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アニマル・アパート・ファミリー  作者: アンテ・メーテ
元敵組織の戦闘員【コードネーム:レッサー】は、治癒に長けている
10/11

《1》

薄暗いコンクリート造りの広い部屋で、2人は対峙していた。一方は余裕の笑みを浮かべている舞桜(まお)。もう一方は激しく息切れしている(しゅん)


「何?君の体力はたったそれだけなの?」

「ち、違う・・・・・・。舞桜(まお)さんがオレより強すぎるんだ。」

「そんなこと関係ない!君は私にきっと勝てるよ!」

「オレは棒が武器で、舞桜(まお)さんは素手って、どう考えたってオレの方が有利なはずなのに・・・・・・!」

「じゃあ、もっかい腕立て伏せする?」

「・・・・・・疲れるから嫌だ。」


息も絶え絶えに言い捨てる(しゅん)を、舞桜(まお)は挑発の目で見据えている。大粒の汗が染みたタンクトップを脱ぎ捨てて、(しゅん)は倒れてしまった。小柄とは言っても、鍛えられたしなやかな筋肉が体を覆っているのが分かる。


「変態な!女子の前で裸にならないでよ!」

「裸って、下着てるでしょ。」

「視界に入れたくない!」

「傷付く。」


2人がいるのはアパート地下の、広い戦闘訓練場。さっきまで2人で戦っていた。その経緯は、その日の朝に遡る。



「オレ、この組織でスパイとして生きていきたいです。」


アパートに入って、怪我をした仲間の手当てを担当していた(しゅん)は、だんだんとファミリーに愛着を持ち始めた。温かいご飯をお腹いっぱい食べられるのも、フカフカの布団で心地よく眠れるのも、何より人の優しさに触れられたのも、彼からしたら始めての経験だった。


「それでは、そうしてください。」


しばらく(しゅん)の言葉を遮ることなく聞いていた亜澄(あすみ)は、眉一つ動かさずに平然と言ってのけた。(しゅん)は拍子抜けした。


「そんな軽々と、」

(しゅん)さんは我々の仲間です。仕事は後々与えるとして、」


一度言葉を区切った亜澄(あすみ)は、(しゅん)の目をじっと見据えた。


(しゅん)さんは強いですか?」


その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。「強い」の基準が分からないのもそうだが、あまりにも唐突で、率直な質問だったからだ。


舞桜(まお)が余裕で対応できていたからな。』


彼の脳内に、(きょう)が発した言葉が甦る。


(オレって、弱いんだな・・・・・・。)


押し黙ってしまった(しゅん)に、亜澄(あすみ)は口を開いた。


「ここは1つ、()()を与えましょう。」


亜澄(あすみ)が提案した「機会」というものは、意外すぎるものだった。



「何で亜澄(あすみ)さんは私と君を戦わせたんだろうね。」

「知らねぇよ。オレがスパイとしてこの組織にいることを諦めさせるためじゃ?」

「そんなことない!だって君はファミリーの一員なんだよ!皆仲間を諦めさせたりなんてしないから!」

「でも、現時点でオレは舞桜(まお)さんに勝てていないし、しかも舞桜(まお)さんはどんどん強くなってきてる。オレだって反応するのがギリギリなんだよ。」

「まあ君が強くなってるから、私も鍛練には手を抜きたくないし。」

「もう一戦、頼む。」


立ち上がった(しゅん)を見て、舞桜(まお)は満足げに微笑んだ。



結果、攻撃を仕掛けようとした(しゅん)の一瞬の隙を見抜いた舞桜(まお)が、(しゅん)の武器を真っ二つに折ったことで、鍛練は終了した。


「まあ、棒はいくらでもあるから大丈夫だよ。」


舞桜(まお)は、常人には到底理解しがたい慰めをして、戦闘訓練場を出ていった。

(しゅん)は部屋に帰らず、2階の食堂に立ち寄ることにした。食堂には数人の住人が午後の談笑を楽しんでいる。


「おぉ~(しゅん)!鍛練はどうだった?やっぱり舞桜(まお)は強すぎるだろ?」

「何度も攻撃を仕掛けようとしたんですけど、全部かわされたり隙を見つけられたりして、全敗です。」

「アイツすげえからな。とりあえず、疲れてんだろ。レモネードあるから飲んでけよ。」

「ありがとうございます。」


厨房から顔を覗かせた奈菜(なな)と会話を交わした舜は、食堂の端の席に腰かけた。高い窓から入ってくる日差しが柔らかい。


「ガキ、隣に座らせろ。」


(しゅん)の背後からぶっきらぼうに声をかけてきたと思ったら、いつの間にか(きょう)が隣に腰かけていた。


(きょう)さん、オレのことを「ガキ」って呼ぶのやめてくれませんか?舞桜(まお)さんと同い年なんですよ。」

「私にとって、舞桜(まお)もお前もガキだ。」

「じゃあなんで、」

舞桜(まお)はこの組織のエリートだから、名前で呼ぶ他ない。」


(オレって、とことん甘く見られてる・・・・・・。)


ショックを受けた様子を見逃さなかった(きょう)は、追い討ちをかけるように言葉を重ねた。


「今のお前じゃレザールの戦闘員にすら勝てるはずがない。もはや足手まといだ。お前が任務に出て、良い結果を伴うことが出来たら、私はお前を認めるがな。」

「そこまでにしてやれよ、(きょう)。」


2人の様子を見かねて、キッチンから奈菜(なな)が現れた。


(きょう)はホットミルクで良いんだよな?」

「ああ、頼む。できれば蜂蜜入りで。」

「んなこと、とうの昔に分かってるんだよ。待ってな。」


(きょう)の注文を聞いた奈菜(なな)は、またキッチンに戻っていったーと思いきや、2人の方を振り向くと、(しゅん)に向かって尋ねた。


「そういえば、亜澄(あすみ)から何か聞いていないか?」

亜澄(あすみ)さん?亜澄(あすみ)さんとは何も話してないですよ。」

「さっき、内線で伝言があった。亜澄(あすみ)から(しゅん)にだとよ。」


怪訝そうな顔で首をかしげた(しゅん)に、奈菜(なな)はニヤリと笑いかけた。


「『後で、首領(ボス)の部屋に来い』だとよ。」

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