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交渉成功!!

よろしくお願いいたしますm(__)m

「ごめんなさい、生き返ることは出来ません。転生も……順番が回ってくるまでは待機して頂かなくてはならないのです」

「あのね、新神さん。ミスしたらごめんなさいは当たり前だし、大きなミスなら謝罪だけじゃ足りないわけね。君のやらかしで俺の命がなくなったわけだけど、それは神様の世界じゃちっちゃなミスなんですかね?」

「いえ!そんなことは…!!」


 肩を縮こまらせるトーレニアさんが、今年入社したばかりの新卒の子を思い出させた。

 1ヶ月の新人研修を終えてうちの部署に配属されて早々に、お得意様の請求書を別の顧客宛に送り付けるというミスをやらかしちゃった子。

 顔真っ青にして冷や汗だらだら、ぷるぷる震えながら主任に報告して、課長や次長まで出てきてしこたま叱られて……ありゃ可哀想だった。やらかしたその子が悪いのはそうなんだけど、あんなに怒鳴り散らされたらさぁ。


 というわけで、俺は怒鳴り付けはしない。しないが、ジト目で見るくらいはするぞ。


「トーレニアさんで責任が取りきれないレベルなら、もっと上の神様呼んでくれないかな」

「え゛?」


 トーレニアさんがぎょっと目を見開いた。


「ほら、普通下っ端が問題起こしたら、最終的には上司とか上の人出てくるわけじゃん?トーレニアさんがどんな立場かはわからないけど、被害者の俺が君の謝罪だけじゃ許せないって言ってるわけだからさ」

「あ、あの…………その…………この世界の神はワタクシですので、そのぅ………ワタクシが一番上に当たりますので………ワタクシより上となると……そのぅ………この世界ではなく、神を取り仕切るゴッドオブゴッド様ということになりまして……そのぅ…」


 いや、ネーミング!!!!

 神が和風なのか洋風なのかもうわけわからんが、ゴッドオブゴッドて……!!


