《3》
キッチンに備え付けてある固定電話の受話器を取った菜奈は、ダイヤルで番号を入力した。二、三度鳴ったコール音が途切れ、相手が出た。
『もしもし、舜です。』
「今から明後日の買い出しに行くからさ、付いてきてくんない?」
『分かりました。じゃあ、アパートのエントランスで待ってます。持ち物はバッグだけで良いですか?』
「ん~と、まあそれだけで良いよ。入らなければレジ袋貰うし。」
『はい。じゃあまた後で。』
舜に手短に用件を伝えた菜奈は受話器を置くと、エプロンを脱いで、引き出しに入っているエコバッグを2つ取った。
(こうしないと、全部入れられるか怪しいもんな。)
数日分の食材をまとめて買うので、買う量は相当多い。食費は住人から集金しているので、割と余裕がある。
(ピザだから・・・・・・だいたいピザ粉が3袋と、大玉のトマトが8個前後。バジルは屋上菜園のものを使うから問題なし。チーズは2種類を2袋、いや、使いかけが若干残ってるか。あとは別の野菜も少し入れる。蜂蜜はまだ使いかけがある。)
頭の中で完成形とレシピを同時に組み立てていく。菜奈は照明を消して食堂を後にした。
「お待たせー。待った?」
「いや、オレも来たばっかりだったので大丈夫です。」
菜奈がアパートのエントランスに着いた時には、既に舜がいた。ベンチに座って本を読んでいる。
「というか、オレで良かったんですか?非力なのを自負できるくらいなんですけど。」
「良いよ。都合が良かったのがアンタぐらいしかいなかったからさ。」
菜奈の言葉に顔を綻ばせた舜は、彼女の本音に気付かない。
(舞桜を連れていったら必ずと言って良いぐらいお菓子をねだられるから面倒なんだよな。亜澄を連れていった時は重さに気を取られてえげつなく時間がかかったし、そもそも鏡は中身を見るために切って確かめようとするからクレームが入る。平日に任務で駆り出される奴らも多い。これからも舜に付き添い頼みたいけど、あと3ヶ月くらい経てば任務が始まるかもしれないし。1人だと大量すぎるんだよな・・・・・・。)
顔をしかめながら考える彼女の顔を舜は覗き込んだ。
「菜奈さん?早く行きましょうよ。今日はレタスが安いみたいですよ。」
「おっ、マジ!?」
舜が持っているスーパーのチラシに釘付けになった菜奈は、居ても立ってもいられなくなってしまった。
「舜!こうしちゃいられない、走るよ!」
「え!?ちょっと、菜奈さん!」
ダッシュで細道を駆け抜ける菜奈を、舜は必死で追いかけた。
買った食材が大量に入った大きなエコバッグを、小柄な舜は1つ、菜奈は2つ掴んで、アパートへの道を歩いていた。
「買う量が想像より少なかったです。」
「そうか?」
「オレ、ここの人たちがどれくらい食べるか分からないんですけど、もっとカート3台分くらい買うと思ってました。」
「屋上菜園があるから、少しはそこで賄えるんだよ。」
「屋上菜園?」
本拠地の6階建てアパートの屋上には、そこそこ大きな菜園がある。何らかの事件があって数日立て籠らないといけない間、そこで食料を調達するために作られた。
「でも、旬とかが違えば全く育たないときもあるからな。それをスーパーで補充したりしてる感じだ。」
「確かに、ニンジンとか夏に育てるの難しそうですからね。」
「お前、野菜の収穫時期よく知ってんな。料理してきたのか?」
「な訳無いでしょ。」
そんな他愛もない話をしている2人の後ろには、黒い拳銃を手にした男達が菜奈達の動向を追っていた。菜奈は、後をつけてくる男達の存在に気付いていた。
(・・・・・・奴ら、歩くときに全く音立ててない。ってことは一般人じゃねえか。最近あったことと言えば、舞桜がレザールと悶着しただけ。となると奴らはレザールの工作員か戦闘員ってところか。面倒臭えな。)
頭の中で1つの答えを出した菜奈は舜の腕を引っ張ると、路地裏に入り込んだ。
「菜奈さん・・・・・・?」
「ちょいと面倒なことに巻き込まれそうだな。つくづくツイてねえな、アタシは!」
顔に笑みを浮かべた菜奈は、拳を鳴らした。




