握ってあげると、クリスくんは覚悟を決めたような顔をして力強く頷いた。
「うん!だいじょうぶだよ、ルイス!ぼくがお手本になるからね!」
神官に誘導され、クリスくんは床の上に描かれた魔方陣の中心に立つ。
その周囲を魔方陣に接しないところから三人の神官が取り囲んだ。
「“創造神に希う。ここに封じられしこの者の魔力を解放せよ”」
なんて言っているのか俺にはわからないけど、たぶん魔法言語の呪文。
神官たちが唱え終わり、手にしていた杖を一振りすると、空間がゆらゆらと揺らめき、パァアッと七色の光がクリスくんに降り注いだ。
「解呪の儀式は成功しました」
神官たちがクリスくんに微笑みかける。
クリスくんはぱちくりと瞬きし、手を握ったり開いたりしながら不思議そうな顔をした。
「なにもおきないね」
俺と一緒に少し離れたところで見守っていた両親が、クスクスと笑った。
「今まで封じていた魔力を解放しただけだからねぇ」
「これから訓練してようやくちゃんと魔法が使えるようになるのよ」
「そうなんだぁ」
なんだか少し残念そうなクリスくんだった。
さて、お次は俺の番である。
クリスくんと同じように魔方陣の真ん中に立ち、神官たちの呪文を待つ。
「………ルイスはずいぶん堂々とした態度だな」
「あの子、仁王立ちしてるわ」
両親の呆れ声が耳に届いたが、父と母よ、このルイスはクリスくんと違って中身は大人なのさ。これくらいでおどおどするような可愛いげはないんだよ。
「“創造神に希う。ここに封じられしこの者の魔力を解放せよ”」
さっきと同様、呪文を唱えて杖が振られる。
クリスくんの様に俺も光に包まれて解呪の儀式は終わった。
「続いて、加護等を調べて参りましょう。こちらへどうぞ」
魔方陣のあるホールから続く奥の部屋に案内され、神官たちの後に続いて入室する。
……めちゃくちゃ簡素な部屋だな。
ぐるりと室内を見回してみたけど、机と椅子と、机の上の水晶、そして壁際に並んだ四脚の椅子しかない。
外から見た神殿はきらびやかで凄い豪華な感じだったけど。
「それではお兄ちゃんから」
俺は両親と共に壁際の椅子に座った。
………座ろうとしたら身長が足りなくて椅子の脚にしがみつくような状態になったので、父に抱っこして乗せてもらいました。
「では水晶に両手を翳してください」
神官の手によって、クリスくんのちっちゃなおててが水晶の上に導かれ、別の神官が杖を一振り。
水晶から黄金の光が溢れ出てきた。
「さ、この紙に血を一滴」
もう一人の神官が桜色のぺらい紙と細い針をクリスくんに差し出した。
わかってるけど、必要なことだとわかってはいるけども!
クリスくんの可憐な指に傷をつけるなんて!
あー、クリスくん、ぷるぷる震えてる…。
「っ!」
ぎゅっと目を瞑ったクリスくんは、一思いにグサッと左手の人差し指に針をぶっ刺した。
「いちゃい……」
涙目になってる。
そして人差し指からはぼたぼた血が垂れた。
苦笑いの神官がすかさず用紙でその血を拭う。
クリスくん、ちくっとでいいんだよ。
そんなぶっすりいったらそりゃ痛いでしょ~。
涙目、可愛いけど。
「これは………!?」
と、神官の顔色が変わった。
他の二人の神官も驚いた顔でその紙を見ている。
「どうしたのかしら…?」
母が腰を浮かせた。
「どうしましょう」
「滅多にないことではありますが…」
「いやいや、水晶に不具合があったかもしれません」
神官たちがぼそぼそと何事か話し合って。
「水晶の調子良くないのかも知れないので、その確認も兼ねてルイスくんを調べても良いですか?」
またもや父に抱っこで椅子から下ろしてもらい、クリスくんと同じことをして、同じことになった。
ありがとうございますm(__)m