「彼の方をお呼びするには、順序と正当な理由が必要でして……そのためには、神の入れ替え以上の処遇が……」


 トーレニアさんがなにやらぶつぶつ言っているが、さっぱり理解できない。


「俺が知りたいのは、一体誰なら俺の命を奪った責任を取れるのかってこと。あと、弁償も。君じゃできないんなら、できるやつ呼んで欲しいわけよ」

「…………………責任はワタクシ以外に取れる者はおりません」

「じゃあちゃんと責任取って弁償してください」

「………転生はできません」

「じゃあ何ならできるの?」

「謝罪なら」

「以外で!!」


 思わず声を荒げてしまった。


 だってこの子、話が通じないんだもん。


「逆にトーレニアさんは何ならできるの?もちろん、謝罪以外でね」

「世界運営マニュアルの範囲内での手入れは可能です。あとは、世界の循環の監視や、たまに起こるブレ等を修正したり………」

「ごめん、専門的なことはわからないんで。マニュアルの範囲内でできることって?例えばどんなこと?」

「例えば、ワタクシの管轄する世界間を繋いで動植物を移動させたり、」


 異世界転移やないか。


「神官や聖職者――世界ごとに呼び方は異なりますが――の祈念に応えて道を指し示したり、」


 神託ね。


「その世界に必要な動植物を新たに生み出したり、」


 できるんやないかーい。


「それよ、それ!それで俺を生み出してくれればいいんですよ!」

「それはできません。ワタクシの管轄する世界において、人間はすでに存在してるので、新たに生み出すことにはならないのです」

「じゃあ、“俺”という新しい生命体を生み出せば?」

「……不可能ではありませんが、やるとすればこの世界ではなくワタクシの管轄する別の世界で、マシマコータローという種族の魔物扱いになります」


 ぶっちゃけ俺のままなら特に不都合は無いが。

 魔物に異世界転生して無双する話もあるしな。


 だがしかし。

 ここで折り合いをつけるのは最終手段である。


「あのさ、君、女神なんでしょ?トーレニアさんの持ちうる全ての力を駆使して、なんとか人間として生きさせては貰えないかな~?」


 強めプッシュ&下手気味。

 駄々を捏ねたらお次はこれ。


「俺もう頼れるのはトーレニアさんしかいないの」


 大の男が上目遣いもどうかと思うけど、一応やってみました。


 結果。


「…………………少々お待ちください」


 そう言ってトーレニアさんはいなくなった。


 真っ白空間に放置された俺。

 でもまぁ、気分は悪くない。

 これってあれだよね、脈ありくさい“少々お待ちください”だよね。

 なにかひらめいて、いけるかも!ってなったときに、念のため上司の確認取っとこうって中座するときによく俺が使った“少々お待ちください”な気がする。

 “少々お待ちください”の前にちょ~っと間があったのがポイントだよ。あの時に脳裏では目まぐるしい計算が行われてたに違いない。


 待つこと暫し。

 体感30分くらい。


 トーレニアさんが明るい笑顔で戻ってきた。


「マシマコータローさん!」

「はい!」

「できます!できますよ!!真っ当な人間になれます!!!」


 言い方!

 言い方もうちょい考えて!!

 ここには俺とトーレニアさんしかいないからいいけど、他に誰かいたらいらぬ誤解を生む可能性のある言葉のチョイスだから、それ。


「わぁ、本当ですか!ありがとう!ありがとう!」


 若干大袈裟に喜んでおくと、今後の付き合いが円滑になります。

 ……今後も付き合いがあるかは不明だけどね。


「マシマコータローさんはすでにお亡くなりなので、別の世界に移動させることは出来ませんが……」


 うん、それは知ってる。

 生きててこその異世界転移よな。


「魂は消滅したわけではないので、移動させることが可能です」


 はい。

 で?


「ワタクシの管轄する別の世界でもう間もなく生誕する人間の魂と、マシマコータローさんの魂を入れ替えます」


 …………。


「え?」


 トーレニアさんの説明に、俺は固まった。


 トーレニアさん、めっちゃ嬉々として語ってるけど、それってありなの?

 誰かを身代わりにするってことだよね?

 なんかアウトな気がするのは俺だけなのか?


 気になったので突っ込むことにした。


「あの、トーレニアさん。それって、俺と入れ替わる魂はどうなるの?」

「真っ当に輪廻の輪から転生の順番が回ってきた魂なので、天国・地獄での魂の浄化も終わってますし、マシマコータローさんが今後戻るはずだったこの世界の輪廻の輪に入ることになります。そして順番が来ればこの世界に生まれ落ちます」

「なるほど」


 うーむ。

 それならありなのか?


「浄化済みの魂なので、記憶や自我はありません。また順番が回ってくるまではただの生命エネルギーの塊ですので、マシマコータローさんが気にすることはないです」


 …………よくわからんが、良しとしよう。良しとしちゃうぞ。


「では、それでお願いします」

「はい!」

「ちなみに、どんな世界のどんな人のところに生まれるのか、予備知識として聞いておきたいんだけど……」


 流石にそれは無理かな~、と思いつつ駄目元で聞いてみたら許可された。


「この世界とは異なる概念の世界です。所謂剣と魔法のファンタジーな世界になります」

「科学は発展してない感じの」

「してない感じです」

「魔王とか勇者とかいる感じの」

「いる感じです」

「そしてその勇者は召喚された異世界人とかいう感じの」

「勇者は違いますが、勇者のパーティーの聖女はそうです」


 おおっ!

 聖女召喚パターンか!!

