《4》
『アンタがいるせいで、私達が不自由な思いをするのよ!もううんざり!』
『コイツを高値で売れる組織があるらしいぜ!』
『それ良いじゃない!どこどこ?』
『分かりました。舜は、我々が責任持ってお預かりしましょう。』
『大丈夫ですよ!ソイツはもう用済みなので、一生そちらで働かせてください!』
『分かりました。それでは、こちら代金です。』
『こんな額あれば、一生遊んで暮らせるわね!』
『競馬に競艇に麻雀!ワクワクが止まらないぜ!』
レザールの戦闘員の少年は、布団の中で目を覚ました。背中に冷や汗をかいていた。
(・・・・・・くだらない。)
彼は跳ね起きると身構えた。腰にあるはずのホルダーに手を添えて、血の気が引いた。
(ない!)
最後に記憶しているのは、末端施設で標的と対峙していたこと。気絶している間にここに連れてこられたのか。
「おはよー。よく寝られた?」
鉄の扉が開く音がして、誰かが部屋の中に入ってきた。素手で戦うことを覚悟した彼は、部屋の入り口を睨み付けた。ひょこっと顔を出したのは、ボブヘアの少女だ。
「そんなに怖い顔しなくても良いじゃん。何?お腹空いてんの?」
「・・・・・・お前は誰だ!何でオレをここに連れてきた?答えなければ、」
「その前にお腹空いてるでしょ。お茶漬け作ってきたから、食べる?」
「お茶漬け・・・・・・?」
「あ、嫌いだった?」
「食っても良いのか・・・・・・?」
「もちろん!食べないと1日は始まらないっすよ~!」
彼女はご飯にふりかけと緑茶が注がれたお茶碗を、少年に差し出した。
(・・・・・・毒は、盛られてない。)
「毒なんて盛ってないからね!ここの腕利き料理人が作ったオリジナルお茶漬けなんだから!」
恐る恐るお茶碗を受け取った少年に、少女は怒ったように言う。
「・・・・・・いただきます。」
少年は礼儀正しく啜り始めた。少年の空っぽの胃袋に温かいお茶漬けが流れ込む。彼はお茶漬けを5分足らずで食べきってしまった。
「ごちそうさまでした。」
「美味しかった?」
「こんなに美味しいご飯を食べられたのは久しぶりだ。ありがとうございました。」
「良かった良かった!後で料理人に伝えとくね!」
「そりゃどうも。それで、あなたは誰で、オレは今どこにいるんだ?」
少年の問いに、彼女はニコニコと意味深な笑みを含んでいた。
「はじめまして、レザールの戦闘員クン。私は陽影舞桜。ここはアニマル・ファミリーの本拠地。」
舞桜の発言に少年は青ざめた。敵の本拠地でのうのうとお茶漬けを食べていたことを恥じた。警戒心ではなく、羞恥心で消えたかった。
「で、君の自己紹介は?」
「オレは、舜。レザールの末端戦闘員。」
「名字は?」
「・・・・・・ない。親がいないから。」
「そっかー。まあ、私の名前も本名じゃないんだけどね。」
舞桜はヘラッと笑った。
「じゃあ、一旦寝てもらおうかな。」
舞桜が呟いた言葉を聞いた途端、舜は酷い眠気に襲われた。
「舞桜、お前まさか・・・・・・。」
「大丈夫、一旦だからすぐに起こすよ。じゃあ、Good night.」
「・・・・・・それで、この子を連れてきたわけか。」
「私は反対しました、首領。それを聞かなかった舞桜の責任です。」
「お黙りなさい、鏡。今あなたに意見を問うているわけではありません。」
ピリピリした空気を感じて目を覚ました舜は、修羅場に放り込まれていることを一瞬で理解した。
「起きるのが遅かったな、レザールのガキ。」
白髪を三つ編みにした鏡が、寝転がっている舜を見下ろす。それを舞桜がなだめる。
「オレはガキじゃねえ。前もそう言っただろ。」
「君と鏡君は会ったことがあるのかな?」
「昨日の任務で衝突しました。それだけです。」
ヨロヨロと起き上がった舜に軽蔑の目を向けた鏡は、広牙に向き直ると呟いた。
「とにかく、私の身は潔白です。」
「それ以上無駄口を叩かないでください。あなたの首の皮が切れますよ。」
「黙れ亜澄。お前こそ話に割り込むな。」
「君たち、とにかく静かにしたまえ。」
バチバチと火花を散らす2人の間で広牙が宥める。舞桜は呑気にあくびをしている。舜は得体の知れない頭痛を感じた。
「君のことを聞いても良いかな?」
広牙は落ち着いた口調で舜に話しかけた。
「オレは舜。レザールの末端戦闘員。」
「レザールでの生活はどうなのでしょうか?」
「・・・・・・最悪だ。オレは実力がないから、飯も週に2、3回しか食べられない。」
「だから痩せてたんだね。」
「あそこは序列が厳しいのか?」
「ああ。弱いやつは徹底的に排除される。それがこっちの首領のやり方だ。」
広牙は溜め息を着いた。
「レザールがそんなに残虐な組織だとは思わなかったよ。」
「だろ?・・・・・・で、オレをどうするんだ?」
広牙の問いに答える前に、鏡が広牙に話しかけた。
「首領、このガキをどうしますか?」
広牙は腕を組み、亜澄に問う。
「どこか空いている部屋は?」
「303号室と506号室が空室です。」
「では、そこに連れて行きなさい。」
「な、何だよアニマル・ファミリーの首領!オレに拷問でもする気か?」
舜は、油断してお茶漬けを食べたことを後悔した。
「こ、ここは?」
「お前の部屋だ、ガキ。わざわざ言わせるな。」
鏡が舜を連れていった目的地は、303号室だった。その部屋に鍵は掛かっていないらしく、彼女はドアを開けると、舜を睨んだ。
「家具は揃っている。服は部屋にあるカタログから選べ。月一の支給制だ。今日の18時に2階の大食堂に来い。以上だ。」
「話の流れが読めねえよ!どういう意図がある?」
「私に聞くな。全ては首領の命令だ。「舜をアニマル・ファミリーの一員として迎える」と。嫌なら今すぐここから出ていけ。」
「オレ、ここにいて良いのか?アンタらにとっては敵組織の戦闘員だぜ?」
「お前はレザールにいても虐げられるだけだ。それとも、そんな環境が好きなのか?」
「な訳ねえだろ!」
舜は吠えた。
「オレはあの組織にいても何の意味も成さないんだ!親に売られただけのオレには、戦闘力も組織力もなかった。あそこにいた奴らは「戦闘力選別」の試験で放り込まれたんだ、応援じゃない。」
「知ってる。舞桜が余裕で対応できていたからな。」
「あんなに虐げられるのはもうこりごりだ。もし、本当にここの一員になって良いのなら、住まわせてもらう。」
鏡は溜め息を着いた。「物分かりの悪いやつだ」と言うかのようだった。
「だから言っているだろう。首領がお前をファミリーの一員として認めたって。」
鏡は舜に鍵を押し付けた。
「絶対に大食堂には遅刻するな。料理人が怒る。」
タンスに入っていたジーンズとシンプルなシャツに着替えた舜は恐る恐る外に出ると、錆び付いた階段を降りて2階の大食堂に向かった。
「よお新入り!そんなところでこそこそしていないで、早くこっちを手伝えよ!」
カウンター式のキッチンから奈菜が呼び掛ける。
「あっ、オレですか?」
「アンタ以外いないだろ?」
「おーい!おいら達がいないことになってるぞー!」
「そんなに存在を認めてほしいならアンタらも手伝えよ!」
食堂に既にいた数人に対して、奈菜は文句を飛ばす。
「な、何をしたら良いですか?」
「とりあえず、入り口の近くにある銀色のワゴンを持ってきてくれない?それに料理乗せるからさ!」
大食堂では、「今日入ってきた新入りを歓迎するためのパーティー」のために今日入った新入りが働かされるという状況が生まれていた。
「舜は今頃大食堂に着いたのでしょうか?」
「知るか。私に聞くな。」
そんなことを知る由もない鏡と亜澄は、火花を散らしている。