 勇者は現地民族ならさ……。


「俺、勇者やりたいなぁ~?」


 トーレニアさんをちらちら見ながら呟いてみる。


 やっぱり魔王を倒す勇者って、少年の心を引き摺る全男子の憧れだと思うんだ。

 俺なんか特に、中二病をこじらせたクチだったから――10年くらい前に克服したが――それはもう心が擽られるね。


「いいですよ」


 あっさり頷かれた。


「え、いいの!?てかそんな風に決められることなの!?」

「はい。今しがた聖女を召喚したばかりなので、まさにこれから勇者が生まれるところなのです。丁度マシマコータローさんへの謝罪が終わったら、勇者選抜に取り掛かろうと思っていたところですし、マシマコータローさんが引き受けてくださるなら一石二鳥です!」


 なんだか喜ばれている。

 聖女召喚したら勇者が生まれるって、時系列が気になるけどまぁいいや。

 勇者やれるならやっほーい!!


「ぜひ!!ぜひ!!よろしくお願いいたします!」

「はい、承知いたしました。では、勇者として生まれるということで、ワタクシの過ちをお許しください」

「うんうん、許すよ!もう超許す!」


 姉貴、俺はしがないリーマンを辞めて勇者に転職もとい転生するので、悪いが老後の面倒は見れなくなった。

 すまんな。


 心の中で唯一の肉親に謝っておく。


「では早速取り掛かりますね」

「は~い」


 トーレニアさんが失礼します、とまた消えた。


 と思ったら、声だけ聞こえてきた。


「徐々に眠くなってきますので、寝ちゃってください。起きたら転生しています。あ……魂が未浄化なので記憶と自我はそのままとなってしまいますが、大丈夫ですよね」

「もちろんですとも!」


 むしろこのままじゃないと意味ないし。


「そういえば、トーレニアさんなにやらかして俺が死んだの?」


 聞き忘れていたな~、と世間話的に水を向ければ。


「……………………………………………………」


 なが~い沈黙。

 なんだかデジャビュだよ、これ。

 まぁ言いたくないなら良いけどさ。

 だんだん眠くなってきたし。


 意識が途切れるか途切れないかの辺りで、トーレニアさんの声がぼんやり聞こえた。


「その聖女召喚で、転移させる範囲の設定を間違えてしまい、マシマコータローさんの体が真っ二つになってしまったのです。半分だけ転移されちゃって……」


 なにそれ。

 じゃあ俺の遺体、半分無いの?


 衝撃の事実だったけど、直後に意識がブラックアウトした。


[コータローの死後《現代》]


姉:は?一体どういうことですか?


警察:ですから、弟さんのご遺体は左半身が持ち去られている状態ですので、怨恨による殺人の可能性が非常に高く、その方向で捜査を進めております。光太郎さんに恨みを持つ人物にお心当たりはございませんか?


姉:ありませんよっ!!それを調べるのがあなたたちの仕事でしょ!?身内贔屓と思うかもしれませんがねっ、あの子は本当にいい子なんです!ものすごいお調子者でしたけど、周りからは好かれてましたし、確かに嫌ってる人もいたかもしれないけど、殺すほどあの子を恨んでる人なんて……っ!!


警察:確かにこちらの調べでも今の所彼の悪い評判は出てきておりません。ですので、少しでも情報をいただけると捜査の進展に繋がるかもしれません。犯人逮捕のため、事件解決のため、ご心痛はお察しいたしますが何卒ご協力のほどよろしくお願いいたします。


姉:そんなの分かってますけど……酷いわ、殺すだけじゃなく体を持ち去るなんて!!犯人の気がしれない……っ!!絶対に許さない!!光太郎にあんなことして!!


警察:………(でも死体の半分だけを持ち去るなんて、しかも頭から爪先まできれいに半分。移動の痕跡もないし、その場にいたらしい人も誘拐事件の被害者で、殺人の瞬間を見てないようだから目撃者にはなり得なかったし。同じ日に同じ場所で同時に二つの事件。誘拐の方は殺人とは無関係のようだが。あとはそう、凶器。一体何使ってあんな風に人間の体をすぱっと一刀両断できたんだ?……この事件はとにかく謎が多すぎる)


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